第3節 世界を救えない恩寵の僕たちは……
追放ブームというものがあるそうですね。
この話も、そのカテゴリーに入るのかそれとも否か。
する方はともかく、される方にとってはたまったものではありません。
<前回の3段あらすじ>
朝、学校にて、ズドン。異世界へ。
王宮にて、女神様の御前、兵士に囲まれ、この国のために戦うことを強要されるよ。
元の世界には、大魔王を倒さないと帰れません。召喚特典は、女神様から恩寵だよ。
そして、時間は現在に戻る。
女神様から、全員が恩寵の名前と効果について説明がなされた。
残念なことに、僕の「恩寵:トレイン」は役に立ちそうにないけど。
「チッ。役立たずがっ。」
小さな声だが、女神様はイライラした顔をしていた。
役立たず認定3人目が出てしまった。
最後の一人、大岩井さんだ。
彼女の恩寵は「ハーベスト」。
実家が大規模農園を経営している、ある意味お嬢様だ。
そして、その影響で、作物の収穫に特化した恩寵であった。
文明の程度は分からないが、普通に考えれば国力的にかなり有用な恩寵であるはず。
戦争とか大魔王との戦いという視点でいえば、兵站を担う重要な能力だ。
しかし、ここは大魔王を倒すための召喚者の集まり。
女神様的判定では「役立たず」である。
僕の中では、兵站の重要性を理解できていない女神様の能力に疑問を抱くきっかけとなった。
兵站を蔑ろにするのは、用兵上、かなりの下策である。
ほら、旧日本軍も、それで敗戦したとも言われているし。
それはそれとして、女神様に役立たずと言われて、大岩井さんは泣き崩れていた。
そんな彼女を嘲笑する女神様とその取り巻き。
そして、クラスメイトも、そう、クラスの仲間すらもその嘲笑に加わっていた。
正直、その感覚が理解できない。
なぜ、笑うことができるのか。
解せぬ。
「お前らの悪い影響ね。」
女神様は僕と伊藤さんを睨み、そう根拠もない毒を、聞こえないような小声で吐いていた。
いや、安心してください。ちゃんと聞こえていますよ。
いやいや、安心できる状況では無いようだ。
何故だか、兵士のみなさんが、僕の周りに集まって来ているように感じる。
うん。
気のせいじゃないね。
兵士の一人が声をかけて来た。
「お前たちは、こっちだ。」
兵士数名が僕ら3人を拘束する。
そう、3人だ。
僕と一緒に、役立たず認定された、伊藤さんと大岩井さんも一緒だ。
僕たちは、クラスのみんなから引き離される。
そして、兵士の皆さんは、僕たちを別の部屋へと連れて行こうとしている。
そんな状況の中、女神様は、クラスメイトのみんなに向かって言いました。
「この世界の救世主、勇者となる皆さんには、今からこの世界について説明いたします。」
「離せっ! 僕たちをどうするつもりだっ!」
抵抗しないと、このままでは危険だろ、誰でも予想できる。
大声で叫び、頑張って拘束を逃れようとする。
しかし、兵士のみなさんは鍛え上げられた素晴らしい肉体をしていて、揺るぎない。
こちら3名に対して、兵士は約20名と、人数的にも全く逃げられそうな感じがしない。
ちょっと大人気ないのでは?
伊藤さんに至っては、すでに諦めてしまっている。
と、いうよりも、「恩寵」を授かってから、抜け殻状態である。
クラスメイトたちは、こちらを蔑んだ目で見ている。
何なら、こちらを指さして嘲笑している者までいる。
そこまで嫌われるようなことをした記憶はない。
風紀委員の伊藤さんに、敵は多いが。
唯一、そんな目で見ていないのは、悪友の猿渡氏のみだ。
ちなみに猿渡氏は、「恩寵:オーガズム」を授かってしまった。
彼にだけは与えてはいけないエロい恩寵だと断言できる。
ただ、我がクラスでは、最もこの恩寵をうまく扱えるのも彼を置いて他にいない。
彼とて、一見僕たち同様「役立たず」組なのだ。
だが彼は、この「恩寵:オーガズム」の危険性を、誰よりも深く理解していた。
女神様も、その目を見て、戦力になると判断した。
それが、僕たちとの違いだった。
「大丈夫。先生からエロ本は回収済みだ。」
指先でつまんで持っている薄い色本を、揺らして見せつけながら、そんなことを言っている。
いや、そこ、心配していないから。
今、要らない情報だから。
これでもこの猿渡氏が、試験では総得点で学年トップである。
彼の勉強へかける思いは、常により熱いエロスのためである。
おそらく、異世界召喚されたメンバーの中では、一番機転が効くのも彼だ。
そんな悪友の彼だからこそ、なぜ、今、そのセリフなのかが疑問となった。
「ああ、そうだ。忘れておったわ。」
半ば空気と化しており、こちらも忘れかけていた王様が、僕たち3人に声をかけて来た。
「お前たちは、対大魔王の勇者として役立たず……失格だ。しかし、過去の記録から、失格勇者の中には、大魔王に味方したり、女神様に牙をむくものもいたのだ。従って、失格といえども、貴様らは危険だ。そこで、お前たちを今から、勇者として役に立たなかった罪で処刑しようと思う。」
僕たち3人に向けられた言葉であったが、勇者となるクラスメイトたちがざわついた。
当然だ。
王様は、僕たち以外にとっても、重要な発言をしていた。
すなわち、役に立たない勇者は「処刑」される、という事実だ。
処刑を宣告された僕たちより、勇者となるクラスメイトたちの方が動揺している。
「だが、そうだな。ここで見せしめに殺してしまっては、貴様らの仲間が、反発するだろう。そこでだ、チャンスをやろう。女神様、いかがでしょうか?」
チャンスについて、女神様に振る王様。
女神様は、悪い笑顔で僕たちに優しく語りかけた。
「そうですね。慣例では、今、皆の前で処刑することになっていますが、せっかく私の女神的パワーである『恩寵』を授けたのです。有効活用したいところですよね。もったいないの精神です。」
どうなのだろうか。
これは、王様に助けられたと見るべきなのか、どうなのか。
どの道、女神様の表情を見るに、あまり期待はできそうにない。
「はい。決めました。廃鉱山送りにします。あ、死ぬまで鉱山で強制労働とか、甘いチャンスじゃないですよ。そういうのは労働奴隷で間に合っていますから。この国には、たくさんの廃鉱山があります。大魔王の復活のせいで、せっかくの鉱山から強力な魔物たちが大量に湧き出してしまって、人が入れなくなっているのですよ。悲しいことですね。」
僕たちは、大魔王と闘う力がない役立たず認定された3人だ。
それは、その部下や、手下の魔物に対しても役に立たないことに当然変わりはない。
魔物の巣窟に放り込まれることを、「処刑」と言っても過言ではないだろう。
それを女神様はあろうことが「チャンス」と言いやがった。
「その、廃鉱山の奥に、あなた方を今から空間魔法で転送します。あ、大丈夫ですよ。女神的な力を、皆さんの前で示すいい機会でもありますから。ちなみに、無理だと思いますが、生きて脱出することが出来たら、その廃鉱山と周辺の山については、あなた方にさしあげます。そうですね、女神が認めた新しい国にします。これであなたも王様、女王様です。頑張ってくださいね。」
「女神様、それは、ちょっと。どこの鉱山に飛ばすおつもりか分かりませんが、鉱山資源は我が国の重要な資金源でして……。」
「あら、その重要な資金源が機能していないから、苦労しているのではないのかしら。本当は大魔王と戦うために『特別』にこの国だけに召喚してあげた『勇者』を使って、その鉱山の魔物たち、追い払えるかもと言っているのに? 大魔王の影響で、私では追い払えないのだから。」
「しかし、しかし国土を差し出すとなると……。」
王様、食い下がる。
いきなり、領土を割譲すると言っているのだ。
国土を守る国王の立場としては、認めるわけにはいかない。
しかしその反面、税収の要である鉱山が使えなくなり、困窮しているのを打開したいところでもあるのだろう。
「いい? これは決定事項だから。国王のあなたにどうこうする権利はないの。これ、女神の神託だから。」
あ、押し切った。
権力を笠にして、押し切りやがった。
女神様は国王より偉いのか?
ちょっと力関係が垣間見えた。
それを見てニマニマしてしまった。
そんな僕たちに女神様の視線が動いた。
「あと、これをあなたたちに。生き残ったら使って? 機会はないと思うけど。」
何かの巻物を一枚ずつもらった。
生き残らなければ意味のないもののようだか、今は確認する時間もないようだ。
「じゃあ、その3人から離れて。空間魔法に巻き込まれるから。」
兵士たちは、慌てて後ずさる。
当たり前だが、一緒に転送されてくれる兵士はいないようだ。
この、屈強な兵士たちの対応からも、ほぼ処刑と同じことであることがわかる。
「最後に、仲間に言い残すことは?」
「えっと……。」
「フォースドロケーション。ウーバン鉱山。深度Ⅻ。」
突然、目の前が真っ暗になる。
ああ、また転送されたのか、と思うのも束の間、足元に地面がないことに気がつく。
自由落下。
そう、重力に任せて、落下中。
っていうか、なんか言い残させろよ。
少しくらい。
こうして、僕たち3人は、女神の呪文でいうところの「ウーバン鉱山・深度Ⅻ」へと転送された。
今のところ誰にも見つからずに3話まで来ました。
結果としてステルス投稿中。
どこまでいけるか実験、している訳ではありません。
あれです、読者の目に止まるようにと、連続投稿とかいう必殺技を使うのです。
いや、でも難しいのですよ、それはそれで。
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