第43節 きいていますか?
お詫び申し上げます。
43話をアップすべきところに、44話をアップしておりました。
話がつながらないなと思われた方。
正解です。
話数も丁寧に43話と打ち直していました。
その時に気づくべきでした。
お詫びとしまして、ここに本日2話目の本当の43話を投稿いたします。
いつもより多めなので、44話を読んでしまった方はなおさら、あれっ? となったことと思います。
申し訳ございませんでした
では、どうぞ。
今日も今日とてキノコ探しに余念がない大岩井と手下のマインウルフたち。
朝早くから、その手下を十匹ほど引き連れて、山を降って行った。
「いろいろな食べ物を探してきますね。犬って鼻がいいからすぐに見つけてくださるんですよ?」
そんな呑気なことを言いつつ、視界から消えて行った。
旧山賊団は朝ごはんが終わると、鉱山に行き、7階層奥で鉄鉱石の採掘。
彼らに言わせると、この鉄鉱石は「磁鉄鉱」というらしい。
鉄鉱石にも種類があって、この周辺だと「磁鉄鉱」と呼ばれるこの黒い鉄鉱石が多いらしい。
そして親分は、手下を乗せると遠慮なく鉱山内に向けてトロッコを爆走させていった。
駅前には、昨日、ラストが新しく線路を引いたので、ここだけ線路が2本ある。
いわゆる複線になった。
業界用語で1面2線の駅、と言いたいところだけれども、ホームがないのでそうは言えない。
駅舎本屋に近い方から1番線、2番線と言うように言われた。
手前の線路、奥の線路って言ったときに、ラストに叱られたのだ。
確かに、もっと線路が増えたら、どの線路だか分からなくなってしまう。
そして朝イチで、腰に両手を当てて、こちらを見上げるラストに言われた。
「ロッコが新しいトロッコを作ったので、トロッコはもはやボトルネックではなくなった。そして、ラストが駅前を複線にしたので、トロッコも安全に活用できるようになった。今のボトルネックは何だか知っているか? マスター。」
いや、今のペースかなり早いし、十分じゃないかな。
正直、今までで最高の状態になっていると思っていた。
「ボトルネックって、人数か?」
「違う。施設だ。ここ。目の前。複線にした向かい側の掘立小屋のあるところ。ここは、何なのか覚えているのか?」
「え? 何だっけ?」
何かを作ったような気がするのだが、よく覚えていない。
いや、そもそも活用している場面を見たことがない。
「保線基地。保線基地! 私のスキル、活用するのに必要で、その能力を遺憾なく発揮するのに必要な保線基地! 現在のレベルは0!」
レベル0。
そう言えば、ラストに脅されて作った記憶がある。
というか、ラストが勝手に操作パネルをいじっていたな。
あれはだめだとロッコが言っていた。
そして、技能を使おうとすると。
ラストがその小さな体を密着させてきた。
背中を預けてきた。
そこに立たれると、操作パネル操作しにくい。
そして気がついた。
こいつ、反省してねぇ。
また、自分で操作パネルをいじる気満々だ。
でも、僕には強力な味方がいる。
「ロッコ! 今から保線基地のレベルを1つだけ上げようと思うんだが、ラストを預かってくれないか?」
「ん。任せて。ラスト、めっ。」
そうして、ロッコに連行されていくラスト。
「せ、せっかく、レベルマックスまで上げようと思っていたのに! 権力の横暴にはくっ、屈しない! くっ、殺すなら殺せっ!」
とんでもないことを企んでいやがった。
自分で操作するくらいだと甘く見ていた。
人のMPだと思って、使い放題しようとは許せぬ。
レベルマックスって、レベル10だよ?
いきなりレベル10も上げられるMP無いよ?
でも、近くまでなら上がってしまっていたかも。
とにかく、技能で、邪魔される前に手早くレベルを1にしてみた。
掘建て小屋がなくなった。
そして、目の前の線路の向こう側に高い屋根だけの建物ができた。
状況、悪化していないか?
以前の説明だと、レベル0では、場所が設定されているだけで、機能はほぼ無いに等しいと。
ならば、レベルが1になったところで、こんなでも何らかの利点があるはず。
そこんところ、どうなんですか? ラストさん。
「マスターのそばで線路を作るのと同じだ。スピードが上がる。あと、精度と品質も上がる。」
それは、結構重要なのでは?
それで、無理やりレベルを上げようとしていたのか。
納得した。
「ここでレールを作るのか? 今まで現地で作っていたけど。」
「これまで通りだ。イヌ釘とか、細かい道具はここで作る。圧倒的に効率がいいからな。」
そうして今日も、枕木の元になる木の伐採に向かうのであった。
作業場所まですぐについた。
親分がかっ飛ばしたからだ。
でも、昨日の教訓を活かして、スピードはやや抑えめ。
オーバーラン後に説教されたのが少しは堪えたらしい。
一緒に運んできた鉄鉱石でレールを作り、鉄鋼スラグができてバラストの在庫が増える。
昨日の枕木の残りを活用して、アジト仮駅から少しだけ先に線路を伸ばした。
親分は、鉄鉱石を運び終えたので、ノリノリで鉱山へと戻って行った。
適材適所と言ってしまっていいものなのか。
少し先へ進んだので、その辺りで木を伐採して枕木の在庫を増やしていく。
バラストを敷いたところが近くにあるのでそのまま枕木を設置していく。
そうして午前中いっぱいでおおよそ村と鉱山の中間地点まで枕木を敷き終えた。
鉱山へ戻ろうとすると大岩井とその手下たちに出会した。
「あら、もうそろそろお昼かと思いまして。今戻ってご飯にするところですよ?」
「こちらもだ。それにしてもなんだそれは?」
キノコ用の原木を確保しに出かけていたはずなのだが。
大岩井の手下の背中には多種多様な植物がくくり付けられていた。
「いろいろ、見つけちゃいました。こちらはウドですよ? 洞窟の中で育てると白くて大きな美味しいウドになります。あとですね、こちらはタラの木の幼木。育てるとタラの芽が取れます。ああ、でも。異世界ですので近い種ではあっても、ウドとかタラとかそのものでは無いかもしれませんね。大きくなってからのお楽しみです。」
明らかそれ以外にも色々回収していた。
今、冬。
雪が積もっているからわかると思うけど、冬だから。
植物の移植とか厳禁だから。
大岩井さんは、今日もはちゃめちゃだった。
そして、大岩井さんの作った昼食には、山椒がスパイスとして使われていた。
こちらの世界に来てから初めての香辛料であった。
「いつの間に? 村で買ってきてないよ?」
「見つけちゃいました。たくさんでは無いですけれど、調味料は必要ですから。」
「いや、そんな簡単に言うけど。」
「え? 山椒は実だけじゃなくて葉っぱも料理で使うんですよ? 『木の芽』って、スーパーでも売っているじゃありませんか?」
「いや、知らんし。って、何だその大雑把なネーミングは? 他の木の芽に謝りなさいって感じだろ。実際、タラの芽だって、木の芽な訳だし。」
「そういう、理屈っぽいこと言う人はキライです。ぷんぷんですよ?」
まあ、肉の臭みが多少は消えて食べやすい。
このところ、ワイルドな料理に慣れすぎていたせいか、山椒の味と匂いがちょっとキツく感じるのは、どうなのだろうか。
それに、これも、本当は山椒そのものでは無いんだろうし。
異世界で、近いもの探しするの上手すぎるだろ。
その内、似てるけど毒入ってます系のトラップに引っかかりそうだよ。
ちょうどご飯を食べ終わって一息ついていたところに、親分が駆け込んできた。
頭からマインウルフにかじられて血を流している。
「親分。またか。」
「ちげぇよ! 緊急事態なんだよ!」
「わかるけどな。きっと甘噛みだから。見た目より軽傷だから。」
親分の体を張ったギャグを軽く流そうとしたとき、見覚えのある女の子が脇から入ってきた。
「緊急事態なの! 本当なの!」
確かにそうだろう。
麓のウーバン村にいるはずの領主のお孫さんだ。
しかも、魔物の徘徊する山の中を突っ切ってきたとなれば尚更だ。
よく生きてここまでたどりついたな。
そこで気がついた。
「あら、この子。伊藤のところに派遣した『士郎』じゃ無いですか。」
「そうなのか?」
「間違いありません。この狼とは思えない、尻尾の芝犬ぶりを見てください。こんなシッポしているのはこの子だけです。」
言われてみてみると、ふさふさの尻尾が、柴犬のようにクルンと巻かれている。
もちろん、ほかのマインウルフはそんなことにはなっていない。
「何があった?」
そうしてようやく、僕たちは伊藤さんの身に起こったことについて、概要を知ることとなった。
ロッコとラストは、線路を伸ばしに出かけ、親分たちも鉄鉱石採掘に出払った。
そして、作戦会議が始まった。
「伊藤さんが捕まっているのは、グラニーの話からいくと、領主の館一択だな。」
「村の中で、牢屋みたいなのがある建物、家しか無いから。」
「あと、相手の規模は、一個中隊規模、20人から30人くらいだな。」
「隣町の領主だって言ってたよ?」
グラニーが少しずつ情報を開示していく。
それを組み込みつつ、状況を把握していく。
実際問題として、今すぐにでも現場に行って伊藤さんを助けたい。
でも、闇雲に突っ込んでも、一緒に投獄されるだけだ。
ここは、きちんと状況を確認して、確実に助けたい。
「牢屋はどこにある?」
「地下。」
「地下は1階だけ?」
「そう。でも、結構深い。」
「牢屋の抜け道は?」
「無いよ?」
「入り口は何箇所?」
「1箇所だけ。」
「牢屋の入り口はどこにある?」
「おうちの一番奥の方。入り口から入った廊下の突き当たりを左に折れたところの鍵のかかった扉を開けると、階段があるの。そこから入って地下に行くと牢屋があるの。牢屋は4部屋もあるけど、2部屋は倉庫がわりに使っていたの。」
短問短答式で、少しずつ、必要な情報を回収していく。
難しい質問はグラニーには難しいと判断したのだが、思った以上にしっかりしている。
結構的確な答えが返ってくるので、予想外だった。
結果、作業はつつがなく進んだ。
「よし、出発だ。夜襲をかける。」
そして、僕たちは村を目指した。
武器などない。
目的は伊藤さんの奪還。
あと、ウーバン村の領主も捉えられているらしいのでそちらも。
屋敷の見取り図は、グラニーの協力で完璧だ。
ちょうど親分が鉄鉱石を運んでいるところだったので、便乗した。
今回のメンバーは少数精鋭。
グラニーは大岩井さんに任せてお留守番だ。
行くのは僕と、レインとユリ。
大勢で行っても、結局牢屋は狭い。
しかも袋小路だ。
攻めにくく、守りやすい作り。
まさに牢屋としてのふさわしい作りだ。
そして、親分がトロッコを止めたところは、ほとんど目標の中間地点付近だった。
ラストとロッコが頑張ったおかげで、線路はかなり早く伸びた。
「違う。保線基地ができたからだ。こんなにスピードが違うんだぞ?」
そう言って鉄鉱石から魔法でレールを作り、それを犬釘で固定する作業を見せてきた。
犬釘に至っては、当初僕が言っていたように、魔法で一括設置だった。
「犬釘は、一本一本固定するのがいいんじゃなかったのか?」
「そんなこと言っていられない。速さが命だ。それに、精度は1ミリ以内にしてあるから問題ない。」
ラストに素材があるか確認してから、この中間地点に仮駅を設置した。
ちなみに、「ウーバン鉱山入口駅」と仮に名前をつけた。
そして、仮駅のレベルを1にしたら、ちょっとした小屋ができた。
待合室風の小屋だが、雨風を防ぐのと、寝る分には十分だ。
狭いけど。
そうしてその仮駅の小屋で一眠りすると、日付の変わるころに出発した。
ラストとロッコがどうしてもついていくと言って離してくれないので諦めた。
ユリを先頭に、村へ向けて進んだ。
一時間後、村の近くまで来ていた。
ユリが斥候として、村に接近すると、駅の裏に伊藤さんの配下のハイドウルフたちが隠れていた。
匂いを嗅ぎ合って相手の確認をし、再開を喜ぶハイドウルフとユリたち。
駅はもぬけの空。
特に占領されることも、見張りがつくこともなく、そのままであった。
駅前は結構荒らされていたけど、被害は何もなかった。
今度は、駅に身を隠しつつ、村の中を偵察。
再びユリが、川沿いに領主の館まで走って行って、状況を確認してきた。
そして、それをハイドウルフたちに伝える。
そこでこの作戦の欠陥に気がついた。
斥候、ユリにすると、どうだったのか伝わってこない。
イヌたちの間だけで、かなり納得して、士気が上がっているのは見ればわかる。
分かるのだけれど、こちらはなぜ盛り上がっているのかわからない。
ちょうど外国語の映画を見ているとき、周りの人が笑ったのに、なんで笑ったのか分からない感じに近い。
ユリはかなりやる気だ。
もういいや。
こいつらが納得しているんなら、もうそれでいいじゃないか。
どの道、館に入って助けるのは僕らなんだし。
腹を括った。
さすがにユリも、大型犬クラスの大きさになってきたので頭に乗るのはやめたらしい。
今、こいつ、背中に乗りやがってますが。
そこは自分の足で歩こうよ。
4本も足、あるんだし。
ユリが覆いかぶさってきたのはおふざけのようで、きちんと川に沿って僕たちを誘導してくれた。
ちなみに、なぜ川かと言うと、道路沿いには兵士がいるという情報を、伊藤さんの配下のハイドウルフからもらっていたらしい。
川から頭を出して道路の方を確認すると、明らかに兵士らしい男がうろうろしている。
そういうの、早く言おうよ。
と思ったのだけれども、そもそも狼だし。
言葉、一方通行なんですよね。
こちらの言っていることは理解している感じなのがなお、焦ったい。
そして、領主の館の脇までやってきた。
まだ、川の中だけど。
水の中じゃないよ?
もちろん一段窪んでいる河原だよ。
領主の館の周りには、松明を持った兵士が4人いた。
2人が入り口を、残りの二人が周辺を歩いて警戒している。
グラニーから教えてもらった勝手口を確認した。
台所の倉庫につながっている勝手口は、入ってしまえば周りからは見えない。
そして、台所に出てしまえば、廊下を通して牢屋まで一直線。
つまり、正面からの廊下で考えると、牢屋と反対側に曲がると台所なのだ。
歩いてまわっているので、結構隙がない。
なぜなら、歩哨の2人は、正面を確認していないからだ。
もちろん勝手口は裏側。
そして、その裏側には、必ず歩哨が1人はいる。
「レイン。やっちまうか?」
「ダメなのです。ここで気づかれたら助けられないのです。」
「どうする?」
「正攻法がダメなら、裏の手を使うのです。ちょっと行ってくるのです。」
そう言うとレインはちょっと屋敷から離れると、空高く飛び上がった。
そして、暗い中ほとんど見えていないが、館の煙突から忍び込みやがった。
異世界チートじゃねえか!
あと、異世界なのに、そこは警戒していないのかよ!
そして数分後、勝手口の扉が少しだけ開いた。
鍵、かかっていた感じだな、あれ。
歩哨は、その変化に気が付けなかった。
でも次の変化には流石に気がついた。
窓が開いたのだ。
勝手に。
ちょ、怖いよ!
レインさんの仕業だって分かっても、夜だし、怖いよ!
分かっていても怖かったのだから、分かっていなかったらもっと怖い。
歩哨がその窓に近づいた。
なお、その窓自体は、館の側面、西側の窓だ。
入りたい勝手口は北側。
「おい、牢屋の近くの窓が開いたぞ?」
「なんでだよ! あそこ、開かなくて苦労したところだろ?」
「ちょっと見てみようぜ? 何かいるだろ、絶対!」
「そうだな。確認しないとだな。」
そう言って、のこのこと確認しにいく2人。
仲良いんだろうな。
そう思いつつ、迷わず勝手口から潜入した。
全員。
だめじゃん。
ちゃんと外、見張っている要員が必要じゃん。
なんで全員入っちゃうのかな?
さすがにウルフ軍団は、ちゃんと言うことを聞いて、来なかったけど。
「ますたー。あんなところでおいていこうとするなんて、ひどいぞ。こわすぎるぞ!」
「ん。なかまはずれ、ひどい。」
本来、河原で外の偵察要員だったはずのラストとロッコは震えながらしがみ付いていた。
絶対、さっきのレインの自動窓が効いている。
僕だって怖かったよ。
知ってたけど、怖かったよ。
「救出、開始なのです!」
うっかり開けてしまった牢屋近くの窓のところに、歩哨2人が張り付いてしまったため、この2人が諦めて立ち去るまでぜんぜん救出に向かうことができず、台所に1時間近く隠れていたのはラストの計算違いなのであった。
時間を待って読んでくださってくださる方には、ご迷惑をおかけしました。
自分で、先の話数を書いていた折、話数の計算がおかしいことに気がついて確かめたところ、話が前後していることに気がつきました。
今後は、もう少し慎重に。
やはり、これでも少しは動揺していたのですね。
自分では大丈夫だと思っていたのですが。
では、今度こそ、本当に、明日の15時頃に。