第19話 追放者3人集
追放者ブーム。
追放者が逆境からのし上がり、ざまぁする、このご時世にスカッとするお話が持て囃されていますよね。
現実では、なかなかそうはならないのが、ブームに拍車をかけているのでしょうか。
さて、前話までで、酷いことをしてきた、させられてきた3人。
もちろん追放されます。
本人の希望かどうかは関係ありません。
ざまぁするする詐欺的な物語の作り方で取り込んだ結果、こんな話に仕上がりました。
それでは、どうぞ。
僕は、国栖龍太郎。
小松崎先生のクラス、2年7組所属の男子高校生だった。
10日ほど前に、2年7組のクラスメイトたちと一緒に、この異世界に強制召喚。
最初は最高の環境だと思ったけど、実は酷い異世界だった。
僕は、女神様に会って恩寵を授かった。
「ファイアーボーイ」という恩寵だった。
この恩寵のおかげで「ファイアーボール」という炎魔法を使う事ができた。
そして、使ってしまった。
女神様から恩寵を授かると、大魔王からマークされて、すぐに大魔王の呪い「カース」をかけられる。
僕の「カース」は、「炎遣い」。
炎魔法を使わないでMPが残っていると、次第に自我を失って、炎魔法を使いまくる。
もちろんMPが切れるまで。
MPが切れると気絶するけど、それまでの行動は覚えていない。
具体的には、ほとんど病的な放火魔に成り下がるんだ。
これは酷い。
だから、対策として、朝のうちにMPを使い切ってしまう。
でも、それだと、炎魔法は使えなくなるから、恩寵の意味がなくなってしまう。
MPが残っていると、放火魔になるので、それでも恩寵の意味がなくなる。
大魔王の呪い「カース」は、僕にとって、とっても悪辣な呪いだった。
MP切れの魔法使いが、大魔王討伐に役立つはずがないからだ。
そして、今、クラスメイトたちと共に、王城の謁見の間にいた。
「それでは、儀式を開始します。名を呼ばれたものは、王の前へ進み出なさい。」
凛とした声で、美人でナイスバディーの女神様がそうアナウンスした。
何が起こるのかは、誰も聞いていない。
「金田、金本、そして、え? これ、なんて読むの?」
3人目の名前がわかりにくかったらしい。
うちのクラス、難読苗字多すぎ。
「ああ、そうですか。分かりました。クズ! クズさん。前へ。」
僕は忘れない。
ワザとだ。
言いながら見下して、嘲笑しているのが何よりの証拠。
名前を漢字で呼ばれている気がしない。
そうして、進み出る3人。
最近評判の悪い3人だった。
まず、僕は、放火魔だった。
城下町の兵士に捕まったことすらある。
この異世界に来てたったの10日の間に。
次に、金本。
こいつはひどい。
たくさんの女を泣かせて、3人ほど自殺に追いやった。
とんでもない男だ。
異世界に来る前は、クラスを代表するいじめられっ子で、何度か助けたこともあったのに。
助けた後に、いじめっ子たちに僕まで酷い目にも遭わされたのに。
最後は、金田。
誰もが知っている暴行魔。
女神様相手にも、怯むことなくグーパンチ!
当然効かなかったけど。
でも、城の兵士たちとか、クラスメイトたちとか、最後の方になると、町の人たちとかにも暴行をはたらいて、女神様にコッテリ絞られていたよ?
今日も当然のように、女神様を睨みつける金田さん。
ダメだこれ。
悪い予感しかしないよ。
絶対悪いことだよこれ。
こんなメンバー揃えて、いい話のはずがない!
「これより、褒美を与える。」
国王陛下が、重々しくそう仰った。
大臣か何かが、お盆の上に、金色に輝く輪っかのようなものを持ってきた。
「では、金田。前へ。そして、跪いて頭を下げよ。」
女神様には反抗的でも、国王陛下の言われた通りにする金田さん。
もちろん、国王陛下にグーパンチしたりしない。
そして国王陛下は、金の地金に煌びやかな宝石がいくつも嵌め込まれたサークレットを見せた。
それを金田さんの優しく被せた。
そして、被せると同時に、一瞬だけ金色の光を放った。
金本くんも、僕も、同じように、同じサークレットを、でも、ちょっとだけ男物っぽいデザインのものを着けてもらった。
一体何の褒美なんだろう?
褒められるようなことはしていないはずなんだけど?
「それでは、儀式にはいります。」
女神様が重々しく言う。
でも、僕は見逃さない。
女神様の口の端がわずかに上がった。
笑っている?
「王よ。」
「うむ。それでは言い渡す。褒美を与えたのは他でもない、他国から勇者派遣の要請があり、お主たちはそれに対して、形はどうあれ応えてくれたことだ。」
まったく身に覚えがない。
国王陛下は何を言っているんだろう。
「今回、お主らの派遣先は、我が国で言うところの『禁教の国』だ。」
合点が入った。
そういうことか。
「我が国と禁教の国には、国交がない。何しろ我が国の国教を禁教としているくらいだからな。だがそうだな、お前たちはその国で暮らすこととなるのだから、その国での言い方くらいは教えても神罰はくだるまい。女神様、よろしいですかな?」
国王陛下が女神様の顔色を伺った。
女神様は、黙って2回、頷いた。
「彼の国の名は、『アーターツ神権国』。朕でも2度は言えぬ。よく覚えておくがいい。」
国の名前を言えない。
それは、イデオロギー的な問題なのか、異世界的な問題なのか。
はたまた感情的な問題なのか。
でもこれで、念願かなって禁教の国に行くことだできるのだった。
「ああ、そうです。晴々しいいい顔をされているところに水を差すようで申し訳ありません。ですが、女神としては言っておかなければいけないことがあります。」
国王陛下の前に立ちはだかって、僕たちに何かを言いたそうにしている女神様。
金田さんの顔が引き攣る。
さすがに一度酷い目に遭わされているので、今回は我慢したようだ。
「あなたたちに祝福を! 装着!」
すると、頭のサークレットと体の一部が痛み出した。
突然のことに苦しみ、のたうち回る3人。
「はい、おしまいです。」
すっと、痛みが消えた。
ちょっと爽やかな気持ちになったくらいだ。
いや、何だよこれ。
即座に、サークレットを外そうとする3人。
でも、外せなかった。
「それ、外れませんよ?『罪と罰のサークレット』って言うんです。効果は3つ、一つは、その人の一番の弱点に、もう一つのサークレットが発生して、その部位に応じた攻撃をします。もう一つは、あなた方が何か犯罪になるような事をしようとすると、そのサークレットがあなた方を一定時間苛んで、悪いことをしないようにします。効果のあとは『賢者タイム』的な効果があるので、絶対に悪いことはしませんし、できません。そして、一番最後、これ、重要ですよ?」
罪と罰のサークレット。
説明は要らない。
つまり、今までの悪行に対する懲罰。
そして、これから悪い事ができないようにとの防止策。
効率的ですらある。
恐ろしいな、異世界。
あと、さっきの爽やかな気持ちって、「賢者タイム」かよ!
どおりで、どこかで経験した爽やかさだと思ったよ!
え?
でも、金田さん女の子なのに、賢者タイム経験できちゃうの?
「はい。一番の弱点が、わたくしの口から言えないようなところの小さな小さなクズさん。真っ赤な顔をしても、変更できませんよ?」
しかも、考えていた事が顔に出ていたみたいだ。
ちょ、ちょっと待って?
あそこが痛んだのって、まさか!
「一番重要な話です。あなた方は、3週間後に死にます。」
おい!
このサークレット、死刑の機能まであるのかよ!
すごいな、異世界!
「と、言ってしまうと自暴自棄になってしまうので、チャンスをあげます。寛大な女神様に感謝の祈りを捧げてもいいんですよ?」
死ぬよりはマシなので、祈りを捧げる3人。
日和ったな。
でも、やはり、死ぬよりはいい。
「もし、あなた方3人がそろって禁教の国に1歩でも入る事ができたのなら、死の呪いだけは、解除されます。それに、他の呪いが解除されると、困る方もいらっしゃるでしょうから。」
僕を見て、ニヤついている女神様。
全てを知っていて、でも、みんなの前では言わない。
静かに、かすかに、僕にだけわかるように、嘲笑、していた。
僕はそのあと、急いで旅支度を整えた。
ここは異世界。
飛行機もなければ電車もない。
交通機関なんて馬車があればいい方。
なら、急がないと本当に3週間の命になる。
金田さんは力づくでサークレットを外そうとしていたけど、無理だったし。
金本くんは、女神様に反抗しようとして、顔が赤くなったり青くなったりして、最後は、どこかに走り去っていったし。
金田さんもそのあと、女神様にグーパンチ入れようとして、拳を握って腕を後ろに引いた時点で、ちょっと変な声をあげて、座りこんでたし。
そのあと、エビみたいにしばらく変な声出しながら痙攣していたよ?
サークレット、絶対に発動させないように気をつけよう。
僕は、国王陛下の使いから、一枚の地図と、お金の入った皮袋を渡された。
地図には、禁教の国へのルートが示されていた。
禁教の国、東西にかなり長い国な上、この国に接しているので、辿り着くだけならすぐ。
でも、国教付近は険しく高い山が聳え立っている。
これを、3週間以内に踏破する必要がある。
今、冬だから、冬山だよね?
あと、皮袋のお金は、3人とも一人ずつ大銀貨100枚もらった。
結構重かった。
3キロか4キロくらいはありそうだった。
そして、これがどのくらいの価値になるのかは分からないけど、結構な額になると思う。
冬山装備、必要だよね?
翌朝、準備を整えて、王宮の城門前に3人が集合した。
何人かは、見送りに来てくれた。
「全員そろって元の世界に戻りたいと考えている。これだけ守ってくれればいい。死ぬなよ。」
いつもの小松崎先生だった。
これは、真面目に言っているのであって冗談とかじゃない。
本心から言っていることに気がつけば嬉しい言葉だけど。
それに気がつけないと、馬鹿にしてるのかって、思っちゃうよね。
「先生! それが死地へ行く生徒にかけることばぁっ!」
そして、座り込む金田さん。
また、ビクビクしている。
先生に何かしようとしたんだね。
懲りないよね。
「先生も、死なないでね。みんなも。」
「息災でな。」
「国交がない国じゃ。手紙も出せんだろうが、同じ空の下にいること、ゆめゆめ忘れるな。」
「おみやげ! 帰ってくるときはお土産!」
そうして、僕たちは旅立った。
金本くんが、身長170センチはある、僕たちで一番大きな痙攣中の女の子をお姫様抱っこしたまま。
城下町の人たちの視線が痛い。
早く街から出よう。
そして、城下街の西門から外に出た。
地図によると、このまま西に向かっていく街道があって、1日くらい進んだ先に大きな湖と、そのほとりに街が一つあることになっている。
今日は、とりあえずそこまで進んで、宿を取ろうと思う。
そう、僕が決めた。
僕のクラスは、成績順で1番のクラスだから、それなりに頭が回るだろうと思っていたのに、一緒の2人は、勉強以外はあんまり頭が回らないタイプだったみたいだ。
金本くんは、いじめられっ子だったこともあって、いつもビクビクしているし、そもそもたしか、お金持ちのお坊ちゃんだから、こういう野趣溢れる旅行には向いていないと思う。
金田さんは、直情型。
とってもわかりやすい。
でも、すぐに瞬間湯沸かし器して、そして、サークレットの効果で戦闘不能になる。
それを体が大きいわけじゃない金本くんが運ぶ。
パーティーとしては絶望的。
異世界もののパーティーって、こうじゃないよね。
僕は、炎の魔法使い。
そして、金本くんは、風の魔法使い。
最後に金田さんは、自分にバフのかけられる、武道家タイプ。
魔法使い、魔法使い、武道家。
回復役もいない、かなり冒険を舐めたパーティーだよね。
しかも、それぞれ、致命的な弱点があった。
僕は、魔法使いなのに、常にMPが0。
金本くんは、最大MPが少ないけれど、ある分だけは魔法が使える。
でも、金本くんの風魔法は、相手にほとんどダメージらしいダメージを与えられない。
逃げるのにはとても有効なので、今のところ、こちらには怪我ひとつない。
最後に、金田さんは、自爆的戦闘不能の他にも問題点があった。
陸上部の短距離走者だった金田さんは、筋力が僕たち2人よりも強い。
その上、魔法で自分の筋力をアップさせる事ができるし、防御力も上げられる。
でも、パンチとかキックとか、戦闘技能が絶望的。
これまで、短距離走ができなくならないように、危ないことはしてこなかった金田さん。
だから、かなり武道家としては残念な仕上がり。
パンチもキックもダメなら、棒か何かで戦ってよって思う。
武器を持つのは嫌だと言い張って譲らない。
城下町からとにかく急いで歩いて、夕方には、目的の町に到着した。
出発してから気がついて、でも戻れなくて。
王宮の厨房からパンをいくつかもらっておいてよかった。
金田金本ペアは、食事のこと、何も考えていなくて。
なんなら、武器防具とかの調達もしていなくて。
何のための支給金だと思っていたのか、不思議でならない。
目的地は、山に囲まれた大きな湖、ミラーハ湖。
その北側湖畔に広がるミラーハ町。
この町で準備を整えないと、ここから先は冬の山道。
死ぬ。
そんな、夢も希望もない気持ちで、町の東の門をくぐった。
隣から、金田さんのお腹の音が響いていた。
読者の皆様に支えられておよそ2ヶ月。
また、ブックマークをつけてくださった方がいらっしゃいましたね。
心より、感謝申し上げます。
日々、読者の方が増えるにつけ、良い文章にしなければと、身が引き締まる思いです。
さて、今回のお話については、前書きでだいぶ書いてしまいましたので、短めに。
最初は、犯罪奴隷として勇者が国王にいいように使われる設定だったのです。
酷いことしてきた奴らだからいいかなって思っていました。
でも、そう言う文書は、なろうの中に、いくらでもありますよね。
たしかに、そう言う話、すかっとしますし、面白いですがさて、どうかなと。
そこで、「ざまぁするする詐欺」的視点から、物語のプロットを考え直しました。
あと、黄色い電車じゃないですけど「古いキャラクターは修正などをして長寿命化する」という考えもあります。
結果、こうなりました。
明日も、この続きです。
15時頃に。