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第4節 捨てられた僕と新しい仲間

前置きが終わった感じです。

ここから本格的に物語が始まります。

あまり主人公を追い詰めたくはないのですが。

 女神様の魔法で、どこぞの真っ暗な空中に転移させられた。

 したがって自由落下中であった。

 今の状況は、全く分からない。


 バッシャーン!!!


 数秒後に水面に叩きつけられた。

 とても痛い。

 鼻に水が入った。

 苦しい、というかこれも地味に痛い。

 そして、沈んでいくのに抵抗して浮こうともがくと地面に足が着いた。

 とりあえず、地面を蹴って浮かび上がると見えないながらも水面から顔を出した。

 息をしないと死んでしまうからだ。


 鉱山に転送すると聞いていたのだが、間違えたのだろうか。

 とりあえず、もらった鉄道鞄が水に浮くので、浮き輪がわりにして泳いだ。

 まだ、足がつくところはない。

 それどころか、場所によっては頭がつく。

 横に組んだ柱? 梁と言った方が正しいのだろうか?

 とにかく所々、天井付近に木が組まれている。

 確かに鉱山っぽい。

 その梁的なものが、泳いでいると頭に当たる。

 つまり水面が、かなり天井に近いのだ。

 これはかなり危険なのではないだろうか。

 しかも、女神様の話によれば、凶悪な魔物が湧いて出てくるとのこと。

 真っ暗の中、水中から魔物が出て来たら、どうにもできない。

 これはいきなり詰んだのではないだろうか。


 それと、水面に落ちる時に気がついたのだが、伊藤さんとは一緒ではないようだ。

 水面に落ちる音は一回。

 結構な高さから落とされたように感じたのだが。

 しかし、今、確認すると、天井は低い。

 余裕が出て来たので、少しだけ潜って底に足がつかないか試してみた。

 底というか床にも、ちょっと潜れば足が届く。

 とにかく、水の浅いところ、もしくは水のついていないところを求めて彷徨った。


 何となくだが、水面が徐々に上がっているような感じがしてならない。

 ここでじっとしていても、死を待つだけだと、自分の勘が警告してくる。

 そして、見えないながらも状況が少しずつ見えて来た。


 おそらく、ここは高さ2メートルちょっとの通路だ。

 先ほどからの感覚だと、幅も2メートルくらいの真っ直ぐな通路である。

 そして、前方かなり奥の方から、水の流れてくる音がする。

 つまり、どこからか水が供給されているのだ。

 さっきの勘は、どうやら「当たり」だったようだ。

 そして僕は、その水の音に向かって進んでいた。

 水の流れる音がする、ということは、ここよりも高い場所がある可能性があるからだ。

 最も、可能性としてはその逆もあるのだが。


 水の流れる音が、だいぶ大きくなって来た。

 それと同時に、天井と水面の隙間も、結構厳しくなって来た。

 梁のようなものが2メートルおきくらいにあるが、そこで少し潜る必要が出て来たくらいだ。


 そして、僕は、とうとう目的地にたどり着いた。

 水の流れる音の、現場である。


 結論から言えば、斜めに登る通路を水が流れ落ちて来ていた。

 その斜めに登る通路、鉱山と仮定するならば、いわゆる「登り斜坑」を少し登った。

 やっと、水の中から脱出できたのだ。

 足元では、くるぶしくらいの高さまでの水が流れ落ちている。

 そして、その通路を登り切ると、水のあまりない陸地であった。


「ふーっ。」


 壁に寄りかかると、一息ついた。


 どのくらいの距離だかわからないが、だいぶ泳いだ。

 肉体的には、かなり疲れたのだ。

 ほぼ、限界に近かった。

 そして、今着ている黒い学ランは、ずぶ濡れである。

 このままでは、風邪をひいてしまう。

 元の世界では冬だったが、そこまでではないものの、この鉱山の中もやや寒い。

 そうでなくとも、体温を奪われ、体力を削られる。


 そこで、鉄道鞄を脇に置いて、上着を全て脱ぎ去った。

 学ランはともかく、Yシャツと下着のTシャツを思い切り絞った。

 たくさんの水が落ちた。


「あー、やっとおちついたのですね。ふたりきりになるのをおまちしていました。」


 耳元で、いきなり声がした。

 最も、真っ暗で何も見えないのだから、どうしようもない。


 カチッ!


 機械音がして、光が灯された。


「それでは、あなたの名前を教えてください。」


 鉄道鞄に付いていたはずの人形が、懐中電灯のようなものを両手で抱えていた。

 怪談話をする時のように、顔の下から光が当たっていて、地味に怖い。

 しかも、紐で鉄道鞄に括り付けられていたはずなのに、勝手に離れていた。

 そして、その人形は、僕をガン見していた。

 あろうことが、空中でだ。

 つまり、空を飛んでいる。

 ホバリングでかつ、かなり低空飛行だが。


 人形自体は、鉄道鞄に付いていたあのマスコットキャラクターだ。

 いわゆる美少女が鉄道員のコスプレをしているようなあれだ。

 身長は40センチメートルくらいだが、もちろんゆるキャラではない。

 アニメに出てくるような明るい桃色の髪を、首の後ろで一つにまとめて腰まで伸ばしている。

 紺色の制服は、帽子が男性用のものだが下は膝上タイトスカートである。

 もらった時は、何だこのマスコット人形は? とも思ったのだが、ここは異世界。

 まさかの、「人形が動いた」である。


 そしてその人形から、もう一度。


「あなたの、おなまえを、おしえてください。」

「この世界では、自分を名乗らずに、相手に名乗らせるのが、マナーなのか?」


 いきなり名を名乗れとは、太々しいのである。

 ついでに、この人形(仮)が何者なのかを知るいい機会でもある。


「あー、そうですね。そうです、はい。ふつうならそうですね。」


 上目遣いでこちらを見てくる。

 何か含むところがあるようだ。


「そのー、ですね。わたし、つい先ほど、うまれたばかりでして、なまえがまだ、ないのです。」


 何となく予想はついていた。

 この人形(仮)は、最初から鉄道鞄にぶら下がっていた。

 つまり、「恩寵:トレイン」を授かると同時に発生したと考えられる。

 発生してから、一日も経っていないといったところか。

 そして、この人形(仮)と話す機会のあった人物は、もちろん僕だけである。


「それは悪かった。名前はいい。お前は、何者だ? ただの人形ではあるまいに?」

「よくわかりました、ですね。そうです。わたしが『トレイン』のせーれーです。」


 言い切りやがった。

 言うに事欠いて、「精霊」だと言うのだ。

 確かに、小さいので精霊っぽい。

 しかし、こちらは、異世界に来てまだ一日も経っていない。

 そんなにすぐ、異世界に順応できるわけじゃない。


「で、ですね。わたしは『恩寵:トレイン』の一部です。ですから、名前を教えてください。」

「わかった。僕の名前は『野中 浩平』。『恩寵:トレイン』を授かった異世界召喚者だ。」

「のなか、こーへー。覚えました。マスター。」


 何となく、自分の名前を平仮名で覚えられた気分だ。

 きっと、気のせいだと思いたい。

 それよりも、名前を聞いておいて、名前では呼ばないのかよ。


「マスター? それでは、わたしになまえをつけてください。おねがいします。」


 そうだ。

 そもそもこいつには名前がない。

 しかし、名前なんぞ生まれてこの方つけたこともない。

 センスなんぞないのだ。

 無理せず、安易に、わかりやすい名前がいいだろう。


「じゃあ、『恩寵:トレイン』からとって『レイン』だ。」


「マスター。ありがとうございます。『レイン』いいなまえです。雨の精霊みたいです。」


 しまった。

 確かに言われてみれば、レインってまんま「雨」だ。

 まあ、いい名前だと喜んでいるので、よしとする。


「でだ、レイン。レインは、恩寵の能力を何か知っているか?」

「はい。マスターとおはなしできます。」

「それは、レインの能力だろう? 『恩寵:トレイン』について何か知っているか?」

「はい。レインはマスターとおはなしできます。レインが恩寵の能力です。」


 女神様の言っていた、「使えない恩寵」(言っていない)の意味が分かりかけてきた。

 つまりなんだ、僕の恩寵の能力は、精霊と話ができると言うことだけか。

 いや、元の世界基準では、それもすごい能力かもしれない。

 でも、対大魔王的には、活躍しなさそうだ。

 まあ、仲間が増えたと考えればいいか。

 ちょっと、異世界に来て、アウエー感半端なかったから、精神的にキツかったからな。


「そうか。ではレイン、鉄道鞄のダイヤルキーの番号を教えてくれ。」


 レインならば知っているであろう、大切なことを確認した。


「え? ありませんよ。このダイヤルキーはかざりです。エロい人にはわかりませんか。」


 言われて、ダイヤルキーを回してみる。

 と言うよりも、回らない。

 確かに、ただの飾りだ。


「じゃあ、開け方を教えてくれ。」

「……、ごめんなさい。この鉄道鞄は、開けられません。」

「どうしてだ? カバンなのだから、開けられないと使えないだろう?」

「……、開けたら大変なことになります。」


 訳が分からないよ。

 パンドラの箱かよ!

 開かない鞄なのは、まあいい。

 開けたら大変なことになると言うのはいただけない。

 そんな危険なブツなのか?


「この鉄道鞄は、『空間魔法』でできています。見えている部分にあまり意味はないのです。」

「いや、触れるし、持てるだろ?」

「そうです。触れますし、持ち運べます。それが、『恩寵:トレイン』の技能スキルを発動する条件のひとつでもあります。」


 とんでもないことを、ぶっ込んできた。

 つまり、僕の「恩寵:トレイン」によるスキルは、この鉄道鞄を持った状態でしか発動できないと言うことになる。

 女神様の言うとおり、確かに戦闘向きな能力では無い。


「あ、それと、灯り、ありがとな。」

「はい。この『合図燈』のことですね。鉄道用具なら、トレインの精霊にお任せなのです。」


 懐中電灯ではなかった。

 確かによくみると、確かに「合図燈」だった。

 身長が40センチメートルくらいしかないレインが抱えている、高さ15センチメートルくらいの灯り。

 これは、鉄道用具だ。

 よく、駅のホームで、駅員さんが運転手に向けて合図を送るのに使うあれだ。

 確かに、懐中電灯がわりにはなる。

 この精霊、思ったより柔軟に活動できるようだ。


「レインのことは、進みながらお話しします。とりあえず、もう1階層上を目指しましょう。」

「そうだな。そうしよう。」


 そうして、全身ずぶ濡れのレインと僕は、休憩して体力も回復してきたので、上の階層を目指して、歩き始めたのだった。

ステルス投稿進行中。

これも、なかなかにドキドキするものですね。

スリルがあってたまりません。

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