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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第3章 地図(ちず)と版図(はんと)
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第32節 私たち冒険者になりました

異世界ものの代表的なイベント、冒険者ギルドへの加入。

ギルドの受付のお姉さんとのドキドキイベントとか。

受付の周りにいるあらくれ冒険者とのトラブルからのざまぁとか。

例によって例の如く、テンプレからは外れるよう、配意しています。

ちょっとちがった対応も、おもしろいですからね。


今回はそんな話です。

それでは、どうぞ。

 無一文。



 悲しい響きである。

 いや、今気づいたよ。

 今まで、異世界に来てから、お金の心配よりも命の心配してたからね!


 異世界に来てお金を稼ごうと思ったら、テンプレではどうするのか。

 冒険者ギルドに行って、冒険者になるのがセオリーだろう。

 ドキドキわくわくの冒険譚が、ここから、はじまる。



 そう思っていた頃もありました。

 よろず屋のすぐ隣には、元酒場兼宿屋の大きな建物があって、冒険者ギルドはその隣。

 ギルドの建物も同じように大きくて、さぞかし大勢の冒険者が。


 いなかった。


 そう。

 あらかじめ聞いていたよね。

 冒険者がほとんど来ないって。

 なんなら、ギルドマスターが自分で依頼をこなしているって。


 入り口を入って、閑散としている、いや、正確じゃない。

 誰もいない広間を見渡すと、奥の方に受付が並んでいた。

 しかし、そこに受付嬢は一人もいなかった。

 おい!

 ここ、ギルドで間違い無いよな?

 なんか、誰もいないんだが。


「誰だ!」


 どこからかは分からないが誰何すいかされた。

 若い女の人の声だった。


「ギルドマスターを探しているのですが。」

「わたしだ。」


 しかし、声はすれども姿は見えず。

 声のした一番奥の受付カウンターの方に行ってみた。

 すると、受付カウンター内で、両腕をテーブルに突っ伏して、よだれをテーブルに垂らしている残念なお姉さんがいた。

 明らかに今起きた感満載だ。


「すいません。冒険者になりに来ました。」


 ちょっとした不安はあった。

 例えばアポ無しで相撲部屋に行って、いきなり「力士になりに来ました」とか言い出したら、もうやばい人だろう。

 いや、そういう力士もいたらしいけどね。

 さて、あらくれ冒険者稼業的にはOKなのか、否なのか。


「え? ちょ、ちょっとまって? ほんと? ほんとに冒険者になってくれるの?」


 目を輝かせてこちらの両腕をかなりの力で掴んでくるこのギルマスには不安しかない。

 なお、僕の両手には、先ほどまで寝ていたときに垂れていたよだれでべっちょりである。

 わーい、間接キスだ、とはならないよ?

 体の引き締まった、かなりの美人さんだけどね。

 残念美人の疑い濃厚だよ?


「え、ええ。もしかすると、お金とかいります?」

「いえいえ。冒険者になろうって人が、お金、持っている訳ないじゃないですか。」


 至極真っ当な意見だが、ちょっとカチンと来た。

 カチンとは来たけれど、僕自身、全くもってその通りなので、返す言葉もございませんが。


「えっと、何か必要なことはありますか?」

「じゃあね、ここに手を置いて。一応、冒険者タグにステータス書き出すから。」

「なんか、書き出すための条件とか、書き出せない条件とかありませんか?」

「え? ありませんよ。あらくれ家業だもの。そんな条件つけてたら、半分以上いなくなるわ。」


 思った以上のあらくれぶりであった。

 真っ当な人の方が少なさそうで不安しかない。


「あの、こういうこと聞いていいかは迷うのですが、そうは見えなくても、あなたもあらくれ者なんですか? できれは否定していただきたいんですけど。」

「失礼ね。あらくれ者に、ギルマスが務まると思ってるの? あらくれ者をあしらえるだけの実力は必要だけど、自分まであらくれ者の仲間入りする必要はないのよ?」

「ですよね〜。」


 安心した。

 まあ、自己申告なので、どこまで本当かは未知数だけれども。



 無事、タグに情報を転送し終わると、その冒険者タグを首にかけてくれた。

 なんだかんだと言っていたが、さっきレインからもらった金色の国民タグと銀色の冒険者タグが、ちょうどいい塩梅にゆれていた。

 目の前のお姉さんもだけど。


「で、あなただけ?」

「じゃあ、こいつもいけますか?」

「? さすがに装備品までは無理よ。最低でも生き物じゃないとね。」

「ワンッ!」

「あ、生き物です。」

「そ、そうなの? じゃあ、手、というか前足でいいかしら? 同じように置かせて?」


 頭の上で呪いの兜と化していたユリは、素早く受付台に飛び降りると、前足を宝玉の上に置いた。

 え? 言葉が分かるの?

 まあ、飼い犬でもある程度は言葉を理解するっていうし、そういうこともあるか。


 そして、ユリは冒険者タグを手に入れた。

 さすがにモンスターなので国民タグの方は与えていなかったけど。


「あとは? そっちのちいさな騎士さんも登録する?」


 ギルドマスターはカウンターから出てくると、しゃがんでラストとロッコに尋ねた。

 ロッコの頭を撫でようとして、かわされていたのは見なかったことにした。


「できる?」


 思わず僕が聞き返してしまった。

 人間だと思っていたのなら勇み足だが。


「え? モンスターができるのに、子供ができないとかおかしいでしょ?」

「そうだが。」

「マスター。心配するな。そのタグ、大した情報は書き込まれていない。」


 そうして同様に、ロッコとラストも冒険者登録した。

 そしてタグを受け取ったのだが。


「えーっと? なんか、種族名のところ、精霊ってなっているんですけど?」

「ん。ロッコは精霊。」

「そうだ。ラストも精霊だ。すごいだろう?」


 ラストはドヤ顔である。

 だんだん行動がレインに似て来たな。

 悪い影響が出ている。


「そちらの、空を飛んでいる子も、精霊? 登録する?」

「レインはいいのです。いろいろあるのですよ? それにこの大きさなので、タグがないと入れないダンジョンとかは、懐に潜り込んでやりすごせるのですよ?」

「あからさまに不正を働くと言い切ったわね。」


 でも、確かに、このタグシステムは、人間の大人を想定したものだ。

 小さい生き物は、スルーするのだろう。

 そういう意味では、使い魔的な生き物を従えている場合、抱えて連れ込むのだろうか?



「でだ。僕たちにはお金がない。ので、今は仕事が欲しい。」



 なんとも情けない話だが、言葉の通りなので仕方がない。

 どう取り繕っても、それ以上にはなれないのだから。


「じゃあ、討伐クエストがあります。どれくらいのレベルまで討伐できるのかしら? 早急にやっつけて欲しいのは『ホワイトベアー』なのだけれども。」


 ああ、この村でもホワイトベアーが徘徊していることを知っているんだな。

 ということは、見た人がいるか、被害が出ているかだ。


「ちなみに、事前にやっつけた場合はどうなります?」

「あ、え? 討伐証明部位を高目に買い取っているので、依頼を受けているかどうかは関係ないわよ? ホワイトベアーなら毛皮を全身の半分以上。半分以下だと1匹で2回以上美味しく稼げちゃうからね。」

「じゃあ、とりあえず、それは受けましょう。」



 レインが肩に乗って耳元で囁いて来た。



「なぜなのです? どうして今売り捌かないのです? すぐにお金になるのですよ?」

「おそらくならない。ほかの仕事も確認してからだ。どの道他の冒険者はいないんだ。早い者勝ちの心配をすることもない。」

「分かったのです。おとなしくしているのですよ?」


 ギルマスは。こちらの内緒話を律儀に待っていてくれた。


「ちなみに、相場として1匹あたりどれくらい支払われますか?」

「そうですね。ものによります。おおむね金貨1枚前後と思っていただければ。」

「金貨1枚。この国だと、その金貨一枚で、食事込みで何泊ぐらいできますか?」

「えーっとですね。それは場所によります。王都に近づくほど、宿代と物価が上昇する傾向がありますので。隣の町なら1ヶ月。王都なら1日から1週間といったところです。」

「そのホワイトベアーとやらは、どのくらいいる想定ですか? 討伐依頼が出ているということは、ある程度数が推定できているのでしょう?」


 疑念があった。

 何度か聞いた話だが、ホワイトベアーはそれなりに強いということ。

 でも、そもそも論として、この地域に生息しているはずがないということ。

 それを合わせて考えると、どのような情報網にひっかかると討伐依頼が発生するのか。

 その、情報源というかウラをとりたかったのだ。



「わたしが見ました。討伐依頼もギルドから。」



 しかし、疑念は別の疑念を発生させて来た。

 ギルドマスターはそこそこ強いはずだ。

 なんなら、結構強いはずだ。

 自分で倒さず、冒険者も来ないのに討伐依頼化した。

 つまりは塩漬け依頼である。


「そこそこ急ぎの依頼じゃないかと思っていました。そうじゃないんですか?」

「急ぎの依頼。ホワイトベアー一体でも、場合によってはこの村は滅んでしまう。」

「なら、なんで討伐に参加していないですか?」

「ホワイトベアーが結局、村にこなかったから。来たら私が矢面に立つ手筈だった。」


 理論的には一応破綻していないので、嘘ではなさそうだ。

 でも、それが本当だとすると、この村は窮地に立たされていることになる。

 つまり、外敵から村を守れていないのだ。

 たまたま、1年間、外敵がこなかった。

 運が良かっただけなのだ。

 もしくは、来ていたかもしれないが、ゴートが文字通りスケープゴート化していたかだ。



「塩漬けになっている依頼はいっぱいありそうですね。他にもあるんでしょう?」

「そう。討伐クエストとしては、もうひとつ。山賊団の討伐。」

「どんな?」

「村の近くの洞窟にアジトを作っていると思われる山賊団がいるの。」

「村の主な被害は?」

「なにも。」

「じゃあ、放置で。」

「でも、山賊団のせいで、街道が使えない。隣町にも行けなくて。」


 つまり、こういうことだろう。

 さっきの山賊団は村には手を出していない。

 なぜなら、とりあえず、食うには困っていないからだ。


 そして、村から街への街道でそれなりに稼いでいたと。

 そっちは貨幣経済をしている以上、お金を持っているはずだからだ。

 しかし、あんな山奥でお金を溜めても意味ないだろう。

 そもそも、ちっともたまっていなかったしな。


「依頼の成功報酬と、討伐部位は?」

「あ、あのね? 山賊団って人間だからね? 討伐はダメ。縛って連れて来て。」

「連れて来たらどうするんですか?」

「刑に服します。」

「本当に? どこで刑罰を執行するんですか?」

「王都で。」

「じゃあ、ここですね。今はここが王都ですよ。」

「うわ、だめだ。どうしよう。この依頼、山賊団受け取ったらどうしよう。」


 頭をかかえるギルドマスターなのであった。



「それはそれとして、動ける冒険者、なりたてだが僕たちだけなんでしょう?」

「そう。そうよ。」

「じゃあ、その二つとも、引き受けましょう。とりあえず、両方とも、終わったらここまでくればいいんですね?」

「そうだけど。ちょっと待って。もう一つ。」

「ん?」

「採取依頼。石炭。できたらでいいから。」

「燃料切れですか?」

「そう。冬を乗り切れなさそうな家がいくつかあるの。」

「慈善事業じゃないので。お金はもらいますよ?」


 すごく嫌な顔をした。

 冒険者ギルドが慈善事業に手を出したらおしまいだ。

 命を対価に金を稼ぐのが冒険者稼業。

 金が出せないのなら、そこは命で贖うこととなる。


「準備しとく。準備しとくけど、期待しないで。金庫、そんなに入っていないから。」

「わかっています。町と行き来できていないんですから。早晩干上がるんでしょう?」


 僕たちは、苦虫を噛みしめるような顔をしているギルドマスターを背にして、一旦駅に戻るのだった。

当小説もやっとこのイベントまでたどり着きました。

プロットの段階では、力尽きてたどり着かないのではと思っていました。

あと、小説を書いている段階でも、没にこそなりましたが、主人公のパーティー、何度か全滅しています。

回避するためのいろいろな工夫を後付けで加えているので、不自然な部分もよくみると結構あるのです。


それでは、また、明日の15時ころに。


訂正履歴

若い女に → 若い女の

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