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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第4章 ウーバン村(ヴィレッジ)の死闘
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第41節 延びる線路とラストの奮闘

鉄道の延伸というのはロマンです。

でも、実際には経営や人の都合など、お金と人の関係を綿密に計算する必要があります。

国鉄では、その計算を政治家がぶち壊したのですが。

この小説も、どちらかというと、鉄道でのお金儲けは度外視する傾向が強いです。

何しろ、大魔王をやっつけるのが目的の鉄道ですから。

え? どうやって?


今回は、そういう感じのお話に仕上がっていたはずです。

はず、です。(自信はない)

それでは、どうぞ。

 認めよう。

 正直なところ、ラストは焦っていた。



 マスターとかレイン様とか、悠長すぎ。

 もしかすると何も考えていない気がする。


 イトーを嬢王として、村に送り込んだ。


 おそらく、あの村の雰囲気では、間違いなく歓迎されるだろう。

 イトーもちょっとクセはあるが、村人とはうまくやっていくだろう。


 でも、問題はそこから。

 いつ、ウーバン村が新しい国の支配地域となったことがバレるのか。


 南には比較的近いところに町があるらしい。

 言ってしまえば国境があるわけだ。

 国ができた、鉱山が復活した、そう聞いて、その街はどう対応するか。

 そこを考えていないような気がする。


 なんなら、王国軍が攻め込んできても不思議じゃない状況。



 これを阻止できるのは、そこまで考えているのは今のところラストだけ。

 きっと、言ってもとりあってもらえない。

 そして、ラストにできることはウーバン村を騎士として守ることじゃない。

 一刻も早く、鉱山とウーバン村を鉄路で結ぶこと。


 そうすることで、何かあってもここからすぐに対応できる。

 今はキノコだけだが、大岩井が食糧を大量生産している。

 山賊たちが石炭や鉄鉱石を確保している。

 それらを加工して、村に送り込めれば、篭城ぐらいは容易い。


 そのためには何としても運搬手段が必要だ。

 鉄路が必須なのだ。


 そして、それができるのはラストだけ。

 10日とマスターには言ったけれど、そこまで動きがないとは限らない。

 一週間で勝負しよう。


 幸い、路盤の調査は済んでいる。

 あとは、資源を調達できれば、資源さえあれば3日で7.5キロ延伸してみせる。

 資源の確保に3日から4日を見込めば、一週間で何とかなるはず。

 皮算用と言うならそれでもいい。


 こうして、ラストの中での死闘が始まった。



 そんなことになっているとは知らずに、僕は朝からレインと話をしていた。

 昨日、レインが宣言していた、村までの線路延伸計画についてだ。

 ちょうど、朝ごはんの最中に相談していた形だ。


 今日の朝食は、キクラゲ入り熊汁。

 ちょこっとだけ溶き卵が入っていた。

 少しずつ文明的になっていく食事は、大岩井さんの辣腕によるものだ。

 今日もキノコ無限増殖に余念がない。


 朝ごはんが終わると、大岩井さんはマインウルフ軍団と森に繰り出して行った。

 また、キノコ用の原木とか野生のキノコとかを集めるらしい。

 鉱山の上層階層は、キノコ農園に作り替えられていた。


 食後に、スープをコーヒーがわりにして、ちょっとまったりしていた。 


「ラストは10日くらいで村まで延伸できるって言っていたけれど、どうかな。」

「いろいろ、他のことを気にしなければできるのです。延伸は鉄道のロマンなのですよ?」

「資源とか、大丈夫かな?」

「山賊団がいい仕事をしているのです! どちらかというと、トロッコがボトルネックになっているのですよ?」

「本当か? ロッコが聞いたら泣くぞ?」


 服の背中をつんつんと引っ張られた。


「ん。泣いていない。」


 泣きそうな顔でロッコが言ってきた。


「でも、分かった。もっといいトロッコ、作る。」


 そう言うと、ロッコは駅舎の外に走って出て行った。

 胸に罪悪感が走る。

 


 今日も今日とて森林伐採。

 山神様に怒られないように工夫した。

 レインが言うには、間伐がいいだろうとのこと。

 生えすぎている木を間引きする形がベストらしい。

 光が差し込んで、他の植物の成長もよくなるそうだ。


 ということで、木の密集している森の中からいい感じに間伐をしていった。

 午前中いっぱいで、かなりの枕木を確保できた。

 ホクホク顔で駅に戻る。

 戻るついでに、山賊団アジトあたりから村にかけてバラストを敷いて、枕木を設置した。


 昼食を挟んで、午後はレールの作成だ。

 午前中、産出されていた鉄鉱石から、ロッコが中型トロッコ3両とゴルフカート型の自転車式動力車一両を完成させていた。

 これで、2編成になったのだが問題があった。


 駅前、単線なんですよ。

 2編成できたら、信号とかもいろいろ、必要になってくるんですよね?

 ラスト先生、どうしよう?


「おまえは馬鹿なのか?」


 また、罵られた。

 嘲笑されないだけ女神様(仮)よりもましだけれども。


「いや? 信号は必要だろう? 2編成あったらぶつかるし。」

「まだ、必要ない。いいか、こうだ!」


 ラストが雪の上に路線図を描いて見せた。


「今あるのは、鉱山駅から3階層への直線と、3階層から分岐した7階層への枝線だ。」

「それは把握している。」

「それなら、駅前だけ複線にすればいい。」

「どういうことだ? それじゃ、なにも解決しないんじゃ?」

「実質的に、1編成だけ動くようにすればいいんだ。」


 レイン先生の説明をまとめるとこうだ。


 編成1は、鉄鉱石を7階層で積み込む。

 積み込んだら鉱山駅まで上がってくる。

 そうしたら編成2が、7階層に送り込まれる。

 編成1の鉄鉱石を使って、レールを作り設置。

 編成1はその後、編成2が戻るまで駅で待機。

 編成2が鉄鉱石を積んで駅まで上がってくる。

 編成1は、7階層へ出発。

 編成2は、延伸した線路へ出発。


 つまり、駅前で人力で信号の代わりをすればいい。

 どの道、駅前でしか行き違えないのだから。


 これが、他のところでも行き違えるようになると、信号が必要になる。

 鉄道用語で「閉塞」する必要が出てくる。

 ひとつの路線上に1編成だけしか入れないという決まりだ。

 そして、路線上に1編成入っていれば「赤」、入っていなければ「青」。


 閉塞は、タブレット式でもいいかもしれない。

 トロッコはそんなにスピード出ないし。



 そう思っていた頃もありました。



「ヒャッハー!」

「親分、サイコーです!」

「一生ついていきます!」


 夕方近く、線路が順調に延伸され、山賊団の元アジトあたりまできた頃のこと。

 鉄鉱石を積んだトロッコを待っていると、そんな奇声が聞こえてきた。

 そして、車輪からブレーキによる火花を散らして、ギリギリで停車するトロッコ。

 親分は完全にスピード狂だった。


「親分、スピードをあげすぎると線路が痛む。あと、事故を起こすと死ぬぞ?」

「へ、へい。気をつけます。ラストさま。」


 嘘だった。


「ヒャッハー!」

「親分、ヒャッハー!」

「一生ヒャッハー!」


 次に鉄鉱石を運んできたときには、さらにスピードが増していた。

 そして、オーバーラン。

 先頭のトロッコの前輪が、線路終端から落ちてしまった。


 ちなみにゴルフカート式の人力動力車は、鉱山側の最後尾につながっている。

 山を登るのに、その方が便利だからだ。


 トロッコに乗車していた親分以下3名は、雪の上に正座させられて、ラストのゲンコツを受けていた。 

 労働奴隷とは、一体何だったのか。

 言うことをきちんと聞くんじゃなかったのだろうか。

 納得いかない。


 そんなこんなもあったが、親分のスピード狂が功を奏したのかどうか。

 予定よりもたくさん線路を引くことができた。

 なんなら、鉱山から村への路線から山側に分岐すること300メートル。

 山賊団元アジトの洞窟前までの線路もできた。

 あとで、9階層と繋ぐための準備だ。


 なお、今日はまだMPが満タンだったので、分岐しているところに「仮駅」を設置した。

 名前は、「旧山賊団アジト前仮駅」とした。

 仮駅は、操作パネル上で名前を決定する振りがなかった。

 正式に名前をつける訳ではないからだそうだ。



 夕食には「シイタケ」が出てきた。

 いや、シイタケって、そんな簡単にできないよ?

 なんなら準備から始めると2〜3年かかるはずなんですけど?

 でも、目の前には大量のシイタケらしきキノコ。


 乾燥させると栄養価が増してなおよし。

 生でも美味しくいただける。

 なんなら、出汁(だし)も取れる。

 最強の食材シイタケ。


 どうやって見つけたし?


「簡単です。もとからシイタケの生えている枯れ木を見つけてきただけです。」

「いや、この冬に?」

「領主のお孫さんが食べられるキノコって渡してくれましたので。その匂いを頼りに、この子たちが。」


 そう大岩井さんがいう「この子」たちとは、マインウルフ軍団。

 なるほど、犬、失礼、狼なら、匂いですぐに見つけるよね。


「鉱山に持ち帰ってきて、成長促進をかけたら、半日で食べられる大きさになりました。」

「なんてことだ。」

「継続して収穫したいので、それとは別に原木は大量に準備しました。2階層から上は、原木でで占拠しましたよ?」

「で、なんだ。半日でそんな大量に?」


 先日村に行った帰りに、荷物を運ぶ用にと手に入れてきた木箱。

 宅急便の段ボール一箱くらいの大きさの木箱いっぱいに、シイタケは収納されていた。

 おそらくだが、毎日この量が収穫されてしまうのだろう。

 食い切れるかっ!


「お裾分けしてくる。」

「え?」

「伊藤さんのとこに、お裾分けしてくる。今からひとっ走りして。」

「明日でも、いいのでは?」

「明日も、これくらい穫れるんだろう? なら、今日のうちに置いてくる。」

「気をつけていくんですよ?」


 レインが木箱ごと椎茸を収納したので、トロッコで旧山賊団アジト前仮駅へと移動する。

 そこからは、歩き。

 ちなみに、ラストとロッコもついてきた。

 なんなら、ハイドウルフのユリもついてきた。


 ユリはすでに大型犬くらいの大きさになっている。

 最終的に、どのくらいまで大きくなるのか不安だ。

 マインウルフくらいの大きさで止まってくれればいいのだが。


 結局、麓のウーバン駅まで1時間半で到着した。

 レインが、空間魔法で取り出した椎茸の木箱と、石炭の木箱を伊藤さんに渡した。

 今日1日の情報交換を手早く済ませると、再び鉱山に向かって戻る一行。

 鉱山についた頃には、夜の11時を少し過ぎていた。


 鉄鉱石からレールを作ると、思った以上に鉄分の抜けた岩石が発生する。

 これ「鉄鋼スラグ」って言うらしい。

 結局のところ、水捌けのいい、硬さもそれなりの岩石なので流用した。

 線路に敷くバラストに。


 帰りが遅くなったのは、トロッコのせいじゃない。

 ラストとレインで、計算しつつアジト前仮駅までバラストを敷いていったからだ。

 これで、明日も午前中は木を切り、午後はレールを引くと言うルーチンができる。


 なお、今日気がついたのだが、午前中も仮駅ができたので、そこまで資源を運んでおけば効率が上がりそうだ。

 これでもっとたくさん、早く線路を敷くことができるだろう。

 伊藤さんではないが、効率は大切だ。



 それはそれとして、帰りはトロッコをこぐの、結構大変だった。

 親分はあんなに楽しそうに軽々とやってのけていたのに。

 明日からは、親分にももう少し優しくしよう。

 そう思って、ロッコとラストと一緒におやすみの扉の向こう側へと旅立つのだった。



「ヒャッハー!」

「オヤブン、ヒャッハー!」

「イッショーヒャッハー!」


 翌日も、親分たちは全く反省していなかった。

 もちろん、ラストの説教タイムが増えたのは言うまでもない。

ブックマークありがとうございます。

読者の皆様により良いものを届けられるように頑張ります。

でも、読者受けばかりを気にして、変に日和ってしまわないよう、気をつけたいものです。


本文の話です。

広島県のあの区間を延伸させるだけでも、莫大な費用がかかっています。

異世界だからといって、無視できる金額ではないと思うのですが、整合性は無視しました。

無視できるように、工夫しました。

それでもツッコミどころは満載だと思います。

リアルに考えれば考えるほど、無理がありますから。


それでは、作者もヒャッハーして事故を起こさなければ明日の15時ころに。

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