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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第2章 僕の考えた最強の拠点作り
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第17節 伊藤さんの心配と大岩井さんの捜索

人はお互い助け合って生きている、とよく言われますが、実際に救助するとなると、かなり難しいものです。

例えば、海で溺れた人を助けようとした人が亡くなったり、雪山で遭難した人を探しに行って遭難したり。

2次災害、怖いですね。

でも、怖いからと言ってやらないと言うわけにもいかないのが難しいところです。


さて、今回はそんな人探しのお話に入っていきます。

<前回の3行あらすじ>

  一晩明けた。伊藤さんの様子を見ると意識が戻った。

  レインはこの小屋を「スキルで拠点にしてください」と言ってくる。

  設定スキルで駅にしたものの、名前とレベルがついた以外には何の変化もなかった。



 からん……


 からん、と、木札の当たるような音が外の方からした。


 音がした小屋の出入り口を確認する。

 内側から見た感じでは、何の異常もない。


 からん、からん。


 連続して、音がした。

 出入り口の内側の扉を開けて玄関を調べるも、何も異常はなかった。

 寒いけれど、音は外からしている。

 そして、外に通じる扉を開いた。


 からん。


 開くとともに、扉から音がした。

 扉の外側を見ると、木札がふら下がっていた。


「ウーバン鉱山駅 駅務室」


 木札にはそう書かれていた。

 設定スキルで貨物駅にしたものの、特段何も変化は見られないなと思っていたら、これだ。

 とりあえずうるさいので外した。

 吹雪の中、ずっとなりっぱなしなのは、精神衛生上よろしくない。


 そして、外を見ると、そこにも一つだけ変化があった。


「異世界鉄道株式会社(笑) うーばんこうざん」


 大きな白い看板が立っていた。

 平仮名の駅名が白地に黒文字で書かれていた。

 日本語の下に、この世界の言葉で何やら書いてある。

 おそらく、翻訳された言葉が書かれているのだろう。


 この形式、古いけど見たことがある。

 駅によくあるあれだ。

 駅名が大きく書かれているあれ。

 正式には「駅名標」という。


 スキルでMPをかなり消費したのだから、何かあってもいいはず。

 ……だと思っていたのだが、結局、変化はこの程度であった。

 ああ、ほとんど資材は消費していないからかもしれない。


 そして、消費したのはMPなのに、体力がごっそり持っていかれたようにだるい。

 なぜなのか。

 HPも減っているんじゃなかろうか?

 まあ、MPをごっそり持っていかれると、こうなるのかもしれない。

 今後のために覚えておこう。


 改めて見るに「駅名標」が立つと、日本人的には駅っぽく感じる。

 そして、ちょっと元の世界が懐かしくもなった。

 異世界で元の世界に近いものができたことに、ちょっと心を揺さぶられた。

 やることはたくさんある。

 センチになっていないで、切り替えていくことにした。



「マスター。ここで大事なお知らせです。」


 小屋の中に戻ると、レインは深刻な顔でそう言ってきた。


「どうした。何かあったのか。」

「いえ、この駅のことです。システム的な部分、知りたくありませんか?」

「まあ、スキルの説明早よ! とか言ってしまっていた手前な。」

「ですです。ではですね、駅のチュートリアルです。」


 レインは駅について説明をしようとしていた。

 ユリに乗っている。

 レインはスカートなのだが、パンツは見えそうで見えない。

 不思議だ。


 具体的にはユリに跨っている。

 ウルフ種の上位種ハイドウルフの幼生体であるユリの背中に馬乗りになっている。

 ユリ、今日はそのスタイルで行くことにしたのか。

 伊藤さんも寝たままだが、こちらに冷たい視線を向けている。

 視線がばれたのか? さすがは風紀委員。


「まず、駅にもレベルがあります。」

「レベル、好きだなこの世界。」

「そうです。で、ですね。この駅は今、レベル0です。」

「それは、まだ駅ではないのでは?」


 衝撃の事実。

 レベル0。

 スキルのレベル0では、スキルがあることだけわかって、スキル自体は使えなかった。

 おそらく駅も同じ扱いではないだろうか。


「レベル0では、駅名標が設置されます。」

「うん。今見てきた。」

「そして、それだけです。」


 ちょっとショックだった。

 ごめん、もうちょっと何かあるんじゃないかと期待していた。


「レベルを上げるには、資材を準備する必要があります。」

「あれか、鉄とか木とか。」

「そうです。慣れてきましたね。」

「もう、素材集め頑張らにゃあ、と言ったところだろ。」


 なんとなく見えてはいた。

 駅のレベルを上げるためには、素材を準備して、駅を立派にする。

 なんか、スマホの課金ゲーみたいだ。

 もっとも、お金はかからない。

 素材を自分で直接調達する必要がある。

 課金よりもよっぽど難しいかもしれない。


「あと、素材だけでなくて、『利用頻度』、いわゆる熟練度や経験値のようなものも必要です。」

「む? どういうことだ?」

「ですから、貨物駅として活用されないと、レベルが上がりません。」

「いや、レールもないのに何言っているの?」


 貨物駅として活用しないとレベルアップできない。

 でも、そもそもどうやって、活用しろというのだ。

 どうしよう、まさか、詰んでないよね?



「レールは、作ればいいんです。技能スキルで。」



 ああ、それもスキルで作るの?

 なんだかあれだ、鉄道系のゲームみたいになってきた。

 でも、ここまで厳しくないよ、ゲームは。


「ま、素材も活用も、追々だな。この吹雪じゃ、どっちにしてもダメだ。」

「ですよねー。」


 レインは駅のレベル上げをしたかったようだ。


「ちなみに、駅のレベルが上がるとどうなる?」

「便利になって、大きくなります。最終的には豪華になります。」

「それは本当か?」

「レベル1になるとトイレと井戸ができるはずです。あと、外装も少し良くなります。」

「レベル上げ早よ!」

「だから言ったじゃないですか。でも、マスターの言うとおり、この天気では……。」


 レインは残念そうな顔をして、ユリの頭を撫でていた。



「ちょっといいかしら?」


 怪我をして寝ている伊藤さんが声をかけてきた。


「どうしたの?」

「大岩井さん。大岩井さんは? 同じ鉱山に転移されているのでしょう?」

「あっ! そうか、そうだよな。会ってない。会ってないよ。」

「私もそう。探しに行かないと。」


 そう言って起き上がろうとする。

 慌てて止めた。

 傷が開いてしまったら、対処に困る。

 医者がいるわけじゃない。

 回復魔法が使えるわけじゃない。

 科学の力で、理論的に地道に直すしかないんだ。


「伊藤さんは、まず体を治さないといけない。貴重な戦力なんだから。」

「そうかもしれないけど、探しに行かないと。」


 放っておいても、起き上がって探しに行きそうな気配だ。

 仕方がない。

 やるか。


「行ってくるよ。」

「えっ?」

「探しに、行ってくるよ。大岩井さんを。」

「でも。」

「その代わり、伊藤さんは絶対にここから出ないでね。」

「あ、うん。ごめん。わがままだった。」

「いいよ。でも、戦力的に、レインとユリは外せないから、一人になるけどいい?」



 伊藤さんは、ちょっと迷っていた。

 自分の思いは間違っていない。

 大岩井さん一人では、きっとこの鉱山を脱出できない。

 助けに行かないといけない。

 でも、自分はその戦力にはならない。

 野中たちを動かさないと、大岩井さんは助けられない。

 罪悪感。

 自分は危険な目に遭わずに、野中たちに危険な鉱山内へ行かせる。

 そのわがままは人として許されるのかどうか。


「レイン。外に出たら、内側から鍵をかけて、窓から出てきて。」

「はいです。」


 レインも野中もやる気だ。

 ユリも野中の頭に合体した。

 いろんな意味でやる気だ。

 私は、口に出した以上、責任がある。

 だからせめて、今は回復に努めようと思った。



「という訳で、大岩井さん救出大作戦です。」


 鉱山の出入口、3階層の端で、レインが宣言した。

 メンバーは、僕と僕の頭にしがみついているユリと、目の前で腰に手を当てているレインだ。


「おう。それで、救出するあてはあるのか?」

「災害救助は『72時間の壁』という言葉があります。あと2日以内に見つけましょう。」

「で、どこを探す?」

「えと、ですね。普通に考えて、スケルトンオークとマインバットのコンボのある5階層は突破できないと思うのです。」


 自分たちの行動を思い出す。

 確かに、無理だな。

 僕たちだって、たまたまユリを仲間にしたから突破できただけで、本当ならそこで死んでいたはずだった。

 なら、探すのはそれより下の階層だ。

 でも、問題がある。


「問題になってくるのは、今、どこまで水没しているかだ。」

「水没している階層より上、5階層より下を探せば見つかります。」

「そうだな。そして、そこで見つからなかった場合は、まあ、あれだな。」

「そうです。あれです。」


 一晩寝て、服も乾いて、体力全回復したので、ハイペースで5階層まで到達した。

 そして驚くことに、スケルトンオークは復活していた。

 そして、ユリによって瞬殺された。

 いや、骨を盗んだだけで殺してないけどね。

 あと、盾とかも復活していたので装備品一式をさらに3組手に入れた。


 ついで、マインバットの通路は、ユリの食べ放題ゾーンと化していた。

 ユリ、コウモリを食べ放題。


「マスター、ユリ、またレベルアップしています。あと、パーティー認定されているようなので、私たちにも経験値が入っています。」

「ユリは今、レベル幾つなんだ?」

「さっき5になりました。あと、きっとスキルとかも覚えているかもしれません。」

「それはすごいな。」


 そして、6階層への斜坑へ入る頃には僕もレベルが自動的に上がっていた。

ご愛読、ありがとうございます。

そういえば前回の話で「貨物駅」、と言われてもピンと来ない方も多かったのではないかと思います。

実際、最近はめっきり減りましたから。

運送業として考えると、最終的には自動車で道路を走る必要があると言うのがネックなのでしょうか。

それとも、度重なるストライキとかで、荷物がきちんと時間通りに届かなかったのが尾を引いているのでしょうか。

そして今では、線路のない地域に貨物駅のようなものができていたりもします。

時代は、どんどん変化していくものなのですね。

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