第5節 鉱山は今も水没中 僕たちも水没中
戦闘、はじめました。
大魔王と戦う異世界ものらしく。
でも、戦闘自体は異世界らしくないです。
<前回の3行あらすじ>
女神様に嘲笑されつつ、どことも知れない廃鉱山に空間転移で捨てられたよ。
いきなり水中ステージだよ。やっぱり殺しに来てるよ!
何とか1階層上がったら、トレインの精霊が話しかけて来たよ。
僕と「恩寵:トレイン」の精霊こと「レイン」は、この階層を彷徨っていた。
女神様が転送魔法の時に、「ウーバン鉱山:深度Ⅻ」と言っていた。
だから、最初に転送された水没した階層を、地下12階層と仮定する。
そう仮定すると、そこから1階層上がったので、今は地下11階層だ。
この鉱山はダンジョンとして見ると、とても単純な作りだ。
とにかく、通路が真っ直ぐなのだ。
枝分かれもほとんどない。
たまに壁から水が吹き出しているくらいである。
こちらは灯りを持っているので、もし敵がいたら、相手からバレバレである。
レインと出会って、進み始めてから一時間が過ぎようとしていた。
とりあえず、もう一度休憩しないかと提案した。
「あまり、余裕はないですよ。食べ物も飲み物もないですから。」
「そうだな。でも、いざという時動けないと言うのも困る。」
「ちょっとだけですよ。」
やれやれしょうがねぇですねという表情で、休憩は承諾された。
レインは、合図燈を床に置くと、両手で四角を作って僕のことを覗いた。
「う〜、確かに体力が削れています。休憩が必要そうです。」
どうやら、あれで、体力の削れ具合を測っていたようである。
自分でも体力が削れているのがよくわかる。
レインの方が、まだまだ動けそうだ。
そして、今のところ魔物にも出会っていない。
運がいいのか、元からいないのか。
そして、休憩して5分が過ぎた頃。
「これは、予想通りです。もう出発しましょう。」
「ん? 何が予想通り何だ?」
「この鉱山を脱出するのには時間制限があるようです。」
「ん、まあ、少し休憩できたからな。ん? で、時間がないのか? 何でだ?」
危なく聞き流すところだった。
レインは、不穏なことを言い出して来た。
僕たちには時間がないと。
「レインは、おそらを飛べますから、大丈夫ですが、マスターは飛べません。そのうち水死してしまいます。」
「水死?」
「この階層にたどり着いたときのこと、思い出してください。かなりいいペースで、下の階層に水が流れ込んでいました。そして、水面は、ちょうどこの階層のちょっと下くらいでした。」
「おう。ちょっとずつ、水没しているのな、この鉱山は。」
「そして、見てください。」
レインが、合図燈で、地面を照らす。
来た道の方から、水が迫って来ている。
最も、靴が濡れる程度で、水没するほどではない。
しかし、時間が経てば、どうなるかは予想がつく。
「やばいな?」
「ヤバヤバです。」
「そして、やばいついでにもう一つ。」
「何だ?」
「魔物です!」
確かに進路上には、何らかの生き物がいた。
いや、人かもしれないだろ、とツッコミを入れようとして、諦めた。
1匹だけだが、大きな犬のような魔物であった。
じわりじわりとこちらに向かって近づいてくる。
こちらも、そして大きな犬も、動くたびに水音を立てる。
水の増えるスピード、結構早いな、と感じた。
そして、こちらには、犬を殺せるような武器はない。
そう、女神様に言われた通り(言われてない)、僕は戦闘で、役に立たないのだ。
ならば、元の世界の知識を活かすしかない。
魔物なので、犬と同列に考えてはいけないかもしれないが。
襲いかかってくる犬相手なら、どうすべきか。
父親から教わっていたので、対処する知識はあった。
犬の弱点と凶器は、口と牙である。
犬は、牙で確実にこちらの急所を狙ってくる。
すなわち、首を狙って噛み付いてくる。
一撃必殺なのである。
対する人間は、その一撃必殺を、逆に利用する。
犬は攻撃する際に、どうしても口を使う。
噛みつくのだから、当然である。
しかし、噛み付いてしまうと、口が塞がり、他に攻撃のしようがなくなる。
そこで、逆に、わざと攻撃を受けるのである。
僕は、左腕に先ほど脱いだ学ランをぐるぐる巻きにした。
そして、大きな犬はやはり、僕の首目掛けて飛び込んでくる。
その口に、左腕を突き出してやった。
左腕を噛まれる。
激痛が走る。
めっちゃ痛い。
右腕で大きな犬の頭を捕まえる。
ヘッドロックだ。
大きな犬は、僕の左腕に噛みついたことで、それ以上攻撃できなくなった。
頭を大きく振って抵抗してくるたびに激痛が走るが、致命傷にはならない。
そして、左腕ごと、犬を地面に組伏した。
地面は、くるぶし位まで水面が上がっていた。
大きな犬は、激しく抵抗する。
ここで犬を放せば、こちらは死亡フラグである。
5分くらい、犬はジタバタしていたが、とうとう動かなくなった。
顔が、水の中に入っていたための、溺死である。
それから2分くらい、犬に組みついたまま念のため様子をみた。
右手で首の脈を探すも、反応はない。
確実に殺してしまった。
そう、殺してしまった。
「マスター、マインウルフ、もう死んでますよ?」
「ん? ああ、そうだな。マインウルフっていうのか、こいつは。」
「そうです。鉱山内に大量発生して廃鉱山にさせた主要因です。結構、強いです。」
「ああ、僕、殺したんだな。」
「はい。おめでとうございます。魔物から経験値を得たので、レベル1になりました。」
こちらは、マインウルフを殺したことに、それなりにショックを受けていたのだが。
レインは、嬉々として、両手の親指と人差し指でファインダーを作り、僕を覗いていた。
「レベル1になりました。ので、技能を入手しました。」
「え? 今までレベル1じゃなかったのか? お前は技能じゃないのか?」
「そのとおりです。でも、その説明は後でにします。もう1匹、近づいて来ています。」
「お、おう。」
異世界に来て、レベルが上がって、スキルを得た。
普通なら、ここで、便利なスキルが手に入ったので、それで新たな敵を楽にやっつける。
そう言ったところではないだろうか。
しかし、現実は甘くない。
そんなに、待ってはくれないようだ。
そして、それから断続的に、かつ連続で3匹ほどマインウルフをやっつけた。
左腕の学ランは、マインウルフのよだれと僕の血塗れである。
さすがに、これ以上は腕が保たないと思う。
早く何とかしないと。
「マスター、マインウルフの死体、カバンに回収しておきます。」
「ん? いや、入らんだろ? いくら何でも。」
「大丈夫です。この鉄道鞄は、先ほどお伝えした通り、『空間魔法』でできていますから。」
「お、おう。でも、重くなるんじゃないのか? 結構、重かったぞ、こいつら。」
こちらは腕の心配をしていたのだが、レインはレインで、獲物の心配をしていた。
しかも、どうやら持っていく気満々のようだ。
「『空間魔法』は、ある意味万能です。カバンの大きさと重さに意味はありません。」
「すごいな、それ。じゃあ何か? 何でも入るのか?」
「いいえ、何でもじゃないです。大きなのはダメです。あと生き物もダメです。」
「そうか、そうだよな。マインウルフ、やっつける前に回収はできないのな?」
「それ、ズルです。ちゃんとやっつけないと、収納できません。当然です。」
そう言うと、レインが何らかの呪文を唱えた。
僕の周りに浮かんでいた4匹のマインウルフが光り出し、光の粒子になって鞄に消えていった。
便利だ。
しかし、忘れかけていたが、僕の左腕、何とかしないと。
ボロボロの学ランを左腕から外すと、地面に、いや、水面に浮かべた。
もうベルトくらいまで水が上がって来ている。
戦闘、結構時間がかかったからな。
そして、左腕をその水の中につけて、汚れとよだれを洗い流した。
「あまり、この水、使わない方がいいです。鉱毒が混じっていると思います。」
「まあ、そうだろうな。でも、そのままの方がバイキンが入って危険だ。鉱毒が混じっているなら、短期的には逆に消毒の代わりになるだろ。」
「斜め上に前向きです。一応、自重してください。」
「これからは、壁から出ている湧き水を使うよ。」
「そうしてください。」
硬く絞ったYシャツを破くと、包帯代わりにした。
濡れたままでは、止血の役にも立たない。
ある意味消毒して、包帯で止血した。
次からは、どうしよう。
「もう、これだけ水没すると、マインウルフも来ません。」
「何でだ? 泳いで来るかもだろ?」
「いいえ、マインウルフ、実は泳げません。」
「何だと?」
「だから、最初の階層で、一切マインウルフに遭遇しませんでした。」
確かに、そうなのだろう。
それに、鉱山を廃坑にさせたいならば、水没後の場所は、放置で構わないはずだ。
理にかなっている。
理にかなってはいるが……。
「犬として、致命的ではないか? 犬かきぐらいできてもいいものだろう?」
「犬ではなく、ウルフ、狼です。」
「一般的に、自然界の動物は、泳げることになっているはずなのだが?」
「マインウルフは、洞窟に特化して、その分退化しました。泳げません。」
上の階層を探しながら、と言うか、真っ直ぐの通路を進みながらそんな話をする。
レインは飛んでいるので関係ないが、僕は水没中だ。
腰上まで水があると、歩くスピードもかなり遅くなる。
でも、遠くから、水の落ちる音が再び聞こえて来た。
「この音は、上の階層から水が落ちて来ている音じゃないか?」
「そうです。かなり先になりますが、おそらく上の階層に繋がっています。」
「何とかなりそうだな。」
「結構ギリギリだと思います。急いでください。」
「お、おう。」
頑張るのだが、スピードが上がるわけではない。
あれだ。
スポーツクラブのプールにある、歩いてダイエットのコースと同じことをしているのだ。
ダイエット的にはカロリーの消費、半端ないだろう。
でも今は、カロリー消費しちゃダメだろ。
しかも、下半身は水着ではない。
ちゃんと制服のズボンを履いているのだ。
そう、結構疲れるのだ。
結局、次の階層に繋がる登り通路、と言うか斜坑にたどり着いた頃には、足がつかなくなって泳いでいた。
何とかギリギリ、水没を免れたのだ。
そして、水のついていない10階層へとたどり着いた。
斜坑を出て、10階層の坑道に出た。
斜め上からは小さな滝のように水が落ちて来ていた。
水を辿って上を覗くと、そこには、真上に向かって穴が空いている。
おそらく、換気口だろう。
上を見ても空が見えないところを見ると、外に直接つながっているわけではないようだ。
そして、10階層から下も、排水されるような外界とのつながりはないようだ。
また、この階層でも、長い通路を彷徨って、上層へと繋がる斜坑を探さねばならない。
ビルの階段のように、一箇所にまとまった階段のようなものがないのはなぜなのだろう。
鉱石を運び出すのに、これではとてもではないが不便ではないか。
僕は決して効率房ではないつもりだが、それでも効率がとても悪いように感じる。
とりあえず、10階層の坑道から見えない斜坑に戻って、少し休憩することにした。
レインに色々と聞きたいこともあるしな。
と言うか、スキル説明早よ、と言ったところである。
異世界生活キター!
ご愛読ありがとうございます。
何と言う事でしょう。とうとうこの小説にも読者様がついたようです。
ページパービューとか分かりませんので以前にもいらしたかもしれません。(が当方では認知できません)
これはこれで、やる気に直結するものなのですね。
もう少し続けてみようと思います。
追記
PVの確認方法分かりました。ありがとうございます。