表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第4章 ウーバン村(ヴィレッジ)の死闘
57/224

第42節 嬢王様とギルドとよろず屋と

風紀委員だった嬢王様、伊藤さんのお話です。

彼女の目指すものは何なのか。


それでは、どうぞ。

 風紀委員をしている関係で、人の悪意に触れる機会に恵まれていて。

 恵まれていたという表現は、人によっては好ましくないと言うけれど。

 人の悪意に晒されることなく育ってしまったら、いきなり悪意を相手にするのは困難で。

 最悪、そのまま騙されたり、命を落としたり。


 今の日本ではどう?

 ニセ電話詐欺とか、危険ドラッグとか、寸借詐欺とか。

 悪意に慣れていない心につけ込むのは、つけ込む側からすればカモでしかなくて。

 被害者が絶えないのは、それも原因なのではないかと思うのだけれども。



 それでも、悪意に晒されない「優しい世界」の方が、良いに決まっていて。



 私がレインに言われて「嬢王様」になったのは、私がいる間だけでもと。

 少しでもこの世の中を良くできたらと。

 そういう思いがあって、自分にできることをしたいと思って。

 その話を受諾したのだけれど。


 ウーバン村に、鉱山から一人で出てきたこと自体、自殺行為に近く感じていて。

 それでも頼もしい仲間が7匹もついて来てくれて。

 少なくとも魔物相手にはほぼ無敵で。

 これならなんとかなると思っていたのだけれども。



 現実は厳しく、過酷。



 領主から、村民全員を集めたところで新しい国の王様だって紹介されて。

 税金がほとんどないことを称賛されて。

 でも村の人たちと触れ合うにつれて。

 何で? どうしてあなたが?


 そういう疑問を投げかけられるようになって。

 一部ではあっても反対派もいるようで。

 でも、大多数の村の人たちは受け入れてくれて。



 今日も、三助に舐められながら、獣臭くなった体をどうしようか悩む1日が始まった。



 隣のミャオー町に一台の馬車で出かけていったギルドマスターとよろず屋の店主と手下たち。

 ミャオー町に一泊して、次の日の昼に帰ってきた。

 村では久しぶりに、それこそ一年ぶりくらいでミャオー町に行って帰ってこれたから。

 ミャオー町から物資を手に入れてくれたその一行を、村民はみんなで歓迎した。


 村の南の門に、門というほど立派ではないけれども、そこにみんなで集まっていた。

 私も領主に言われて一緒に出迎えにいった。

 帰って来た馬車は、1台。

 もちろんこの村の馬車で、ギルドマスターが御者をしていた。


 馬車の奥には年配の恰幅の良い女性が座っていた。

 彼女がよろず屋の店長らしい。

 街の人たちはこの馬車に集まると、無事に帰ってきたことを喜び合っていた。



「ちゃんと金貨いっぱいもらってきたから。今なら大抵の討伐報酬は出せるよ?」


 ギルドの受付にいた女性が、彼女が唯一の職員でギルドマスターだそうなのだけれども、とにかく彼女は、もっとたくさん討伐しても大丈夫と言ってきた。


「じゃあ、採取クエストの方から、石炭と茶色きのこを。後でギルドに持っていきます。」

「待ちな。今、嬢王、あんた何を持ってくるって言った? 石炭って聞こえたけどね?」


 馬車の中から這い出してきた巨体が、そう聞いて来た。

 初めて見たのだけれど、この人がどうやらよろず屋の店主らしい。


「そうです。石炭です。大体10キロくらい。」


 ざわざわ。

 ざわざわ。


 村がざわついていた。


「どういうこと?」

「もう、石炭は採れないって。」

「あの人も、鉱山に行って死んでしまったのに。」


 この村にとって、石炭が採れた、という事実は軽くない。

 一年前に廃坑になってから、ずっと採掘されていないのだから。

 何なら、国中で採掘できなくなっていたのだから。


「そうだね。1枚。金貨1枚出すよ。ギルドじゃたかだか大銀貨1枚になるかどうかだろ?」

「え、まぁ。確かにそういう依頼ですけど。」

「そして、ギルドがうちに売るときには、大銀貨8〜9枚にはなってるんだろ?」

「うっ。」


 よろず屋の店主は、ギルドを通さずに高値でも買い取りたいとの意向だ。

 これは、どうしよう。

 三助をモフって、自分を落ち着けた。


「じゃ、じゃあ。高い方で。」


 落ち着いたら、店に持っていくことに決まった。



 三助たちと駅に戻ると、北門の警備を任せて、すぐに石炭を持ってよろず屋に向かった。

 結構重かった。


「確かに石炭だね。相変わらず、うちの鉱山の石炭の質は悪いんだけどね。」


 店主自らが、石炭を手にとって確認していた。


「私が小さい頃から、これがある生活がふつうだったからね。無くなってみると、不便なものさ。でもね、1年も無いまま生活しちまうと、それはそれで何とななっちまうもんなのさ。でも、王都は違う。お貴族様とかから、高値で買い取るってね。」


 つまり、ここで使うわけではなく、王都で貴族相手の商売に使うのだと。


「継続的に採れるって言うんなら、次第にやすくなるけどね。入り口を絞れば、目一杯儲かるよ。こう言うのはあんた、苦手そうな顔だからね。私に任せな。悪いようにはしないよ。」


 気がついたときには、完全に店主のペースだった。

 そして、きっちり、金貨1枚ではなく、銀貨100枚を手に入れた。

 皮袋付きで。


「あんた、嬢王になったって言うけど、元々お貴族様なのかい? お金を裸で受け取ろうなんざ、商売っけのないことだよ。あと、外に出たら、この村じゃ、そうそうないけどね、すぐに取られちまうんだよ。気をつけな。」

「いえ、ありがとうございます。」


 そう言って、よろず屋を出たところで、いきなりお腹を殴られた。

 意識を手放しそうになったけど、踏みとどまった。

 でも、あまり意味はなかった。

 猿轡をかけられて、大きな袋に上半身入れられて、縛られた。


 人攫いだ!


「ちょ、あんたたち、なんなのさ? お前たち! 嬢さまのピンチだよ、助けておやり!」

「はい!」


 そこまで聞こえていたけれど、再びお腹をなぐられて、ここで気を失ってしまった。




 遠くから狼の遠吠えが聞こえる。

 何度も何度も。


 それが合図になったのか、目を覚ました。

 でも、目の前は真っ暗。

 手足も縛られていて。

 口にも猿轡。


 完全に拉致されてしまった。


 一応、一国の王なのだし、こう言うことしようって相手、いるよね。

 この村じゃ、いないって思っていたけど。

 三助たちを駅に置いてきたこと、失敗だった。

 だって、石炭を売買するのに、三助がいたら高く買えって脅しているみたいで。


 わかることは少ないけれど、こう言うときには冷静に情報分析するべき。

 まず、わかるのは、寒い。

 でも、風の音がしないから、屋内。

 そして、手足と背中の感触から、石でできた建物。


 ゲームの世界基準で考えるなら、おそらくは牢屋に入れられているんじゃないかな。

 この村に、そんな施設なかったような気がしていたのだけれど。

 あるとすれば、領主の館くらい。

 しかも、音の響き具合から、おそらく地下。



「こいつが王だと名乗った不敬なやからか?」


 男の声だった。

 ちょっと年配の、粘着質な声だった。

 声を発するのに、くちゃくちゃ余計な音が出ている。

 おそらく、肥満体型。

 それもかなりの。


「そのようです、閣下。いかがいたしましょうか。国王まで、」

「いや、このような小物、国王陛下に見せられたものではない。準備が出来次第処刑だ。」

「しかし、規則では、」

「くどい。ワシが処刑だと言ったのだ。なに、別の罪で裁いたことにすればいい。」

「はっ。それではそのように。」

「あの、元村長も、同罪だからな。任せたぞ。」


 そうして何人かの足音が去って行った。


 このままじゃ、殺される。

 せっかく鉱山から無事脱出できたのに。


 どうする?

 どうすればいい?

 何かいい方法は?


 まず、手足も口も目も塞がれていて使えない。

 でも、感触からして、何らかのロープか何かだ。

 金属の手錠とかじゃない。


 あと、気配から察するに、常時見張りがいるわけじゃない。

 つまり、この手足を縛るロープさえ何とかすれば。



 そう思って、いろいろ試したけれど、結局縛られているロープが緩むこともなく。

 唯一ゆるんだ、ずり下がったのは目隠しだけで。

 でも、明かりもない真っ暗な牢屋のようなところだって分かっただけで。

 目隠しが取れても、ほとんど何も見えない状態だった。


 さっきの話し声から、おそらく、領主もつかまってしまった。

 もし、今日ものこのこと野中たちが何かを駅まで持ってくれば、気づいてもらえる。

 逆に言えば、ピンチに巻き込んじゃう。

 どうしよう、というか。どうしようもない。


 冷たい牢屋の床に体を横たえながら、何か方法はないかと考えることくらいしかできなかった。



 嬢王である私がこんなことになっていたとき、村でも大変なことになっていた。

 後日聞くことのできた話なので、主観が入って正確ではないかもしれないけれども。


 ます、よろず屋の店主の話。


 結構な数の騎士がいたので、さすがの受付嬢も、追い払うこと叶わず。

 しかも店頭で、「石炭」を持っていることに気づかれてしまった。

 結局拘束されて、脅されて、金品をごっそり奪われる始末。

 石炭の出所についてしつこく聞かれたのだが、鉱山からと言っても信用されない。


 それはそうだろう。

 国中の鉱山が使えなくなっているのに、ここだけ無事なはずがない。

 いくら言ってもダメだった。

 それはそれとして、石炭も持ち去られた。



 次に領主の話。


 雪崩れ込んでくる騎士たちになす術もなく、すぐに拘束されてしまう。

 なぜか手慣れた様子で地下に入ると、地下牢に閉じ込めた。

 別の牢屋だけれども、後で私も同じところに閉じ込められたそうだ。

 そして、もちろん領主の館はすぐさま占領された。



 領主の孫、グラニーの話。


 機転をきかせた領主のおかげで、なんとか裏口から脱出できた。

 そして、川の影に隠れながらウーバン駅に。

 一番最初に寄ってきた三助をもふると、領主の館に引っ張ろうとしたけど、拒否された。

 でも、何かの異常には気がついたみたいで、別の犬、おそらく一太郎が偵察に向かった。


 その後、四郎がグラニーを咥えて、鉱山に向かった。

 途中で疲れたので、背中に乗せてもらえたらしい。



 冒険者ギルドのギルドマスター、グリーンの話。


 ギルド自体は、特に何もされなかった。


 冒険者ギルドに何かすると、全国の冒険者ギルドが、領主であってもひどい目に遭わせる。

 教会と同様、領主側からはアンタッチャブルな組織らしい。

 逆に、冒険者ギルド側からしても、それは同じ。

 救出しようとかすることは、できない立場だった。



 村人たちの話。


 反抗的な態度をとった何人かが拘束されたものの、何かされることはなかった。

 村の生命線であるよろず屋から金品を強奪されてしまったので、今後の生活は絶望的だ。



 ゴーレム息子は、気づかれていないことをいいことに、置き物のフリをし続けていた。

三助たちマインウルフ軍団に、もっと活躍して欲しい。

そういう思いも今話のプロットの前では悲しい限りです。

結局のところ、そのこと自体が活躍の場を作ってくれるんじゃないか。

そう考えて、書き連ねてしまいました。


今日は何故か朝から大声で罵倒されてしまい、その理不尽な仕打ちに凹んでいたところですが、明日までにはなんとか回復しようと思います。

それでは、明日、15時ころに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ