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第17話 炎の勇者と大魔王の呪い

身内の死ほど心を抉るものはありません。

親しくしていれば尚のこと。

そして、それを踏み躙るような行為には、怒りしか覚えません。


今回の話は、異世界ものによくあるパターンではありますが、外せないパターンでもあります。

それでは、どうぞ。

 僕は、小さい頃から、おばあちゃんの家で育てられた。

 お父さんは消防官で、お母さんはいなくなって会ったこともない。

 おばあちゃんは、お母さんのお母さんで、おばあちゃんもお母さんに会えていない。


 田舎の片隅で育てられた僕にとって、炎は生活の一部だった。


 冬になれば薪ストーブ。

 その上に鍋を置いて、汁物ができる。

 網を置いて、味噌をつけて焼きおにぎりにしても美味しい。


 春には、野焼きがある。

 冬の間、枯れていた田んぼとかの藁とか畝の枯れ草に火を放つ祭りがある。

 この火祭りが終わると、田んぼの準備をして、田植えの準備に入る。


 夏は夏で、盆踊りなんかでもキャンプファイヤーみたいに大きな火を作る。

 近所の人たちと一緒に、外でバーベキューをする時も、火が起こせないといけない。

 火が起こせないと、これだから都会もんは、とディスられる。


 秋になると、落ち葉をあつめて、さつまいもをアルミホイルに包んで焼いたりした。

 いろいろなものを焼くことができるけど、おばあちゃんの作った焼き芋が一番美味しかった。

 秋は秋で、収穫後に火祭りがあるし。


 だけど、そのおばあちゃんは死んでしまった。

 僕が中学生の時だった。

 高校入試を控えて、地元の高校を目指して勉強していた。


 中学校に入った頃から、おばあちゃんは少しずつおかしくなっていた。

 簡単にいうと、ぼけ始めた。

 もういい歳だから、それは仕方のないこと。


 生まれた時からお世話になっていたたった一人の身内なのだし、その世話に明け暮れた。

 おばあちゃんはだんだんボケもひどくなって、3年生になった頃には寝たきりになってしまった。

 そうなってくると、僕だけじゃ無理なので、村の施設とかにもお世話になった。


 そして、その頃から、頻繁にお父さんが来るようになった。

 僕だけじゃ無理だったから。

 そして、おばあちゃんの子供たちは結構いるけど誰も面倒を見に来なかったから。


 結局、僕が中学3年生の10月ごろ、おばあちゃんは亡くなった。

 僕が学校に行っている間に、家が火事になって焼け死んだ。

 おばあちゃんはほとんど歩き回れないし、火を使うことができる状態じゃなかったはず。


 それで、僕の火の不始末が疑われた。

 警察とか消防とか、いっぱい話を聞かれた。

 でも結局、何もなかった。


 僕はおばあちゃんが亡くなったことが悲しくて、しばらく呆然としたまま生きていた。

 火事の跡を処理して更地になった土地。

 そこには、蔵が一つだけ残っていたので、とりあえずはそこと離れのお風呂とトイレで生活できた。


 その生活は長くは続かなかった。

 おばあちゃんの身内だという人たちが一杯来て、遺産を寄越せと詰め寄ってきた。

 火事で燃えてしまったので、何もないよ?

 土地と土蔵くらいしか残っていないよ?


 そう言っていたら、裁判になって、土地とか蔵とか、全部持っていかれた。

 僕は仕方がなく、父親に引き取られて都会に出ることになった。

 ほんとなら、もとから父と二人で暮らすのが筋だった。


 でも、おばあちゃんの面倒を見る人が誰もいなかったので、僕がおばあちゃんの家に住むことになった。

 その代わりに、おばあちゃんは僕の生活の面倒を見てくれた。

 このお父さんの作戦はうまくいっていたけれど、最後で失敗した。


 都会に出て、高校生活2年目。

 未だ、都会には慣れていない。

 こちらにきてから、火を一度も起こしていない。

 家には、ガスコンロすら無かったから。



<異世界生活1日目>


 女神様が、僕たちの恩寵とかステータスを教えてくれた。

 本で読んだような世界。

 本で読んだような、魔法とか。


 僕の恩寵は「ファイアーボーイ」

 女神様の説明では、火炎系魔法を中心とした魔法や技能スキルを習得するらしい。

 あと、ステータスを調べてもらったら、すでに、ファイアーボールっていう魔法も使えることがわかった。

 それに加えて、炎に対する耐性があることも分かった。


 都会と違って、王都であっても、僕のおばあちゃんのいた田舎と同じような火を使った生活が中心になっていた。

 料理するところを見せてもらったら、ほぼ全ての火力は薪でまかなっていた。

 一部、石炭もあった。

 ガスとか石油とかは使っていないご様子。


 大変満足しました。

 僕、一生ここで生活するんでもいいと思いました。

 大好きな火を、いつでも見られる。

 なんなら照明まで火。


 こんな生活、なんてパラダイス!



<異世界生活2日目>


 この世界では、いろいろなところで火を使うので僕の魔法はすごく活躍する。


 昨日も顔を出した王宮の厨房で、火を起こすのに、魔法を使って手伝った。

 少し火の大きさを調整できなくて、一人黒焦げになったけど、直ぐに謝って許してもらった。


 夕方になって、廊下の蝋燭や松明に火を付ける仕事も手伝った。

 少し火の強さを調節できなくて、蝋燭を一瞬で燃やしちゃったけど、2回目からはうまく行った。


 順調。

 何もかもが順調にいっていた。



<異世界生活3日目>


 今日も朝から、王宮の人たちを炎の魔法で手伝っていた。

 そうしたら、いきなり兵士の人たちが来て、隔離されてしまった。

 兵士の人たちは申し訳なさそうに何度も謝っていた。


 この日は、自分たちで料理する必要があったので、僕の魔法が活躍した。

 夕方になって、何で隔離されたのか、女神様から説明があった。

 納得した。

 金田さんはもう少し落ち着いたほうがいいかなって思った。


 そして、廊下の松明とか、部屋の蝋燭とか、みんなの分をつけまくった。

 僕、みんなの役に立っているみたいだ。

 みんなに感謝された。

 とっても嬉しかった。



<異世界生活4日目>


 自分の魔法に違和感を感じ始めた。

 魔法で炎をつくっていると、いろいろと燃やしたくなってきている。

 そんなにたくさん燃やす必要はないのに。


 おばあちゃんを殺した炎なんだから、大きな炎は好きになれない。

 でも、日に日に魔法力が成長しているのか、すぐに大きな炎になりそうになる。

 がんばって調整して、小さくても威力の大きい炎にすることに成功した。


 がんばれ、僕。



<異世界生活5日目>


 町に繰り出した。

 有り体に言えば、脱走した。

 もともと、あまり友人もいないので、いなくなってもバレない。


 街を歩いていると、いろいろなところで火を使っている場面を見つけた。

 うまく火を起こせていない人を見つけては、上達した火魔法で、手伝った。

 午前中いっぱいそんなことをしていたら、結構なお金とか、食べ物とかをもらえた。


 僕、みんなの役に立っている。

 とても嬉しかった。



<異世界生活6日目>


 今日も城下町に繰り出した。

 昨日、手伝った人たちが、声をかけてくれた。

 今日も、手伝って小銭とか食べ物とかを頂いた。


 もっともっと、役に立ちたくなった。

 もっともっと、火をつけたくなった。


 そして、気が付いたら、僕は町の牢獄に入れられていた。

 放火の現行犯として、兵士に捕まってしまった。

 僕は、気が付いたら、路地裏で家に火をつけていた。

 どうしても、火をつけるのを我慢できなかった。

 今でもその時、何でそんなことをしたのか分からない。


 厳しい取り調べの後、神父さんのような人が来て僕のことを調べに来た。

 魔法か何かを使って、僕のことを詳しく調べていた。


「むぅ。ぬしは、あれかのう。女神様に召喚されし、勇者じゃな?」

「は、はい。そうです。勇者だって言われました。」

「して、炎の魔法は、あれかのう。女神様から授かったものかのう?」

「は、はい。そうです。恩寵だって言われました。」

「そうか。して、その様子では大魔王の呪いの話は聞いてはおらんようじゃのう?」


 初耳だった。

 大魔王の呪い?

 何だそりゃ?


「何ですか、それは?」

「恩寵を授かった勇者に、必ずかけられている、大魔王の呪いじゃよ。恩寵を授かってしまうと、大魔王としても、あっさり殺されかねないからのう。何とかしようとして編み出したのが、大魔王の呪い『カース』というものじゃ。」

「僕にもかかっているんですか?」

「そうじゃ。」


 あの、詳細な魔法による調査は、それを調べるためだったみたいだ。

 女神様は、そんなこと教えてくれなかったけど。


「このことはな、あまり知れ渡っていないからのう。わしらの組織くらいかの。しっかり把握して、確認することができるのは。」

「教会か何かですか? 神官さんか何かに見えますが。」

「そうじゃ。神官じゃ。職業安定署の神官じゃ。」

「なんで、職業安定署と大魔王の呪いが関係しているんです?」


 よく分からなかったのでそこのところを詳しく聞きたかった。


「今のお前さんのように、犯罪者として捕まる勇者が多くてのう。わしらも変じゃと感じて、いろいろと調べてみたんじゃよ。世界を救うための勇者が、なぜ、この世界で犯罪を犯し、労働奴隷に堕とされているのかについてな。」

「労働奴隷?」


 不穏な単語に、思わず聞き返した。


「そうじゃ。お前たちの世界では、犯罪者は死刑になるか、牢屋にぶち込まれて終わりだと聞いたおったが、まだ、そうなのか?」

「そうです。その通りだと。」

「この世界の犯罪者は、死刑になることもあるが、ほとんどの場合、労働奴隷にされるのう。わしらの仕事は、神官として、犯罪者に労働奴隷になる魔法をかけることじゃ。」


 その話では、このままだと僕は、労働奴隷とやらにされてしまうようだ。

 できれは勘弁していただきたい。

 放火は重罪だから、無理だろうけど。


「そうして、大魔王の呪いを解析できた我々は、その悪辣さにおののいた。大魔王は、我々人間が、勇者を活動させないようにするため、労働奴隷にするような呪いを選んでかけていることがわかった。」

「僕のは、どんな呪いだったんですか?」

「自覚はないのかのう。炎遣いの呪いじゃ。炎を使いたくてウズウズする呪いじゃ。大きな炎魔法を定期的に使わないと、お前さんのように、無意識のうちに放火してしまうようになる。ちなみにじゃが、お主、放火したことは覚えておるかのう?」


 覚えていた。

 捕まった時に放火したことは。


「捕まった時に1回だけ。吸い寄せられるように火を放ったことを覚えています。」

「そうじゃったか。じゃが、そうじゃのう。お主には辛い事実じゃが、兵士がそれを現行犯で捕まえることができたのは、お主を追いかけていたからなんじゃ。おぬし、今日だけでも10件以上は放火したようじゃぞ? 何なら、昨日も放火していたらしいぞ?」


 知らない。

 そんなこと知らない。

 だって、そんなことしていない。


「その様子じゃと、覚えておらんかったようじゃの。」

「すみません。僕は、城下町のみなさんにひどいことを。」

「城下町だけじゃないぞい。王城の門も、2日連続で燃やしたらしいそ? 聞いた話では監禁されておったのじゃろう?」


 順調に行っているように感じていた異世界生活は「カース」によって、塗り替えられていた。

 僕は放火とかしたくない。

 だってそれは、おばあちゃんを殺したものだから。


 それを大魔王は、僕の呪いに設定した。

 悔しくて唇を強く噛む。

 血の味がした。


「どうすればいいんですか?」

「何がじゃ?」

「どうすればその呪いは解くことができるのですか? このまま、毎日放火に明け暮れていたら、そのうち、王都そのものが火の海になりかねません。でも、労働奴隷にはなりたくない。僕はどうすればいいですか?」

「女神教を、お主らを召喚した女神を崇拝対象とするこの国の国教を、禁教にしておる国がある。」


 話が逸れてきた。


「その国には、女神の恩寵を解除する術があるという。そうすれば、大魔王の呪いも、自ずと解けるかもしれんのう。やってみなければ分からんがのう。」

「行きます。何としてでもその国に行って、この呪いを解いてもらいます。」

「そうかそうか。じゃがのう。お主は勇者。国がその行動を管理しておる。勝手には、行けぬのじゃよ?」


 僕は、こんな恩寵いらない。

 こんな魔法使えなくても、火は使いこなせる。

 魔法に頼らなくても、大魔王を何とかする方法があるはずだ。

 僕は決意した。


 必ずや、大魔王の悪辣な呪いと戦い、そして打ち勝つと。

 必ずや、女神様の恩寵から脱して、自分の力で自分を育てると。


 そして、僕には都合のいいことに、そう時間をおかず、禁教の国への片道切符を得ることができるのだった。

ブックマークいただきました。

ありがとうございます。


さて、今回のお話ですが。

大魔王の呪い「カース」を表現するのには、彼が必要でした。

逆に、彼のキャラクターを表現するのには、逆に大魔王の呪い「カース」が必要でした。

もともと、すごくいい子に育てられているので、自分のしたことを許せなくて、自分の行った悪行に押しつぶされるようなプロットでした。

流石にそれでは救いも何もないので、このような話になりましたが、これはこれで、元の心にくるきつい話と比べると、話が薄いように感じてしまいます。

当たり前ですが、こちらの話になったということは、こちらの話の方がよかったからです。

ある程度想像はつくと思いますが、このネタですともっとエグい話にできるのはわかっていただけるかと。

でも、エグいんですよ。

書いていて辛くなってきているということは、読む人はもっと辛い、というよりも嫌な気持ちになります。

そういう文章も、ここまで多く折り込んできましたが、今回は逃げさせていただきました。

でも、そのせいで、この先の話が少し変更になりましたが。


自分で作った体内の毒素で中毒を起こすことを自家中毒というらしいですが。

まさにそんな感じです。


そんなこんなで凹んで、もういやだ! とかなっていなければ、明日の15時ころに。

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