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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第3章 地図(ちず)と版図(はんと)
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第39節 線路を村まで伸ばすために

山賊団が労働して、噛まれて、また労働する話です。

なんだかそっち系の話が好きな人が食いつきそうな感じですが、違いますからね?

そう言う要素は一切ありませんので、安心してくださいませ。

あ、あと、そっちの要素をもっと、と言う方は、ご自分で妄想されてください。

妄想される分には自由ですので。

他人が見える場所で、顔に出ていなければですけれども。


というわけで、旧山賊団の活躍にご期待ください。あ、いや、そっちの期待はダメですよ?

 むさ苦しい男たちの額から、闇に光る汗の滴がこぼれ落ちていた。



 ここはウーバン鉱山第4階層。

 登り斜坑である3階層と4階層を繋ぐ通路の行き止まりの部分。


 男たちは、黙々と、その手に持つ古びたツルハシで岩盤を掘っていた。

 ターゲットは鉱山内にもかかわらず普通の岩石。

 石炭でもなければ鉄鉱石でも無い。

 ただの岩石だった。



「レイン。この山賊団に一体何をさせているんだ?」


 一生懸命働いていること自体には問題はない。

 ただし、こいつらは一体何をしているのかと。


「斜坑を作っているのです。正確には、線路用の斜坑なのです。ここをぶち抜くと、8階層まで直通になるのですよ? モンスターの心配もしなくて良くなったので、ショートカットするのです。マインバットゾーンも通らなくて良くなるのですよ?」


 何てことだ。

 そう、それはこの鉱山の安全を脅かす3大要素。


 一つはスケルトンオーク3兄弟。

 こいつらは、何度もしつこく復活してくるたびに剣とか盾とかをどこからともなく調達してくれていたので、鉄鉱石採掘代わりに活躍していたが、体が大きいので、それなりに強かった。

 一般人では対応できなくて困っていたのだが、ラストが核を打ち抜き復活しなくなった。


 もう一つはマインウルフ軍団。

 とにかく数が多く、どこから湧いて出たんだと言いたくなるほど出てくる。

 生態系的に、その食事をどうこの鉱山が支えていたのか気になるところではある。

 しかし、こいつら、今ではほとんどが大岩井さんの配下となり愛玩犬へと堕ちている。

 狼の誇りとかそういったものはないのだろうか?


 そして、最後の砦がマインバット。

 数え切れないほどいて、5階層の天井を覆い尽くす。

 思考回路は単純で間抜けなのだが、こいつらは吸血種。

 油断して集団で血を吸われれば、一瞬で殺される。

 マインウルフの上位種であるハイドウルフのユリの大好物でもある。


 5階層を通過できるのであれば、マインバットは脅威ではなくなる。

 何しろ出現場所が固定なのだ。

 回避できるのなら、決して集団でのエンカウントはしないはずだ。

 何なら通路に蓋をしてしまってもいいかもしれない。



 保線の精霊ラストは、騎士として日頃からの鍛錬の成果により、レベルが上がっていた。

 その結果として、「分岐器(手動)」を作ることができるようになった。

 これで、複雑な駅構内を作ることができる。

 というよりも、ポイントなしで今までやってきたのがすごい。


 今のところ、ウーバン炭鉱駅から3階層内端までの1キロメートル。

 それが敷かれている線路の全てだ。

 直線で分岐なしだ。

 今、4階層から5階層に向けて、斜坑を作っている。

 これにより、3階層で分岐した線路を8階層まで伸ばすことができるのだ。


 そして、9階層はおそらく、山賊団の洞窟と繋がっている。

 とりあえずそちらは後回しだ。

 8階層までトロッコが入れれば、鉄鉱石とか銅鉱石も手に入る。

 銅鉱石は強い鉱毒があるので、要注意でもあるが。



 しばらく掘り進んだところで、ラストが山賊団の作業を中止させた。


「じゃあ、お前らは3階層まで退避。マスターもだ。」


 ラストがそう言うと、僕の手をとってダッシュで3階層まで上がった。


「いや、まだぜんぜんだろ?」

「レイン様が穴を開けるとおっしゃっていた。どう思う?」

「いや、まさかな。」


 ドゴゴッん!


 不穏な爆砕音がした。

 おい。

 この鉱山、かなり揺れたぞ?

 どんだけ火薬を注ぎ込んだんだ?


「やったのです! 貫通したのですよ!」


 ぼろぼろになったレインがフラフラと飛んできた。


「れ、レイン様。むちゃくちゃです!」


 反省のない、安定の爆破娘っぷりである。

 どんだけ爆弾好きなんだよ。

 あ、そうか。

 爆発茸生産しているから、弾数心配しなくて良くなったのか。


 危険だ。

 なんとかに刃物だよ。


「あとは山賊団に任せるのです。貫通したと言っても、レインの腕一本ぶんくらいなのです。整地するのは、あいつらの得意な仕事ですよ!」


 レインはボロボロになりながらも元気だった。

 早くチリチリになった爆発ヘアーを治してあげたい。

 でも、ヘルメットをかぶっていたことだけは褒めておこう。


 こうして、爆砕された際に出た大量の岩石は、レインが空間魔法で一旦収納すると、ラストが線路を引く際のバラストとして有効活用されるのであった。



 僕たちは、鉄鉱石が手に入らなくて手持ちぶたさにしていた。

 そして、鉱山を出て休憩していた僕たちに、ラストから指令が下った。


「マスターとロッコは、木の伐採を手伝ってくれ。」

「そうは言っても、今じゃラストが斧で一発だろ? どこを手伝う。」

「切り倒した後、枝を落としてくれ。そうしたら、今度はラストが枕木に加工する。」

「ん。分業。枕木はレイン様が空間魔法で収納。適材適所。」

「枝葉はその後どうする?」

「レイン様が使われるそうだ。用途はまだわからない。」


 視線をレインに送ると、目をそらされた。

 絶対に悪いことに使われそうだ。

 まあ、黙っていよう。



 そうして、小一時間、木との格闘が続いた。

 ラストが勢いよく、馬車道近くの木を切り倒す。

 僕とロッコで枝を切り落とす。

 レインは、倒された木の幹の一番上の部分を斜めに切り落としていた。


「レイン? 何をしているんだ?」

「ふぇ? 木を切っているのですよ?」

「いや、それは見れば分かる。その木の先端、どうするんだ? なにかのおまじないか?」


 レインはその切った木の先端を、切り株の上にラストが作った切れ込みに差し込んでいた。

 よく見ると、切り株の全てにそのいたずらがなされていた。


「いたずらか? いや、レインがちょっと暇なのは分かるのだが。」

「違うのです。こうしておかないと、だめなのです。木を切ったら、切り株にこずえを差しておくのです。しばらくすると、また、大きな木になるのですよ?」

「ああ、そうか。何十年後かに、また、使えるのか。」

「大岩井が『生長促進』を使えば、2〜3年で使える木になるかもです。でも、問題はそこじゃないのですよ?」

「どういうことだ?」


 レインは怖い顔を作って言い放った。


「山神様が、怒るのですよ。こんなに大規模に木を伐採したら絶対に怒るのです。だから、せめてまた、木を生やせるようにするのです。こわいのです。だめなのですよ。」

「いや、女神様がいるんだから、山神様がいてもおかしくはないが、本当なのか?」

「正確には違うのです。山の精霊だったり、木の精霊だったりするのです。でも、領主が小さい頃見たって言っていたのが引っかかるのです。うっかり遭遇する可能性もあるのです。気をつけるのですよ?」


 一理ある。

 何にせよ、そう言う立場の者からすれば、怒るのも当然だろう。

 なら、何らかの対策が必要になる。

 レインなりに、ささやかではあるが、その対策をしていたのだ。

 あとで、大岩井さんにちょっと手伝ってもらえば完璧である。



 昼前までラストが荒ぶって、かなりの枕木を確保できた。

 ちなみに、山神様に遭遇することはなかった。


 とりあえず山賊たちの様子を見に行くと、現場は荒れていた。

 いや、山賊たちはいい仕事をしており、斜坑はきれいに完成していた。

 だが、山賊団はマインウルフと乱闘していた。

 ああ、どっからかまた湧いて出てきたんだな?


 一緒にいたユリが一吠えすると、警戒してマインウルフたちは後ろに下がった。

 親分に噛み付いていた一匹だけ、興奮しすぎていて反応が遅れた。

 そして、その一匹はユリの体当たりによって壁に突き飛ばされた。


 親分は床に尻餅をついてびびっていた。

 いや、あんなもん至近距離で見たら怖いわ。

 ユリが威嚇すると、7匹くらいいたマインウルフは、お腹を見せて降参していた。

 そして、ユリの配下が増えてしまった。


「すまねぇ、社長。ここをきれいに整え終わったところで、こいつらに見つかっちまってな。ちょうど休憩がてら水と昼食のクマジャーキーで一杯やってたところだったんだ。」

「クマジャーキー取られたんかい!」

「うう。そうだよ、取られたんだよ。実力行使だったんだぞ、あれ。熊肉、うまいからな、気持ちはわかる。こいつらも肉、食いたかったんだな。」


 親分がちょっとしんみりしていた。

 そして、そっと親分にクマジャーキーを渡してあげた。


「予備だ。みんなで分けて食え。」

「いいのか社長さん。」

「怪我したやつもいるんだろ? どの道、肉食わんと治らんだろ。」

「ありがてぇ。じゃあ、ちょっと傷、洗ってきますわ。」


 山賊団は親分以下、ゾロゾロと鉱山から退出して、井戸に傷を洗いに行った。

 結構頑丈だなあいつら。

 死んでなくてよかった。


「これからは、1匹か2匹、警備用のマインウルフが必要かもな。」

「そうなのです。鉱山には、まだ、魔物がいて、山賊にはちょっと手に負えないのです。2匹いれば、最悪の場合でも伝令にはなるのですよ?」



 その後、みんなで7階層の端まで移動した。

 親分の先導だ。


「ここからは鉄鉱石が採掘できるんでさぁ。社長、ここ、掘りますぜ?」

「お、おう。頼む。じゃあ、ラスト、線路はここからでいいか?」

「そうだな。ここから3階層に向かって、採掘した鉄鉱石を原料にして逆向きに線路を作っていく。つながったら、村までどんどん線路を作れるぞ!」


 あとは、黙々と作業が続いた。

 山賊たちはひたすら掘る。

 ラストはまず、ここから3階層までバラストを坑道用に調整して敷き、枕木を設置した。

 そして、山賊たちの鉄鉱石が溜まってきたそばからレールを作る。

 さらに、同様にして制作された犬釘でレールを固定した。

 こうして、最初の線路25メートルは、無事完成した。


 レインが空間魔法で収納していたトロッコをレールの上に乗せた。


「ここからは、掘ったらトロッコに載せるのです。運んでから、レールにするのです。」

「おう、任せておけ!」

「がってんだ!」

「一生ついていきます。」


 山賊団は順調に鉄鉱石を生産し、それをラストが犬釘とレールに加工して、線路に固定していった。

 日が暮れる頃には、7階層と3階層が一本の線路としてつながった。



 夕食後、増えたマインウルフとユリをもふもふしていた大岩井さんに、伐採した木の切り株の件を相談した。

 べ、別に、山神様が怖いわけじゃないんだからな。

 本当だぞ。


「いいですよ。今すぐいきましょう。そういうのは早いほうがいいのです。何だか悪い予感しかしません。」

「ありがとう。じゃあ、レインに灯りを持ってきてもらうよ。」

「うふふふふふ。」


 そうして、食後の運動がてら、再び伐採現場に戻り、大岩井さんに「生長促進」を使ってもらった。

 それだけで刺してあった梢が、切り株に定着し、若干伸びていた。

 すごいな、この技能スキル



 とりあえず、今日のところは、山神様のお怒りに触れるなどということはなかった。


 明日からは、村に向けて、本格的に線路を延伸できる。

 ラストの見積もりでは4日から10日くらいで完成予定だ。

 そうすれば、先行して村に入っている伊藤さんともすぐに連絡が取れる。


 

 女王様のタンス的なもの、まだ、駅務室に放置してあるからな。

 ぜんぶ伊藤さんぴったりのサイズだと大岩井さんが言っていた。



 着てみたんかい!

第3章が無事終わりました。

明日からは例によって幕間の話、第3.5章が始まります。

例によって例の如く5話構成。

内容は、例の北に向かったエロい方の勇者の話です。

それだけで5話構成とか、大丈夫だろうかと今から不安しかありません。

いままで、1人ごとの構成だったのに、いけるのだろうかと。


とりあえず、見切り発車で温泉の話から始めようと思います。

それでは、自分も温泉に行くんだい、とGoToトラベルしまくらないかぎりにおいては、明日の15時ころに。


訂正履歴

 3第要素 → 3大要素

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