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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第5章 辺境じゃないですから!
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第54節 洪水の街 ミャオー

辺境伯のお話です。

レイン先生の策略で、町から出られない辺境伯ですが、町そのものがなくなったら、どうなるんでしょうか?

そういうお話です。

一休さんの様なとんち、必要でしょうか?


それでは、どうぞ。

「だから言ったのに!」


 ミャオーの町に帰りついて、領主の館に入るなり、そんなことを言われた。

 ちなみに、鎧とか剣とかは奪われたけれども、下着とか服とかは返してもらえた。


「目に毒なのです。鍛え上げられた筋肉は、あまり人目に晒すものではないのですよ!」


 小さな精霊が、そんなことを言っていた。

 そう、精霊がいた。

 見間違いじゃない。

 確かに精霊だった。


「問題がある。今回の作戦には、根本的な部分で問題があった。」

「どうしたんだオーンズ? 深刻な顔をして?」

「いや、負け戦が2回も続いたら、普通こうなります。」

「無理を言ってでも付いていくべきでしたね。」


 仲間達にはさんざんな言われ様だ。

 まず、よくわかっていなさそうなのが兵士長のストライク。

 俺と一緒に、落とし穴に落ちた口だ。


 そして、丁寧な口調で、同じ年齢なのに、どう見ても未成年の女の子にしかみえないのが、ドライーマ。

 彼は、いわゆる男の娘というらしい。

 男だけど、外観は女、というか少女。

 俺たちさ、みんなこれでも49歳なんだぜ?


 あと、こいつは見た目、「魔法使い」の格好をしているけれども、「魔法使わない」だ。

 本人は爆裂魔法を得意としているとかほざいているが、ただの爆弾マニアだ。

 出会った時にはすでにそうだった。


 最後に、キューア。

 こいつは本物のおんなだ。

 妙齢だ。

 ナイスバディーだ。


 兵士長のストライクが長年言い寄っているんだが、結局くっつくことはなかった。

 こいつ、男の娘のドライーマに恋してるからな。

 ま、そのドライーマは、ストライクにご執心なんだが。

 俺も、何度となく寝床で襲われそうになったが、貞操は何とか守り通している。


 知らないうちに、奪われていたとか、ないよな?



 元々は、この4人で、冒険者のパーティーを組んでそこそこ活躍していた。

 で、ある日、うっかりやばい依頼を受けてしまって、とある領主の館で詰んでいた。

 全滅寸前だった。

 そこに、怪しい男が来て、助けてもらった。

 気がついた時には、領主とその手下たちは、全員死んでいた。


 でも、それがきっかけで、その領主の不正とか腐敗とかが発覚した。

 そして、おれは、領主になった。

 いろいろなところに移封され続けて、最終的には、こんな辺境の地に送り飛ばされた。

 でもいい。

 これが、俺の理想の生活だった。


 領主としての運営には、パーティーメンバーが関わってくれている。

 戦士としての経験のあるストライクが兵士長に。

 魔法とか使えないけど、知識だけはあるドライーマが、参謀に。

 そして、ポーターとして、俺たちをサポートし続けた経験と金銭感覚の厳しいキューアが出納長になった。


 お飾りというわけではないが、俺にはあまりやることがない。

 強いて言えば、大まかな方針を決めることが俺の仕事らしい。

 それに向かって、パーティーメンバーが計画を練る。

 そして、兵士や町の役人が、その計画を実行する。


 今までは、これでうまく回っていた。

 回っていたんだ。



 前回、町から水を奪われて、一旦ガーターの町に逃げようとしたが、途中で川の水に気がついて、戻って見た。

 もちろん、町には水はなかったが、町を流れる川のちょっと下流に行けば、ガーター側から流れてくる川の水があって、水の確保に問題がないことがわかった。

 なら、反撃できると、町の住民を呼び戻した。

 みんな、嫌がっていたが、ガーターの町もそんなにたくさん受け入れられるわけじゃないので、丁度よかったらしい。


 とりあえず、水場はなんとかなった。

 馬車で、水を運べばいいことがわかったからだ。


 そして、落ち着いてきたところで、再攻略を仕掛けた。

 ウーバン村は生意気にも、土塁と堀を短期間に作り上げてきた。

 しかも、土塁の上には木まで生えていやがった。

 つまり、こちらからの視界はよくないということ。


 もちろん、相手側からはただの草原を攻め込まれるわけなので、俺たちは丸見えだ。

 しっかり待ち構えていやがった。

 そして、落とし穴にハマったのは、説明いらないな?


 落とし穴から素っ裸で引っ張り出された後、暖かいスープを出された。

 卵とか羊乳とか、キノコとか入った贅沢なスープだった。

 兵士は、おかわりしまくっていた。

 今は冬だ。


 こんな贅沢な料理を、敵に出せるはずがない。

 普通ならば。

 つまり、こいつらは普通じゃなかった。

 タオルをもらって、体を拭き終わったら、綺麗に洗濯された、俺たちの服を返された。


 問題はここだ。

 下着がメインの服が、きちんと返却されたこと。

 30人いる兵士たちの服は、それぞれ、間違えることなく、持ち主に返されたこと。

 最後に、もう一度。


 俺たちの服は、あの短時間で洗濯されて綺麗になっていた。


 これが信じられない。

 なんなら、爽やかないい匂いまでしやがった。

 どういう魔法だよ?



 そうして、俺たちは帰ってきた。

 完敗だった。

 飯を出されるまでは、落とし穴にさえ気がつけば勝てると思ってしまっていた。


 飯を食っている最中に、俺たちは信じられないものを見た。

 村人たちが、2メートルはあるマインウルフと戯れて遊んでいた。

 おい! 食い殺されるから!

 危ないからやめなさい!


 うっかり、そう叫んでしまうところだった。

 しかし、どんなに見ていても、そんなことにはならなかった。

 なんなら、そいつらもどこからか自分用の木のお椀を持ってきて、ご飯をもらっていた。

 俺たちが食べていたのと同じ、贅沢スープだよ。


 つまり、ここにいるマインウルフは、この村で飼われているということ。

 マインウルフの強さは、説明するまでもない。

 兵士が何人も無惨にころされている。

 正規兵でも、そうそう歯が立たない厄介なモンスターだ。


 それに守られている村に、果たして勝ち目があるのだろうか。

 しかも、それは1匹だけじゃない。

 少なくとも、30匹以上はいた。

 それで、落とし穴の上から、マインウルフが俺たちをのぞいていたことに合点がいった。


 そして、こいつらが、俺たちをずっとストーキングしていたという話が、どうやら本当らしいこともわかってしまった。


 もしも、ウーバン村が本気で俺たちを殺そうとしてきたら、10分かからず、兵士は全員このマインウルフたちに食い殺されていたことだろう。

 それをしてこなかったということは、つまり、俺たちはそれだけ気を使われたということ。

 配慮されていた、ということだ。



 だが、一度振り上げた拳は、落とし所が必要だ。


「馬鹿なことというかもしれないが、一応聞いてくれ。」


 そう切り出すと、ウーバン村には来ていなかったドライーマとキューアに、そのマインウルフたちの話と、贅沢スープの話、綺麗になった服の話をしてやった。


「いや、ありえない。あの村は、男全員をマインウルフに殺されている。感情的には受け入れられないはずだ。そんなこと、ありえない。絶対だ!」


 キューアが厳しい顔でそう答えた。


「もしかすると、かなり優秀なテイマーが仲間にいるのかもしれません。30匹以上もテイムするって、常識はずれというか、普通に考えて無理ですけどね。それこそ30人くらいそんなテイマーがいるのなら話は別ですが。」


 ドライーマが、可能性を検証していた。

 絶対に無理というわけではない。

 でも、現実問題として、その条件を満たすことはありえない。


「おれは、調印してきたからって訳でもないが、もう、あの村に攻め込むのはやめにしたい。別に、この街だけでも、お前らと一緒に生活できれば十分幸せだしな。」

 

 そうして、俺たちは、ミャオー町で大人しく、慎ましく、生活することにした。

 川の水も復活していて、井戸も回復して、生活の不都合は無くなっていた。

 それが原因で、逆に問題が発生した。


「辺境伯は、ウーバン村に2度も攻撃を仕掛けて、失敗したらしいぞ?」

「なんで、ウーバン村ごとき、占領できないの?」

「元冒険者とか言っていたけど、結局ふかしていただけじゃないの?」


 町に人を呼び戻した手前、生活に問題がなくなれば、現状の問題に目が向くのは当然のこと。

 そして、町の人々は、俺の弱腰に、批判的だった。


 もちろん、2度目の攻撃が失敗に終わった後に、皆には説明した。

 ウーバン村には手を出さないと。

 ウーバン村が攻め込んでくることもないと。

 納得していたのだが、時間と環境が、その納得していた人々に影響したのか。


 納得できない、という人々が、じわりじわりと増えてきていた。

 このままでは、3回目の攻撃が形だけでも必要になりそうだ。

 しかし、ルールを破っての3回目の攻撃を、ウーバン村はゆるしてくれるだろうか。

 おそらく、無理だと思う。



 俺たちは、日々、そんな領民の声に、頭を抱えていた。


 でも、いい話なのか、悪い話なのか。


 領民の目を大きく逸らす、重大な話が飛び込んできた。


「領主殿! いったいどういうことですかな?」

「早く何とかして!」

「このままじゃ、町は終わりじゃ!」


 領民が、領主の館の前で喚き散らしている。

 ウーバン村を攻めろとかいう無理な話の時とは異なり、直接訴えに来ている。

 かなり緊急事態なのだろう。


「どうしたというんだ。こんなに集まって。何があったのか冷静に説明できるものはいるか。」

「じゃあ、わしが代表して。」


 町の重鎮のじいさんが、説明したそうにしていた。


「町の南側に行くといい。まだ、問題にはなってはおらんが、町の南に大きな湖ができつつある。このままいけば、この街を飲み込むおそれもあるのう?」


 問題は、シンプルだった。

 町が、湖に沈むおそれがあると。

 馬鹿げている。

 そんなこと、あるはずがない!


 パーティーメンバー4人で、町の南の門を出た。

 そこには、広大な土地に、門から100メートルくらい先から、南の関所の山まで、湖ができていた。

 近くなのでその水に寄って見たが、普通の水だった。

 魔力の痕跡もない。


 今日、いきなりどこかから召喚された訳ではないようだ。

 ならば、どこから?


「あ、ああ。そういうことか。おい、オーンズ。これはまずいぞ!」


 ドライーマが深刻な顔で、そう言い出した。


「このままだと、町は水没する。しかも時間はそう多くない。1週間か2週間で完全に水没するだろう。」

「どういうことなんだ。今までこんなことなかっただろう?」

「関所だ。あそこがネックだったんだ。」


 何を言っているんだ?


「この町の脇を流れる川は、関所の脇の渓谷を経て、南へと流れていっている。でも、先日、関所を爆破されただろう? あれで、渓谷がかなりの高さで埋まったよね?」

「そ、そういうことか。」

「あそこの渓谷が埋まった高さの分だけ、湖になる。少なくとも、ここの街よりは高い高さだね。」


 なんてことだ。

 せっかくの安住の地が、水没だと。

 許せん。


「でも、そうだね。精霊と契約書、作ったんなら、守らないと死んじゃうよね。でも、僕たちは、この町から、にげることもできない。他の街は、もう、辺境伯領じゃないから。」


 どうすればいい?

 何か対策を立てないと。

 どこかに抜け穴があるはずだ。


「ドライーマ。具体的に、どのくらいまでの水深だ? 物見櫓でいうとどこまでだ?」

「しっかり計算しないと無理だけど、物見櫓の一番上くらいがちょうど水面くらい。この町で水面から顔を出すのは、物見櫓の一番上の床面と、領主の館の一番上の部屋くらいかな。」


 その予想に、おれは、抜け穴を見出した。



「おい、キューア。船を作るぞ。道具を手配してくれ。」

「ふぇ?」



 みんなは、俺の顔を見て、だめだこりゃって顔になっていた。

 いや、そうならないための対策をするんだよ!



 天才は、なかなか理解されないものなのだと、感じてしまう一幕であった。

評価ポイントありがとうございました。

今後の執筆のエネルギーにしていこうと思います。


さて、この物語の中でおそらく一番バランスの良い冒険者パーティー。

そのリーダーである辺境伯。

まさか、領地と心中するとか、ありえない性格だと思います。

さて、どうなるのでしょうか。


作者が、うっかり作品と心中するんだ! とか、訳のわからないことを叫び出さなければ、明日の12時頃に。

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