第24節 トロッコを走らせるには線路が必要ですよね〜
昨今、肉体労働は、忌避されがちです。
3Kとか言われているのですね。
保線は、その中でも特に「危険」が大きいです。
一つのミスが大勢の命を奪うことにつながります。
作業中のミスが自分の命を失うことと直結します。
それゆえに、プロ意識が高いと。
今回はそう言うお話です。
では、どうぞ。
<前回の3行あらすじ>
精霊たちと、ウーバン鉱山内でレベルアップに励んだ。
一番レベルアップできた経験値の元は、出口で待ち構えていたホワイトベアー。
こうしてラストは、最低限の線路を引くことができるようになった。
「ましゅたー、もう、そんな、ダメでしゅー。」
僕の目の前に、よだれをたらして眠るダメな奴がいる。
あれだ、保線の精霊、ラストだ。
なお、すっぱだかの模様。
あれほど言っていた割に、思いっきり僕に抱きついている。
両手両足を使って、それはもうガッチリと。
でも、ちびっこだし、顔が目の前にあるくらいなので、まあ、あっちの方は大丈夫そうだ。
あ、寝言から察するに、ラストの夢の中では、大変なことになっていると思われる。
ロッコは、その脇に立っていて、上から見下していた。
「ラスト、起きて。それは夢。ラストの妄想。現実を見て。」
ロッコは囁くようにラストを起こした。
なかなかに辛辣である。
「ふぇ? ん? え? え? あ、あぅ、か、か、身体はっ、好きにできても! 心まで好きにできると思うにゃーっ!」
そう叫んで、毛布から飛び出し、部屋から出て行った。
「好きに、したの?」
「今起きた。寝る前はロッコだけだったはずだが。」
「そう。でも消えてないから。これでいい。」
「ま、そうだな。」
「朝ごはん。できてるから。」
「おう、今行く。」
そうして、浴衣を羽織って朝食を食べに行こうとする。
当直室の引き戸を開くと、裸のまま戻ってきたラストとぶつかった。
「服! 服っ! 何で指摘しないっ! レイン様にまた怒られたぞ!」
まあ、そうなるよな。
僕の毛布の脇に、丸めてぽいしてあった浴衣を渡した。
と言うか、拾った段階でひったくられた。
「さ、触るにゃーっ!」
ラストは、今日も朝から元気だった。
朝食を食べ終えると、朝からラストは、「レイン様」に説教されていた。
何でかは、あえて聞かない。
「マスター。トロッコ、改造、する?」
ロッコはやる気だった。
素材もそれなりにある。
だが、それ以前にやるべきことが山積みだ。
「いや、その前に線路をひく。そしてそのための素材を調達する。昨日はレベル上げだけで満足して、うっかり忘れていたからな。」
「そう。じゃあ、何から?」
そう言われたのでレインに視線を送ると、答えが返って来た。
「今日は、一日、ラストが線路作りに励みます。それを手伝ってほしいのです。」
「お、おう。じゃあ、とりあえず、雪かきしてくる。」
「お願いします。」
そして僕とロッコは、今日も雪かきをしようと外に出た。
ちょっと肌寒いくらいだが、だいぶ気温が上がっている。
あ、晴れている。
雪、止んでる。
そして、昨日、雪かきしたところにほとんど雪が積もっていない。
いきなり、雪かきの必要性がなくなってしまった。
それでも、遊んでいるわけにはいかないので、何かすることにした。
「木、切ってくるか?」
「ん。枕木用。たくさん必要になる。」
「そうだな。あと、線路敷いたりする敷地も作らないとな。」
「ん。頑張る。」
そう言って、ロッコは僕にツルハシを渡してきた。
結構慣れたからな、ツルハシの間違った使い方。
そうして、木を3本ほど切り倒したころ、ラストが走って来た。
「お前たちは何をしているのだ? アホなのか?」
いきなりである。
僕とロッコは顔を見合わせた。
「いきなりどうした? 何か問題でもあるのか? 枕木用の材木だぞ?」
「それはわかっている。わざわざありがたい。礼を言おう。だがな!」
ラストは僕たちの所持している、ツルハシを指差して指弾した。
「それは何だ!」
「いや、見ての通り、ツルハシなのだが。鉱山で拾った。」
ラストは、頭を抱えた。
「それくらいは見ればわかる。き、貴様らは、なぜ、ツルハシで樹木を切り倒しているのかと訊いている!」
「いや、なぁ?」
「ん。これしか、ない。」
ノコギリとか、きこりさんが使うような斧があるのなら、使っている。
当たり前のことだが、ここに、そんな文明の道具はなかった。
だから、仕方なく、ギリギリ用を足せるツルハシを使っていたのだ。
「だから、アホなのかと言っている。欲しいなら、なぜ言わない。なぜ作らない?」
そう言うと、ラストは、ちょっと小型だが取り回しやすい片刃のオノを渡してきた。
「使え。作った。1つは拾った。」
どう言うことだ?
今、ラストは「作った」と言ったよな?
さらに「拾った」とも。
そんな技能はないはずだが。
昨日の段階では、線路用の技能しかなかったはずだが。
そして、まさかとは思うが、技能なしで作ったと言うことでもあるまい。
そんな簡単に作れるようなものじゃないし、短時間で完成するものでもない。
「どうやって作った?」
「技能だ。昨日レベルアップして、習得した。」
「いやいや、そんな技能習得していないだろ?」
ロッコが僕のズボンを引っ張った。
「これ、もしかすると、できる、かも。」
「心当たりが、あるのか?」
「お前も確認していただろう、レイン様と。レベル4で習得した工具類(制作)で作った。あれだ。お前の世界の宮大工とかと同じだ。まずは自分の使う工具から作るのだ。その前に、工具を作るための工具を作るがな。」
迂遠な話のように感じるが、今こうして役に立っている。
ラストのスキルは、広く浅いスキルなので、潰しが効く、と言うか応用が効く。
線路を作る工具には、さすがにオノは入らないだろうと言う思い込みがあった。
そして、ラストはそんな思いこみをものともせず、オノを制作した。
手元には斧が3挺。
「それはそれとして、『拾った』?」
「そうだ。レイン様から爆弾を拾われた小部屋について教わった。家探ししたら、斧とかノコギリとかあったぞ? 鉱山なのだから、当然だろう? 支柱木材の加工に使うのだぞ?」
「うっ。」
「何だ? 知らなかったのか。ふふん。やはり貴様はこのラストがいないとダメなようだな?」
ドヤ顔で下からこちらの顔を睨みあげる。
口角を上げてニヤついているところが特にムカつく。
でも、そうは言っても所詮はちびっ子なのでよく見るとかわいい。
だから、はいはいそうですね、と軽くいなしてやると、ラストは自分の作業を始めた。
自分で作った斧を器用に使って僕たちの切り倒した木の枝を簡単に払っていく。
そして、呪文を唱えると何らかの魔法を放った。
木から水蒸気が上がった。
一瞬で乾燥させたのか?
これも技能のうちなのか?
枝のなくなった幹にオノを入れ、そんなに時間もかけずに、枕木に形成した。
早い。
「あと、5、6本。切り倒してくれ。あと、この枕木、駅の脇に並べておいてくれ。」
「お、おう。」
「ん。わかった。」
ちょっと圧倒されていた。
技能の凄さを目の当たりにした感じだ。
ロッコと二人で協力して、枕木を移動させた。
そして、再び、木を切ることとした。
このオノ、素晴らしい切れ味だ。
おい、これ、チートなんじゃないか?
武器屋として、やっていけるんじゃないのか?
ああ、これが異世界ものの定番、異世界チートか(違います)。
感慨に浸りつつ、樹木の伐採に励むこと6本。
駅舎の裏側での作業だった。
そして、昼前にはノルマを達成した。
昼食にしようと、駅舎裏の井戸で水を飲み干し、玄関側に回った。
びっくりした。
砂利が引かれている。
いや、これはバラストか?
ちょっとだけだが。
駅務室の入り口から5メートルほど離れたところに、駅舎と並行にバラストが敷かれていた。
坑道の入り口から、トイレの前あたりまで、綺麗に新品のバラストが敷かれていた。
駅舎の近くにだけ、先ほどラストが形成した枕木が設置されていた。
そして、その脇に、25メートルくらいのレールが2本、置いてあった。
枕木待ちだったようだ。
「ふぅ。」
仕事をやり終えた感を出して、額の汗を拭うラストが立っていた。
手にはさっきのオノが。
落ち着いて見ると、ハンドアックスといったところか。
「ノルマは終わったのか? こちらは待っていたのだぞ?」
僕たちに気づいたラストは声をかけて来た。
相変わらず尊大な感じである。
「ん。今切り倒し終えたとこ。」
「そうか。じゃあ、あと一仕事してくる。枕木ができたそばからここまで運んでくれ。」
「了解。」
そして、ラストの快進撃は続く。
駅舎の裏に回り込むと、倒れている木に魔法をかけて強制的に乾燥させた。
本来ならば、生木だ。
自然乾燥ならかなりの日数を必要とする。
やはり、技能の力は大きいと感じた。
「オラオラっ!」
そして、余計な枝を払うと、枕木に形成していった。
できたそばから、僕とロッコで駅舎の表側に運ぶ。
そして、バラストの上にいい感じに並べる。
細かい作業は、ラストの技能がするはずだ。
でも、少しでも労力を減らすために、気を使ったのだ。
「結構、線路っぽくなってきたな。」
「ん。いい感じ。」
「ラストも、黙って仕事をしていればいい奴なんだが。」
「そう。照れ隠し?」
「そう言うわけではないのだが。」
そして作業は順調に進んでいた。
小一時間ほどすると、バラストの上に枕木を並べ終えた。
これでレールを乗せれば完成だ。
「お昼。」
「そうだな。一旦お昼ご飯にするか。」
「ちょ、ここまで来て、休憩するつもりかっ?」
「急ぐ必要、ないからな。」
「待つんだ! ちょ、待ちなさいよ!」
「今日も焼肉?」
「だな。」
ちょうど、太陽も真上に差し掛かっている。
駅舎の方から、肉の焼けるいい匂いがしてきた。
本日5話目。
次は、夕食頃で。