第23節 私たちレベルアップしました
「ラスト」回です。
小説や漫画を作られている方にはわかると思いますが、作中のキャラクターには、自分から動いてくれるキャラクターと、こちらが意図的に動かしてやるキャラクターとがいます。
ラストは、キャラクターが濃い上に自分から勝手に動いてくれるキャラクターなので、書いていて楽しいですし、気がつけば話が出来上がっている、と言うことが多いです。
執筆上は、とても良さそうに見えるのですが、メインの流れを喰ってしまうと言う短所もあります。
やはり、ちゃんとその辺りは面倒を見ないとですね。
1話丸々書き直したのは、秘密ですよ。
今回はそんなお話です。
それでは、どうぞ。
<前回の3行あらすじ>
朝、MPをほぼ全て消費して、召喚魔法「プレートレイヤー」で保線の精霊を召喚した。
ラストと名付けたこの精霊は、ロッコと同じくらいの大きさの女の子(騎士)だった。
そして、暴言の嵐。レインにマジギレされる。僕にはどうしても仕えたくないらしい。
「くっ! 殺せっ!」
保線の精霊ラストはまだ色々と諦め切れていないようだ。
ラストはツンデレくっころ騎士だった。
むっつりでもあった。
そうそう、エネルギーの補充に関して、大きな勘違いをしている。
それでも一応、効率よく補充できるらしいが。
夜になったら、何をしでかすか心配だ。
今、僕たちがいるところは、ウーバン鉱山の5階層。
ラストがスケルトンオークと戦っている。
というか、負けそう。
そして、あのセリフである。
「お前のような軟弱者に、助けられる必要はにゃっ、いぃ〜!」
結構、重い攻撃を連続して受けているように思うのだが。
ラストも結構粘る。
何度か助けようと思ったのだが、本人に拒否される。
最大戦力のユリも、僕の頭の上であくびをしたり、船を漕いだりしている。
尻尾が揺れているので、完全に寝ているわけではないようだ。
「あ、マスター? いいのです? ラスト、このままじゃ本当に殺される、ですよ?」
「いや、大丈夫。ダメになったら、ユリが助けることになっている。」
スケルトンオークとラストは相性が悪い。
精霊とはいえ、魔法を使わないようなので、そう言う意味ではただの騎士である。
物理攻撃としては大きなダメージを与えているのだが、如何せん回復が早すぎる。
それを剣の速さによる力技で何とかしようとしているのだ。
正直すごい。
レベル0とか信じられない。
そんな思いで、戦いを眺めていたのだが。
「わ、私をそんな獣のようなエロい目で見つめるなー! は、は、はらっ!」
そして、激しい攻防が再開する。
そんな目で見てないし。
でも、放っておくと面白そうなので、生暖かい目で見守る。
というか、おそらく、しばらくは一進一退、ラストの体力が尽きるまでは進展がないと判断したので、ハイドウルフのユリとマインバット退治に出かけた。
そして、ユリがマインバットを8匹ほど美味しくいただいたころで帰ってきた。
「なぜ? なぜだ? 相手を倒してもいないのにレベルアップしている! 何をした!」
常に喧嘩腰なのはいただけないが、レベルアップには敏感なようだ。
ユリが頭の上で満足そうにゲップしているので、ラストの方に戻ってきたのだ。
「今、マインバット8匹ほど討伐したから、ラスト、少し、レベルが上がったはずだぞ! これで何とかなるか?」
レベル0で、互角に渡り合っていたのだ。
レベルが上がったのなら、何とかなるだろう。
「ん? にゃ、にゃ二を言っている! お前にそんなことできリュ、は、はず、ないだりょ、りょ〜!』
器用に剣を振り回し、盾で攻撃を受け流しながら、そう答えてきた。
正直、すごいと思う。
初めて、スケルトンオークを正攻法で討伐できそうな感じだ。
いや、ここにきてから正攻法での討伐自体、初めてかもしれない。
ちょっと期待した。
「レイン。ラストのレベルは、一体どれだけ上がった?」
「レベル2です。ステータスも結構上がったのです。あと、レベル1で『レール(制作:30kg)』、レベル2で『枕木(制作:木製)』の技能を手に入れたのですよ?」
「ちょっと待て、それじゃ、まだ、線路を設置できないんじゃないか?」
「そうです。レベルアップして、それぞれの(設置)を習得しないと、です。」
レベルアップは急務だと感じた。
線路を設置しようとして、ラストのレベル上げと、鉱石の採掘にきたのだが。
ラストのレベルが、一定値まで上昇しないと、線路は無理なようだ。
そうなのだ。
ラストは、見た目は騎士なのだが、本来的には保線の精霊。
レベルアップして習得する技能は、当たり前なのだが保線の技能であった。
いや、レールとか、枕木とか作るのって、保線に入るんかいって突っ込みたいところだが。
「こなくそーっ!」
ラストの大剣による刺突が、スケルトンオークの肋骨をかすめて背骨に当たった。
地味な音を立てて、骨を破砕した。
どうせまた、すぐに元に戻るとたかをくくっていた。
しかし、スケルトンオークは復活しなかった。
「核を、魔物の核になる部分を、攻撃、すれば、いい、んだ、ぞ!」
ラストは、はぁはぁしながら、こちらを睨み付けてそう言ってきた。
ピンポイントに攻撃するため、ここまで時間がかかったようだ。
いや、そのピンポイントを一から探していたのだろう。
やっと見つけた感じだ。
「ハァァっ!」
そして、2匹目は、一撃だった。
一撃で、やっつけた。
もちろん復活しない。
続いて、3匹目も瞬殺だった。
「はぁ、ハァっ、はぁ。」
肩で息をしている。
だいぶ辛そうだ。
「こんなタイミングで何だが、レベルはどうだ?」
「レベル4です。あと、パーティーを組んでいたので、ロッコのレベルも上がっています。」
ラストの技能はこんな感じだそうだ。
レベル1 レ ー ル (制作:30kg)
レベル2 枕 木 (制作:木 製)
レベル3 犬クギ等金具類(制作) New !
レベル4 工 具 類 (制作) New !
設置が来るのと違うのかい!
と、突っ込みたくなるようなラインナップだった。
いや、確かに工具も必要だし、犬釘も必要だよ?
こういうのは設置スキルに入っているものだと思っていたけどね!
というか、ロッコと比べると、だいぶ細かいな。
なんか、ロッコでいうと、車輪、とか台車とかに分かれている感じだ。
「レイン、ちなみにロッコの技能も教えてくれ。」
「へ、あ、いいです。でも、比べちゃだめ、ですよ?」
「ん? まぁ、気にするもんか? レインが言うならそうするが。」
ロッコの技能一覧は、こんな感じ。
レベル1 簡素なトロッコ (車輪4,ナローゲージ用,板張り荷台)済
レベル2 カゴ付トロッコ (荷台が籠に)
レベル3 ブレーキ付トロッコ(手ブレーキ搭載)
レベル4 立ち乗りトロッコ (人が立って乗れるステップ搭載)
レベル5 鉄製枠付トロッコ (荷台のカゴの部分が一部鉄製に)
レベル6 中型トロッコ (長さ1.5倍で積載量増加)
レベル7 人力トロッコ (足こぎ式動力搭載で、積載量半減)
レベル8 屋根付トロッコ (屋根がついた) New !
「あ、あれ? なんかだいぶ、方向性が違うと言うか?」
「ロッコはトロッコ専門なので、トロッコがだんだん機能的になってきます。」
「今あるの、レベル1のトロッコな?」
「そうです。そして、レベル1のトロッコを改造して、トロッコのレベルを上げます。」
「ちょ、ロッコの技能レベルの話だよな?」
「そうです。ロッコの技能レベルまでのトロッコにできます。」
「両方一緒なのか?」
「混同しても大丈夫なくらいです。」
「結構、いいの、作れるんじゃないのか?」
「素材、いっぱい必要ですよ?」
そうだな。
まずは、レール、引かないとだよな。
レールもないのにトロッコだけ立派になってもな。
「きょ、今日のところはっ、こ、こ、これく、らいにしておいて、うあり、やるっ!」
ラストが、お約束のセリフを吐いたところで、今日は一旦帰ろうか、と言うことになった。
だって、ラスト、もう、ダメそうだし。
かなり、フラフラしている。
何なら、大の字になって寝っ転がりそうなくらいだ。
そして、外に出ようとすると、今日もホワイトベアーが待ち構えていた。
今日は、4匹。
これは、いつも通り、レインが発破した。
レインによると、実はこいつら、結構なレベルで、経験値多目らしい。
うっかり、レベルアップする僕たち。
こーへー レベル 9
ユリ レベル 10
ロッコ レベル 10
ラスト レベル 8
断続的に、ホワイトベアーが襲撃してくるのな。
でも、近くにあると言うウーバン村って、大丈夫なのだろうか。
これ、正攻法で討伐するの、だいぶ難易度高いのではないだろうか。
それから、ラストの技能である。
レベル5 バラスト (制作)
レベル6 バラスト (設置)
レベル7 枕 木 (設置)
レベル8 レ ー ル (設置・締結:ナローゲージ)
こうして、線路の設置が可能となった。
資材が確保できたらね!
ロッコの方はこうだ。
レベル 9 板バネ付トロッコ (板バネ搭載)
レベル10 動力専用トロッコ (人力動力専用の車両・注:自転車方式)
もちろん、戦闘技能を習得する、と言うことはなかった。
どう見てもラストは、習得しているように感じるのだが。
そうして、駅務室に帰ってくると、ラストは目を回して大の字になって倒れた。
まぁ、そうなるよな。
ロッコが当直室に運び込んで寝かせた。
「レイン。これで、レールが設置できるのな?」
「技能の準備は整ったのです。あとは必要な資材だけです。」
「そうなるよな。あと、線路を作る前に、気になったのだが。」
「何です?」
レインが不思議そうな顔でこちらを見た。
「外、雪、積もっているよな? 雪かき、必要なんじゃ?」
「あ!」
このあと、僕とロッコは無茶苦茶雪かきした。
本日4話目。
次は、いつものおやつの時間に。