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第9話 本物と偽物

偽物がこの世界に溢れていますが、絵画や陶器などの世界では「習作しゅうさく」といって、過去の秀作を手習てならいとして練習のために作ることがあります。

そのため、製作者によっては、本物を超えてしまう偽物を作ってしまう場合もあるのです。

もっとも、それでも価値としては本物の方が遥かに上なのですが。

作られた物ではなく、人間なら、その本物と偽物の関係性や意味はまた異なってきます。


今回はそんなお話です。

それでは、どうぞ。

 私は、サイモン。

 サッシー王国の騎士だ。

 一定のレベルに達したので、国王の許可もあり、クラスアップして聖騎士となった者だ。


 具体的には王国の第3騎士団に所属している。

 その中でも第1中隊で中隊長を任されている。

 第3騎士団自体大きな組織ではない。

 中隊長なのに筆頭中隊長として、第3騎士団内では団長に次ぐナンバー2だ。


 いやおかしいだろう?

 普通なら、副長とか副官とか、団長代理とか次席とか。

 そう言う役職の者がいていいはずだ。

 そもそもそれを言うなら、大隊長がいるはずだ。


 現に、第1、第2騎士団にはそれぞれ名前こそ違えど、存在するのだから。


 それが、第3騎士団の微妙な立ち位置を示している。


 我らが第3騎士団の主任務は、国境警備だ。

 ところが、我が王国には、それはそれとして国境警備隊が存在する。

 と言うよりも、国境警備のほとんどは、国境警備隊が担っている。


 じゃあ、お前たちは何をやっているんだと不思議に思われるかも知れない。


 国境警備隊は、国の中でも最も人数の多い兵団だ。

 実際に北や西の陸続きになっている国境に張り付いている。

 さらには海上でも、船を出して警戒しているし、ほとんどの港にも配置されている。


 不思議に思われるかも知れない。


 いや、お前ら要らないんじゃないかと。

 そもそも、お前ら、本当に国境警備しているのかと。


 そもそも論として実ところ、第3騎士団という組織は、公式には存在しない。

 そういうことになっている。

 口の悪い騎士達に言わせれば、偽物騎士団だ。

 国境警備隊の連中からも、何も知らされていない者達からは、偽物国境警備隊員と言われる。


 もちろん、我々は偽物ではない。

 国王陛下直々に任命された、本物の騎士団だ。


 実際のところ、人数こそ少ないものの、ある意味最強の騎士団ですらある。

 私をはじめとする、クラスアップした「聖騎士」は、第3騎士団にしか存在しない。

 何なら、「聖騎士」と言うクラスアップ後の職業名すら秘匿されている。

 完全に秘匿できているわけではないにせよ、伝説上の職業だ。


 そんな「聖騎士」が数名存在する。

 団長は、貴族の中から選ばれて来るので、それなりにできる人だが、「聖騎士」ではない。

 騎士としての階級に問題があるので、中隊長だが、各中隊長はそれぞれ「聖騎士」だ。


 レベルが一定まで上がればクラスアップできるはずなのに、なぜ、伝説上の職業なのか。

 答えは簡単だ。

 クラスアップの儀式が特殊だからだ。


 「聖騎士」へのクラスアップの儀式は、「女神様」しか実施できない。


 すなわち、女神様にお会いできない限りどんなにレベルを上げてもクラスアップはできない。

 条件がとても厳しい。

 存在すら怪しまれており、国によっては邪教扱いされている宗教の崇拝対象だ。

 そう言う国では、絶対にクラスアップできない。


 私は、ある意味、恵まれている。

 そう思うことにしている。

 あの、女神を知らなければ。



 先日まで私は、国境警備をしていた。


 北の「隣国」で。



 勘のいい方なら分かっていただけただろうか。

 我々第3騎士団は、国境付近にその拠点を置いてはいるものの、活動場所は、隣国領地内。

 悪い言葉で言えば、スパイだ。


 頭がおかしくなりそうなのだが、北の隣国であるウーオ帝国の皇帝が許可しているのだ。

 スパイを受け入れているって、どれだけだよ?

 そう思われると思うのだが、これは単純な話ではないようだ。


 我が国とウーオ帝国との関係は微妙だ。

 領地争いがないわけではない。

 しかしそれは、国境の山頂がどちらの国に属するかというような矮小な話だ。

 攻め込んで、領地をぶんどるような話ではない。


 でも、だからと言って良好な関係というわけでもない。

 ウーオ帝国は広大な領土があり、一枚板ではないからだ。

 その上、多種多様な民族を抱えている。


 我々の国なら魔物扱いするような、動物扱いするような者でさえ、臣民として扱う。

 国民、ではなく、臣民というそうだ。

 人間も全て含めての話であるが。

 皇帝の権力の強さが、そうさせているのだ。


 だから、帝国には身分の差による差別などはない。

 そもそも貴族制度すらないのだ。

 全て等しく皇帝陛下の臣民であり、これを貶めることは、国家に対する反逆だからだ。

 実際に種族差別がない訳ではないが、見つかれば重罪として扱われる。

 表立っては差別できない国なのだ。


 そういう意味ではいい国なのかも知れない。


 そして、そういう国だからこその問題があった。



 魔族だ。



 本来ならどんな種族であれ受け入れる帝国だが、さすがに大魔王の手先までは受け入れない。

 しかし困ったことに、魔族は、その姿を誤魔化す手段を多種多様に持っている。

 そして、あろうことが帝国内にすでに多数、入り込んでしまっている。


 それだけならまだしも、帝国内には魔族とそれ以外を判別する手段がなかった。

 うっかりすると魔女裁判になってしまう。

 臣民からすると、本当に魔族など存在するのか? ということになる。


 皇帝陛下も元々は、ちょっと変わった種族だが、臣民にしてもいいのでは?

 そう思っていたらしい。

 しかし、魔族は大魔王の指示の元、統一行動をとっている。

 すなわち、帝国を滅ぼすために帝国内に存在している。


 これが分かってしまえば、うっかり臣民に、ともできるはずもない。


 しかし、臣民の中に魔族はどんどん増え続けている。


 なぜなら、入り込まれても、わからないからだ。

 判別する手段がない。


 ここで、いや、おかしいだろう? と思われる方がいるかも知れない。

 そう、おかしいのだ。


 帝国には魔族を判別する手段がないのに、なぜ、魔族がいることを知ることができるのか。



 それが、第3騎士団が、帝国内で合法的に活動している理由だ。

 皇帝陛下も実のところよく分かっていないようなのだが、「聖騎士」の仕事だからだ。


 魔族には、女神様のあらゆる能力、例えば物理攻撃や魔法攻撃などを無効化する能力がある。

 女神様からすれば、この地上において、唯一コントロールできない存在だ。

 だから、何とかしたい。

 でも自分では何もできない。


 そこで、「聖騎士」の出番だ。


 「聖騎士」には、魔族を判別する技能スキルがある。

 「聖騎士」には、魔族を制圧するのに適して能力がある。


 その能力を、帝国内で活用しているのだ。

 隣国が魔族だらけになっていては、いつ自分の国もそうなるかわからない。

 隣国を救うことが、自国の防衛に役立つのだ。

 お互い様、というものである。


 ちなみに、帝国には「聖騎士」が存在しない。

 人口でいえば、我が王国の4倍以上の臣民がいるにもかかわらずだ。



 先日、その任務中に、帝国の兵士から、皇帝陛下に呼ばれている旨、連絡があった。

 本国に連絡を入れた上で、城まで出向いて、皇帝陛下に拝謁はいえつしてきたのだが。



 何と、皇帝陛下は偽物だった。




 「聖騎士」の常時発動技能スキルである「真聖波」は、あらゆる魔族にダメージを与える。

 あろうことが、拝謁時に皇帝陛下が「真聖波」でダメージを受けた。

 以前にお会いした時には、そんなことはなかった。


 これを見て、その場にいた者全員が、皇帝陛下が偽物であることに気がついてしまった。

 そもそも皇帝陛下は他国へ出かけていて、留守のはずだった。

 早く帰ってこれたというのも、嘘だったのだ。


 帝国の重鎮達が、慌てて偽物を何とかしようとするも、重鎮達やその場の兵士達の中にも魔族が紛れ込んでおり、返り討ちにあってしまった。

 もちろん、他勢に無勢であることを察知した私は、すぐに逃げ出すのだが、バレる原因となった私が放置されるはずもなく、すぐさま追手が放たれた。

 もちろん追手は、魔族であった。


 お互い、なりふりかまっていられない。

 その証拠に、追手の魔族は、魔族であることを隠しもせず、翼を出した者、そもそもモンスターのような出立いでたちの者、そしてついには魔物のような者まで繰り出して、攻撃してきた。


 こちらとしては、この情報を王都に伝えなければならない。

 魔族の相手もそこそこに、ボロボロになりながらも何とか王都にたどり着いた時には瀕死であった。

 そして、国王陛下に上奏じょうそうした直後、私の意識は途絶えてしまった。



 次に意識を取り戻した時には、城内の騎士団が使用しているベッドに寝かされていた。

 女人禁制のはずのそのベッドの脇には、椅子に座る女がいた。


 女神だ。

 あの、性悪女神だ。

 悪い予感しかしない。


「あら、目覚めましたか。もしかすると私の腕が鈍ったのかと不安になりましたよ?」


 開口一番、そんな戯言である。


「なぜ? なぜ女神様がこんなむさ苦しいところに?」

「そうですね。私も、ここはいかがなものかと思ったのですよ? しかも聞けば、女人禁制というではないですか。私、これでも女神なので、一応女のつもりなのですよ?」

「いや、私は死んだのではないのか?」

「死んでいたら、私には会えないのですよ? ああ、ある意味本当の私に会ってしまうところでしたね。そう、あなた、重傷でしたので私が何とかしましたよ? ああ、ちょっと体を無理にいじったので、問題があるかも知れませんが、そこは命が助かっただけでもありがたいと思ってくださいね?」


 不安材料しかない。

 この女神、人を人体実験の材料か何かにしやがったらしい。

 そのおかげで生きながらえていることを考えると、文句も言えないが。


「不安、顔に出てしまっていますよ? だめですね、聖騎士なのですから。そういう不安は、ポーカーフェイスで悟られないようにできないと、戦いで勝てませんよ? ああ、そう。あなた、もう聖騎士ではなくなったのですけれども。」

「何だと?」

「怖いですよ? そんな怒らないでくださいね? だって、しょうがないのですよ。死にそうだったのですから。どうしても魔族による呪いの攻撃による傷を塞がないと、死んでしまうところだったのですよ? でも、あまりに呪いが強すぎて、さすがの私でも、呪い自体を直接解除できなかったのですから。」


 不安材料が積み重なっていく。

 女神様レベルで解除できない呪い。

 直接解除できなかった、ということは、別の方法で、力技か何かで解除した、ということになる。


「じゃあ、今の私は、『聖騎士』でなくなった私は、何なのだ?」



「『天使』です。私の従順な配下、『天使』になりました。魔族による呪いの攻撃や、瘴気の悪影響を一切受け付けませんよ? 聖騎士だったので無理やり種族変更できたのですけれど、それでもかなり無理をしてしまいました。」



 天使って何だ?

 しかも「私の従順な」という修飾語付きだ。

 おい、私はどうなってしまうんだ?

 まさか、あの女直属の部下にでもなったというのではないだろうな。


「あ、また、顔に出ていますよ? 大丈夫ですよ? あなたには羽も生えていませんし、天使の輪的なものもありません。見た目は、今まで通りです。見た目だけは。」

「いや、それなら何か変わったのか?」

「そうですね、天使、天使です。私の従順な天使です。まず、私に逆らえなくなりました。私の命令なら、何でも聞いてくれる、従順な天使になったのですよ? 自殺しろと言われても、それに逆らえないくらい従順な。」

「おい、それは、」

「あと、ですね。簡単には死ななくなりました。いえ、正確ではないですね。もう、その姿で人間のように老化もしないですし、炎で焼かれて灰になっても、『私』が『回復魔法』をかけることができれば、いつでも今の状態に回復できますよ?」


 それは、ほぼ無敵なのではないだろうか。

 騎士としてはありがたいのだが、そもそも私は騎士ではなくなってしまった。

 騎士ではなくなったのか。

 誇りを持って職務に励んでいたつもりだったのだがな。


「私の従順な天使なのですが、私、別に配下はいらないのですよ? なので今まで通り、王国で働くことを許可しましょう。そうですね、今まで通り。もちろん、ちょっと強くなってしまいましたので、仕事は楽になるかも知れません。魔族、いっぱい退治できますよ?」


 聖騎士すら伝説上の職業なのに、天使って。

 いや、天使って職業なのか?

 それとも種族名なのか?

 わからないことだらけだ。



 わからないながらも、しばらく王城にて療養の日々を過ごしていた。

 あれ以来、女神には会っていない。

 訳が分からないので、国王陛下との話し合いで「天使」であることは秘密にした。

 そういう訳で、私は今でも「聖騎士」扱いだ。



 諸国会議に出席していた首席大臣が帰ってきたとの知らせを受けた。

 本物の皇帝陛下が出席していた、あの会議だ。

 ああ、私の持ってきた情報を、何とか本物に伝えなければ。

 そういう想いが通じたのかどうか。


 第1騎士団の事務室でお茶を啜っていた私の前に、首席大臣が来られた。

 背後には、見覚えのある大柄のロマンスグレーがいた。

 筋骨隆々のロマンスグレーだ。


 最近、帝国で見たばかりのロマンスグレーだった。


 そう、ウーオ帝国の皇帝陛下だった。


「偽物か?」


 疑いをかけたが、天使になってさらに強力になった「真聖波」でダメージを受けていないところを見るに、少なくとも魔族ではないようだ。


「本物だ。お前はそういうやつだったな。女神からお前がやられたと聞いてな、わし以外にお前を倒せる奴がいるとは思えんが、念のため確認に来てやった。」

「本物か。私は陛下の城で、陛下の偽物に会った。そしてこのざまだ。もう聖騎士ですらない。」

「おい、ワオン! 約束が違うぞ? 聖騎士だと聞いていたはずだが?」

「うっ、むう、どうしたというのだ、サイモン。お前は女神様にクラスアップして頂いて、『聖騎士』であったはずだが。皇帝陛下には、そう説明してしまったぞ?」



「私は、『天使』に再クラスアップされたらしい。女神様によって、強制的に。」



 嫌な沈黙が流れた。



「何じゃそりゃーっ!」



 騎士団の静かな事務室内には、重鎮達の悲痛な叫びがこだまするのであった。

ブックマークありがとうございました。

おかげさまでPVも4000を超え、ちょっとプレッシャーを感じ始めてきました。

おお、すごいなと。

こんなになるとは思いませんでした。

昨日も、山にいたのですが、電波の入ったところでふとPVの確認をしようとしたら、? となりまして投稿予約日時のミスが発覚しました。

その場ですぐに、投稿日時を変更した後、謝罪文を追加しましたが、そういうこともあるのだなと反省しました。


まだまだ修行が足りませんね。

それではまた、明日の15時ころに。


訂正履歴

 いならい → 要らない

 キズ → 傷

※ 誤字報告ありがとうございました。

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