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第7話 火の粉は払わないと火事になるけど

情報伝達に時間がかかる世界において、例えば魔王軍の被害状況を誰が伝えるのか。

被害地域から、情報を伝える人間が逃げてこられるのかが、問題になります。

大体の物語では、そのところを無視して、魔王軍と戦うのですが、情報がないときにいきなりとなると、やはり勝てないものでしょうね。

あれですよ? 国民的RPGのIIのプロローグでいきなり城が魔王軍にやられてしまうのはショックでしたね。

その情報、やはり人が直接運ぶのですよね。

じゃあ、この世界ならどうかな?


今回はそういうお話です。多分ですが。

 そもそも大魔王とは何なのか。

 魔王軍とは何なのか。


 議題はそこで行き詰まった。


 何のことはない。

 宗教的な問題だった。


 今、この議場にいる数名は、それぞれの国の首脳であった。

 隣に座るのは、眼光鋭く筋骨隆々な北の隣国ウーオ帝国の皇帝陛下だ。

 私とて、サッシー王国の首席大臣、一般には他国の例に倣って「宰相」と呼ばれている。

 国王に次ぐ「ナンバー2」の地位にあるものだ。

 ちなみに国王は、我が愚弟だ。

 だいぶ残念な弟だが、人気者なのだ。

 あいつには人を惹きつける魅力のようなものがある。

 それを計算して、私は王位を弟に譲った。


 この世界には多種多様な宗教がある。

 その中には異世界から来た勇者が持ち込んだ宗教もある。


 問題とされたのは我が国の国教である、「オディーア教」だ。

 この、宗教とは名ばかりの勧誘すらほとんどしない宗教のどこに問題があるのか。

 大魔王の進軍と、どう関わりがあるのか、わかりにくいと思う。


 しかし、ここにいる者全員が、私も含めて理解していた。



 遠回りした説明が必要になる。

 そのために、最初の疑問に戻る。


 「女神様」が啓示された「大魔王」の復活。

 それから、「魔王軍」の進軍。


 わかりやすい言葉であるが故に、思考停止しがちだ。

 大魔王なら、人間を蹂躙するだろう。

 魔王軍が攻めてきたら、国が滅ぼされるだろう。

 全てが「だろう」判断。

 しかも、女神様の言葉だと言うこともあり、誰も疑おうとはしなかった。


 しかし、ここに集まってくるようなスレた連中には、そんな理論は通用しない。

 何なら、現世に顕現する女神様の存在そのものすら、疑われているのだ。

 我々が、あの女にどれだけ苦労させられているのか、少しは知ってほしいくらいだ。


 この会合自体、大魔王の復活に合わせて、終末時計が出現し、終末までのカウントダウンが始まったことで、開かれたものだ。

 前例に倣って、異世界から勇者を召喚しようということでは全会で一致した。

 問題は、どこの国が、どれだけ負担するか。

 また、負担の問題を別にしても、勇者をどれだけ召喚するか。

 各国における勇者の数やバランスをどう取るのか。

 そこで、揉めていた。



 原因は、最初の疑問がネックとなるからだ。

 大魔王は、本当に復活しているのか。

 魔王軍は本当に進軍してくるのか。

 そんなもの、サッシー王国が軍事増強するための言い訳なのではないか。


 結局は、そんな反応である。

 クソ食らえだ。

 この反応を、一番問題視しているのは、私ではなく隣の皇帝だ。

 いや、皇帝陛下は何なら、たくさんの勇者を召喚すべきととても前向きだ。

 大魔王は、早晩侵略に来ると。

 情報の伝達速度を考えれば、今、すでに祖国は蹂躙されているかもしれないと。


 そこまではいい。


 問題は、どうやって召喚するかだ。


 そう。

 召喚方法に問題があるのだ。


 召喚するための魔法なのだから、召喚魔法と言いたいところだ。

 しかし、そうじゃない。

 異世界から、その世界の住人を拉致してくるのだ。

 その世界には、その世界のことわりがあり、その世界の神がいる。


 それを蔑ろにして、人のごときが、召喚魔法を使える道理がない。


 故に、「神魔法」と呼ばれている。


 なぜなら、神の力を借りて行う魔法だからだ。

 その「神」こそが、我が国の国教の崇拝対象となっている、女神様だ。


 個人的な感情としては、あの女神に借りを作りたくはない。

 それはそれとして、我が国には、いつでもその「神魔法」を使える準備ができている。

 皇帝陛下はそこに目をつけたのだ。


 「神魔法」を使うのに必要な条件はとても厳しい。


 1つ目は、高レベルの魔術師を少なくとも10 名以上揃えること。

 「神魔法」自体が、かなりの高レベルでないと使用できない魔法であるからだ。

 しかも、人数がきちんと決まっているわけではないにしても、「合同魔法」である。

 一人でも息が合わないと、召喚の儀式が無駄に終わってしまう。


 もう一度やればいいじゃないか、と思われるかもしれないがそうはいかない。


 2つ目は、「神魔法」は必ず、術者の命と引き換えに使われる「犠牲魔法」である点だ。

 失敗しても、術者は死んでしまう。

 そこで我が国では、この2つ目の条件を克服できる、信仰心の高い術者の育成をしていた。

 世界のために自らを犠牲にすることを厭わない、そういう術者だ。


 そのため、一度失敗してしまうと、再度実施することは難しい。


 なぜなら、その条件を満たせるのは、ほぼ、我が国だけ。

 しかも、我が国であっても、条件を満たせる術者の数は十数名。

 2回目はない。


 他の国なら、尚更だ。

 国によっては、このオディーア教を邪教として、禁教の対象としている国もあるほどだ。

 そもそもこの宗教の裏にある、本来の目的が、勇者を召喚することそのものですらあるのだ。

 宗教としては、ある意味邪教だ。

 あの女神からいって、邪悪極まりない。



 実質的に我が国だけが相応の負担を強いられ、魔術師団の貴重な戦力を大きく削られた挙句、召喚した勇者については、各国で平等に配分すべきだという意見が大勢である。

 いや、明らかに負担の割合がおかしいだろう?

 そう正論で言い返したのだが、簡単に反論されてしまった。


 大魔王が攻め込んできたら、人類は終わりだ。

 そんな一国の負担がどのこうの言っているような状況ではない、と。


 そして、そもそも実質的に我が国にしか、「神魔法」が使えないことも指摘された。

 あの邪教を「禁教」としている国からだ。


 すごく頭にくる。

 はっきりいってこれは正論が通る状況ではない。

 いや、はっきり言おう。

 我が国は、他国から、集中砲火を浴びている状態だ。

 そんな中でも、皇帝陛下だけは、敵にはならなかった。



 理由は簡単だ。

 利害が一致しているからだ。



 時間はこの会合が始まる前、前日の夕方に遡る。

 会議に向け、資料を整理していたときに、伝令から、皇帝陛下自らが、この宿に来られたことを伝えられた。

 いやいや、いくら何でもそれはないだろう、と何の冗談かと思っていたが、事実だった。


 酒樽を抱えた、皇帝が仁王立ちしていた。


 お供も連れずに、だ。



「おう、久しぶりだな! 入れろ! そしてつまみを用意しろ!」


 相変わらず、豪胆かつ強引だった。

 こちらの都合とか、関係なかった。

 仕方なく、1階の貸し切りにしてあった食堂兼酒場で、サシ飲みが始まった。

 あちらは、ザルだ。

 決して正攻法で戦いを挑んではいけない。


 しかも、100リットルは入るであろう木の大きな酒樽。

 ワインとかそういう期待をしてはいけない。

 あれは危険な酒だ。

 おそらく、ドワーフとかドラゴンからせしめてきた、明らかにアルコール度数がおかしい酒の類だ。

 普通なら、お猪口的なもので啜るように飲むか、かなり薄めて飲むか。

 皇帝陛下のウーオ帝国なら、雪や氷で割るのが主流だろう。


 宿の料理人に金をつかませて、こちらの国の酒のつまみを用意するように伝えた。

 料理人はその金と相手にやや恐慌を来していたが、しばらくすると、買い出しに行って料理を作り始めた。


 そして、夜も遅くなってきた頃、もうほとんど酩酊状態の皇帝陛下が、面倒なことを伝えて来た。


「明日の会議は荒れるぞ、あれは。お前の国に負担を全部押し付けて、戦力になる勇者だけ取り上げる皮算用をしてやがった。ああいう小狡こずるい考え方は好かん。」

「あ、あん? それは我が偉大なるサッシー王国に喧嘩を売りに来ているということだな。あいつらいつも戦争のことしか考えんからな。自国民を大事にするとか、農業や工業を発展させるとか考えんのかね?」

「お前は、国民のことを考えすぎだ。確かに、お前んとこの国民は、他に比べたら今は幸せだろうさ。でもな、結局のところ、国が滅んでしまえば、どんなにいい王でも宰相でも、国民を守ったことにはならんだろう?」


 隣国同士、知らない仲でもない。

 明日の会議に向けて、伝えておきたいことがあったようだ。

 しかし、素面では、さすがの皇帝でも言えなかったのだろう。


「あとな、ここだけの話をするぞ。」


 皇帝陛下が声のトーンを落として、お互いにしか聞こえないような小声で話しかけて来た。


「お、おう。どうした。女か?」

「お前は、ワシを何だと思っているのだ? うん? いや、確かに女は好きだが。いや、今はそんなことを言っている場合ではない。」

「本題か。」

「おう、どこぞの国の密偵がな、ずっと見張っていた。5時間も飲んだくれていれば、さすがにただの酒飲みだと思って帰ったようだがな。」

「おう。こちらの手下も、ゴーサインを出した。言ってくれ。」


 皇帝陛下は、少し、考えるようなそぶりをした。

 この爺さん、酔いが回っていきなり寝るとかないよな。


「我が帝国は、程なく、大魔王に、魔王軍に蹂躙されるだろう。帝国は、人類の帝国は地図から消えて無くなる。」

「女神の話は本当だったのか。」

「そうだ。というか、お前んところの女神だろう? いくら気に食わないと言っても、そんなに邪険にしてやるなよ。」

「我が国の第3騎士団も陛下に言われた通り、帝国内に探りを入れていたら、そういう兆候をいくつか見つけている。団長が言うには、帝国の上層部にも、かなり魔族が食い込んでいると言うことだぞ?」

「わかっている。しかし、人類と魔族を区別できる手段が帝国にはない。」

「そこを突かれているんだろう? 何とか理由をつけて、国境にいるサイモンを、第一中隊長を帝国の城に連れ込め。」

「何だと? あいつとは、かなりやり合ったが、負けはしないが結構な手合いだぞ。やり合っていいならともかく、何であいつを城に入れなきゃならん。」


 こんな場所で答え合わせができるとは思いもしなかった。

 第3騎士団は、国境警備のほか、隣国の内偵も行う。

 何なら、皇帝陛下のお墨付きだ。

 普通ならそんなことはできない。

 言葉は悪いが、ただのスパイ活動だ。

 それにお墨付きとか正気の沙汰ではない。


 帝国内では、それ以上に正気の沙汰ではないことが起きていると報告を受けていた。



 魔族がいる。



 いや、何言っているの?

 第3騎士団長の報告を受けたときに発した第一声はそんな間抜けな声だった。

 女神様に感化されて、お前もおかしくなったのか、と。


 しかし、事実は異なっていた。

 第3騎士団には、数名の「聖騎士」がいた。

 騎士の中でも特に優れた者が、女神様の祝福で、クラスアップしたのだ。


 「騎士」が「聖騎士」となると、神聖魔法や回復魔法なども使えるようになる。

 何より大きいのが、「真聖波」と呼ばれる、オーラを使うことができることだ。

 「真聖波」をまとうと、自分のステータス全体を上昇させるバフがかかり、近くに寄って来た敵には、自動的にステータス全体を低下させるデバフがかかる。

 さらに、魔族等、悪魔の眷属達にとっては、我々からすると、「瘴気」でダメージを受けるように、「真聖波」によってダメージを受けるのだ。


 つまり、このオーラをまとっていれば、魔族を判別できる。

 その判別できる人間が、帝国内において、人間として生活している魔族を複数発見した。

 しかもそのほとんどが、兵士だったり、役人だったり。

 なぜ? と言うような仕事をしていた。


 当時の手持ちのカードで考えられることは大きく2つ。

 1つは、帝国が魔族を戦力として組み入れていること。

 もう1つは、帝国が徐々に乗っ取られていると言うこと。

 どちらにしても、決していいニュースではない。


 しかし、答え合わせができてしまった。

 つまり、帝国は魔族に、強いて言えば魔王軍に乗っ取られつつあるのだ。


 その考えはなかった。

 魔王軍といえば、正攻法で戦って勝てるとは思えないような強いイメージがあって、どうやって防衛しようかと頭を悩ませていたのだ。

 正面から戦うことしか、考えていなかった自分を恥じた。


 乗っ取り。


 まさか、そんな地味な作戦で、国が滅ぶものかと。

 しかし、皇帝陛下は、確信を持って、その情報を伝えて来た。 


「サイモンは『聖騎士』だ。いるだけで、周囲の誰にでも魔族が分かるほどの『真聖波』を放つことができる。逆に、魔族からは真っ先に狙われるだろうがな。」

「わかりやすくていいぞ。その案、乗った。よし、まず、王国までご一緒しよう。そこから、護衛という名目で、帝国の城まで連れて行けばいい。」

「いいのか?」

「お前の国の地酒と交換だ。馬車一台分は用意しろよ?」

「わかった。あとな、それなら、もう一つ情報がある。」

「何だよ、もったいぶるな。」


「帝国の北、海の向こうのノルトシー王国は、すでに陥落したと女神は言っている。」

「そうか。」

「さすがの第3騎士団も、ノルトシーまではな?」

「いや、何人か通過したのは知っているぞ? 情報が入っている。 最も、我が国のスパイ同様、ノルトシーからは一人も生きては帰って来ておらん。おそらくは、その情報、本当だろう。」

「そうか。」

「どうする? 正面からの戦いなら負ける気はしないが、こうも狡猾な搦め手ばかりだと、わしの本領を発揮できんぞ。」

「もちそうか?」

「何だと?」

「皇帝陛下が、我が国に立ち寄った後、帝国に戻られるまで、国は乗っ取られずに残っているのかと。」

「皇帝不在という、一番の隙を突こうとするなら、軍師としては一流だな。」


 皇帝陛下は、遠くを見て考えた。

 帝国は、大丈夫なはずだと。

 でも、幾多の戦場で培った勘が、それを否定していた。



「サイモンがやられました。急いで国に戻りなさい。」


 異国の地であるにもかかわらず、目の前に女神様が顕現した。


「あら、あなたはウーオ帝国の皇帝だったかしら? あなたは本物?」


 女神様は、きな臭い疑問を、壮年の戦士である皇帝陛下に向かって突きつけていた。

ブックマークありがとうございます。

これからも、読みたくなる作品になるよう、頑張ります。


さて、30話を超えてくると、自分で書いている設定資料と実際の文章に齟齬が出てくることが多くなります。

投稿前に校正ではないですが、設定のチェックや、キャラクターの言葉遣いのチェックを入れていますがさて。

たまに、「こいつ、こんな言い方しないんじゃ?」と思って、言い回しを考え直すのに時間を取られたりします。

違和感のない作品作りにはまだまだ届いていない状態ですが、今後も地道に努力していきたいものです。


それではまた、明日15時に。

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