第18話 危機回避能力とかいうもの
今まで散々悪いことを言われてきた勇者の話です。
本文中で、名前が出てきていませんね。
これは失礼。
金本くんの話です。
どう受け止めるのかは、あなた次第。
それでは、どうぞ。
いじめはなくならない。
ただ、認められなくなるだけ。
誰もがいじめだと思わなくなれば、正々堂々といじめられる。
そんな世界を僕は呪った。
僕の家はそこそこお金持ちらしい。
両親とも外資系金融機関に勤めていて、車も外車で、億ションに住んでいる。
そのことと、僕の能力とは関係ない。
でも、そうじゃない人たちもいたんだ。
僕は、とにかく目立たないように生きてきた。
なんでって、そう生きていく事が死なないために必要だったから。
男の友達は、すぐにお金を持ってこいって強請ってくる。
そんなの、友達じゃない。
女の友達は、すぐに玉の輿だとか言い出す。
そんなの、友達じゃない。
そんな、真の友ではない人たちに狙われないように、気配を消して、見えない位置に立って。
そう言う生き方をしていたけれど、相手の数が多すぎて、何度となく捕まってしまう。
お金を持っていれば、全部取り上げられた。
親に、追加でお金を持ってくるように言えって言われたりもした。
親が、無理っていうと、服を奪われた。
素っ裸にされて、校門に放置された。
首にロープをつけられて、鉄の門扉にくくりつけられた。
きつく縛ってあって、解けない。
でも、たまにクラスメイトが助けてくれるのが救いだった。
一番よく助けてくれたのは、猿渡っていう、イケスカナイ男だった。
でも、一生かかっても返せないような恩でもあるから、無碍にはできない。
普段は、全然話しかけてもこないし。
中学校になると、いじめはもっとひどくなった。
もう我慢できなかった。
でも、学校の先生は、いじめた人と話し合って解決しなさいって、話し合いの場を作ってしまった。
その場では、先生の気にいるようなことを言ういじめっ子たち。
でも、顔はわらっているし、反省している様子もない。
先生は、いじめっ子たちも反省してもうしないって言っているのだから許してあげなさいって強要してきた。
ほんとにやめてくれると思って言っていますか?
そう先生に聞いたら殴られた。
だって、この会合、5回目。
毎回許しても、その日の帰り道では、もっとひどいことされているのに。
どうして?
この会合は、次のいじめのスタートライン。
先生も、その一員なんだって気がつくのに、だいぶ時間がかかった。
でもこれは、男子のお金とか暴力とかのいじめ。
それより辛くて酷かったのは女子のいじめ。
普段から、悪口を言われ続けて、生きていてごめんなさいとかみんなの前で言わされたりする。
服を脱がされて、大事なところに落書きされたり、いじられたりもした。
でも、女子の方が狡猾で、そんなことするはずがないって、先生を言いくるめていた。
高校に入ったら、いじめのメンバーがほとんどいない学校に入れたから、いじめはなくなるかと思ったけど、違かった。
いじめのメンバーの友達はいて、人が変わっただけでやることは変わらなかった。
このころから、女子のいじめがエスカレートして、もう、僕は家畜のような扱いを受けていた。
ひどい、性的ないじめを繰り返されていた。
そして、異世界に旅立ったけど、メンバーは変わっていない。
これからも、いじめられ続けるんだろうなって思っていたけれど、女神様が言った。
「あなたには……そうですね、辛い時には逃げることも大切だっていうことを学習して下さいね。他の勇者たちは、おそらくそう言う発想ができない人が多いと思いますよ? あなただけが、みんなを助ける事ができる、そう言う恩寵「リリース」を与えました。有効活用してくださいね。」
僕だけが、みんなを助けられる?
本当だろうか?
その日の午後、もっと詳しくステータスとかも調べられて、分かった。
僕だけが技能を使えるということを。
使える技能は「離脱」。
女神様の言う通り、逃げたい時に逃げられそうな技能だ。
僕は歓喜した。
これでもう、いじめられないんじゃないかと。
もし、いじめられたら、この技能で、逃げ出せばいいんだと。
だから、すぐにその技能にスキルポイントを入れた。
そうしたら、「離脱Lv1:ブローアウエー」を覚えた。
どうやら魔法らしい。
MPを消費して、離脱できる魔法のようだ。
人のいない、安全なところで、実験してみた。
すごい突風が吹いて、標的を吹き飛ばした。
すごい!
これなら、相手が吹き飛んでいる間に逃げられる。
だったら、これで、もういじめられない。
その考えは甘かった。
いきなり、この世界でもいじめっ子の女子集団に拉致された。
服を脱がされた。
それ以上のことをされそうになったので、僕は彼女たちに初めて抵抗した。
死なれては困るので、最初は弱目で使った。
それでも、相手と距離を取るのには有効だった。
彼女たちは最初、魔法に驚いていたけど、威力がそんなにないので舐められた。
すぐに、また、暴行や暴言、陵辱が始まった。
だから、もう、僕は、死なれては困る、と思わなくなった。
局所的にブローアウエーを放った。
そうしたら、女子一人を突き飛ばして、壁に叩きつけることに成功した。
彼女は、ぐったりしていたけど、いきりたって再び襲いかかってきた。
だから、もう一度。
こんどは、もっと局所的に。
結果として、お腹にパンチをくらわしたような威力になった。
今の使い方で、どこからでも放てる魔法パンチとして使えるようになった。
これは、収穫だった。
だって、いじめられて縛られていても、反撃できるから。
そこからはもう、僕のターン。
ブローアウエー的パンチで相手を怯ませて、着実にダメージを与える。
動きが鈍ったところで、こいつらの持ってきたロープで縛る。
3人、縛り終えたところで、今までやられっぱなしだったことを、やり返してやった。
なお、今までやられていた僕は全裸だった。
「やられたこと、今から全部、やりかえすから。大丈夫だよ、おんなじことするだけだから。」
女子たちは、泣いて許しを請うていたけど、信じない。
ロープが解けたら、また、僕のことをいじめる。
そういう人たちだ。
だから、容赦無く、全裸にした。
泣き叫ばれた。
人にするのはいいのに、自分がされるのはイヤだなんて。
それなら、初めからしなければいいのに。
彼女たちには僕の大事なあれを散々いじめられたので、仕返しをすることにした。
そして、僕の復讐は始まった。
終わりじゃないよ?
ここからが始まりだよ?
でも、次の日。
僕は、女子に、人気のない部屋に押し込められた。
昨日のいじめっ子じゃない。
別の女の子だ。
なんだろう?
うっかり、愛の告白だったらどうしよう。
でも僕、この子のこと何も知らないや。
そして、彼女は切り出した。
「きみ、昨日、あいつらにひどいことしてたよね?」
現場を見られた!
僕の恥ずかしいアレを見られた!
パニックになった。
どうしよう。
どうすればいい?
分からない。
分からないよ。
そうして、気がついた時には昨日と同じように、その女子にも酷いことをしていた。
泣いて謝っていた。
もうしないって言っていた。
いじめっ子じゃなかったから信じて離したら、逃げられた。
ばらされたら終わりだ。
僕は、彼女を逃さなかった。
そして、他人に言わないと確信が持てるまで、ひどいことを繰り返した。
そして次の日。
さらに別の女子に、言われた。
「きのう。ね。ひどいことしてた。だめ、だよ? いっしょにいってあげるから、あやまろ?」
こいつもかよ!
見られた相手を口封じしていた場面をさらに見られた。
だから、仕方なく、同じようにトラウマになるまで酷いことをした。
さらに翌日。
別の女子に、言われた。
「江藤に酷いことしていたの、見ましたよ。先生に言って断罪してもらいます。」
桜井とか言う女子だった。
しつこいぞ! お前ら!
僕はただ、いじめられない生活を守りたいだけなのに。
口封じした。
結果として、口封じには失敗した。
僕の悪行は、みんなに知れ渡ることになった。
そして、その頃には、僕より強い技能を持っている人も多くなっていた。
僕はまた、縛られた。
何がいけなかったのか。
何を間違えたのか。
誰か教えて欲しい。
僕は、自分を守るために、どうするべきだったのかを。
そうしたら、そんな僕の前に、神官風の男が現れた。
「ボウズ、お困りのようじゃな?」
「うん。縛られちゃって、身動き取れないんだ。」
「どうしてそうなったのじゃ?」
「いじめられていたから、反撃したら、それを見られて、さらに口封じした。そしたら、こうなった。」
神官は、空を見上げるようなそぶりを見せた。
王城の中で、牢屋に近いような形の部屋の中で、監禁されている僕には、空は見えない。
もちろん、同じ場所にいる神官にもだ。
「どうする? それでもここにおるか? それとも、新天地を目指すか?」
「新天地?」
「そうじゃ。新しい土地、新しい仲間、新しい世界。お主には必要に見えたのだかのぅ?」
「そ、それは、」
「必要じゃろう?」
「うん。」
神官は、大きく頷くと、言葉を注いだ。
「禁教の国。この国ではそう呼ばれている国があるんじゃ。そこへ来るんじゃな。勇者は特に優遇されるからのぅ。」
「いじめは? ないの?」
「いじめのないところはない。じゃが、今のお主なら、上手に切り抜けられると思うのじゃが、どうじゃろうのう?」
考えた。
この胡散臭い神官の言う事が本当なら。
いじめはなくはないにしても、今までよりもうまく対応できる。
してみせる。
「行く。行くよ。僕、その国に行くよ。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。細かいことは、王に頼むんじゃな。」
そういうと、いきなり消えた。
まるで霧が晴れた時のように、存在がかき消された。
何者?
ブックマークと評価ポイントいただきました。
重ね重ね、ありがとうございます。
がんばりますよ?
本文のお話です。
どんな生き方をしていても。
ダメなものはダメ。
でも、ダメなことをする人には、それなりの理由があるもの。
そこに切り込んでみました。
それでは、私もダメにならなければ、明日の15時頃。
訂正履歴
いじめられた → いじめられて