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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第3章 地図(ちず)と版図(はんと)
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第30節 地図(ちず)と版図(はんと)

とうとう国家運営に手を出し始めました。

いや、村一つで国って何考えてるの?

版図を広げていくのも、異世界ものの醍醐味ですよね。

大好物ですよ。

ちなみに作者は、版図を今まで「はんず」と読んでいました。

なんだか、便利グッツがたくさん売っていそうな名前です。

漢字変換できなかったので調べたら「はんと」なんだそうですね。


今回はそんなお話? です。

それではどうぞ。

 村長の表情にあからさまな嫌悪感が出てしまっていた。

 やっかいごとを持ち込みやがったな、といった風である。


「もう一度伝えます。国王の変更を伝えに来ました。この地は『ヨーコー嬢王国』の管轄となりました。ヨーコ嬢王が、この国をしはいしています。その内挨拶に来ると思います。」


 固まってしまっていた村長に、レインは再び言い切った。


「いや、いきなりだね。精霊が3人も来て、変だとは思っていたのさ。じゃあ何かい? 今後税はその嬢王に収めることになるのかい?」

「いえ、この国は、他の国と異なるシステムで運営されるので、人頭税は要りません。出入国にも税はかかりません。その税金の代わりに、人頭管理システムタグが配布されます。国民用と入国者用があります。」


 難しい話をはじめた。

 税金をとらないで、どうやって国家運営するつもりなんだ?

 お金を使わずに、国はまわらないはずだぞ?

 それに、できたばかりのこの国のシステムについて、何の説明も受けていない。


「なんだい? そのタグってのは。」

「皆さんよく知っているあれですよ。冒険者タグとおなじものです。国民のみなさんには、国が国民タグを貸与します。冒険者タグと異なって、限定式空間魔法付きですよ。」

「じゃあなにかい? 村人全員がいつでも自分のステータスを確認できるようになるのかい?」

「そうなのです。あ、そうです。とりあえず、あなた用のものを貸与します。ステータスを開いて、自分の病状を確認するのです。じゃなかった。しなさい。」

「無理にむずかしく話すことはないよ。ここは辺境の地だからね。話しやすい方でいいさね。」


 そうして、村長は自分の国民タグを首にかけた。

 一瞬タグが光ると、光でタグに文字が刻まれていった。


「これ、どういう仕組みかわからないけど、便利そうだね。それじゃあいくよ。『ステータス!』」


 村長の前に半透明のパネルが出現した。

 ステータス一覧が表示されている。

 村長は「状態異常」をタップした。

 なぜ、使い慣れているし?


「レイン。なんでこの村長、いきなり使いこなしているの?」

「言った通りです。冒険者タグと同じ仕組みなのです。冒険者だった人には余裕なのですよ?」

「うそだろ?」

「本当さね。でも良く分かったね。」

「若い頃に僧侶か神官系の冒険者をしていたはずです。今でもその加護が見えるのです。」


 レインがそう言うと、村長は目を瞑った。


「そう。そうさね。さすが精霊様だね。でも、いまでも加護があるのかい? 教会から破門されたときには、剥奪したって言われたんだがね。」

「加護は剥奪できるものではないのですよ? 神が与えた加護を、人のごときが勝手に剥奪できるはずがないのです。回復魔法とか治癒魔法が使えなくなっているのは、そういう呪いがかけられているからなのです。HPとMPを少しずつ削って常時発動する、教会系の魔法が使えなくなる呪いなのです。かなり高度な呪いですよ?」


 村長は、俯いた。

 床にはぽたぽたと水滴が落ちていた。


「それじゃあ何かい。もし、その呪いがとけてたら、去年死んでいったみんなも助けられたって言うのかい? 加護自体はあったんだろう?」

「そうなのです。そうなのですよ! 村長の、そのステータスなら、みんな死なずにすんでいたのです。それに、そこに表示されている状態異常の風邪程度なら、すぐに治せるのですよ!」

「ひどいもんさね。でも、結局は使えないんだろ? 意味ないさね。でも、この国民タグには、そんな呪いの詳細も表示されちまうんだね。これは、教会が黙っていないよ?」


 レインが村長のタグを裏返して見せた。

 何らかの紋章が刻まれていた。


「これ! あんた! あんたは何の精霊なんだい? こんな、こんな紋章、国民全員に配ったりしたら、教会がいらなくなっちまうよ!」

「どうしたんだ? 村長。」

「あんた、知らないのかい? これは女神様の紋章だよ。教会でも使用できない世界のことわりでね。紋章が刻まれている、刻むことができているってことは、そのまま、女神様の許可があるってことさね。」

「つまり、どういうことなの?」

「このタグに文句を言おうとするなら、女神様にたてつくことになるよ。教会には絶対にできないけどね。」


 レインはこの国をどうしたいのだろうか。

 レインの目的は女神打倒だと言う。

 でも、その女神の紋章を使うことができる。

 理論的に破綻しているような気がするのだが。

 精霊って何なのか、根本的なところから問い詰めないといけない気がして来た。

 妖精と違うって激しく抗議していたしな。


「サービスなのです。ちょっと目を瞑って、ひざまづくのです。」


 村長は、言われた通り、ひざまづいた。


「精霊レインの名において、汝を、ヨーコー嬢王国、ウーバン村の領主に任命します。復命しなさい。」

「はい。わたくしパトリシアは、ヨーコー嬢王国、ウーバン村の領主を拝命いたします。」


 そして、村長を暖かい光が包んだ。


「領主になったので、教会の訳のわからない束縛から、開放したのです。さっそく、自分の風邪を治してみるのですよ?」

「え、あ、え? なんだい? どういうことなんだい?」

「この国で、教会に影響を受けたままの領主とか、認められないのです。気に入らないのですよ? だから、呪いをやっつけたのです。領主任命の副産物ですよ!」

「あ、あ、ありがとう、ございます。」


 そうして、村長は、跪いた姿勢をくずして、ゆかに泣き崩れた。



「おばあちゃんに、なにをしたの?」


 村長の孫娘のグラニーが不思議そうな顔をして聞いて来た。


「あ、ああ。村長さんはね、昔、悪い魔法使いに魔法が使えないようにってその力を封印されていたんだ。だから、精霊のレインが、その封印をやっつけたんだ。これで村長は回復魔法がつかえるようになるよ。それも、結構レベルの高いものがね。」

「おばあちゃん、まほうがつかえるってはなし、いちどもしたことないよ? ほんとなの?」

「うん。ちょっと待ってたら、風邪ひいてるの、自分の魔法で治せるから。」

「そうなの? おばあちゃんの風邪、治るの!」

「そうだね。そうだよ。」


 そして、それを聞いていた村長が、グラニーを抱きしめた。


「心配かけたね。もう大丈夫さね。『キュアード』!」


 そして、村長を緑色の光が包むと、ちょっとだけ紫色のモヤのようなものが浮かび上がってすぐに消え去った。


「ステータスからも、風邪が消えちまったよ。レイン様、ありがとうございます。」

「風邪を治癒したのは領主自身の力なのですよ? これからもみんなのためにはたらいてくださいなのです。」



 その後、グラニーの作ったスープとパンで昼ご飯となった。

 きのこといも中心のスープだった。


「きのこが好きなのか?」

「違います。違うんです。きのこも好きですが。きのこは乾燥させると長持ちするので、冬場になると、どうしてもきのこだらけになるんです。お嫌いでしたか?」

「いや、いいだしがでていて、故郷を思い出すようなスープだったものだから、つい、な。」


 椎茸っぽいきのこと、真っ赤なきのこがメインで入っていた。


「これ、山で採れるのか?」

「はい。秋になると、結構取れます。場所によっては冬でもまだあるかもしれません。」

「そうか。」


 あとでさがしてみよう。

 さすがに肉三昧しすぎた。

 というよりも、山賊の気持ちがわかった。


 パンはうまいよ!

 パン自体は全粒粉の黒パンだ。

 とにかく硬い。

 そのかわり、結構長持ちする。

 ときおり麦からつくっているのだろう。

 売り物とは違う形だった。

 いや、この世界は、このかたちが標準なのかもしれないけど。



 昼食が終わると、レインと村長が打ち合わせをして、村民全員を集めることになった。

 国が変わったことの公布とタグ配布。

 そして、タグの使い方講座だ。


 15時ころになると、村民が全員あつまった。


 まず、村長から、グラニーの捜索に関する謝罪と感謝を述べた。

 グラニーからも皆に謝罪があった。


 そして、レインと共に、新しい王国の領地になったことが発表された。

 村長が領主となったことも合わせて発表された。


 さらに、税金と国民タグの説明に入った。

 ここからはレインとラスト、ロッコの3人が説明した。


 小さな精霊3人に、村人たちは微笑ましい視線で話を聞いていた。

 やはり、人頭税がなくなるのが大きいらしい。

 そうでなくとも生活がギリギリなのに、税金とか無理らしい。

 鉱山があった頃は、もっといっぱい人がいたのだが、いまでは250人ちょっとだそうだ。


 じゃあ、どこから税金を取るのかとみんなの疑問がぶつけられた。

 所得税も人頭税たる住民税も、出入国税もとらないのなら、財源は何なのかと。

 答えはシンプルだった。


「国営企業を運営します。その資金で国家を運営します」


 そう言い切っていた。

 おい!

 社会主義か?

 共産主義なのか?


 それは赤くて危険な思想だからやめたほうがいいぞ?

 地球上でもかなりマイナーになってきたんだからな?


「国営企業だからといって、必ずしも資本主義じゃないわけではないのですよ? ますたー?」

「いや、しかしな。父親から社会主義とか共産主義とかは鉄道を破滅させるからと。」

「ますたーの国なら、そもそも鉄道が、国有企業だったはずですよ? 日本国有鉄道? とか言っていたのです。あと、塩とかたばことか、郵便なんかも国営だったのです。なんなら今でも道路とか国営ですよ? 大丈夫なのです。ストとかしないのですよ?」

「いや、レインがストライキとかしたら、だいぶショックなのだが。」

「だから、しないのです。安心して欲しいのですよ?」


 村民向けに説明されたのは、鉱山の国有化だった。

 しばらくは鉱山の利益で国家を運営するそうだ。

 村長の話では、それだけでも今まで国や領主に納めていた金額より一桁か二桁多い資金が入ってくるそうだ。

 レイン、天才じゃないか?


 そして、ラストとロッコによる、国民タグ使い方講座が終わったので、村民はほとんど帰って行った。

 居残りがいたのだ。

 神官のようだった。

 この村にも、教会があるのか?

 そして、村長に詰め寄って来た。


「パトリシア! こんな邪教徒、なぜのさばらせた!」


 さんざんな言われようである。

 ウーバン村は、この異世界に召喚された時の王国の東北角にあるそうだ。

 ちなみに国教は、あの女神様(仮)を崇拝する宗教だそうだ。

 そして、タグの裏に女神様の紋章があることに気がつき、食ってかかって来た。


「村民全員に、女神様の紋章を配るとかいかれている! 教会でも王都に1つ、あるかないかなんだぞ? 女神様の安売りはやめていただこうか。」

「いやね、精霊様が作ったんだよ? 作るのだって簡単じゃないはずさね。」

「そうだ! そもそも女神様の紋章は作ることができないんだ。なのになぜ! こんなに大量生産した? 何か抜け穴を発見したんだろう! 王都に訴えてやる!」


 神官は中年の女性だった。

 かなり頭にきているようで、腰まで伸びた金髪を振り乱して怒っていた。

 信仰心の高いことで。


「落ち着きなさい。女神の僕よ。」

「な、なんだ。なんなんだ貴様は?」

「わたしは、精霊レイン。ちょっとあなたにお話があります。教会で、くわしくお話ししましょうか。」

「の、望むところだ!」


 そうして、その神官の女性とレインは、連れ立って去って行った。


「大丈夫か、あいつら。」

「ん。レイン様は問題ない。最強。」

「いや、そっちは心配していない。あの神官だよ。説得されるんじゃないか? 物理で。」

「おまえは何も分かっていない。レイン様の鉄拳は、聖なる鉄拳だぞ?」

「いや、もう、パワハラって次元を超えているよね?」


 レインの説得にはしばらく時間がかかりそうだったので(希望的観測:物理的説得だと極めて短時間で終わります)、村長の家の中に戻った。

 そして、居間に戻ると、村長から周辺の地図を見せてもらった。

 なにぶん、異世界に来たばかりで、周辺地理には疎い。

 その上、自分たちの国となったのだ。


「今いるところが、ここ、ウーバン地方さね。」


 そう言って、地図の右上角を指差した。


「ん? 近くに海があるのか?」

「そうさね。一山越えれば海岸と街道があるよ。北の帝国に行くにはこの道を使うのさね。」

「村長。質問なのだが。」

「何だい?」

「帝国って、強いの?」

「そこそこさね。この地図のサッシー王国と同じか、ちょっと劣るくらいさね。」

「戦争とか、していないよね?」

「していないといいんだがね。小競り合いはしょっちゅうさね。山頂の争奪戦とか、下らないことばかりしているよ。税金の無駄遣いさね。」


 ちょっと待て。

 軍事力の均衡のとれた国が2つありました。

 そのちょうど境目付近に小さな国ができました。

 軍事的に考えて、この小さな国はどうなりますか?


答え1

 滅亡する。

  国ができたことに気がついた段階で速攻で攻め滅ばされます。

  帝国から見たら領土拡大の大チャンスです。


答え2

 こうもり外交でほそぼそと生き残る。

  両方の国にいい顔をして、うまいこと言いくるめて均衡を保つ。

  ただし、嘘を平気でつかなければならないので周辺国からは一切信用されなくなります。

  なんなら、そんな邪悪な国家といわれて周辺国が協力し、攻め滅ぼされかねません。


 おい。

 この国、いきなり詰んだんじゃないか。


 版図的には、北に帝国。

 東は海。

 南と西はサッシー王国。

 国境はほぼすべて山の中。

 尾根の稜線上。


 レインが自信満々なところを見ると、何らかの策があるのだろうが。



 そしてそのレインが教会から戻って来て言い放った。



「忘れていました。ここに駅をつくりましょう。」



 え、そっちなの?

 そこはブレないトレインの精霊レイン様なのでした。

評価していただきありがとうございます。

読まれた方が、どう受け止められたのか知ることができるのはありがたいことです。

決して万人受けする内容ではありませんので、高望みはしていませんがそれでも嬉しいものです。

さて、昨日PVが5000を超えました。

40部分目となったので、一人の方がこの小説を発見されて全部読まれると、40増える計算? なのでしょうか。

徐々に増えるペースが上がったのはそれが元になっているのか、それとも読者の方がじわりじわりと増加しているのが元になっているのか。

分析はともかく、素直にうれしいものですね。

人気作品を見ると、そのあたりの桁数は全然違うのですけれど、そこまで評価されるものとも思えませんし。


あと、心配されている方がいるようですが、作者自身は宗教と関わりありません。

強いて言えば神道ですかね。

正月に初詣的なものに強制参加する程度ですが。

地域の行事での強制参加は結構経験ありますけどね。

ですから、神道とか仏教とかいろいろな宗教の人たちからお話を聞く機会が結構あるのは事実です。

裏話とか、唆された部分があったりとかはします。

イスラム教の人が、キリスト教で使う旧約聖書を大切にしてるのよ? と言う話はショックでした。

え、そこ、宗教同士、戦争までしたのに? って思いましたよ。

ルーツは一緒なんだそうです。


世界人類が平和でありますように。異世界も含めて(平和だと物語になりにくいですが)。

それでは、平和が続いていましたら、明日の15時に。

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― 新着の感想 ―
[一言] イスラム教とキリスト教とユダヤ教は同じ神を崇めていると私は記憶しています。ユダヤが源流だそうです。記憶違いでなければですが... まあ、めっちゃどうでもいいんですけど
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