第34節 討伐クエスト2 山賊退治
奴隷制度とか身分制度は今の日本のように撤廃するべきだと思いますよ。
でも、身分制度や奴隷制度を無くすことって、権力者や国を統治する立場からすると、リスクが大きすぎるのですね。
民を守るか、国を守るか。
二者択一ではなく、複雑に絡み合うのですよね。
経済学同様、政治でもミクロとマクロの視点で考え方が大きく異なって来ます。
今の日本でもそうですね。
政治家や公務員はマクロの視点で物事を動かそうとしますが、マスコミはミクロ視点にすると必ずある考え方の違いを突いて攻撃します。
個人的な感情として賛同されやすい簡単なお仕事ですよ?
もちろん、そう言う考え方も大切ですが。
でも、それって、フルマラソンを走るランナーに、なぜ、100M走の速さで走らないのか、スピードが出せるのに出さないのは怠慢だ! と、責め立てるようなものだと思います。
いや、そんな速さで走ったら、ゴールできんし。
今回はそんなお話、だったような気がします。
違かったらごめんなさいです。
それでは、どうぞ。
よろず屋から、皆、ホクホク顔でウーバン駅に帰って来た。
無一文からの脱出と買い物で、レイン達はだいぶテンションが上がっていた。
レインの剛腕で、今、レインの手元には大銀貨1枚が残っている。
全部使う予定だったのだが、
「予定外の出費に備えるのです!」
と言って、レインが譲らなかったのだ。
そうして今、僕たちは拠点となったウーバン駅の駅務室にいる。
買って来たものを机の上に置いて確認した。
魔法薬のポーションを3本買った。
お高かった。
でも、これ1本ずつで伊藤さんと大岩井さんがおそらくほぼ回復する。
つまり、今後は戦力として計算できるのだ。
これはとても大きい。
そして、残りの一本は予備である。
それこそ冒険者家業なので、1本くらいは持っていないと心許ない。
あと、回復薬セットも2組買っておいた。
安かった。
おまけで包帯も2巻つけてもらった。
セットの内容は、解毒薬と傷薬、そして消毒薬である。
普段使いには必須アイテムである。
しかも、必要な量だけ使えばいいので、なくなるまでにはそれなりに時間がかかるのだ。
黒キノコセットと爆発茸セットは、鉱山の方に帰ったら、1セットずつ使ってみよう。
食生活に幅ができること間違いなしだ。
爆発茸は、食べないけどね。
レインがワキワキしているので、爆弾を調達できる目処が立った安心と、爆弾制作のワクワクといったところか。
危ない性格に目覚めなければいいのだが。
そして、残りのお金で食器と調理器具を買った。
今までの大きな中華鍋的なものは、不評だった。
ナイフで手作りしたスプーンやお玉も大不評だった。
手作りシリーズで評価されたのは箸だけだった。
やはり、きちんと作られているものがいい。
女子はそういうの、気にするからね。
「ホワイトベアーの件がひと段落したので、今度は山賊団を連れて来るのです。早く行かないと日が暮れてしまうのですよ?」
いや、既に日が暮れ始めていた。
危ないのではないだろうか。
「戦力的には問題ないのです。場所も上空から押さえてあるのです。」
「いや、急いで行かなくても。明日でもいいんじゃ。」
「早く行くのです。人道的配慮なのです。あと、明日になったらみんな漏らしていて悲惨なことになっているのです。連れて来たくなくなるのですよ?」
「うっ。早く行こう。」
レインの崇高な人権への配慮により、僕たちは早急に山賊団を救出に向かった。
たのむ。
間に合ってくれ。
「お前達。待たせたな。」
「は、早くしてくれ。漏れそうなんだ。」
「一張羅なんだよ! 助けてくれ。ズボンだけでもぬがしてくれよぅ!」
到着するなりせっつかれたので、男である僕が、一人づつ対応していった。
こちらからは見えない角度にいる後ろの方の男に、小用をさせようとして、ラストとロッコがまとわりついていたが、必死に拒絶されていた。
おそらく、そこは見られたくなかったのだろう。
もしくは、お見せできないようなものだったのだろう。
それはそれとして、順番に淡々と対応して、なんとか全員無事に終わった。
「レイン様が、お前達のことを思ってマスターをせっついたのだ。感謝するように。」
ラストが山賊団に感謝を強要していた。
そんなことしちゃダメだよ?
「レイン様! ありがとうございます!」
「一生ついていきます! レイン様!」
「レイン様万歳!」
ダメだこいつら。
早くなんとかしないと。
すでに暗くなっているので、街まで連れて行くかどうか迷ったのだが、ラスト以外は連れて行くという意見だったのでそうすることにした。
ラストはこんなところでも変態的意見を通すつもりのようだ。
そして僕たちは、山賊団のアジトを出発した。
道中、前から男達を数珠つなぎにしている紐を引っ張るロッコ。
ラストは、後方で同様に紐をひっぱり逃走防止に努めている。
というふりをしているが、ラストは、男達のむさ苦しい匂いを嗅いでご満悦だ。
残念なことに顔に出てしまっている。
もう少し自重して欲しいのだが。
歩きにくかった雪道が終わり、村に近づいたところで、大きな猪に出会った。
僕の知っている猪じゃない。
茶色と黒と白のまだら模様のそれは、大きさが2メートルくらいあるし。
四つ足なのに、それでも高さ1メートルくらいあるよ?
「フォレストボアなのです。肉の素なのですよ! 野趣あふれる豚肉の味なのです!」
そう言って爆殺しようと飛んで行ったレインを、ロッコがすんでのところで止めに入り、ラストがさっき木を切っていた斧で瞬殺した。
あの大きな猪の首をバッサリいったのだ。
大きな木を一瞬で切り倒しただけのことはある。
「こええ。」
「ひぇぇっ。」
山賊団の男達はあからさまにびびっていた。
いわゆるたまひゅんである。
「漏らすなよ?」
「あ、おう。あぶなかったぜ?」
「親分、これはそうじゃなくて、きっとこのことは秘密にってことですぜ?」
「そうなのか?」
「そうだ。こんな小さな子が、恐ろしく強いとか、みんなに怖がられるだろ? おまえらが怖がる分には役に立つがな。」
「逃げたら、ああなるのかよ? こええな。」
諦めの悪いメンバーもいたようだったが、一瞬で胴体と首が離れる現場を目の当たりにして、その意思もなくなったようだ。
ラスト、意図していない方向で役に立っているぞ。
でも、調子に乗るから褒めるのはやめておこう。
心の中で、そっと、ありがとうと感謝するのだった。
フォレストボアの血抜きをして、空間魔法で鉄道鞄に収納した後、程なく一行は村の北口、僕たちの拠点である、ウーバン駅の前に来ていた。
心配した村人達が、何人か閉まっている道の柵まで来ていた。
その中にはなぜかギルドマスターも混じっていた。
「ギルマスはどうして?」
「これは村からの依頼。村を守る兵士もいないから。これくらいは引き受けるんだよ。自分の生まれ故郷の村を守るためでもあるしね。」
ギルドマスターは、僕たちを心配して来た訳ではなく、そもそも夜間に村の入り口で不寝番をするだけの簡単なお仕事に駆り出されていたようだ。
国の依頼は受けないけれど、村の依頼は受けるのか。
まあ、そうだろうな。
周辺の山賊団や、魔物の討伐依頼なんて、ほとんどが町や村からの依頼だ。
そもそも、国がしっかりと討伐しているのなら、そんな依頼自体発生しないはずなのだから、国としても恥ずかしくて発注できない、というメンツもあるのだろうが。
「ああ。それはご苦労様。とりあえず、12人。山賊団を捕まえて来た。」
「間違いない。手配書を作った通り。親分はこいつでトランムだったな。」
「おう。俺様も有名になったもんだな。」
「いや、あんた、この村出身だし。村で悪さしすぎて叩き出されたこと、みんな知っているし。」
山賊団がざわついていた。
「親分、自分のこと話さないから知らなかったっすよ!」
「そうっすよ。なんで村は襲うなって言っていたのか分かったっすよ!」
「親分、俺たち、一生親分に付いていきます。」
山賊団の信頼関係が深まっていた。
「でも、町に買い出しに行く馬車は、ぜんぶ襲われたけどね。」
背に腹は変えられない、中途半端な山賊団なのであった。
「依頼の達成は確認したよ。明日の朝、間違いなく受付でお金と討伐証明をするから。で、問題はそれからでね。いつもならギルドから国の兵士に犯罪者を引き渡す手筈になっているんだけど。」
「それなら、その兵士の役は、ラストたちが受け持とう。なに、悪いようにはしないさ。」
そう言ってラストはドヤ顔を作っていた。
また、レインの悪癖が伝播していた。
僕はあきれていたのだが、山賊団は、そのちびっこくっころ騎士にびびっていた。
絵面的には不思議な光景でしかない。
山賊団の威厳も何もあったものではなかった。
まあ、さっき、フォレストボア2メートル級を討伐したのを見てたからね。
無理もないよね。
「ちょっとここでまたせておくのですよ? ちょっと準備して来るのです。」
そう言うとレインは、村の中心に向かって飛んで行った。
山賊団も、僕たちも、何が起こるのかわからず、ぽかんとするしかなかった。
レイン先生には、山賊団をなんとかする算段があるのだろう。
その準備行為が必要になったようだ。
30分位経過した。
村の中から、満身創痍の神官とテンション高めなレインとがやって来た。
国民タグに文句をつけた、前代未聞の神官である。
「この山賊団を教会の中まで連れて行くのですよ? 儀式を行うのです。」
山賊団の顔色が変わった。
「おい、まさか。こんな田舎の教会でできるのか?」
「親分、まずいですぜ? 教会ってこたぁ。」
「やばいな。まあ、どうにもならんけど。」
何か、不安になる要素があるらしい。
「レイン? まさか教会で断頭台とか言わないよな?」
「そんな残酷なこと、しないのですよ? いつの時代の人なのです?」
「いや、僕の時代じゃ、そんなことしないけどね。でも、ここならありえるかなって?」
「ありえるのです。でも、レインはしないのですよ?」
「じゃあ、何をするつもりだ?」
「秘密なのです。」
レインの言動には不安しかない。
連れて来た神官の中年女性がボコボコにされているのは見なかったことにしたとしてもだ。
教会に着くと、僕だけ、教会の外で待つように言われた。
いや、ちゃんと見届けるよ? と言ったのだがだめだった。
教会だけは窓にガラスがはいっており、場所によっては教会の中が見える透明な部分も少しだけあったので、外から覗く分には問題なかったのだが。
通常なら神官が立つべき位置にレインが浮かぶと、山賊団達になんらかの魔法をかけた。
そうすると、魔法のかけられた山賊団の男たちは黒い闇に飲み込まれて行った。
死体も残さず、この世から消し去る魔法か? そう思わされた。
断頭台より若干残酷ではないものの、五十歩百歩である。
1分ほどして、その黒い闇がうすれて消えた。
山賊団は消し去られることなく、その場に同じように立たされていた。
そして、ロッコとラストに引き連れられて、教会から出て来た。
「儀式は終了したのです。あまり使いたいタイプの魔法ではないのですよ? 見て欲しくないのです。よくないイメージが付いてしまうのです。」
「まあ、あんなの見せられたらな。」
「外から見る分には影響ないのです。あの黒い闇を抵抗力のない人間が近くで見ると、悪い影響が出るのですよ?」
まあ、見たままそうだよな。
「山賊団の皆さんを、『犯罪奴隷』にしました。これで、私たちにさからうことはできなくなりましたよ?」
レインはそういうと、親分の首にはまっている、銅色の首輪を叩いた。
「これが、犯罪奴隷タグなのです。登録されたので、どこにいても位置が特定できるのです。魔法をかければ、どんな遠くに居ても走って私の元まで来るのです。」
「逃げられないのはなんとなく分かった。で、こいつらどうするんだ? 食べさせるって言っても大の男12人だぞ?」
「大丈夫なのですよ? 自給自足させるのです。あと、犯罪奴隷タグには男性機能を一時停止させる効果もあるので、女の人が多いところに放り込んでも大丈夫なのです。」
レイン先生は、言わなくてもいいことを言ってしまっていた。
つまりあれだ。
一時的とは言っているが、レインが許可するまで、男として機能しないということだ。
男達は絶望した顔で突っ伏していた。
すでに体を拘束していた縄は解かれている。
それはつまり、身体拘束が必要ないほど、魔法によって精神的に拘束されているということ。
当事者にしかわからない、悲喜交々? なのだろう。
いや、喜んではいないか。
レインに目をつけられたのが運の尽きだった。
こうして山賊団は、レイン隷下の犯罪奴隷軍団と化してしまった。
なお、男としての機能は、しばらくの間(おそらくは今後一生)機能停止されるらしい。
このことが、僕の最近で一番のたまひゅんだった。
ブックマークありがとうございます。
いつもこれを心の支えにしています。
言いたいことを前書きにうっかり書いてしまったので、コメントはありません。
それでは、うっかりしなければ、明日の15時ころに。
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