第18節 ストーンゴーレム再び
文明社会なので、大体の場面において、便利で適切な道具が用意され、活用されることが多いものです。
山でキャンプなどするときにその便利さを実感するものです。
ああ、ナタって万能ですよね。
あれ、木も切れますし。
今回は、そんなお話です。
<前回の3行あらすじ>
伊藤さんが大岩井さんのことを思い出して、助けに行かなきゃとか言い出す。
大岩井さんの捜索と今後の備蓄のために石炭の確保に向かう。
5階層へ降りるようとすると、スケルトンオーク3匹が復活していた。また、奪った。
レベルが5になった。
スキルポイントが手に入った。
スキルはやはり手に入らなかった。
5階層を無事通り抜けたので、登り斜坑、今は下りだからややこしいが、とにかく斜坑を通って6階層へと降りて行った。
予定では、8階層まで直接つながっているので、そこまで行けるはずだった。
でも、ここに来る前に、だいぶ水没していたので、水が引いてでもいない限り無理なのだ。
そして、降りている途中で、前方にモンスターがいることに気がついた。
降りられるのはそこまでだった。
半分くらい水没していた6階層から7階層への斜坑にそいつはいた。
水没自体は、昨日のペースなら3階層から水が溢れていてもおかしくないはず。
ということは、6階層の半分より下の部分で、どこかへと水が流れ出している。
そういうことになる。
「レイン。」
「お任せです。」
レインが信号燈でモンスターを照らすと、あのストーンゴーレムだった。
ユリを僕の頭に乗っけてきたストーンゴーレムだった。
そして、そのストーンゴーレムはまた、何かを持っている。
いや、お姫様抱っこしている。
「マスター。今度は女の人ですよ?」
「そうだが、うちの学校の制服だな。」
「こいつが、大岩井とかいう女じゃないですか?」
「その通りなのだが。」
そう。
その通りなのだが、モンスターにお姫様抱っこされている状況なのだ。
そして肝心の大岩井さんは気絶しているようだ。
どうする。
ストーンゴーレムが、こちらに接近してきた。
ゆっくりとだ。
こちらには、ストーンゴーレムを攻撃できる武器はない。
剣とかナイフとか無理。
石に刃物とか、砥石の代わりにするの? という感じだ。
ユリは頭の上であくびをしていた。
全く、緊張感のない。
そんなことを考えているうちに、水から上がってきたストンゴーレムは、目の前まで来ていた。
魔物の前でボーッと考え事するなんて、自殺行為だ。
ストーンゴーレムは、両手で抱えていた大岩井さんを僕の頭に乗せようとしてきた。
いや、ユリはともかく、大岩井さんは無理。
女子にしては体格いいし。
大岩井さんの体は、顔の前を通過して、胸の前で止まった。
受け取れと。
お姫様抱っこ、お前もしろと。
そのストーンゴーレムは強要しているようであった。
結果から言えば、無血で大岩井さんを確保できた。
レインが慌てて飛んできて、呼吸と脈を確認した。
「マスター。生きています。息もあります。」
「おう。でも、かなり冷たい。急いで戻るか。」
「はいです。」
ストーンゴーレムは、元の位置に戻って行った。
6階層から7階層に入れないようにする位置取りだ。
ストーンゴーレムの動きに、疑問がない訳ではない。
しかし、今は、大岩井さんを救出することの方が先だ。
そうして、大急ぎで拠点である駅に戻った。
ちなみに、あの短時間で、スケルトンオークは復活していた。
ユリが活躍した。
3回目ともなると、20分くらいで制圧した。
慣れたものだ。
そして、こっそり僕のレベルが6に上がった。
僕は、ユリと一緒に鉱山の入り口付近に佇んでいた。
レインと大岩井さんは、今は駅務室となった「小屋」の中だ。
すぶ濡れだった大岩井さんを抱き抱えてきたおかげで、再びびしょ濡れなのだが。
そう、大岩井さんはびしょ濡れだったので、レインが服を脱がそうとして。
伊藤さんが大きい声で怒鳴って。
結果、今の状況である。
女の子が裸になるのだから、一緒にいてはだめ。
これが伊藤さんの理論。
出ていくまで大声でうるさかったので、ここまできた。
レインは風邪を引くからいいと言っていたが、もちろん、伊藤さんが聞くはずもない。
ユリと二人きりになった。
いや、まあ1人と1匹なのだが。
そして、ふと気がついた。
ちょっと、首がきついことに。
ユリ、太った?
頭の上にへばりついているので詳細は不明だ。
しかし、へばりつく前足と後ろ足の位置が、ゴキゲンに振り回している尻尾の位置が、昨日とだいぶ違うように感じる。
これは成長したのではないだろうか。
あれだ、異世界ものによくある、早く成長するあれだ。
でも、小さいままで、可愛くマスコットしてくれるのもいいのだが。
「マスター、もう、大丈夫ですよ。伊藤も反省していますよ。」
「へ? どうやった?」
「決まっているじゃないですか。 物理です。」
高校理科の教科名「物理」は、不名誉な使われ方をしていた。
また、ボコしたのね。
レイン、結構短気なようである。
「マスターにお願いがあります。」
「なんだ、金ならないぞ。」
「そんなもの要求しません。お願いも物理です。」
「僕にも伊藤をボコれと?」
確かに、レインだけじゃ、心許ないのかもしれない。
でも、空中を飛び回るスピードがあるので、小さくてもダメージは大きいのだろう。
「違います。木が欲しいです。」
「木? そこらへんに腐る程生えているじゃないか。」
「はいです。それを3本ほど、切り倒して欲しいのです。」
「どうやって? そんなスキルないのだが。」
「だから言ったじゃないですか。『物理攻撃』です。」
ちょっと待って欲しい。
確かにゲームなんかでは、剣とか場合によってはナイフなんかでも木を倒せる。
でも、現実問題として、無理ではないにしても、途方もない時間がかかる。
道具の選定は重要だ。
オノとかノコギリとか必須だ。
「わかった。わかったが、道具、あるのか?」
「えと、ですね、……ないです。」
「その話はここまでだな。」
「でも、ツルハシでなんとかなりませんか?」
レインは引き下がらない。
剣では無理なことは承知の上なのだろう。
ツルハシなら頑張ればいけるのでは? と提案してきた。
まあ、レインが言うのだ。
試しにやってみるか。
「ちなみに。」
「はいです。」
「何に使うんだ? 木。」
「駅をレベルアップします。私たちが使用しているので、レベル1にする「利用頻度」の条件はクリアしました。そして、必要素材は、
石: 100キログラム分(大きな岩石でも小さな砂利でも可)
木: 木3本分(生木でも可)
鉄: 20キログラム分(鉄鉱石でも可その場合は要石炭)
です。」
だいぶ多いな。
とりあえず、木を切るところから始めようと言う訳か。
「じゃあ、やってみる。」
「お願いします。大きめのツルハシを準備しました。」
「準備がいいな。やる気満々だな。」
「えへへ。」
昨日よりは弱くなっているものの、外は吹雪だ。
雪も30センチメートルは積もっている。
でも、少し、視界が確保できたことでわかったことがある。
廃鉱山になったとしても、元は鉱山。
村まで人や物を運ぶために道があったのだろう。
木が生えていない、道のようなものを認めることができる。
雪が止んだら、よく確認しておこう。
そして、小屋から20メートルほど道なりに山を下ったところの木を切ることにした。
近すぎると、切り倒したとき、小屋に当たって大変なことになるからな。
あと、切ったところに、トイレができるらしい。
どんなトイレかは知らないが、中世だ。
あまり期待はできない。
よって、小屋からはできるだけ離れた。
何よりも、これ以上離れると、吹雪の中、遭難しかねない。
今ならここからでも鉱山の入り口が見えるが、もっと吹雪いたら見えなくなる。
小屋を見失ったら、死に直結する。
そして、杉の木のような木に、ツルハシの平らな方を突き立てた。
試行錯誤の結果、ツルハシでもなんとかなりそうだ。
時間はかかりそうだけど。
そうして、1時間ほどして、1本切り倒した。
元々、大岩井さんで濡れていたので、凍るのではと危惧していたのだが。
思った以上の重労働。
むしろ暑いくらいだ。
でも、手の指先がかじかんでしまう。
さすがにこの吹雪の中では火もたけない。
結果として、無理に続行した。
でも、やっぱり無理。
自分で無理にって言っているくらいだし。
指が痛い。
凍傷になってはいけないので、急いで駅(小屋)に戻った。
そして、カマドに石炭を放り込んで火力を上げると、手を温めた。
昼食を挟んで再び木を切り倒しに出掛けた。
今度は、凍傷防止もちゃんと考えて、ちょくちょく休みを入れた。
午後の3時頃には、切り倒し終えた。
「マスターのレベルが、6になっています。」
「今朝、スケルトンオークやっつけた時にな。」
「じゃあ、ですね、技能のレベルを上げますか? 今なら、『設定』と『制作』の両方をレベル2にできます。」
「そうする。と言うか、あれ以来新しい技能は手に入らないのか?」
「おそらく、レベル10以降だと思います。それまではスキルポイントが重点的にたまります。」
「では!」
レインが、何やら呪文を唱えると、怪しく光った。
そうして、僕の体も一瞬同じように光り、技能が手に入ったようだ。
「で、どうなった?」
「えと、ですね、『設定』レベル2では『基地(保線)』が手に入りました。」
「駅の次が保線基地か。まあ、妥当なのか?」
「妥当です。どちらかと言うと、こちらが先でも不思議ではありません。」
「なんでだ?」
「保線基地を設定しないと、実質的にはレールが引けません。」
「なんだと?」
「ですから、保線基地がないとレール、作れませんし、設置できません。」
「めちゃくちゃ重要じゃないか。駅がなくてもレールがあれば、鉄道なのに!」
「でも、です。力技で、基地なしでもレール、引けなくもないのです。」
やっと、技能が鉄道らしくなってきた。
駅だけ先にできるって、廃線後の駅みたいで不安になっていたんだよ。
「そして、その力技でレールを作るのが、『制作』技能のレベル2です。」
「今度は何だ?」
「レベル1の『トロッコ』に次いで『プレートレイヤー』です。」
「む? 何だ? 何かのコスプレか?」
「そのレイヤーじゃないです。保線です。保線。」
「じゃあ、レベル2はどちらも保線なんだな。」
「その通りです。頑張って線路を引くのです。」
「それで木を切ったのか。」
「だから、それは駅のレベルアップ用ですから!」
先が見えてきたので、少し、安心した。
そして、技能を使って、駅をレベルアップさせようとした。
予想通りというか、期待通りというか、MPが足りなかった。
諦めて、夕食を食べて寝るのだった。
なお、大岩井さんは、いまだに起きていない模様。
実際にツルハシで木を切ったことがあります。
最も、話中とは異なり、薪割りですが。
薪割りには小さなオノを使うのですが、小さいのでよく行方不明になるのです。
そして、汎用性が高いので、いろいろなところで流用されてしまうのです。
結果、普段使われることのないツルハシの出番となったわけですが、それでも何とかなるものですね。
あと、鉱山マニア(まず、読者の方にはいないとは思いますが)の方向けに。
斧を使えよ! 必ずあるはずだ!
と言うツッコミが来る前に、あることは知っていることをここに書いておきます。
これについては、後で出てきますので少々お待ちを。
それではまた、明日の15時頃に。