第15節 異世界の食事は美味しいと聞きますがそれは全てが揃っていればの話です
異世界ものの定番、衣食住の確保フェイズです。
3つの中では特に住環境を整えるのが、一番大変です。
さて、町中ではないパターンでは洞窟を一時的な住居にすることが多いものですが、さて。
それでは、食べたことのある人には、飯テロになることを祈って。
<前回の3行あらすじ>
ホワイトベアーにやられた伊藤さんを寝かせた横穴は、道具置き場だった。
そこでレインが発破用の爆弾を発見。ホワイトベアーの頭を吹き飛ばしたよ。
その後、トンネルの入り口が崩落。ツルハシで頑張って岩をどかしました。
「レイン。もしかすると鉱山内の方が暖かいような気がするんだが。」
両腕で伊藤さんを抱えて、体をガタガタ震わせながら、僕はレインに申し立てた。
レインは鉱山の入り口直近にある、あの、目の前の小屋をしばらくの間拠点にしようと言ってきた。
もちろん当初はそうするつもりだった。
外気に触れるまでは。
鉱山の入り口に積もっていた崩落跡を片付けた後、外にある小屋へと移動しようということになっていたが、どうしても冷たい吹雪の中へ入っていく勇気が出ない。
そもそもここ、雪の入って来ない鉱山の入り口であっても十分に寒い。
しかも、今着ている服は、浸水の影響でまだ乾いていなくて冷たい。
何なら凍ってしまうかもしれない。
なぜ、小屋へと行く必要があるのか。(「こたつ思考」になっている)
「小屋には、鉱山内には設置できないいろいろな道具があるはずです。でなければ、さっきの鉱山内の道具部屋で全てが完結するのです。」
「何か? 外じゃなきゃできないことが、あるというのか?」
「行ってみればわかります。」
レインは吹雪の中を飛んで行った。
空を飛べるレインとしては、雪を踏む必要もないので簡単に小屋にたどり着く。
10秒もかからなかった。
しかし、こちらは2本の足で歩いていくのだ。
「レイン、これは、なかなか、すすま、ない。」
雪が積もっている。
たくさんではない。
せいぜい30センチ前後だ。
吹雪もあって、十分に足を取られる。
「私の力では開かないのです。早く来てください。とても寒いのです。」
いや、こっちだって寒い。
というか、何だかちょっと暖かくなってきた。
体があったまってきたようだ(寒さによる勘違い)。
長く感じたが、1分もかかってはないだろう。
「レイン、これ、鍵がかかっているように見えるのだが。」
当然のように、ドアノブの下にある鍵穴。
回らないドアノブ。
ガタガタ揺らしてもガタつかない無駄に丈夫な扉。
窓とか、他をあたった方が良さそうだ。
「見てきます。というか、ちょっと木の窓から入ってきます。」
レインは小さいので、木でできた窓を下から開くと、その隙間から小屋の中に侵入した。
内側から鍵の開く音がする。
「あきました!」
「ありがとう。そして、待っている必要はなかったのな。」
「そうでした。でも、窓から入るのは、マナー違反です。」
「あ、いや、まぁ、そうだな。」
吹雪が入り込まないように扉を閉める。
小屋の入り口は二重になっており、入り口を入っても、もう一つ部屋に入る扉があった。
冬、寒い地域の特徴だ。
レインが侵入できてしまう窓のことを考えれば、無駄ではないかと感じてしまったが。
「遅くなりましたが、夕ご飯にしましょう!」
レインはそういうと、小屋の中で壁際にある、カマドのようなものに近づいていった。
「料理、できるのか? 精霊は、料理食べられるのか?」
「え、当たり前じゃないですか。 私を何の精霊だと思っていたのですか?」
「いや、トレインの精霊、鉄道の精霊だろ? 料理、あまり関係ないんじゃ?」
「食堂車! 立ち食いそば! 駅弁! いくらでも関係あります!」
レインは料理できますアピールにご執心だ。
しかし、目の前にあるのは半ドーム型のカマド。
果たして、レインに使いこなせるのだろうか。
カマドの上には穴が空いていて、そこにちょうど鍋が嵌っていた。
「レイン。カマドに鍋があるからいけると思っているようだが、薪がないぞ。」
「へ? なんで薪を使うんですか? ここは鉱山ですよ?」
「いや、訳がわからないのだが。鉄とか銅とかで、どうにかなるものでもないだろ?」
「それ以外に、何が採掘されますか? 思い出してください。」
ん?
何か大事なものを忘れている感じがする。
不意に頭の中で、「練炭自殺」という単語が浮かんだ。
練炭……石炭、石炭が採れるよ。
「そうか、練炭、石炭があるんだな。」
「正解です。そこ、部屋の角の大きな木箱にたくさん入っています。」
練炭にはなっていなかった。
そうですよね、掘ったままですよね。
黒光する憎い奴、石炭が木箱に入れられていた。
そして、流れるようにカマドに入れて火をつけた。
「レイン、慣れているのな。そんなに簡単に火がつくものなのか?」
「だから、レインは鉄道の精霊です。石炭と鉄道は切っても切れない関係、ですよ。」
あっさり火をつけると、鍋の中に、何やら入れ始めた。
肉だ!
どっから持ってきた?
「マインウルフの肉です。狗肉ですのであまり美味しくはありませんが。もし、美味しい肉をごしょもうでしたら、外の熊をもう少し細かくしてください。そしたら、熊肉です。美味ですよ!」
「その肉を食べたら、ナイフで解体してくる。重くて動かなそうだけどな。」
「バラバラにしてくだされば、動かさなくてけっこうです。」
「いや、その前に、動かさないと、バラバラにしにくいんだが。」
ほぼ一日何も食べていなかったので、肉の油で焼いただけの肉でも旨い。
鍋なのに鉄板焼きである。
余分な油は中央に落ちていく、逆ジンギスカン鍋状態。
何の味付けも、タレもないけど、空腹は何よりの調味料だ。
とにかく旨い。
「では、凍結して解体できなくなる前に、ホワイトベアーの解体ショーを始めましょう!」
「やるのは僕なんだが。」
少しだけどお腹の中に食べ物が入ったので元気が出た。
その元気を使って、外に出るた。
周辺を探してみると、ホワイトベアーは鉱山の入り口近くで雪に埋もれそうになっていた。
早く解体しないと。
「じゃあ、簡単そうな腕から。」
30センチくらいの鉱山で拾ったナイフを突き立てる。
突き立てるのだが、毛皮がナイフを弾いて、刺さらない。
「マスター、何やっているんですか?」
「いや、毛皮の守備力が高すぎて、ナイフでの解体が無理のようなのだが。」
「あ、コツがあるのですよ? 刺すのではなく、引いてください。」
言われた通り、毛皮にナイフを当て、引いてみた。
あっさり刃が通った。
そして、肉も簡単に切断できた。
でも、骨で止まる。
「骨は、ナイフじゃ無理です。あれです、ツルハシの反対側で切断して下さい。」
「反対側?」
「そうです。尖っている方と違う、平べったい方です。」
ツルハシって、両方尖っていると思ったのだが。
よく見てみると、ツルハシは尖っている方とそうじゃない方があった。
そうじゃない方は、農業で使う鋤の小型版のような形だ。
ああ、確かに、これを振り下ろせば、あっさり骨でも切断できそうだ。
そうして、熊を何だか雑に解体して、レインが空間魔法で収納した。
血抜きとかしていないけどいいのだろうか?
「これで、熊肉祭りです。」
「旨いんか?」
「美味です。あ、でも、期待しないでください。」
「どうしてだ?」
「実はクマって、イヌの仲間ですから。」
「何だと!」
「ですから、さっきの狼肉と味はあまり変わりません。肉が大きいので、食べでがあります。」
「そうか、そうなのか……。」
クマは大きくなったイヌなのか(そんなことは言っていない)。
じゃあ、旨いって期待できないな。
「レイン、これ、旨いよ! でも固っ!」
「そうでしょう、そうでしょう。熊肉、気に入っていただけましたでしょうか?」
「おう、もう、これ、旨すぎでしょ!」
レインに期待値を下げられていたおかげかどうか知らないが、熊肉はとても美味しかった。
もちろん、獣肉の臭みはあるし、薬味もタレもない。
それを差し引いても美味であった。
お腹がいっぱいになるまで食べてしまった。
そして、お腹がいっぱいになったので眠くなってきた。
「マスター、脱いでください。」
唐突に、レインが服を脱ぎながら言ってきた。
「レイン。あのな? なぜ服を脱ぐ?」
「マスターは何で服を脱がないのですが?」
平行線だ。
レインは服を脱ぐことを当然と考えているようだ。
男がいる前で下着になるのはどうかと思う。
「一応、僕も男なのだが。」
「そんなこと言っている場合じゃありません。せっかく火を焚いているのですから有効活用しないといけません。」
「ん? 何を言っているんだ?」
レインは小屋の中にあったロープを上手いこと小屋の梁に結えて、洗濯ロープとした。
そして、着ていた服を絞ると、一枚ずつ干していた。
うむ、わかった。
「確かに、服、干さないとだな。」
「そうです。このまま寝てしまっては、風邪を引いてしまいます。」
「わかった。脱ぐよ。」
「着替え、置いておきます。」
レインはそう言うと、空間魔法で浴衣を取り出して机の上においた。
そして、いつの間にかレインは浴衣を羽織っていた。
あ、洗濯物に下着も干してある。
「濡れたままでは、風邪をひきます。さあ、恥ずかしがらずに脱ぐのです。」
「おい、やめろ。自分でできる! 自分で脱ぐから許してくれ!」
「あ、これは、『脱がしてくれ』と言うツンデレですね。わかります。」
「違う、ちょ、こら、あっ、あー!」
洗濯ロープにはレインの小さな下着に並んで、僕の大きな下着も干されてしまった。
火があるのである程度は温かいものの、浴衣一枚ではいくら何でも寒い。
これはこれで風邪を引きそうなのだが。
服を着替えてゆったりしてると、レインが外から雪を持ってきて、鍋に投入していた。
鍋に投入された雪は、時間をかけて水になり、焼肉の匂いを放つ湯気が出始めてきた。
「湿気も、大事です。冬は乾燥しますから。お肌の大敵です。」
「ありがとう。そうだな、レイン気が利くな。それに空焚きはよく無いしな。」
「そうなのですよ。これで大丈夫です。」
「レイン、一つ気がついてしまったのだが。」
ちょっと深刻な顔で、小屋の中を見回しながら僕は告げた。
「ここには寝床がない!」
「伊藤さんを地面に寝かせておいて、それを言うのですか?」
「どうしよう、もう、だいぶ眠くなってきたよ。」
「あ、カマドの火、見ておきますから寝ていても大丈夫ですよ。」
「いや、どこで?」
「壁にでも寄りかかるか、床で寝るといいです。野宿よりマシです。」
「そうか、そうだな。そうする。」
そして、木の板でできた床に寝転がると、ユリがカマドに向かって歩いて行った。
カマドの前で体育座りしているレインと肩を寄せ合った。
ちょっと、微笑ましいな、なんて思っていた。
そして、今がチャンスと、帽子をかぶって、眠気に流されるのだった。
継続的に読んでくださっている読者の方が一定数いらっしゃるようです。
ありがとうございます。
とりあえず、しばらくは毎日投稿を続けることができるペースを維持できています。
一話あたり、大体3000〜5000字を目安に頑張ります。
そろそろ、鉄道の関連の話に入り始めます。
詳しい方からすると、なんじゃしょりゃー!
と、なるかも知れませんが、異世界もの、ファンタジーと言うことで許してくださるとありがたいです。
でも、「これは、本当はこうなのよ?」と言うご指摘も歓迎します。
メンタル弱いので、受けきれるかどうかは自信ありませんが。