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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第3章 地図(ちず)と版図(はんと)
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第27節 本当に大丈夫なのかと問いたい。問い詰めたい。

人によっては悪魔と契約してでも欲しいものが、必ずしも他の人にとってもいいものとは限りません。

人によっては罰ゲームと考えられるほどのものと捉えられることもあります。

価値観って人によって様々。

みんな違ってみんないい。


今回は、そんなお話です。

では、どうぞ。

「女王様になってほしいのです。」


 いきなりと言えばいきなりの話であった。

 いや、僕、男なのだけれど。


「レイン。まず、前提を話してくれないと、なぜ、そういう話になるのか見えてこないのだが。」

「ですから、女王が必要なのですよ? それで、それに該当するのはマスターかイトーだけなのです。とりあえず、マスターから声をかけてみました。」

「いや、僕、男のはずなのだけれど。」


 沈黙が辺りを支配した。

 レインは、え? そうだったのです? という信じられないものを見たという顔だ。

 失敬な。

 どれだけ一緒にいたんだよ?


「まさか、知らなかったというのではないだろうな。どう見ても男だろう?」

「あ、そうです。そうなのです。ちゃんと前提を話していなかったのです。ちなみに、女王様になると、当たり前ですが、女性になりますよ?」

「どういうことなのか、説明してもらおうか? なぜ、女王になると女になるんだよ? おかしいだろう? どう考えても。一応言っておくが、僕は一生男のままのつもりなんだが。」

「そうなのです? え、でも、おそらくその希望は、かなり難しいと思われるのですよ?」


 レインはキョトンとした顔で、何言っているんだこいつ、という目で見つめてきた。

 いや、その目、僕がしたいわ。


「でも、あの女神(仮)がした話では、女王にしてやると言っていたのです。」



 何だと?

 何の話だ?


 いや待て、あったな、そんな話。


「生きて脱出することが出来たら、その廃鉱山と周辺の山については、あなた方に差し上げます。そうですね、女神が認めた新しい国にします。これであなたも王様、女王様です。」


 言ってた。

 言っていたよ。

 あの女神(仮)


「で、ですね。問題はその時もらった巻物なのです。各個人用に1枚ずつ合計3枚発行されたのは、『女王様とお呼び!』と書かれたマジックスクロールなのです。『王権神授術』がかけられているので、このスクロールを使うと、その場所における『女王様』になれるのです。」


「なぜ女王様限定なのか? おかしくないか?」


「そうですね。そこで伸びているオーイワイは、スクロールを持っていなかったので、女王様になれないのです。イトーもそうです。転送後に紛失したのだと思うのです。」

「いや、だから。」

「最後まで聞くのです。マスターのは、私が空間魔法で確保しました。ですから唯一使用可能なのですが。」


 嫌な予感しかしない。

 何しろ、あの女神(仮)の作った巻物だ。

 嫌がらせの一つや二つ、あっても驚かない自信がある。


「あの女神、面倒くさがって、3枚とも同じ巻物を寄越しやがったのです。マスターの分も、『女王様とお呼び!』って書かれているのです。神術を解析した結果、マスターにこれを使ってしまうと、その効果で、女王様になってしまうのです。」

「いや、話がつながらないんだが。」

「ですからこの巻物を使うと、マスターが女の子になってしまうのです。神の力で強制的に。」


 何それ。

 それなんて威力なの?

 王権を強制的に発生させるだけでもおかしいのに、その上強制で性転換とか。

 その神術、日本で使えたなら、LGBTの人たちが泣いて喜ぶわ!

 ああ、そうでもないのか。

 体はそのままの方がって人も、結構いるということだしな。

 むぅ、わからん。


「ちなみに」

「何です?」

「その巻物、3人同じものというのなら、僕の分を伊藤さんに使うこともできるのだよな?」

「そうです。そのとおりです。ですから、まず、マスターに声をかけました。」

「それ、伊藤さんに使ってやってくれ。よく考えたら、僕、社長として、線路、延ばさないとだしな。」


 二人の利害が一致した。


 元からそうすれば良かったというくらい、一致した。


 レインとしても、僕が社長として、トレインの恩寵を使いこなすことの方がいいようだ。

 そして、レインは伊藤さんにその話を振っていた。


「イトー! イトー起きるのです。 不寝番交代の時間なのです。」


 レインが伊藤さんの耳元で囁き、ユリが伊藤さんの首筋を舐めまくる。

 ヒィつ、と微妙な声を上げて、伊藤さんは目を覚ました。

 まだ、だいぶ眠そうであるが。



「女王様になってほしいのです。」


「いや。何それ? 野中の趣味? 変態なの? 絶対にやらないから。衣装とかも着ないからね。絶対嫌っ。」


 ああ、この子、何を口走っているのだろうか。

 もう、ダメだ。

 しかも、伊藤さんは、僕がそういう趣味の人だと薄々思っていたらしい。

 もう、ヤダ。


「伊藤さん。落ち着いて聞いてほしい。別に衣装までは用意していないはずだし。」

「マスター? この巻物を使うと、女王様セットも一緒についてきますって、ちゃんと記載されているのですよ? 安心ですねって書いてあるのです。」

「安心しねーよ! 何でだよ? 何で僕が落ち着いて説得しようとする材料を崩すんだよ、そのマジックスクロールは? 女神(仮)か? 女神(仮)のせいなのか?」


 説得、失敗のようである。

 女王様セットって、絶対あれだ。

 きらびやかな、多数の宝石をちりばめた王族風、貴族風のドレスじゃないと思う。

 伊藤さんが勘違いしている方の、女王様セットに違いない。

 武器と防具と仮面がセットになっている方ですよ?


「落ち着いて、野中。とりあえず、野中から事情を説明して。この妖精は、何だか私に悪意を持っているようだし。」

「妖精じゃねーですよ! 精霊! 精霊なのです!」

「レイン。ちょっと説明するから。」

「そうしてちょうだい。混ぜっ返さないで。」


 そうして、僕はことの次第を伊藤さんに説明するのだった。



「クリア特典? いいじゃない。それくらいもらわないと、やってられない。でもいいの? 私だけそんなのもらって? 野中だって、必要でしょ?」

「僕が使っても『女王様』になるんだって。」


 ぷっ。

 ププッ。


 伊藤さんが、笑いを堪えている。

 いや、堪えられていない。

 ああ、大笑いし始めたよ。

 これか。

 女神(仮)め!

 これが狙いか!


 嘲笑ではないものの、伊藤さんのツボに入ったようで、笑いが止まるまでにはしばらくの時間を要した。


「じゃあ、結局、私しか使えないってことね。わかった。で、何なの? どう使えばいいの?」

「それは、レインが使ってあげるのです。人間が使うと、人死にが出るのです。」


 おい。

 何だよその怖すぎる設定は?


「神術、というか、これは神魔法なのですよ? 行使すると、使った人が死ぬのです。ひどい罠なのですよ? だって、マジックスクロールなので、誰でも使えるのです。必要な魔力的なものは、このスクロールに入っているのに、命を奪うのです。理不尽な神魔法なのです!」


「いや、レインが使っても命を奪われるんじゃ?」

「大丈夫なのです。レインほどの大精霊になれば、これくらいの神魔法、よゆうなのです!」

「そう? なのか?」

「ですです。この程度の『神の呪い』、レインには無効なのです。そもそも同属性なので効果がないのですよ?」


 疑問や突っ込みどころは満載だが、まあ、それでもよしとしよう。



 そうして、深夜の駅務室で儀式は行われた。


「汝、イトー。神の名において、この地域の『女王』に下命します。受諾しますね?」

「はい。私、伊藤洋子は、神の名において、『女王』を拝命いたします。」

「それでは、我が『女王』よ! 汝らの国名を宣言しなさい。」

「え? 何? 国名? 決めていないんだけど?」

「後でも変更できるかもしれないので、何かつけるのです。」

「それ、変更できない人がいう言い方。じゃあ、洋子王国。それでいいから。」

「おい、適当だな?」

「『ヨーコー嬢王国』。神の名において、ここを『ヨーコー嬢王国』と認めます。この国は『ヨーコー嬢王国』として、今日、今から認められました。」


 そうすると、狭い駅務室の中をさらに狭くするような豪華な木製のワードローブが発生した。

 伊藤さんは、とりあえず、自分のものとして、開いてみた。


 ワードローブの中には、物語のお姫様が着るような、西洋のお姫様が着るような、きらびやかなドレスとか、キャミソールとか、そんなものたちが収納されていた。


 チラッと、武器と防具と仮面のセットも見えたけど。

 それは、見なかったことにした。



「マスターも、儀式をするのです。」

「レイン。何を言っているんだ? 女王様は伊藤さんになったじゃないか?」


「予備です。予備も必要なのです。」


 予備とか。

 いや、もう少しオブラートに包んで話してほしいのだが。

 あれだろ?

 もし、伊藤さんが死んだ時に、女王様になる人を決めておかないとダメなんだろう?


「わかった。すぐやってくれ。」

「いいのです?」

「僕だけしか、対象者、いないんだろう?」

「そうなのです。このマジックスクロールの効果があるうちに、設定する必要があるのですよ?」


 マジックスクロールは、光り輝いていたが、端から少しずつ消失していっていた。

 あれが時間制限を示しているのだろう。

 砂時計に似ているように感じた。


「では、ごほん。汝、マスター。神の名において、ヨーコー嬢王国の王位継承権第一位を授けます。」

「確認はないのか?」

「ありません。すでに継承権は授けました。」

「いや伊藤さんの時と、だいぶ扱いが違うのだが。」

「そういうものです。」


 納得いかないが、王位継承権を無事に授かったようだ。

 最も、伊藤さんが死ぬようなことがなければ、行使されることもないのだが。


「マスター。事後承諾なのですが。」

「何だい? 言ってこらん。 今更、何を聞いても驚かないから。」


「です。マスターが王位を継承すると、やっぱり女王様になるのです。可愛い、女の子になれるのですよ。嬉しいですね?」


「いやーっ!」



 ウーバン鉱山のある山の中で。

 日付が変わってしばらく経ったその時刻に。

 僕の悲鳴は、こだまするのであった。

第3章に突入しました。

ちょっと隣の村まで行ってくる、がテーマです。

異世界なら、それも命がけ。

流通経済を考えると、2重の意味で致命的ですね。

それを何とかしてしまおうというのも、異世界ものの楽しみではあります。


それでは、また、明日の15時頃に。


訂正一覧

 そろそろ夜が明けようとする → 日付が変わってしばらく経った

 ※ 前節との時間整合のため つじつまが合いませんので

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