第37節 ダンジョン探索1 旧山賊団アジト
もともと、このお話は、
大岩井さんがゆるふわしつつ、キノコ無双する話だったのです。
サブタイトルも
「キノコ祭り 大岩井イン鉱山」
だったはずなのです。
しかし、明け方に8000文字くらいの大作が出来上がった後、一眠りしてから読み直してボツになりました。
なぜ、ボツになったのかは、サブタイトルと大岩井さんのキャラクター性からお察しください。
規制さえなければ、こちらを投稿したかったのですが、良心が咎めたので泣く泣くボツにしました。
今回はそんな話を乗り越えたところで出てきたお話です。
それでは、どうぞ。
「キノコの胞子を購入してきたのですね。とてもいい心がけです。わたくしが栽培しましょう。毎日キノコ三昧ですよ?」
大岩井さんが駅務室で優雅にマインウルフを撫でつつ、そんなことを言い出した。
大変ご機嫌なご様子である。
ウーバン村での戦利品の話をしていた時のことだ。
「え? いいけど、どこで作るの?」
「鉱山の中です。廃鉱山なのでしたら使っていない通路がたくさんあるのでしょう? そこに、原木を設置して、キノコの粉をかけて、水をあげれば無限にキノコが採れますよ?」
「うぇ? だって、モンスターいっぱいいるんじゃ?」
「あら、じゃあ、この子たちは何なのかしら?」
そして、駅務室で大岩井さんにまとわりつく7匹のマインウルフを見せつけた。
たしかに、これだけいれば、鉱山内では最強であった。
というよりも、帰ってくるころにはさらに増えていそうで心配である。
「わかった。でも、3階層はダメな。今、工事中だから。」
「む、いや、おわったぞ? 3階層の行き止まり近くまで、このラスト様が線路を敷かせてもらった。行き止まりからはなんと、石炭が採れるぞ!」
「ロッコも、石炭を運びやすいトロッコを作った。3両。もう山賊団が使ってる。」
何だか知らないうちに、着々と鉄道になっているウーバン炭坑駅。
そして、そのトロッコを活用して、元山賊団が石炭を掘りまくっているのかよ。
大岩井さんの指示なんだそうだ。
大した姐さんぶりだ。
「マスター。レール用の鉄鉱石がもっと欲しいのだが。鉄鉱石はどうやら下の階層らしいぞ。山賊団の親分がそう言っていた。」
「え? 何で知っているんだよ?」
「そりゃ社長、俺様が以前ここで働いていたからに決まっているじゃねぇか?」
石炭を運び出してきてちょっと休憩していた山賊団の親分が、自分の話かと聞きつけて、外から窓越しに声をかけてきた。
「なんだと?」
「冒険者で稼げるほど、強くなかったんだよ! 金欠になるたびに、ここで働いて酒代を稼いでいたってわけさ。」
威張って言える話ではなかった。
酒代じゃなくて、装備代を稼げよ!
そんな、とても残念な親分なのであった。
「6階層より下な。斜めに鉄鉱石の層と銅鉱石の層があったはずだ。トロッコで運べるようにすりゃあ、俺たちが掘ってた頃より大量に採掘できるぜ? どうだ?」
「ラスト。できるのか?」
「技術的には簡単だ。3階層と同じで、資源さえあれば可能だ。鉄鉱石待ちだな。」
鉄鉱石を確保するために、鉄鉱石が必要となる。
鶏と卵みたいになっているな。
どうしよう。
「ああ、そうだな。社長は知っているのか? 俺たちのアジト、この鉱山の9階層のつながってるんだぜ?」
爆弾発言であった。
いや、ほんと、襲われなくてよかった。
「いや、9階層は端から端まで通ったつもりなんだが。そんな抜け道なかったぞ? それに7階層より下は水没しているんでな。実質、6階層でしか鉄鉱石とかは採掘できない。すまないな。」
「そうかよ。ああ、それでか。いきなりたくさんの水が洞窟の奥から流れ出てくるようになってたんでな、何かあったのかとは思っていたんだ。こいつらがいるから、調べに入っていないんだがな。」
と言って、大岩井さんの配下のマインウルフを撫でようとしてかわされ、その上噛まれた。
「なんでぃ。噛むんじゃねぇよ!」
そう言って、噛まれていない方の手でグーを作り、頭にゲンコツを食らわそうとして、また、かわされた。
そして、そちらの腕を、他のマインウルフに噛まれる。
諦めの悪い親分であった。
「さすがに強えな。歯がたたねぇ訳だ。」
一応、この場ではあきらめたようだが。
すぐに忘れて再チャレンジするに違いない。
大岩井さんのこともあり、盗賊団とマインウルフたちは敵対関係になっている。
どちらも大岩井さんに魅了されていることを考えると、とても複雑な気持ちになる。
なお、よく見るとマインウルフ、親分に対して甘噛みであった。
あいつらが手心を加えたのだ。本気なら、骨が折れている頃だったし。
「ラスト。作戦を考えよう。3階層から6階層まで線路を引く方法と、山賊団のアジトから線路を引く方法。どちらがいい?」
「気持ちとしては両方だ。もし、山賊団のアジトにつながっているのなら、雪で濡れずに、山を標高で言えば50メートルくらい降るルートができる。はっきりとしたメリットがある。だが、それはそうだな。ラストが調査してからだ。マスター。ロッコ。今すぐ出発するぞ!」
「ん。新しいルートを開拓する。資源も確保できる。いいこと尽くめ。」
と言うわけで、その前に昼食として大岩井さんが作った料理、自称「熊の手」をいただいた。
すごいプルンプルンした食感が最高だった。
大岩井さん曰く、
「中国では高級料理なんですよ?」
確かにおいしい。
おいしいのだが。
熊の手。
明らかに熊の手なんだよ。
心理的に食べにくい。
見た目を改善して欲しい。
日本人なので、何の肉を食べているのかわからない形での提供を要求したら笑われた。
大岩井さんに、
「命を『いただきます』という覚悟がたりていませんね。」
と窘められた。
それはしょうがないよ。
慣れの問題だと思うし。
大岩井さんの素敵な手料理を食べて、胃袋を掴まれてしまい、うっかり山賊団と同じようにテイムされかけていたところを、ラストが正気に戻してくれた。
「マスター。おいしいご飯はレイン様がこれからも作ってくれるのに、オーイワイに簡単に懐柔されてるんじゃない! あれは、あれは魔性だ。沼なんだ。マスターにはラストたちのがふさわしいぞ?」
「ん。マスター。高望みは、めっ。」
あれ。
なんで涙が。
悲しくないのに涙が出てるよ。
別に、高望みしたつもりはないし。
それに、どさくさに紛れて、ラストがいろいろ欲望をぶちかましているのもわかるし。
ちょっと複雑な気持ちでもやもやしたまま、それでもレインたちと共に、思いの外近所だった山賊団のアジトのある洞窟に調査に出かけた。
洞窟に着くまでには1時間ちょっと、といったところか。
それほど遠くはなかった。
道も悪くない。
そして、洞窟に入ったのだが、洞窟自体は人工的な感じがしない。
鉱山として掘って作ったと言うものではないようだ。
山賊団のアジトをスルーして奥へと進む。
洞窟の横幅は4メートル程度。
天井もそれなりに高い。
3〜4メートルはあるのではないだろうか。
先頭を、合図燈を持っているレインがふわふわと進んでいる。
いまのところ、魔物やその他の野獣が出てくると言うこともない。
小さな虫やそこそこ大きな虫こそいるが、洞窟として特異なところはなかった。
そうして、多少曲がったりはしていたが、ほぼ直線の、たまに分岐のある道を、中央を流れている1メートルから50センチくらいの幅の川を遡って、かれこれ40分くらい進んだ頃だろうか。
突如として、行き止まりとなっていた。
もっとも、その行き止まりから水が吹き出していて、それがこの川の源流になっていた。
「9階層につながっていなかったな。」
「マスター。本当にそう思っているのか?」
ラストがこちらを睥睨する。
そして、空間魔法を使って何かを取り出すレイン。
「レイン。なぜ爆弾を持ち出す?」
「この壁、見るのです。明らかに崩落の跡なのです。この先が9階層なら。」
「爆破したら、すんごい勢いで水が流れ出てくると思うぞ?」
「そうなのです。なので、仕掛けたら急いで逃げるのですよ?」
ここまで、40分くらいかけて歩いてきていたのだが。
鉄砲水が明らかに予想される中、どう、逃げ切れと言うのだろうか。
アメリカ映画のラストシーンじゃないんだよ!
鉄砲水は危険なんだ。
水死するぞ?
ロッコとラストは諦めて出口に向かって走り出していた。
おいおい。
こいつら必死だな。
「レイン? 何か浮くもの、持っていないか? 船の代わりになるやつならなおいいんだが。」
「ないのですよ? あ、でも、短い丸太ならあるのです。」
そう言うと、空間魔法を使って、地面に2メートルくらいの長さの丸太を出してきた。
「それでは、爆破なのです!」
危険だと言う言葉は、聞き入れてもらえませんでした。
結果。
ドドーン!
ゴゴゴゴゴゴッ!
シャーッ!
サッパーン!
崩落箇所が多少なりとも吹っ飛び、水の流れが少しだけ良くなる。
水の流れが良くなったことで勢いが増し、崩落箇所の土砂や岩を吹き飛ばす。
そして、水の流れが少しだけ良くなって、
「レイン! つかまれ!」
既に、1メートルくらいの水深になっている洞窟内で、丸太に乗って浮いていた僕は、吹き飛ばされてフラフラしているレインを捕まえた。
ちょっと、目を回している。
なんてブーメラン。
そして、丸太は水の勢いに流されて、それなりの勢いで洞窟内を流されていく。
途中、濁流に流されているロッコとラストをピックアップした。
5分とかからず、丸太ごと洞窟を脱出できた。
しかし、その勢いは止まらず、あまりに早い流れから、素人では脱出できなかった。
結果として僕たちは、麓のウーバン村まで流されてしまった。
領主の邸宅の付近で、別の川と合流するところまで来ると、流れが一段落したので、何とか岸辺に這い上がることができた。
村には特に被害はなかったが、突然の濁流で皆一様にびっくりしていた。
「どうしたんだい? こんな鉄砲水に流されるなんて?」
領主殿が、川から這い上がってきた僕たち一行を見つけて駆け寄ってきた。
孫のグラニーも一緒だ。
「山賊たちのアジトを破壊してきたのです。爆破したら、そこから鉄砲水がでて、このざまなのですよ?」
レインが相変わらず嘘と本当が半分ずつの説明をして、誤魔化していた。
「あのあたりの洞窟は、たしか、鉱山と繋がっていたはずなのさね。昨日、精霊様から聞いた話で、7階層まで水没したっていうからね。2階層分は、水がでてくるはずさね。」
「何で詳しいのです? 山賊団の親分も、似たようなことを言っていたのですよ?」
「そりゃ、夫が鉱山の村の村長だったんだからね。管理する立場の人間として、鉱山については、図面を引いて、詳しく把握していたんだよ? 何しろ息子まで亡くしているんだからね。」
初耳だが、孫がいるんだ。
息子がいても、何の不思議もない。
しかし、やはりというか、なんというか、既に死んでしまっているようだ。
「図面は、貰えないのです?」
「こればっかりはね。1枚しかないんだよ。紙も貴重だからね。」
「見せてもらえるだけでもいいのですよ?」
「見せるだけなら問題ないさね。」
そうして、とりあえず孫のグラニーにタオルを持ってこさせていた。
4人とも服を脱いで体を拭く。
レインが着替えを用意してくれていた。
なお、ずぶ濡れの服は空間魔法ですぐに収納した。
「精霊様はすごいね。そんな不思議な魔法は見たことがないよ?」
「商人とか、使わないのですか?」
「ああ、マジックボックスとかのことかい? 大商人だけだよ。見たこともないけどね。」
僕たちが屋敷の客間に招かれて着替えている間に、鉱山の図面を持ってきてくれた。
「これだよ? どうだい? 1年くらい前のもんだけど、今と変わっていないかい?」
レインは、よく見ることもなく、空間魔法でスマホを取り出した。
っていうか、僕のだ。
電子マネー機能がついているので、路面電車に乗るときに定期券として使っていたやつだ。
いつの間に確保していたんだよ。
しかし問題はそこじゃない。
レイン先生は、スマホのセキュリティーをあっさり突破すると、カメラアプリを起動した。
そして、流れるように図面を撮影する。
あまりに慣れすぎている。
「写真を撮ったのです。これで、いつでも見られるのですよ?」
レインが久々のドヤ顔でブイサインを僕に向けてくる。
「あ、ああ。図面は、僕たちの知っている範囲では変更ない。ただ、マインウルフとか、マインバットとか、あとスケルトンオークもいた。ストーンゴーレムも1体だけいたな。」
「なんだって? ストーンゴーレムがいたのかい? どこだい? どこを守っていたんだい?」
いや、なんだか話がずれている感じかする。
「ストーンゴーレムってモンスターじゃないのか? 鉱山を守っていたのか?」
「そうだよ。なんなら、死んだ夫が作ったのさね。まだ、ゴーレムは動いていたのかい?」
「ああ。動いていた。こいつを、このハイドウルフを強引に引き渡してきた。ああ、あと、仲間を一人助けてくれていたな。結果的には。」
目の前の、領主である前村長の妻は、立ったまま、泣き出してしまった。
「まだ、あの子は、生きていたんだね。できたら、会わせてもらえないかい。」
おい待て、「あの子」ってどう言うことだ?
いくらなんでも夫が作ったゴーレムにあの子はって言わないだろ?
いや、丹精込めて制作したなら、そう言う感覚にもなるのか?
「鉱山まで歩いて来られるんなら可能だけど、行けるのか?」
「行けるさね。よく、あの人にお弁当を渡しに行っていたからね。」
「この村の女性は強いな。」
「そんなことないさね。この辺りには強い魔物はほとんど出ないからね。歩き回っても平気だったのさね。」
結局のところ、この領主殿と孫のグラニーと一緒に、鉱山駅に戻ることになった。
「これも食べられるキノコだよ、社長さん。」
道中で、グラニーが何種類かのキノコを採ってくれた。
領主も訂正していないところを見ると、本当なのだろう。
「ありがとう。帰ったらたべような。」
「いいの。村の周りにいっぱいあるから。がんばれば増えるよ?」
マジか。
大岩井さんに渡そう。
そう心に誓い、山を登るのだった。
そうして、山を登り切って駅前までたどり着いた。
そこで、中華鍋にキノコを山盛りに乗せている大岩井さんと出会した。
「あら、帰っていらっしゃらないので心配したんですよ?」
と、とてもゆるふわな感じで首を傾げる大岩井さん。
そしてそれを守るようにまとわりついているマインウルフ。
明らかにちょっと増えているように感じる。
なんなら、駅のそばにも何匹かいる。
倍以上に増えてるやんけ!
「ああ、ちょっとトラブルがあってな。それはそうと、そのキノコ、どうしたんだ?」
「ええ、見てください。半日でこんなに採れたんですよ? すごいですよね? 褒めてくれていいんですよ?」
そう言って、かなり接近してくると、中華鍋を地面に置いて頭を突き出してくる。
撫でろと、そう言っているようだ。
そして撫でた。
レイン様が。
「オーイワイ。大儀であったのです。それは、爆発茸なのですね。とても好成績なのです。たくさんの爆薬と爆弾ができるのですよ?」
「ありがとう。レイン様。」
完全にテロリストだ。
そんなに爆弾に拘らないで欲しいのだが。
でも、その爆弾に何回も救われていることは忘れてはいけない。
そう。
レイン様の主要武器は外でもない、爆弾なのだから。
「あと、キクラゲも大量生産できましたの。今日は、肉炒めにキクラゲが入って、多少なりとも健康的な食事になりますよ?」
そう。
大岩井さんはやってのけていた。
この様子だと、鉱山の中では既に、キノコの大量栽培が始まっていた。
というか、鉱山ではなく農場としての侵略を受けているのではないだろうか。
ささやかではあるが、中華鍋いっぱいのキノコが半日でできるお仕事。
今後は、大岩井さんがMPの続く限り、毎日がキノコ祭りになりそうな予感がしていた。
先ほどグラニーからもらったキノコたちを、お礼としてそっと大岩井さんに渡すのであった。
洞窟探索ってどきどきします。
小さい頃、近所の洞窟によく遊びに行って怒られた記憶があります。
防空壕だったり、鉱山の跡だったりと、割と緩い時代でしたので、よく入り込んで遊んでいたものです。
もちろんそんなものがあると言うことは、そのすぐそばには鉱山の廃線跡もありました。
普通にレールまで残っていて、場所によってはサビサビになったトロッコとかもありました。
さすがにそういうのに乗るのは怒られますがね。
でも、大きくなって、そういうことはしなくなりました。
なぜなら、知識と知恵がついてしまったからです。
そもそも、犯罪になりますよね、大抵の場合。
そうじゃなくても防空壕とかには、場合によっては色々なものが転がっていますし、危険な細菌なんかもあるかもしれません。
鉱山に至っては、いつ崩落事故が起きても不思議じゃないからです。
それどころか、鉱山に入らなくても陥没事故とかありますし。
それでは、いきなり鉱山探訪に出掛けて帰ってこない、ということがなければ、明日の15時ころに。
訂正履歴
レインが調査 → ラストが調査