第25節 設定スキルと製作スキルの相乗効果(そうじょうこうか)?
着々と、「僕の考えた最強の……」が作られていきます。
他の作品ですと、頑丈な家を立てたり、城壁のようなものを建てたりしますが、まだ、その段階には至りません。
いや、この作品では、そもそもそうはならないのかも知れません。
今日もコツコツ拠点づくり。
今回はそんなお話です。
では、どうぞ。
<前回の3行あらすじ>
目が覚めるとラストにしがみつかれていたよ。全裸で。でも、エロさはないけど。
それはそれとして、今日は線路を引くことになったよ。
素材が集まって、加工も終えた。じゃあと言うところで昼食となるのでした。
「いや、昼食にしている場合ではないだろう?」
ラストが大きな声で僕たちに抗議した。
腰に手を当てて、こちらを睨み上げている。
今まさに、あと一歩で線路が完成するというところなのだ。
そんなラストの気持ちとは関係なく、僕たちは昼食を摂ろうとしている。
駅舎の中からは、肉の焼けるいい匂いがしている。
レインが、何か新しい料理を編み出したに違いない。
「レイン? 何やら熊肉とは異なる匂いがするのだが?」
「はいです。今日は何と、卵があります!」
「どうやって確保した?」
「ふぇ? マスターが確保したのではないのですか?」
「いや、そんな記憶はないのだが。」
今まで、午前中はひたすら木を切り倒していた。
少なくとも食材集めに勤しんでいた記憶はない。
「ん。木の上に鳥の巣? があった。」
思わぬ伏兵は、目の前にいた。
一緒に木を切り倒していたロッコだった。
木を切っている最中に、見つけたと言うのだ。
そもそもこの冬の寒い中で、よくもまあ卵を生むよな?
普通の鳥なら、春から初夏にかけてじゃないのか?
鶏は、季節に関係なく2日に1個生むけど。
それに木を切り倒しているのに、よく割れずにキャッチできたものだ。
「ん。レイン様にとっていただいた。それが今日ご飯。伊藤とか、怪我を治すのに、栄養を付けないといけない。」
そして、カマドの上の大きな鍋の上には、うずらの卵レベルの目玉焼きが5つ。
今日は、ちょっと違う味にチャレンジできるようだ。
正直、毎日熊肉で、飽きてきていた。
そろそろ植物にも手を出さないと、栄養的に危ない気がする。
まあ、肉は完全栄養食品ですし?(嘘ですよ?)
レインお手製の昼食をとって食休みしていると、僕の周りをラストがぐるぐると回っている。
早く作業させろ! と言う露骨なアピールだった。
無視した。
午後になると、ちょっと吹雪いてきた。
ラストに、作業中止にしようか? と尋ねたら怒られた。
こちらは気を遣ったつもりだったのだが。
そして今、ラストが技能を使っている。
すでに技能でバラストは敷かれていた。
その上に、なるべく等間隔で枕木を並べた。
今、ラストは枕木を並べ直している。
ラスト曰く、 「ミリ単位」 で。
「よくもまあ、これだけ適当に並べたものだな。恥ずかしくはないのか?」
今日もラストは毒舌だった。
最近は、ラストの調子がいい証拠だと解釈することにしている。
「見ていろ、ミリ単位で揃えてやる。技能、『枕木並べ』!」
何だか五目並べみたいなスキル名だな。
いや、そもそもそんなスキル名じゃなかっただろ?
ラストは、スキル名を勝手に改造していた。
確かに同じスキル名、結構あってややこしいことになっていたし。
5分ぐらいかかった。
バラストの敷いてある範囲が大体縦に30メートルくらいだ。
その上に枕木を整列させていた。
結局、見た目にはほとんど動いていないのだが、ラスト的には満足のようだ。
「何だ? ラストの技能がそんなに羨ましいのか? やらんぞ?」
ちょっと恥ずかしそうな顔で俯き気味にそう言った。
ちょ、キャラクター崩れるからやめろ、本当に。
「次は、レールだ。技能、『レール配置』!」
元の技能名は、頑なに拒否の方向らしい。
バラストの手前側に2本置いてあった、おそらく25メートルのレールが宙に浮かんだ。
ゆっくりと低空飛行して、枕木の上に着陸。
その枕木は一切ブレない。
「あとは、固定するだけだな?」
「そうだ。しばらく時間がかかる。」
「なぜ?」
「いや、当たり前だろう?」
「いや、技能で一瞬じゃないのか?」
ラストは僕を、可哀想な子を見るような瞳で見つめると、大きなため息を吐いた。
「レールを枕木に犬クギを使って固定するんだ。」
「技能でだろ?」
「そうだ。」
「なら、一瞬だろ?」
「なぜ?」
やはり平行線だった。
「マスターはわかっていない。一体何本の犬クギを使うと思っているんだ?」
「いや、本数など関係なく、一瞬で全部できるんじゃないのか?」
「できるかーっ!」
大声で怒られた。
「そんな便利な技能などないっ!」
いや、枕木とかレールとか、ミリ単位で揃えた人がそれを言うのか?
じゃあ何か、一箇所一箇所、技能を使って固定するのか?
どんだけ時間がかかるんだよ。
「じゃあ、あと、よろしく。」
「待て。お前はラストのマスターだろ! 最後まで見ていく義務があるはずだ!」
ラストさん安定のおこである。
今日も絶好調だ。
そして、ラストが地味な作業を始めた。
いや、音だけは今までで一番大きい。
犬釘を叩く音だ。
「あと、どれくらいかかる?」
「夕方までには終わる。」
「そ、そうか。」
これ、ずっと見ていなきゃ、いけないのだろうか。
最初の2つのスキルと違って、ちょっと地味なのだが。
いや、これはそもそもレールを配置する技能に含まれている内容だ。
違うと言ってはダメかもしれない。
そんなことを考えている間にも、ラストは丁寧に1本ずつ犬釘を打ち込んでいく。
その小さな体を大きく使って、犬釘を打ち込む。
技能の効果だろう。レールも枕木も微動だにしない。
そして、おやつの時間になった頃、ラストがこちらに走ってきた。
「終わったぞ! お前が見ていたから早く終わった。本来なら、夕方までかかるはずだった。」
「なぜ、そんなに時間が変わる? 半分じゃないか。」
「それは、み、認めたくない、認めたくないが、お前がマスターだからだ。」
「いや、全く意味がわからないのだが。」
「お前が近くにいるときは、技能の効果が大きくなる。」
いや、そんな特典聞いてない。
「知らなかったのか? この『レール締結』なら、最大3倍の効率になる。お前がもっと近くにいれば、3分の1の時間で仕上がる予定だった。」
「それで、か。」
僕が立ち去ることを頑なに拒否した理由がわかった。
と言うか、もっと近くにいた方が良かったと言うのがわからない。
結局、技能の問題なのだろう。
そうでなければ、近くにいるのは危ないし、邪魔になる。
「それで、どうだ? すごいだろう。」
そう言って。
ラストは両手を広げると、出来上がったばかりのレールを見ろとあごで指した。
「完成したのか。すごいものだな。さっそくロッコにトロッコを持って来させよう。」
「いや、バラストの作業がまだ残っている。」
「バラストは敷いてあるように見えるのだが。」
「レールの高さまで敷き詰める。まだ完成じゃない。」
そして、駅舎の隣に山積みになっていたバラストを、スキルで敷き詰めて、今度こそ線路が完成した。
25メートル。
駅らしくなった。
「完成したな。」
「最初は無理かと思った。やればできるものだな。」
「ラスト、珍しく弱気だな。」
「今回はすべての作業を自分のスキルだけで賄った。本来ならそんなことはしない。」
ラストは、珍しくも俯いて、表情に陰りを見せた。
両手をお腹の前で絡ませてモジモジしている。
「本来なら、か。」
「そうだ。本来なら、適切な施設があれば、短時間で効率よくできるはずだった。」
「まあ、駅ができたばかりだからな。何もないな。」
「作れ。」
俯いていた顔を、勢いよく振り上げて、いつもの鋭い眼光で睨んできた。
ちょっと殺気立っている。
「作れるんだろう? 『保線基地』を!」
「う、なぜそれを。」
「レイン様に聞いた。技能を習得していると。」
「『保線基地』があれば、もっと大量に資材を用意できる。もっと素早く線路が敷ける。さあ作れ! 今すぐだ!」
プロとしては、今の状況を容認できないのだろう。
本来なら、もっと品質の高いものを素早く作れるのにと。
そして、ボトルネックの解消方法が目の前に転がっているのにと。
なぜ、それを実施しないのかと。
「後でな?」
「ダメだ。今日はまだ、MP満タンなはずだ。もったいないぞ! もう今日は、寝るだけなんだ。その前に使え!」
「う、そ、そうか?」
流されやすい、ダメな日本人だった。
ラストの気迫に押し流された。
そして、駅の向かい側、線路を挟んで向こう側に、保線基地を設定することにした。
「設定っ!」
前回と同じように、しばらく時間が経ってから、空中に半透明の操作パネルが出現した。
「この敷地を選択しますか? (はい/いいえ)」
と、パネルが出た途端、ラストが駆け寄ってきた。
なお、操作パネルは空中に半透明になっていることから分かる通り、擦り抜け可能だ。
と言うのも、このパネル、僕の胸の前くらいの高さにある。
具体的には120センチくらい。
ラストの頭と同じくらいの高さだ。
僕から見て、胸の前30センチくらいの操作しやすいところにパネルがあるので、これを見ようとすると、僕とパネルの間に入り込む必要がある。
そして残念なことに、この操作パネルには実体がない。
よって、パネルに手をついて、よじ登ったりすることはできないのだ。
なぜこんな周りくどい説明をしているのかと言うと、ラストにやられた。
ラストが僕の体に背中を密着させると、操作パネルを操作し始めた。
すんごい勢いで。
って言うか、これ、僕のスキルなのに、他人にも操作できるのかよ!
「ちょ、ラスト?」
「いいから黙っていろ。すぐに済む。」
そう言うと、同時に目の前の敷地が一瞬光った。
「この敷地を『ウーバン炭鉱保線基地』に設定しました。」
パネルには、そう表示されていた。
そして、MPをごっそり持っていかれた。
ちょっとふらつく。
そこに、駅舎の中から自作のトロッコを抱えて、ロッコが来た。
「ラスト? まだ夜じゃない。エネルギー切れ?」
「違う。違うんだ。これはその、こいつが! マスターが私を抱きたいと言って来てだな。」
「マスター?」
「スキルを使って、保線基地を設定しようとしたら、操作パネルを勝手にいじられた。」
「ラスト、だめ。それはしてはいけないこと。」
ロッコが両手でグーを作って、ラストのコメカミをグリグリした。
ラスト、涙目になっている。
ロッコが僕の方を向いて続けた。
「ロッコ達マスターの精霊だけは、マスターの技能に干渉できる。でも万が一のことがあった時だけ。普段から干渉するのはいけないこと。」
「そうか。知らなかった。」
「ラストは、次もやる。もっと気をつける。」
「わかった。そうする。」
ロッコはため息をつくと、出来立ての線路に抱えていたトロッコを運んできた。
「ん、載せる。」
レールに載せると、軌間はぴったり。
ロッコとラストが合わせているところは見ていないので、両者の技術の高さがうかがえた。
「すごいな。ぴったりだ。」
「当たり前だ! お前にも言っただろう? 1ミリ単位で調整しているのだ。」
「ん。ミリ単位。ずれると脱線する。事故の元。」
そして、ロッコが車輪に輪止めをつけた。
「駅前は、水平。でも、風とかで動くから。」
いや、そんな小さな力で動くんかい。と突っ込みたかったが安全第一である。」
それに、トイレより向こうは、長い下り坂。
線路が伸びていくことを考えると、もし動いてしまったら、麓まで回収に行かないといけなくなる。
それは、いただけない。
「ブレーキ、早めにつけようか。」
「ん。素材があればいつでも。MP満タン。」
「ラストは、線路でMPがなくなった。今日はもう休む。早く来い。
そう言って、僕の右腕の袖を掴んで駅舎に連れ込もうとする。
腕で目を擦って、眠そうだ。
もう休むってそう言う意味かよ。
まだ夕食前だよ。
何となく分かってはいたけど。
ラスト、何気に力が強い。
見た目が騎士なので補正が効いているのかどうか。
実は引きずられている。
そして、そのまま、当直室に連れ込まれるのであった。
ラスト、恐ろしい子。
本日6話目。
それでは、21時頃に。
第2章最終話です。
予定通り今日の最後の投稿になります。
訂正履歴
レインのこめかみを → ラストのこめかみを
※ 誤字報告ありがとうございました