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第6話 女神様の憂鬱(ゆううつ)

女神様(仮)のターンです。

この話で、女神様(仮)視点だと、世界がどう動いて見えるのかが少しだか見えると思います。

彼女は一体何者なのか、何をしたいのか、何を目指しているのか気になるところです。

今回は、そんなネタを微妙に振りまいたお話です。

 苦情は聞くに耐えないものばかりです。

 ああ、私がこんな苦情を聞かなければいけないのはなぜなのでしょう。

 理解したくありません。

 とりあえず、冷静に見直してみればあるいは。


 そう思って、宝珠の日記で記録したものを聞き返してみました。



<召喚当日>

 終末時計:残り150日 生存勇者32名


 まず、私の命を狙ってくる可能性のあるものを排除しなければいけません。

 名目的には「大魔王討伐に活躍できない恩寵おんちょうだから。」ですよ?

 女神の恩寵は、キワモノが多すぎて、実際には有効活用しにくいことが多いのです。

 しかしその反面、使いこなされてしまうと私の立場も命も危うくなります。

 だから毎回、こうして恩寵をチェックして、問題のある者を弾くのです。


 今回は3名。

 名目に沿った恩寵で助かりました。

 その場で殺そうとしましたが、国王が珍しく意見してきました。


 苦情案件ですか?


 すぐに廃坑送りに変更しました。

 廃坑には1年前から、魔王軍の仕業で、魔物が大量発生してしまった。

 と、言うことになっています。


 つまり、何の装備もない一般人の高校生が放り出されたら、ほぼ死亡確定。

 うっかり生きて脱出して、この事実を公表されないようにする布石も打ってあります。

 洞窟内には、大型のアンデットもいます。

 この国の兵士でも、最下層から無事に脱出することはできないでしょう。


 後、今日の夜、こっそり強力なモンスターを召喚して出口を張らせましょう。

 何がいいでしょうか。

 ああ、雪が降っているところだから、白熊がお似合いでしょうね。

 と、言うことで「ホワイトベアー」に決定。

 20匹は転送しておきましょう。


 ちゃんと、廃坑の入口に張り付くようにしましょう。

 近くに村がありますし、廃村が増えても私は痛くもありませんが、気を使いましたよ?



<召喚後2日目>

 終末時計:残り149日 生存勇者32名


 いきなり問題行動ですか?

 一応、「勇者」なのですから自重してほしいところです。


 昨日の昼過ぎ、より詳しいステータスがわかるようにと気を使ったのがいけなかったのでしょうか。

 今後の勇者としての糧となるように、ステータス読み取り用の宝珠に触れさせたのです。

 ああ、そうですよ。

 もちろん本来目的は、わたしが詳細なステータスを把握するためですが。

 宝珠そのものに全て記録させてもらいました。


 勇者の皆様には申し訳ないのですが、開示したのはステータスでもその一部だけ。

 いわゆる、RPGとかのゲームで表示されるMPとか素早さとか魔法とかですね。

 でも、この宝珠、女神様のものですから、そんなレベルのものではないですよ?

 身長、体重といった身体計測値から、血糖値、尿酸値といったものまで。

 ああ、若い方々なので、そう言うのはいらないかもしれませんね。

 でも仕方がないのですよ?

 この宝珠の仕様ですから。


 あ、異世界だなって思われるようなものも少し、計測されますよ?

 心の闇ですとか、心の傷ですとか。

 心に抱えている闇の量がデジタルに数字で記録されますね。

 多すぎる方は、勇者に向いていませんし、少なすぎる方もまた、勇者に向いていません。

 心の傷も、MHPマインドヒットポイントという形で。

 最大MHPと比較するとわかりやすいですね。

 こればかりは一晩寝て、全回復するなんてことは絶対にありえませんから。

 人によっては一生回復しませんし。


 そうですね、宝珠の話はこれくらいでいいでしょう。

 あまり秘密を話しすぎるのはよくありませんし。



 昨日の宝珠によるチェックで、何人かブラックリストに載りましたよ。

 心の闇、抱えすぎです。

 現代社会は闇堕ちしやすい世界なのでしょうか。

 こればかりは体験しないとわかりませんので、わたしには分かりません。

 わたしがいた頃の方が、結構酷かったと思うのですが。


 最大級に警戒したのが、金本という男子ですね。

 もしかしたら、わたしに歯向かうかもしれません。

 ただ、ステータスがあまりに低いので、放置です。

 心の闇はそこそこですが、MHPが瀕死状態でした。

 一体この世界に来る前に何があったのか、気になりますね。

 気になっちゃいますよね?


 宝珠の記録を確認すると、出てきましたよ?

 MHPが変動した履歴が。

 彼、クラスメイトの女子から、性的な暴行を受けていますね。

 しかも複数から。

 後、お金とかも巻き上げられていますね。

 ああ、なんということでしょう。

 万引きまでさせられています。

 一回警察にまでお世話になっていますよ?

 その割には闇堕ちするほど心の闇を抱えていないのが不思議です。


 そう思っていた頃もありました。


 おそらく、今、再計測したら、闇堕ち間違いなしです。


 ステータスが低すぎるので忘れていました。

 彼、レベル1なのですが、技能スキルが使えるようです。

 うっかりしていました。

 技能スキルが使えるのは、昨日の時点では4名。

 ああ、そうでした。

 この状況、おあつらえ向きですよね。



 「復讐」には。



 行動力があるというべきか、短絡的というべきかは評価が分かれるところです。

 金本は、やられたらやり返す、とばかりにやり返したようですね。

 性的な暴行をしてきた相手に同じ手段でやり返したのですよ。

 しかし、何ですね。

 技能スキルも考えものです。

 あんなレベルの低いものでも、誰も止められないのですから。


 まあ、わたしが出ていけば瞬殺ですが。


 ああ、殺してはいけませんね。

 これでもわたし、女神様ですから。

 相手は一応、世界を救うことになっている勇者様(笑)なのですから。

 減った分だけそのリスクをわたしが背負うことになるのですし。


 ああ、あとあの担任教師はダメですね。

 わたしのいた頃なら、グーや平手は当たり前の教育だったのですが。

 ダメなことをしたら、ダメだと教えられないのは教師失格ですね。

 わたしのいた頃も、一応は体罰、ダメってことになっていたのですよ?

 でも、暴れる生徒を止めたり、暴行してくる生徒に抵抗するのまでは、体罰とは言わないのですよ?

 法律的に。

 刑法でも認められていますし。

 この教師は、そんな基本的なこともわかっていないようです。

 まあ、お若いのでそんなところかもしれませんね。



<召喚後3日目>

 終末時計:残り148日 生存勇者32名


 国王から苦情が来ました。

 来るとは思っていましたが、ちょっと遅かったですね。

 昨日のうちに来るものだとばかり思っていました。

 まあ、そうですね。

 わたしが国王の前に顕現しない限り、どんなに頑張っても苦情申立てできませんし。

 国王ばかりを悪く言うのもいけません。


 兵士たちが、勇者から、技能スキルによる暴行を受けたらしい、ということです。


 らしい?

 いえいえ、そんなのどうして判別できなかったのでしょう?

 手段はともかく、暴行を受けたことは重く受け止めましょう。

 隔離政策です。


 これで、城内の者のリスクは最小限にしました。

 ご飯とかは、自分で配膳するのですよ?

 ベットメイクとかもご自分たちでね。


 だって、しょうがないじゃないですか。

 ああ、被害を発生させた、というのは昨日の金本じゃないですよ。

 金本は昨晩も復讐していましたが、今のところ情報としては上がってきていないようですし。


 暴行していたのは、女子の金田とその取り巻きの方です。

 そうでした。

 昨日、担任教師に手を上げていたあの金田です。

 技能スキルがない状態でも、明らかに大柄の体、鍛えられた筋肉。


 即戦力と期待したのですが。


 だって、技能スキルも発現していましたし。

 しかも身体機能を向上させるバフがかけられるのですよ?

 鬼に金棒とはこのことです。


 でも、ですね。

 それが担任教師だけでなく、城の兵士たちや使用人たちにも向けられたのですよね。

 いわ


「帰らせて! なんでこんな世界を救わないといけないの!」


 ああ、それ、わたしも思いましたよ?

 しかも結局、私たちには救えませんでしたし。

 救えなかったので、帰れませんでしたし。

 わたし以外は、全員死にましたし。

 わたしなんか、今、女神様ですし。


 でも、何も手を打たないと、国王も立場がないでしょうから、ちゃんと仕事しましたよ。

 夕食前に、勇者を全員集合させました。

 廃坑に転移させた3名を除いて、ですが。

 終末時計の魔法が誤検知しているのでなければ、あの3人はまだ生きているようです。

 まあ、今日明日くらいで死ぬでしょう。

 食べ物もないですし。

 そもそも、そろそろ廃坑が水没するころですし。


 食堂に集めた勇者に向けて、苦情を受けた旨、伝えました。

 何かよくない事を学習してしまったのでしょう。

 金田は、わたしにまで牙を剥いてきたのです。

 おそらく、自分を止められる者など誰もいない、そう勘違いしたのですね。

 わかります。


 金本がいろいろな方にしてきた技能スキルによる暴行は、わたしには届きませんでした。

 

 当たり前ですよね。

 わたし、女神ですし。

 ちょっとドレインの技能スキルでバフとか、ステータスとか一時的に奪いましたよ?

 結局、そういうものさえ奪ってしまえば、赤子同然なんですよね。

 そんなことは、見ただけじゃわかりませんから、何をされたかわからなかったようです。

 ドレインで奪ったものを使って、逆に殴り返しておきました。

 壁まで吹っ飛んで行きましたね。

 こんな威力で殴ったりしたら、死んでしまいますよ?


 伸びてしまった金本は、宮廷魔術師から軽い回復魔法をかけられると、城の兵士たちによって担架で運ばれて行きました。


 ああ、勇者の皆さんのわたしを見る目が変わってしまいました。

 これは、なんでしょう。

 これは……これは、恐怖でしょうか。

 女神様的には、畏怖の方がいいのですが。



<召喚後8日目>

 終末時計:残り143日 生存勇者32名


 朝から城内が慌ただしいのです。

 え? 何? 脱走?

 そんなことできるはずないじゃないですか。


 国王が申し立てた苦情では、3人分の靴が城の北側の城壁の上から見つかったというのです。

 もちろん、ローファーなんてこの世界にありませんから、勇者のものですよね。

 北側の城壁の下は、断崖絶壁。

 かなりの高低差があって、下が渓谷になっていたはずです。


 投身自殺を図ったと考えるのが普通でしょう。

 ああ、3人もの若者が、異世界召喚に耐えかねて、自殺をしてしまったのですね。


 え?

 違う?


 どういうことでしょう?

 国王が、わたしの後ろの終末時計を指差して言いました。


「だから、脱走されたようだと言っているだろう。女神様、なぜ、死んだとお思いに?」

「あら、わたしとしたことがうっかりしていましたね。」

「捜索隊を出している。見つけても、拘束できるとは限らんがな。相手は勇者だ。」


 動きが早い。

 すでに探し始めている。

 ならば、早晩見つかることだろう。

 何より、脱走した3名、


 え?

 違う?


 どういうことでしょう。

 国王が、指を4本立ててわたしに指摘しています。


「4名だ!」

「あら、どういうことですか? 靴は3足と聞きましたが。」

「靴は3足だ。今朝、確認して、いなくなっていたのは4人だった。」


 計算の合わないことで。

 まあ、そういうこともあるでしょう。

 魔法の終末時計があるかぎり、どこにいても生死だけははっきりするのですから。



 あ、死んでも生き返らせたりしませんよ?

ブックマークしていただきありがとうございます。

昨日はたくさんの方に読んでいただきまして、PVが3000を超えました。

これを糧として、また、書き溜めて放出してみようと思います。

それはそれとして、明日も地道に更新していく予定です。


それではまた、明日の15時に。


訂正履歴

サブタイトルが本文に混入していたのを削除しました。

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