第51節 ひどい独り相撲
主人公サイドから見て死闘ではありますが、相手サイドからは死闘となるのか。
戦力が拮抗していれば、そうなるものと思いますが。
死闘はまだ継続中。
今回は、え? 決着ついたのと違うの?
というお話です。
では、どうぞ。
「そうだよ! こいつだよ。こいつが西門でなんかしていたんだよ!」
俺はちょっと興奮気味だった。
あのあとダッシュで町に帰り着くと、兵士たちと共に井戸の水をがぶ飲みして、町に繰り出し、ひたすら肉を食った。
そのあと、オーンズに呼ばれて領主の館の執務室で、4人雁首を揃えて古い書物を覗き込んでいた。
ドライーマが見つけてきた本で、北の帝国の国教を伝える「緑の本」だ。
宗教とは言っても、どちらかと言うと自然災害の多い帝国が国民に対して、自然との付き合い方の指針を伝える目的のものという側面が強い。
例えば、神のおわす「緑の杜」は、決して手を出してはいけないだとか、「緑の社」の位置を変更してはいけないだとか。
それは、洪水や水害を防ぐために絶妙に設定された、防災林だったり、避難場所だったり。
本当に宗教なのかと問い詰めてやりたいくらいだ。
その点、我がサッシー王国の国教は、いわゆる女神教といって崇拝対象がわかりやすい。
しかも、英雄譚までついているので、戦士系の俺としては大満足だ。
ともかく、その「緑の本」に掲載されている、「山神様」の姿が、俺の見た緑の少女と服まで含めてそっくりだったことにびっくりした。
いや、服くらいたまには変えろよ?
この本の感じだと、100年単位でも、見た目の歳も服も変わっていねーじゃねーか!
どんだけだよ本当によう?
しかし、こいつに会っちまったことで、他の3人は何故だかびびっている様子。
そんなにすごいんかい!
「お前は何も分かっていないようだから言っておくが。」
オーンズが切り出した。
「山神様のお怒りに触れると。火山が噴火して溶岩とか火山弾で、町とか村とかが全て壊滅したり、大津波で海岸線が変わったり、洪水と鉄砲水で、作物が壊滅したり。人間の力では、どうあがいても太刀打ちできないような規模の攻撃をされるのだぞ?」
「いや、それは帝国の話だろ?」
ドライーマが信じられない顔をした。
「君はいつも人の話を聞かないよね。私の愛のささやきの一つでも、真面目に聞いてくれていれば、今頃(私が)幸せになれていたのにね。」
「何だよ? 聞いたことねーぞ?」
「不毛の大地。何年もいたのにな。あそこは、50年くらい前までは、豊かな穀倉地帯だったそうだよ? 山神様の怒りに触れて、水が流れてこなくなって、雨が降らなくなって。たったそれだけで、ああなってしまったんだよ?」
3人とも、え? 知らなかったの? うそだろ? って顔してやがる。
「そうだよ。今知ったよ。その山神様。ヤベー奴じゃねぇか。どうして放置されているんだよ?」
「帝国のように、きちんとルールさえ守れば、豊かな実りを約束してくださる。自然災害も被害をほとんど無くしてくださる。帝国に、我が王国の倍以上人口がいるのは、災害で人が死なないからだと言われている。すべて、山神様のおかげというわけだ。」
ハイリスクハイリターンの典型例ということか?
教本があるってことは、ルールが決まっていて、それにさえ従っていれば、酷い目には遭わないということか。
でも、何かが引っかかるんだよな?
なんか、すでに山神様のお怒りに触れてしまっているように思うんだが。
「辺境伯閣下! 緊急の用件です。」
思い出せないままモヤモヤしていた場面に、兵士たちが雪崩れ込んできた。
「なんだ、騒々しい。まずは落ち着いて深呼吸しろ。報告はそれからだ。」
「は、はい。すーはーすーはー。(ドライーマさま、相変わらずいい匂いだ)それでは、申し上げます。町に入ってくる川がすべて干上がりました。水が上流から来ていません。」
「それだ!」
俺は、思わず立ち上がっていた。
「ほらよう、あれだ。ウーバン村の領主の館の脇の河原で、『こーへー』を討伐した後だよ。あの川、水がなくなっていたんだよ。あれが上流なんだよな?」
「あ、そういえば。確かにあの川が上流だわ。じゃあ、ウーバン村より上流で、水が干上がったということ?」
そして、先ほどの話がフラッシュバックする。
不毛の大地は、50年ほど前は、元々穀倉地帯だったと。
川が干上がり、雨が降らずに、不毛の大地と化したと。
それが「山神様」の力によるものだと。
「これが山神様の反撃なのか?」
オーンズが天を仰いだ。
無理もない。
ウーバン村では、飲食物を取り上げられて危なく餓死するところだったが、町に戻れば大丈夫だと思っていた。
でも、それは甘い考えだった。
町でも、水が無くなっただけで生活は困難になる。
だめだ!
早く何とかしないと。
だけどよう。
雨が降らなくなって、川の水が来なくなって。
井戸の水位もどんどん下がっていって。
俺たちにできることは、そんなにねぇんだよな。
正面からガチンコで勝負するのは慣れているんだが。
こんな地味な嫌がらせで、しかも圧倒的に不利であったりして。
こういうのは、苦手なんだよな。
やりようがねぇ。
一週間。
たった一週間で、町は干上がった。
水がないということがどれほど恐ろしいことか理解した。
でもおかしいだろ?
雨が降らねえのはまだいい。
でも、山から湧いて出てきた水は、川にならずにどこに消えたってんだ?
必ず何処かにあるはずなんだよ。
でも、時間切れだった。
領主の館に溜め込んでいたワインとかそこらを飲み水がわりにしていたけれどもそれも限界だ。
水がなければ洗濯もできねぇ。
料理も満足にできねぇんだよ。
町の住人が夜逃げし始めやがった。
堂々と昼の内から逃げ出す奴らまで出てきやがった。
この町はもう終わりなのか?
俺たちも、もうダメなのか?
「俺たちも別の町に移動して、仕切り直そうぜ?」
「本当にそれでいいのか? これが相手の作戦だったら?」
「だとしてもよぅ。正攻法じゃ、どうにもならんぜ?」
「そうだな。それに時間切れだ。すっかりゴーストタウンだよ。」
町に人がいなくなって、ほぼゴーストタウンと化し。
人がいないということは、税収もないということ。
動かすことのできる住民もいないということ。
領主と言っても、領主だけいてもだめなのだから。
「じゃあ、どこにする。領地内で言うと、海沿いのコソーナがいいんじゃねえか?」
「まあ、我が領地で2番目に大きな町だからな。だが、あそこは実質的に、小さな村がたくさん繋がっているだけで、本来は大きな町でも何でもない。」
「じゃあよ? まとめちまえば生産性が上がるんじゃねぇか? いつもドライーマが言っているだろ?」
やれやれという顔でドライーマに返された。
「そうだよ。でもね、それならなんで今まで放置していたと思う?」
「遠いからか? でも、年に何回か行っているよな? どうしてだ?」
「仲が悪い。小さな村同士の仲が悪い。一緒に活動してくれない。」
とんでもなく人間的に小さな理由で、そしてどうにもならない理由だった。
「じゃあ、その手前の古い職人の町、ガーターにするか?」
「まあ、順当だな。あそこは3番目だが、それなりに栄えている。もともと領主の館があった場所は、ガーターだったからな。」
「じゃあ、急いで出発しよう。」
荷物を馬車に積み込んで、昼なのに夜逃げだ。
町にはもうほとんど人が残っていないことで、罪悪感が少しは薄れる。
俺たち、領主とその仲間たちだからな。
町を出て東の山道に向けて少しも進まないうちに、早馬が来た。
町の兵士だった。
「辺境伯殿! 大規模災害ですぞ!」
いや、知ってるし。
水が来ないんだろ?
「どうした?」
オーンズは落ち着いて対応していた。
もうすでに、その情報知っているからな。
「南の! 南の関所が破壊されました!」
聞いていない。
南には、町から少し離れた秀俊な山岳地帯に、カーナー侯爵領との関所があった。
急峻な渓谷の脇に、馬車一台が通れるくらいの道を通している新しい街道があった。
その中央に、関所があった。
通行税を取るためだ。
この街道を作るに、だいぶお金がかかったからな。
その代わり、流通がよくなり、南の領主共々、がっぽり儲けているのは言うまでもない。
その、産業上重要な関所が破壊されただと?
許せん。
だが待て。
あんな攻めるに難しく守るに易い関所を、どう攻略したのか?
「どこの手の者だ?」
「いいえ! 自然災害です! 崖崩れで、関所ごと渓谷が埋まりました!」
「復旧できそうか? 被害の規模は?」
「復旧は不可能です。地形ごと変わってしまいました。近づくことすらできません。関所の兵士たちは、残念ですが。」
そこは残念ではなかった。
このミャオー町を放棄すると決めてから、関所の兵士は任務を解除した。
少なくともこちらの人的な被害はない。
南のカーナー領に夜逃げを企んだ者たちまでは、面倒見きれん。
「山神様の仕業か?」
「たまたまだろ? あそこは昔からよく崩れていたからな。もう用済みだから、ちょうどよかったんじゃないか? 攻め込まれる心配もなくなったことだし。」
南の関所周辺が通行不可となるなら、急峻な崖地形しかないその付近を通過するには、空を飛ぶしかない。
サッシー王国は、亜人を人間と認めていない。
つまり、空を飛べる人間は、魔法使い系のごく一部のみだ。
しかも、あの地形を飛び越えてこれるほどの時間、飛んでいられるものはほぼ皆無。
政地学的には、ラッキーだったという以外にない。
まぁ、貿易は、海ルートの方がやり易いしな。
「兵士たちも、全員引き揚げられているか? 皆、本拠地を海側へ移すことを伝えたはずだが。」
「はい。辺境伯閣下が到着になる前に、迎えられるよう、皆、先に出発しております。」
「よし。お前はどうする? 我らとともに移動するか?」
「いえ。私も先を急ぎます。準備すべきものは多く、いくらでも人手が必要でしょうから。」
殊勝な心がけだった。
俺たちみたいな、ゴロつき一歩手前くらいのあらくれものたちが領主とその取り巻きをしているのに、どうして、こんな奴らが部下になっているのか、不思議でならない。
いや、そうだな。
俺たち以外は、もともとこの土地の人間だ。
俺たちがいい領主かどうかとは関係なく、ここの土地を守るの奴ら兵士だよな。
俺たちとは直接関係ないんだよな。
一行は山道を登っていく。
町よりも500メートルくらいは標高が上がっている場所まで来た。
まだ冬なので、山道は雪で覆われている。
夜逃げの集団が通った後なので、積もっている雪の中に、しっかりと道ができていた。
本来冬場なら、迷子になったり、道が分からなくなったりで、よっぽどのことなない限り、海側へと踏破しようなどとは考えないのが普通だ。
だが、今は普通じゃない。
そして、まだ、中間地点にも達していないところで、ドライーマが不穏なことを言い出した。
「不思議なんだけれど、聞いてもらえる?」
「どうしたんだ?」
「私たち、ここまで山道にある橋をいくつか渡ったよね?」
「そうだな。間違いない。もうかれこれ小さいのまで含めれば10以上渡ったな。」
何を言い出すのだろうと思ったが、橋の話だった。
何のことはない、普通の話。
ただ、数を覚えているのかと言われれば、指折り数えた訳ではないので分からない。
「下に、川が流れていたよね。」
「当たり前だろ? 川が流れていたな。橋はそのためにあるからな。」
「何で、川が流れているのかな? おかしくないかな?」
「お前はとうとうおかしくなったのか? 川に水が流れているのは当たり前だろ?」
何を当然のことをと返そうとしたが、俺以外は何かに気がついたようだ。
3人とも顔色が変わっていた。
「おい。俺たち、何で夜逃げしてんだ?」
「町の川が干上がって、水がなくなったからだよ。違うのか?」
「じゃあ、何でこの山の川は、普通に水が流れているんだよ?」
さすがの俺でも気がついた。
町からそう離れていないここでは水が流れているのに、町の中の川に水はない。
川の流れから、町よりも下流で、南側で合流するにしてもだ。
合流しているのならそこから水を汲んでくればいいだけなのだから、水があるのはおかしい。
「ここらの川の水は、どこに消えていっているんだ?」
雪山で、雪という形ではあっても水が大量にあることをいいことに、元冒険者の探究心がうずいた。
「ちょっと、確認してからでも、いいよな? 夜逃げは、いつでもできる。」
そうして、俺たちは水の大量に流れる堀の深い渓谷になっている川に沿って、元来た道に近いルートを使って、山を降りはじめたのだった。
実際にあった異世界マニア生活
1 思わず全粒粉の固めのパンを買ってしまう
冒険者って、どんなの食べてんだよって気になって、買って食べてみた。
現代版の黒パンは、柔らかくて美味しい。
知り合いのパン屋さんに無理を言って、異世界的なパンを作ってもらった。
硬っ! フランスパンより硬い。
そして、あんまりおいしくない。
2 ラム酒を飲んでみる(成年者限定)
海賊とか出てくると、ハンコを押したようにラム酒が樽で出てきますよね?
なんかうまそうに海賊たちが飲むんですよね?
そんなにうまいんかいって、探して買って飲んでみた。
言うほどうまいわけじゃないけど、飲んでいるうちにうまいような気がしてきた。
アルコール度数高めなのですぐに酔える。
でも、船の上で飲むのはやめたほうがいい。
ひどい目にあったし。
ちなみに、樽で売っている店はなかった。
それでは、ラム酒で肝臓をやられて健康診断に引っかかっていなければ(ハードル高め)、
明日の15時ころに。
繰り返す。ハードル高め。
あ、結果出るの、1週間後だって。
まじか!