第38節 ダンジョン探索2 再びウーバン鉱山
ここには、当初、第39節の「村まで線路を伸ばすために」が入る予定でした。
実作業じゃなくて、小説上なのに、線路延伸工事が遅延してしまいました。
なんでだよ、と自分でもびっくりですが、それもそのはず。
文章が、まだ、村まで線路を伸ばすに至っていないのです。
資源の確保ができないと、線路は伸びませんよ?
ここに、線路延伸計画が延期になったことをお詫びします。
明日には伸び始めると思います。
それでは、どうぞ。
今日の夕食には、久しぶりに肉以外が混ざっていた。
キクラゲである。
黒キノコと聞いていたのだが何のことはない、日本で言うところのキクラゲだった。
違うとことがあると言えば、少量とはいえHP回復効果があることだ。
いや、日本にいた頃も霊薬と言われていたので、効果があったのかもしれない。
キクラゲならば、木と水さえあげればいくらでも生えてくる。
しかも大岩井さんが技能「生長促進」を使っているのですぐに収穫できる。
そうじゃなくても生長が早いキクラゲをブーストしてどうするんだ?
いや、おいしいんだけどね。
湯がいてサラダにして食べてもよし、豚骨ラーメンに入れてもよし、野菜炒めに入れてもよし。
それでいて栄養価が高い素敵な食材なのだ。
たった半日で大量生産されていたのは、さすがに謎なのだが。
「どこで増やした?」
「これのことですか?」
箸で木耳を摘んで、大岩井さんが尋ねてきた。
「そうだ。そんな簡単じゃ、なかったはずなんだが。」
「まずですね、この子たちに、10〜20センチくらいの太さの枯れ枝とか枯木を掻き集めてもらいました。そして、それを鉱山の中に持ち込んで、大量生産を始めています。」
「それは、爆発茸も同時進行でか?」
「やり方は同じですし。働いたのはこの子たちですけれど。」
そう言って、まとわりついているマインウルフ軍団を撫で回す大岩井さん。
本来ならば、調教の技能を使って手懐ける予定だったのだが、技能を使わずに手懐けてしまっていた。
レベル5まで無理やりあげたのは何だったのか。
「安定供給、出来そうなのか?」
「明日の朝には、また、食べ切れないくらいのキクラゲができていますよ?」
「それと、結局、鉱山のどこが、大岩井のキノコ農園になったんだ?」
「ああ、場所ですか? そうですね、ちょっと上の方です。1階層です。ちょっと広くなっている通路の壁際のちょっとした横穴を使いました。邪魔にはならないように配慮していますよ?」
これで、当面の食糧事情は、大きく改善されそうだ。
そもそも、大岩井さんの料理のレパートリーがすごい。
肉だけでも、何とか工夫して、美味しく食べさせていただいているところだ。
それに、キノコが加わるとなると、さらに期待が膨らむ。
豊かな食卓のために、おいしい食べ物を、もっと村から調達してくるべきだろう。
大岩井さんの活躍は、夜の生活を大きく変化させた。
いや、そうじゃない。
そうじゃないんだ。
夜の生活って、エロいこと考えた人たちは反省しなさい。
大岩井さんの愛玩犬と成り下がったマインウルフ軍団15匹が、鉱山の入り口やらトイレまでの廊下やら駅の軒下やら、そこら中の風雪をしのげる場所にたむろしていた。
もちろん彼らにとってみれば、ただ休憩したり、寝たりしているだけなのだが。
しかし、そこは野生の狼である。
ちょっとトイレにと、そっと近付いただけで目を覚まして、顔を上げるのだ。
すごい警備力である。
もちろん確かな攻撃力、防御力、そして何より、何かあっても吠えて知らせてくれる。
こうして僕たちは、今日から不寝番はほぼ要らないと言う結論に達した。
なお、鉱山の入り口にいるマインウルフは、山賊団の見張りも兼ねているらしい。
不用意に駅舎に近づこうとすると、ストーキングし、中に入ろうとすると噛みつく。
そして、周囲のマインウルフが吠えまくる。
深夜に3回ほど親分がやらかして、そしてさすがに親分も諦めたらしい。
なにより、親分は自分のHPが一桁になっていることに焦っていた。
子分たちに、なるべくして瀕死状態になった親分の世話を任せ、引き取ってもらった。
確かな警備力を目の当たりにして、大岩井さんの力を改めて評価するのであった。
翌朝。
朝早くから晴れた駅前で、ラストがその小さな体を大きく使って素振りをしていた。
そして、そのラストに群がり戯れているマインウルフ軍団。
さっそく仲間認定されているようである。
注意が必要なのはそう、「仲間認定」と言うところである。
つまり、自分たちと同じレベルの仲間と認定されているのであった。
遊び仲間くらいの感覚なのかもしれない。
ラストにとっては、ちょっと容認できない状態のようでもあったが。
もっとも、様子を見ていたら、素振りだったはずが、犬相手の稽古に変わっていた。
5匹くらいのマインウルフが、代わる代わるラストに襲いかかっている。
それをかわしたりいなしたり。
そして、手に持った木の棒で打ちつけたり。
そう言うのをひらりとマインウルフがかわしたり。
木の棒に噛み付いたり。
ああ、マインウルフたちにとって、格好の遊び相手ができたようだ。
大岩井さんでは、こんなに激しい運動はしてもらえないだろう。
ラストも、すごくご満悦のご様子。
にまにましながら、しばらく眺めてしまった。
朝食は、大岩井さんお手製の熊汁だった。
もちろん、熊肉とキクラゲだけなのだが。
しかし、熊の骨を使ってスープの出汁をとっていること。
そして、アクを的確に掬って、捨てていること。
たかだかそれだけのことなのだが、今までとは段違いにおいしいスープだった。
もっと、おいしい食材を探してこようと、心に誓うのであった。
「マスター。今日も、鉄鉱石探しの探索に向かうぞ!」
朝からラストは元気だった。
ロッコはご飯も食べずに、何かを作っていた。
そして、僕たちが朝ご飯の熊汁を食べ終わる頃に、ちょうど完成した様子だった。
「ん。完成。これで、トロッコ、簡単に動かせる。」
ゴルフカートにしか見えないトロッコが駅前に完成して置いてあった。
屋根がついていることが特徴なのだが、トロッコなのでもちろんハンドルはない。
いや、なんかハンドルがある。
なぜ?
「ロッコ。このゴルフカートには、ハンドルがついているんだが? なぜ?」
「ん。マスター、これはトロッコ。ゴルフカートとは違う。ハンドルはブレーキ。回すと止まる。坂道でもゆっくり降りられる。」
おお。
すごい。
文明だ。
文明の利器、ブレーキが装備された。
「あと、自転車? 的な動力もつけてみた。足でこぐと進む。坂道でも変速ギアで平気。タイヤが回ると自動的に前照灯も着く。坑内でも安心。」
いや、ブレーキどころの話ではなかったようだ。
そうだった。
ロッコのレベルがだいぶ上昇していたので、レベルの高いトロッコを製作することができるようになっていたのだ。
すっかり忘れていたが、これなら、広い鉱山内でも、安全かつ快適に移動できるだろう。
石炭や鉄鉱石満載のトロッコを一人で動かせるんだ。
生産性がかなり上がるはず。
「ロッコはすごいな。これで、山賊団も大喜びだな。」
「ん。親分が早く乗るってうるさい。途中から、だいぶ邪魔された。」
そうすると、完成したゴルフカート型トロッコに飛び乗り、こいで進める親分。
「こいつはすげえや。これで、レイン様のカバンは石炭だらけになるぜ?」
「お、親分だけずるいでさあ。俺たちにも乗らせてくだせぇよ?」
「そうだそうだ。親分だけずるいぞ!」
「親分、一生ついていきます。」
山賊団は今日も仲良しだった。
大岩井さんの熊汁が山賊団にも振る舞われた後、トロッコと山賊団は鉱山に消えていった。
今日も石炭を掘りまくるらしい。
ラストが若干の木材を要求されていたところを見ると、坑道はさらに伸びているようだ。
なお、ゴルフカート型トロッコだが、鉱山に出る向きで設置されている。
だが、向きそこ変わらないが、ギアを変えることで後ろにも進むことができるようだ。
親分が、早速使いこなしていた。
子分たちは、空のトロッコに分乗していた。
それでいいのか? おまえら。
親分にトロッコこがせて。
どうみても親分はご機嫌でノリノリなので、そこは放置しておいたけど。
そして、僕たちも鉱山に突入した。
目指すは第9階層。
昨日の旧山賊団アジトでの爆砕で、水は引いたのかどうか。
どこが繋がっていたのか。
その調査である。
あと、大切なことなのだが、一緒に領主と孫のグラニーがいた。
ストーンゴーレムの件だ。
領主の亡くなった夫の作品なんだそうである。
優秀なゴーレムだった。
それに、今日のパーティーはちょっと変則的だった。
いつも通り、僕とレインとロッコとラストの精霊軍団。
あと、僕の頭にまとわりつくはずの呪いのカブト、ハイドウルフのユリ。
今日はユリが珍しく地面に立っていた。
なぜか。
ユリの後ろには3匹ほどのマインウルフがいた。
早速大岩井さんから主導権を奪ったらしい。
さすが上位種と言ったところか。
この4匹が僕らを先導していた。
そもそも、マインウフルは鉱山でこそその能力を発揮できる。
まさに適材適所であった。
パーティーがそのように強化されていたため、6階層まで降りるに、30分くらいしかかからなかった。
そして、登り斜坑を眺めると、水が無くなっていた。
そこを守っていたゴーレムもいなくなっていた。
ここにいると思っていたので肩透かしを喰らった感じだ。
8階層まで降りると、だいぶ通路が湿っていた。
昨日まで、水がついていたのだからしかたのないことである。
8階層から10階層までの登り斜坑を降りようとして、その先にゴーレムを発見した。
水は、9階層の床で、5〜10センチあった。
もちろん10階層へは進むことができない。
そして、その10階層に無理やり進むことのないように、登り斜坑を塞ぐ形でゴーレムが鎮座していた。
「マヌエル! マヌエルなのかい?」
先頭を進んでいたユリとマインウルフにまとわりつかれてじゃれ疲れていたゴーレムが、その領主の言葉に反応して立ち上がった。
ゆっくりとこちらに歩いてきた。
「パパ!」
そして、抱き合うゴーレムと領主。
そして、グラニーもそれに続く。
雰囲気を読まずに、一緒に抱きつくマインウルフたち。
ユリも。
「マスター? どう言うことなのです? グラニーはあのゴーレムの娘なのです?」
「いや、さすがにゴーレムは人間を生んだりしないだろ?」
「ん。無理。ゴーレムに不思議な雰囲気を感じる。人間?」
「え? あ、ちょと待つのです。」
そういうとレインは、両手の人差し指と親指でファインダーを作り、ストーンゴーレムを覗き込んだ。
ステータスを読み込んでいるようだ。
「マスター。間違い無いのです。あのストーンゴーレムには名前がついているのです。ステータス魔法で『マヌエル』ってなっていたのです。何で領主は知っていたのです?」
「じゃあ、あれか。このゴーレムが領主の言っていた、前村長の遺作と言う訳か。」
「でも、おかしいのです。グラニーは『ぱぱ』って言っていたのですよ?」
完全に親子の再会シーン。
普通に考えれば感動的ないいシーンのはず。
なのに、疑念があって素直に感動できない。
「取り込み中すまない。どういうことなんだ?」
「そうさね。わからないだろうね。このゴーレムは、私の息子、『マヌエル』なんだよ。そして、グラニーの父親なのさね。」
予想していたこととは言え、納得はいかない。
「いや、無理があるだろ。ゴーレムは夫が作ったって言っていたはずだよな。それって、幾ら曲解しても、領主殿が腹を痛めて産んだと言う風に解釈するには無理があるんだが。違うよな? 違うと言ってくれ。」
「当たり前さね。さすがにわたしも、ゴーレムは産めないのさね。生まれた時はちゃんと人間だったんだよ?」
安心した。
もし、ゴーレムを産み落としたとか聞いたら、ちょっと自分の世界観が大きく崩れるところだった。
いくら異世界でもその世界観は同じでよかった。
「この子は2年くらい前にね、落盤事故に遭って死んでしまったのさね。でもね、丁度、落盤からこの子を救い出すために使っていたのがこのゴーレムでね。言っちまえば両方夫の自信作なのさね。だから、ゴーレム制作の技法を応用して、結果として、こうなったのさね。」
「パパは、2年前から、ゴーレムにクラスアップしたの!」
娘には、そういうことにといてあるらしい。
ゴーレムにクラスアップって。
あながち能力が向上しているので、全くの嘘というわけでも無いが。
いや、そもそもクラスアップじゃ無いだろう?
種族ぜんぜんかわっているし。
「レイン。確認なんだが、これは、子供の心を傷つけないための優しい嘘だよな? 実は、領主の夫が無理やりクラスアップさせて、死の淵から救ったら、ゴーレムになりました、じゃ、ないよな?」
「おそらく、どっちつかずなのです。なにしろ、やった人は死んでいるのですよ? どうやってこうなったのかは、わからないのです。でも、おそらくなのですが、ゴーレムのコアとなる部分を、息子の魂的なものにすり替えたんじゃないかと思うのです。魂的なものを封じる宝珠、ゴーレム制作で使うのですよ?」
「あの人も、なんか小難しいことを言っていたけど、結局はそんな説明だったのさね。『今日からは、このゴーレムが俺の息子だ。最愛の息子と最高のゴーレムが合体して、最強のゴーレム息子になったんだ。合体は男のロマンだ!』とか、言ってたのさね。」
ああ、ダメだ。
きっと、領主の夫はダメな感じのいいやつだったんだ。
「ぱぱ。いなくて寂しかった。死んじゃったと思ってた。」
ゴーレム改めマヌエルは、グラニーの頭を撫でると、自分の肩に乗せた。
本当に親子なんだと感じさせられた。
絵面的には、ちょっとだけど。
そうして、一旦鉱山を脱出した。
「じゃあ、帰るのさね。あと、嬢王様は、しっかりお守りするから安心するのさね。」
領主一行は、村に帰ることになった。
同時に、嬢王である伊藤さんも、村に派遣されることになった。
領主と共に、村を統治するためだ。
大岩井さんのお願いを聞いたマインウルフ7匹が、一緒についていくようだ。
伊藤さんには、既に懐いていた。
7匹とも、伊藤さんにまとわりついて、尻尾をブンブン振っている。
まあ、大岩井さんより無茶を言わない分、与し易いのだろう。
「一太郎! 絡まないで。お座り! 三助! 舐めないの。お座り! 奈々子! お手!」
あ、伊藤さん。
あいつらに名前をつけている。
多分勝手につけたんじゃなかろうか。
でも、ちゃんと言うことを聞いているあたり、きちんと識別できているようだ。
「伊藤さん? 7匹の違いが分かるの?」
「え? 何でわからないの? 全然違うじゃない。とくにこの士郎の尻尾。他の子と違って、柴犬みたいにクルンってなってふさふさ。もふもふし甲斐があるの。よく見るのが大切なんだからね?」
「お、おう。わかった。わかったから。」
伊藤さんは、特に荷物をもっていなかったが、マインウルフたちの背中に、小分けにされた荷物が少しずつ乗っていた。
服とか、獣臭がすごくなりそうなんだが。
まあ、初動の資金源として、ホワイトベアの毛皮が2頭分。
これで、ウーバン駅で、何とかやっていけるだろう。
あと、これは重要なことなのだが。
ギルドから、北門の夜間警備業務を受諾するように言っておいた。
ここと同じように、ウーバン駅の周りにマインウルフがいれば、十分なのだ。
そうすればギルマスも、昼寝するほどの激務から解放されるだろう。
何より、ウーバン村に何かがあったときの戦力が大きく向上したのが大きい。
元々村民だった領主の息子がゴーレムであることもそれに貢献している。
村に戻ったら、街に続く街道の南門の警備をするそうである。
これで、国として、少しはかたちになるだろうか。
なお、警備費用は、食費だけと言うのがおいしい。
かなりの格安案件。
それも、マインウルフは自前で狩りもできるらしい。
実質的に、愛情だけでただ同然である。
そんなこんなで、一行は村へと戻って行った。
「マスター。鉄鉱石の確保に向かうぞ!」
既に山賊団を整列させていたラストがワキワキしていた。
「ん。ロッコも手伝う。」
「レインも。頑張って鉄鉱石を確保。村まで線路を引くのです!」
「あ、まずは鉱山内からです、レイン様。」
「じゃんじゃん作るのですよ!」
こうして、通路が確保できたことから、村への鉄道延伸計画が動き出すのであった。
いい話なのかどうかは、受け手である読者に委ねます。
作者としては、いい話なのか残酷な話なのか、曖昧にしていたいのです。
いや、そもそもそういう話として作っています。
どっちつかずなのですが、こういう時、どう感じるのか。
小説内でも、キャラクターによって受け止め方が違くて、もちろん同様に、読者の方からの受け止め方も様々で。
それでいいし、それがいいと思います。
それはそれとして、この曖昧な構図は、次の第4章での立ち回りで必要なのであわてて挿入した部分でもあります。
いわゆるご都合主義的な。
それでは、次回は第3章最後の話となります。
サブタイトルは、前書きの通り。
あす、15時に。
訂正履歴
ホワイトウルフ → ホワイトベア