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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第3章 地図(ちず)と版図(はんと)
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第36節 パンドラの箱「恩寵:ハーベスト」

ゆるふわ少女、大岩井さんのターンがやってきました。

とうとう復活しましたから、この「使えない」認定された彼女がいったいどんな活躍をするのか。

異世界ものなら、「使えない」とか「追放」とかされたら、「ざまぁ」するのが公式ですよね。

そうですよね。

知ってます。

作者、それ、知ってますよ。

でも、この作品のジャンルは「ざまぁするする詐欺」です。

ああ、「ざまぁ」させてあげたい。


今回はそんな作者側が自分で縛った枷で葛藤する苦悩が垣間見られる、そんなお話、だったような気がします。

本文と前書きで、書いている日にタイムラグがあるから、こんな中途半端な前書きになるのですよ?


それでは、どうぞ。

「そういえば、気がついたらレベルアップしていましたわ?」


 ポーションの能力不足について消費者庁に訴えると声高らかに荒ぶっている伊藤さんを尻目に、かなり接近していた大岩井さんがさらっと異なことを申し立てて来た。

 伊藤さんはともかく、大岩井さんが戦闘している場面を僕たちは見ていない。

 なぜレベルアップしたし?


「マスター、アレなのですよ。おそらく、オーイワイが元山賊団をやっつけたときに、多少なりとも経験値が入ったのですよ?」

「マジか。大岩井さんの武器適性は中華鍋とお玉なのか?」

「違います。そこは違います。もう、野中さんは冗談ばっかり。」

「あながち冗談とも言えないのです。素晴らしいスイングだったのですよ?」

「あら、レインさんまで。もう一振り、いっときますか?」


 笑顔で中華鍋を構える大岩井さん。

 何も知らなければ家庭的な感じしかないはずなのに、怖いのは何故なのか。


「えーっと、ですね。レベル1になったので、『生長促進』の技能スキルが手に入りました。早速スキルポイントを割り振って、レベル2にしましたよ?」


 おかしい。

 なぜ、レベル1なのにそんなにスキルポイントが入手できているのか。

 いきなり技能スキルのレベル2とかずるい。

 でも、女神様の言った通り、大魔王討伐には向いてなさそうだ。


「正直すごいな。冬場に役に立たなそうだけど。」

「そんなことありませんよ? いくらでも使いようはあります。」


 さすがは農業脳。

 農大に入るためには、農業高校だとどうしても不利になるという不穏な理由で進学校に来ただけの事はある。

 推薦貰えば農業高校の方が有利なはずなのに。


「これ、結構すごい技能スキルですよ。レベル1で生長の早さが2倍、今はレベル2なので3倍です。通常の3分の1の時間で、作物を収穫できますよ?」

「それは、どれくらいすごいんだ? ちょっと見当がつかないんだが。」

「えー? ふふふ。そうですね。野中さんの好きな食べ物は、何でしたか? 確か、にんじんをバターと砂糖で甘く煮詰めたあれでしたか?」


 こええ。

 なんで知ってるんだよ?

 そんなの、伊藤さんくらいしか知らない情報のはずなのに。

 そもそも、高校でそんな話していない。

 学校では、主に親父のお弁当か売店のパンだったし。

 にんじんのグラッセなんて、そもそも高校で食べる機会なかったのに。


「あ、ああ。そうだが。なぜバレたし?」

「ふふふふふふ。いいじゃないですか。にんじんの話ですよね。にんじんは種子を蒔いてからおおよそ100日で収穫できます。これがわたしの技能スキルにかかると、レベル1では50日、今のレベル2だと33日で収穫できてしまうのです。どうです? すごくないですか?」

「も少し分かりやすく。」


 確かに短時間で収穫できる事はわかった。

 そのメリットが見えにくい。


「にんじんだと、普通は、1年の間に春蒔きとと夏蒔きの2回で、年間2回収穫期が来るんですよ? 畑の都合を考えれば別の種類にすることもありますけど。それが、いまのスキルレベルですと、年間6〜8回、収穫できてしまうのです。年中にんじん食べ放題できますよ?」

「なんだと?」

「たくさん生産できるので、一年中、新鮮なニンジンが食べられます。そんなに食いつかないでください。ちょっと怖いですよ。ふふふっ。」


 なんてことだ。

 単純に2回が3倍の6回になるわけじゃない。

 成長に適したシーズンなら、もう一回、もう一回と種子を蒔ける。

 だから、目分量として、最大8回。

 もう、冬場を除いて1ヶ月に1回状態。

 にんじんフィーバー来たー。


 いや、落ち着け。

 ここは異世界。

 そうそう都合よくにんじんに近い植物があるとも限らない。

 なんなら、大好物のにんじんのグラッセ、この間、親父が作ってくれたのが人生の食い納めかもしれない。

 ああ、もっと食べておくんだった。


 周りから見ると、あからさまに喜んでテンションが上がっていた僕が、いきなり両手両膝をついてショックを受けた四つん這いの姿勢になったので、何事かと心配させていた。


「にんじんの件は分かった。とりあえず、大岩井さんも元気になったことだし、レベルアップにでも行くか? そうすれば、もっと早く収穫できるだろう? 二十日大根と同じくらいに、レベルMaxで、人参10日で収穫できる計算だしな。」

「ありがとうございます。でもいいんですか? もしかすると、『生長促進』以外にも、べつの技能スキルを獲得するかもしれませんよ?」


 その発想はなかった。

 たしかに、僕でもレベル1で「設定」、そしてレベル2で「制作」技能スキルを手に入れたしな。

 それはそれでありな気もするが。

 どの道、レベルアップしてしまえば、関係ない。

 いっぱいレベルアップすれば、技能スキルもレベルアップできる。



 そこで、早速鉱山内で、レベルアップに勤しむこととなった。

 

 大岩井さんの周りをなぜか固める肉の壁。

 元山賊団の懲りない面々である。


「姐御。姐御なら大丈夫と思いますが、俺たちが体を張って姐御をお守りします。」

「どさくさに紛れて、胸とかお尻とかさわったりしたら、分かりますね?」

「ひぇっ。わ、解ってまさぁ。もう、懲り懲りですわ。」


 絶対嘘だ。

 この狭い坑道内で、あわよくばラッキースケベを狙っているに違いない。

 男性機能が停止させられているのでホルモンのバランスが崩れて、そんなに女にがっつけないはずなのに、こいつらと来たら。

 どういうことだと目線でレインに訴えるも、両掌を上に向けて、諦めのポーズだ。


「えっとね? 親分以下12人には、まず、自分たちが住むところを作ってほしいんだ。何、難しい事はない。山賊団アジトと同じ方式だ。この鉱山にも、同じような部屋があるからな。」

「お、おう。レベルアップはどうするんでさぁ?」

「僕たちがいれば十分。それに、山賊団の皆さんは、マインウルフ倒せるんですか?」

「いや、おれたちにゃ、無理だ。っていうか、お前、倒せるのかよ?」

「かれこれ10匹近く倒したんだが。」

「こ、こえぇ。にいちゃんやるな。じゃあ、姐御は任せた。死なすんじゃねえぞ?」


 そう言うと、鉱山の3階層入り口付近で別れた。

 元山賊団は、入り口付近の小部屋を改造するなりなんなりして、12人で住めるようにする簡単なお仕事だ。

 僕たちは、大岩井さんのレベル上げだ。

 ちなみに2人きりである。


 レインは、伊藤さんにこの世界の王として必要なことを叩き込むつもりらしい。

 あと、本拠地を麓の村に移すので、その準備も同時進行で行われている。


 ラストとロッコは、木を切り倒しまくって、線路をのばしているところだ。

 まず、今いる鉱山の3階層に線路を引くようである。

 それによって、効率的に鉱石や石炭を運搬できるようになるからだ。

 あと、順を追って、村の駅までの7.5キロメートルの線路も引く計画らしい。

 少しでも伸びれば、それだけ運搬が楽になる。

 何でもかんでもレインの鉄道鞄に入れればいいと言うわけではない。

 いや、大抵はそれで解決してしまうので、ダメになったときの対策も必要なのだ。


 元山賊たちは、宿屋の時と同じように効率的に仕事をこなしている。

 こちらは小一時間もしないうちに、寝床ができあがった。

 どこから回収して来たのかわからないが、藁のようなものが部屋に敷き詰めてあった。

 まあ、寝る分には問題ないのだろう。

 邪魔な棚とかは、近くの浅い横穴に突っ込んであったのは山賊らしい雑な仕事だった。



 そして、僕たちは、5階層に降りた。

 いつものスケルトンオーク3体がいなかった。

 というか、ラストが核を壊したので復活できなかったのかもしれない。

 そして、マインバットは腐る程いた。

 手前から、ユリが美味しくいただいていく。

 30分ほどでユリがお腹いっぱいになったらしく、坑道を引き返し始めたので今日のところはそれで終わりにすることとした。


 ちなみに僕と大岩井さんは見ていただけだったのだが、大岩井さんのレベルは7まで上がっていた。

 ユリが、中型犬ちょい大きめまで成長したので、いままでよりたくさん食べられたのが影響している。


 そして、大岩井さんの恩寵「ハーベスト」による技能スキルは、以下のとおり。


 大岩井おおいわい 統子もとこ 恩寵 ハーベスト

  レベル1 生長促進 レベル2

  レベル4 成長促進 レベル0

  レベル7 調  教 レベル0


「大岩井さん? 生長促進が2つあるんだが? ダブった?」

「漢字が違います。いいですか? 生長は植物、成長は動物と考えると分かりやすいです。ターゲットがちがうんですよ? ハーベストは酪農も視野に入れているみたいですね。」

「いや、最後の調教って。」

「されたいんですか。」

「お願いします。とはならないよ?」

「ちっ。」

「いや、いま舌打ちしたでしょ? されないからね。しないでね。」

「いえ、技能スキルですから。大丈夫ですよ?」


 何が大丈夫なのかわからないが、自信満々な大岩井さん。


「じゃあ、調教にスキルポイントを振って、」

「いや、不安しかないんだが。」

「色々と便利ですのに。」

「いや、僕が調教されそうで心配なんだが。」

「できないですよ? 人間相手では。多分。」


 おい。

 結局、大岩井さんは調教のレベルが5になった。

 調教は、レベルが上がると調教できる相手の種族とレベルが増加するらしい。

 レベル10まで上げたら、人間も調教できそうで怖い。


「テイムじゃないのか?」

「何です? テイムって?」

「いや、ゲームとかライトノベルだと、動物とか魔物を仲間にするスキルがあるんだよ。」

「仲間。仲間にするスキル、ですか。はい。仲間にはしますよ?」


 含みがある。

 つまり、実質的にテイムに近いのかもしれない。

 こればかりは使ってみないとわからない部分も多いのだろう。

 そして、さっそく僕に使おうとする大岩井さん。


「調教! 野中 浩平!」


 しかし、何も起こらなかった。


「ちぃっ。」


 あ、この人舌打ちしたよ。

 僕に何をさせるつもりだったんだよ!



 3階層に上がろうとしたところで久しぶりにマインウルフを見た。

 たった1匹だが、もちろん一目散に襲いかかって来た。

 ところが、である。


「おー、よしよしよしよしっ。」


 手に持った熊ジャーキーを与えつつ、可愛がる大岩井さん。

 これ、かなりの犬好きだ。

 そして、腹を見せて服従の姿勢を示すマインウルフ。

 あっさりと手懐けられてしまった。

 なお、調教スキルを使用した形跡はない。

 無駄スキルじゃん。

 なくても調教できてるじゃん。


「あ、野中さんも触りたいんですか? いいですよ?」


 あきれて見つめていた僕の視線を勘違いした大岩井さんが、マインウルフに触るよう誘導して来た。

 すでにハイドウルフ (中型)が頭上にへばりついているので、お腹いっぱいなのですが。


「あら、どうしたのかしら?」


 僕の視線に気づいたのか、マインウルフはすっと立ち上がると遠吠えを始めた。


「あうぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!」


 ちょっと、かっこ悪い外れた音のとおぼえだったのだが、5分も経たないうちに、目の前には6匹ほどのマインウルフが集まっていた。

 そして、熊ジャーキーを配ると、服従の姿勢をとらせる大岩井さん。

 マインウルフ7匹が、大岩井さんの配下となってしまった。


「なんでやねん。」


 今までの僕たちの苦労は一体何だったのだろうか。

 結構たくさん殺しちゃったのに。


「決めました。この大きな犬たちは、私が駅の周りに犬小屋を作って飼うんです。」


 駅自体が、元々ただの小屋だったので紛らわしいことこの上ない。


「いや、さすがにそれはないだろう。なにしろ犬じゃなくてマインウルフ、洞窟専門の狼だぞ?」

「え、そうなんですか? 『姐さん、みんなついていきますぜ』って言っていますよ?」

「いや、言ってないから。気のせいだから。聞こえちゃいけない声だからそれは。」

「え〜。でも、ついてくる気満々みたいですよ?」

「マジか?」


 そうして、鉱山の出口を出ると、マインウルフ7匹は雪の上でも躊躇なく腹を見せながら、背中で器用に前進して、大岩井さんについて行くのであった。

評価ポイントをいただきました。

ありがとうございます。

高い評価をいただけるのは、恐縮してしまいます。

今後も努力して、作品がよくなるように努力します。


さて、山賊や悪役を切って捨てる作品が多い中、あ、こいつ再利用しやがったとか、ジャ○プシステムかよとか思われた方がいるかもしれませんが、全くもってその通りなので返す言葉もありません。

なにより、せっかく苦労して作り上げたキャラクターです。

活躍しなくとも、暗躍であっても、悪役であっても、もったいないです。

女神様ではありませんが、もったいないの精神です。

例の動画的に言うなら、古い〇〇を大事に使おう精神ですよ。


そう。

せっかくここまで読んでくださったのなら、もったいないので次も読んであげてください。

お願いします。


それでは、

「いや、もったいなくないし」

とか言い出して家を飛び出すとか、作者がやさぐれることさえなければ明日の15時ころに。


訂正履歴

 もんだい → 問題

 立つ → 経つ

 人参 → にんじん(※ 誤字報告感謝いたします。)

 パター → バター(※ 誤字報告感謝いたします。)

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