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第6節 鉄の精霊は言いました 必ず、かの邪智暴虐の……

チュートリアル回です。

レイン先生が、スキルについて説明します。

この世界のスキル、ちょっと微妙。

本当に、大魔王と戦わせる気があるのかしら。

<前回の3行あらすじ> 

 「恩寵おんちょう:トレイン」の精霊「レイン」との2人での探索が始まったよ。

 次第に上がってくる水面は時間制限をかける。襲いかかってくるマインウルフ。

 それをどうにかこうにかやりくりして、最初の場所から2階層上にたどり着いたよ。



 マインウルフを合計4匹を殺した。

 レベルが上がっているようである。

 精霊レインには、僕のステータスを知る手段があるようだ。

 今、僕の目の前で、両手の親指と人指し指でファインダーを作って調べているところだ。


 とても気になる。

 僕の恩寵おんちょうには、どんな技能スキルがあるのかと。

 少なくとも今のところ、自分では何も思い浮かばない。

 突然、不思議な力に目覚めることもなかった。


 ならば、手がかりは、レインしかない。

 ということで、レインに確認してもらっている。

 可愛いマスコット人形の精霊レインは、前回より長い時間、僕を覗き見ていた。


深淵しんえんを覗こうとする者は、逆に深淵に覗かれるのです。」

「いや、ドヤ顔で、そう言う厨二病なセリフいらんから、説明早よ。」

「こう言うのは、様式美と言うのがあってですね。」

「時間ないんだろ、早よ。」 


 時間がないと言い出したのはレインであるので、反論して来なかった。

 そして、レイン先生のチュートリアルがはじまった。


「それでは、マスター。驚いてください。何とレベル2になりました。」

「おおー! で、それはすごいんか?」

「うー、何とも言えません。例えば一般的な戦闘しない大人の村人はレベル2くらいです。」

「それは、弱いのでは?」

「よわよわです。かなりのクソ雑魚です。」

「いや、そこまで言わんでも。」


 僕は、レベルが上がって2になっていた。

 普通の村人レベル。

 まあ、女神様に戦闘向きではない認定されているので(されていない)仕方ないか。

 それよりも技能スキルである。


技能スキルは手に入ったのか? 説明早よ。」

「慌てないでください。説明しますから。」

「もったいつけずに早よ。早よ!」

「はいはい、レベル1では、『設定』スキルが手に入りました。」

「ん? 『設定』スキル? 何ができるんだ?」

「はい。もちろん『設定』できます。」

「いや、そうではなく、『設定』では、何ができるのかと聞いている。」

「むずかしい質問です。実際に使ってみないと判りにくいです。それにこの技能スキルは、地上に出てからじゃないとほとんど使えません。」

「そうか、今は無理か。」

「無理じゃありませんが、あまり意味がありません。それにレベル1ではあまり……。」


 結局、「設定」スキルは、今使えないようなので無視した方が良さそうだ。

 次っ!


「はい。そして、レベル2では、スキルポイントと『制作』スキルが手に入りました。」

「うむ。して、『制作』スキルは何ができるのじゃ?」

「……気持ち悪いです。」

「うっ、すまない。で、何ができるんだ?」

「色々『制作』できます。」

「むぅ。何を作れるのかな。わくわく。」

「うー、そうですね、例えば、ここは、鉱山ですのであれです、えーっとあの。」

「おう、慌てなくていいぞ。」

「はい。と、トロッコ。トロッコです。トロッコが作れます。」

「ぬ、すごいな。でも、『設定』と同じで今は使えないのだろう?」

「そうです。使ってもいいですけれど、すぐに水没してしまいます。」


 とにかく、この鉱山からの脱出が、全ての始まりのようである。

 しかし、スキル2つももらっておきながら、予想通りとはいえ、戦闘には全く役に立たない。

 何と言うことでしょう。

 僕の左腕、もうダメかも知らん。


「何か、戦闘に役に立つのはないのか?」

「ありません(ドヤ顔)。」


 諦めの境地、ここにあり、である。

 詰んだ。

 今、10階層であるとして、地上まで、無事に出られるとはとても思えない。

 ダンジョン攻略と捉えると、必要なものがことごとくないためだ。


 食糧がない。

 これは時間制限と行動制限になる。2日が限度だろう。

 すでにだいぶお腹が空いている。

 泳いでいるときに、だいぶ水を飲んでしまったが。

 でも、あれは毒なので、計算外だ。

 

 回復薬がない。

 ダメージを受けたら、終わりである。

 ちなみに、ゲームと違って、ダメージは累積する。

 当たり前の話だが、腕を噛まれて血が出れば、血が出ている間は、継続してダメージが入る。

 今も、じわりじわりとHPが減少しているのだ。


 攻撃能力がない。

 ここまでは、マインウルフだけを相手にしたので、文明の知識でズルをしてやっつけた。

 しかし、本来的には、武器を持って、相手を攻撃する必要が出てくる。

 だって、異世界だし。

 おそらく、剣と魔法の世界だし。


「マスターが技能スキルを使うためには、条件があります。」

「おう、前に言っていたやつだな。あれか。鉄道鞄を持っていること、だな。」

「そうです。でも、厳密には手に持っている必要はありません。何なら、私が持っていても条件を満たせます。」

「結構ゆるいな。」

「でも、手が塞がるので、戦闘向きではありません。」

「結構きついな。」

「しかも、条件は2つあります。」

「まだあるのか? それはもうスキル使えないのではないだろうか?」


 異世界もののスキルって、もっと簡単に使えるのではなかっただろうか。

 こう、呪文を唱えるだけ、とか、考えるだけ、とか。


「もうひとつの条件は、『制服』をきることです。」

「いや、今、学生服、ちゃんと着ているのだが。学校の制服、これ。」


 そう言って、自分の持っているボロボロよだれまみれの黒い学ランを摘んで見せる。

 ……あ、ちゃんと着てはいなかった。


「ほぇ? どこの世界に、学生服を着た鉄道員がいるのですか? 鉄道鞄から、今、出せる制服を出しますので、ちょっと着てください。」

「お、おぅ。ちょっと待ってろ。」


 レインは、呪文のようなものを唱えると、どこからともなく紺色の作業服を取り出した。

 というか、何もない空間から、取り出しやがった。

 これが空間魔法とかいうやつなのか?

 マインウルフを収納するときも、そんな感じだったが。

 レインが吊り下げているのは、制服と申し立てているものの、どう見ても作業服上下。

 そして同じ色の作業用の帽子。

 上着のネームプレートには「しゃちょう のなか こーへー」。

 やはり平仮名であった。

 と言うか、社長なのか僕は。

 社長?

 よく見ると、ネームプレートの上に、斜め上なとんでもない記載があった。



「異世界鉄道株式会社(笑)」



 おい!

 (株)じゃねーのかよ。

 って言うか、株式会社はフル記載されてるし。

 絶対に、あの女神の仕業に違いない。

 何しろ「異世界鉄道」だ。

 この世界を異世界と認識しているのは、僕たち被召喚者と、あの女神だけだ。


 この作業着、着ていたらきっと笑われる。

 あ、だから(笑)なのか。

 いや、そうじゃないだろう。


「これで、トレインの技能スキルが使えます。無駄になりますが使ってみてください。」


 レインは笑うこともなく、そう言ってきた。

 レインからすると、僕が今、技能スキルを使えることに疑いを持っていないようだ。

 しかし、だ。


技能スキルは、どうやって使うんだ? 使い方が全くわからないんだが。」


 当然である。

 今のところ、スキルの使い方についての知識は、何もない。


「マスター、今調べます。ちょっと待ってください。」


 そう言って、レインは鞄から紐を外して自由になると、宙を飛んで僕の体をまさぐり始めた。


 と言うか、レイン、よくよく考えてみると羽が生えているわけでもないのに、普通に飛んだ。

 さすが精霊。

 物理法則はどこへ行った?


「いま、マスターのスキルのステータスを収集しています。はい、でました。」

「……で、どうなんだ?」

「『制作』スキルには素材が必要です。素材がないと『制作』スキルは発動しません。」


 何だかRPGのようなことを言い出してきた。

 錬金術とか素材の合成とか、そう言ったシステムに近いものなのだろうか。

 とにかく、スキルのことは一旦脇に置いておくこととした。


「分かった。あと、精霊って、他の人間に見られても平気なのか?」

「あ、平気です。何とかします。」


 ……変だな?

 表情が陰った。

 レインは、他の人間のこと、あまりよく思っていないのかもしれない。


「知らない方がいいこと、世の中にはたくさんです。」

「レインは、他の人間、ダメなのか? 苦手なのか?」

「謁見の間で、マスターが恩寵の説明を受けたとき、みんなばかにして笑ってました。」


 ああ、そうか、そうだな。

 あれ、そう言う意味になるよな。

 レイン視点からすれば、マスターである僕が嘲笑されたこと、これが一つ。

 さらに、恩寵であるレイン自身も嘲笑されたことになる。


 どうあっても、良い感情をもつには至らない。

 何なら、そのときに発生したのだ。

 初見がそれなら、もう出会いは最悪でしかない。

 しかも、それから1日も経っていないのだ。


「マスターは知らないかもですが、あの『ヤオイ』の恩寵を受けた女も、最初は笑ってました。」

「うっ。」

「みんな、言っていました。『トレイン』は役立たずだと。」

「確かに、言われまくっていたな。」

「あと、ひどい勘違いもされていました。」

「勘違い?」

「そうです。兵士の人たちは『モンスタートレイン』の恩寵だと勘違いしていました。」

「何だ? 『モンスタートレイン』って?」


 初耳だ、その単語。

 鉄オタ的には、その道の人たちに比べてかなりゆるい鉄オタだが、聞いたことがない。

 むしろ、父親が鉄道会社に勤めている分、一般の鉄オタの人より専門用語には詳しいと自負していたのだが。


「『モンスタートレイン』は、軍隊や冒険者の専門用語です。鉄道とは一切関係ありません。」


 知らない訳だ。

 と言うよりも、この世界の言葉なのかもしれない。

 鉄道がないのに、兵士がかなり警戒していたのは、意味があったのか。


「ダンジョンとかで、モンスターに追いかけられますよね。」

「おう。そうだな。」

「逃げると、モンスター、いつの間にか増えますよね。」

「ま、そうだな。倒さなければ徐々に増えるな。」

「その状態、逃げている冒険者が機関車、後ろに連なるモンスターが客車に見えるのです。」

「ああ、で『モンスタートレイン』か。」

「でも、です。この世界には鉄道が無いので、『トレイン』の元のいみ『ひっぱる』から、モンスターの列とかモンスターを引き連れてくるとかそう言う意味の言葉になっています。」


 何となく絵面はわかった。

 あまり、いい絵面ではないな。

 しかしピンチでこそあれ、それがどうしたと言うのだろうか。


「そうして、引き連れて来たモンスターを、他人になすりつけます。」

「ぬ!」

「なすり付けられると、その物量に、大抵は全滅します。」

「うっ!」


 おう。

 何と言うことでしょう。

 ピンチなのは、引き連れている冒険者じゃない。

 なすり付けられた方なのか。


 つまり、危険視されたのはこう言うことだろう。

 僕の恩寵で、この「モンスタートレイン」を人為的に、かつスキルとして実行できると。

 そして、それは、人間には効果があるが、対魔物、対魔王的には意味がないと。


 危険極まりないな、その恩寵。

 極めれば、人間の国、簡単に滅ぼせそうだよ。

 そう言う恩寵じゃないけど。


「確認なんだが。」

「はい、なんでしょう?」

「僕の恩寵、それ、できないよね? スキルとかつかないよね?」

「……ないはずです。だって、鉄道の精霊って言いましたよね。モンスタートレインの精霊じゃないです。でも、」

「わかった。レインの能力としては、ないんだな。僕のスキルとしては発現する可能性があると。」

「はい。可能性は、あります。でも、恩寵の性質上、ないと思います。」


 恐ろしいな。

 人間に反感を持って生まれてしまったレイン。

 一国を滅ぼす威力のあるモンスタートレイン。

 最悪の組み合わせではなかろうか。

 幸いにして、レインにはモンスタートレインを発生させる能力もその気もないようだが。


「でも、あの王とあの女神には、必ず復讐します。絶対です。」


 レインは険しい表情で宣言した。


「いや、精霊って、女神様が生み出したものではないのか?」

「そうですが何か?」

「復讐、可能なのか? ざまあ、できるのか?」

「ネタばれしてもいいですか?」


 レインは、ドヤ顔である。

 何か、言ってはいけないことをぶっこむつもりのようだ。


「おう。いいぞ。」

「私と、マスターの恩寵、授けたのは、あの女神じゃありません。」

「!!!」

「あの女神がしたことは、マスターの恩寵を覗いて、みんなに言いふらしただけです。」

「いや、だって、鉄道鞄。」


「私と鉄道鞄は、マスターの召喚時に、謁見の間に発生しました。それをすぐに回収されただけで、あの女神が作ったわけじゃありません。だって、おかしいじゃないですか。聞いていて、不思議に思わなかったのですか。自分で授けたはずの恩寵、何で一人一人魔法をかけて調べないとわからないのですか。自分で授けたなら、把握していて当然じゃないですか。そして、あの女神が、自分に都合の悪い恩寵を授けるわけがないです。」

 

 一気に捲し立てて来た。

 相当、溜まっていたようである。


「おい、ちょっと待て。それって、色々な前提条件が崩れないか?」

「崩れるも何も、そんなもの元からありません。」

「大魔王の復活とか。」

「それは周知の事実です。国が発表しなくても、女神が公表しなくてもみんな知っています。」

「召喚とか。」

「召喚は、王宮の魔術師13人の合同魔法です。32人召喚するのに13人死んでいます。」

「犠牲魔法なのか?」

「そうです。女神の力を借りたと言うのは厳密には嘘じゃありません。でもあの女神の力じゃないです。別の女神の力を借りるのに、犠牲が出ました。神魔法と言われています。必ず命の犠牲を伴います。」

「神なのにか?」

「神だからです。」



「だから、私を産んだ本当の女神様のためにも、あの女神は絶対に許しません。」

「そうだな。」

「そもそも、女神なのかどうかも、怪しいです。」

「そうなってくるよな、そうすると。」

「普通の人間が、『鑑定』系の上位スキルを使っていただけの可能性もあります。」

「召喚されたばかりの僕たちには、それでも分からないしな。」



「でも、マスターも、他の男も、みんな鼻の下伸ばして、あのスケスケ女神に見惚れていたのは知ってますから。」



 あ、やっぱりわかっちゃうのね、そう言うの。

 だって、無理でしょう、あの格好、あの美貌。

 でも、それすらもスキルや魔法の可能性があるのか。

 恐ろしいな、異世界。

 さすがハイ・ファンタジーだな。

 何でもありだ。


「マスター。私は、マスターの精霊です。ですから、くいあらためるなら、ゆるしましょう。今後は、レインに見惚れると言うのなら、とても悔しいですが、ゆるしましょう。でも、条件があります。」

「はい。悔い改めます。エロい目でガン見してすいませんでした。何なりとどうぞ。」



 レインは激怒していた。

 必ず、かの邪智暴虐の女神を除ねばならぬと決意していた。



「呆れた女神だ。生かして置けぬ。」



 レインはキメ顔で、そう宣言した。

この世界の女神様を嫌いになりかけていた方、お待たせしました。

レインと、あの女神様は直接の関係はないようです。

その辺りについては、おいおい本文の中で。


<更新履歴>

誤字訂正 スティータス > ステータス(status)

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