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第139節 サーフェイズ金山制圧 その後

サーフェイズ金山の後日談です。

次の話から、多少時間が前後しますが、鉱山の話だけを抜粋しています。

了解くださいませ。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後73日目朝>

場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村

視点:野中のなか


 魔王軍のせいで世界的に鉱山が使用不能になっていた。


 魔王軍が、鉱山という鉱山全てに、魔族を派遣した。

 鉱山の中にいる全ての人間を、マインウルフ(メス)に変化させる魔法を使ってきたのだ。

 今のところ、元に戻すことができていない、とんでも攻撃をだった。


 しかも、種族と性別を変更されただけであきたらず。

 鉱山から外に出られなくなる呪いまでセットでかけられていた。

 しかも、仲間を人質にとられて、魔族の言うことに従う他ない状況。

 ちなみに、抵抗した者たちは、全て消されたそうだ。


 鉱山は、鉄や銅、金銀といった貴重な金属だけでなく、燃料となる石炭も供給していた。


 いや、中世ヨーロッパ的な世界観としては、石炭よりも薪だろうと思うのだが。

 都会では、より効率のいい石炭を使用しているところが多いそうだ。

 田舎では、無駄にたくさんある木を使っているのを目撃している。


 木を切り倒して乾燥させ、割って作られる燃焼効率の良い薪は、実は高価だ。


 田舎なら、山に入ればいくらでも木の枝が落ちている。

 つまり、薪割りの必要すらなく、魔物さえ気をつけていれば、簡単に燃料を調達できる。

 ただ、都会になってくるとそうもいかないので、薪を買う必要が発生する。

 それが、より効率のいい、石炭になりつつあったのだ。


 今の日本では、さらに効率のいい、石油やガス、果ては電気に移行しているのだが。

 さすがに異世界では、そこまで進んではいない。

 そのかわり、異世界なのだから、魔法で何とかできそうなものなのだが。

 見ている限りでは、そういうことにはなっていなかった。


 ウーバン村の生活を見ていても、生活の中に、魔法が浸透していない。

 魔法道具が全く使われていないという訳でもないが、使われているのは、ほんの一握りに過ぎない。

 効率の問題ではなく、価格の問題があるのだろう。


 話は逸れたが、そんな鉱山を、我が国では魔王軍から取り返すこと3箇所目。


 問題は、鉱山の利権だった。


 近しい世界の中で、鉱山から鉱物を採取できるのは、我が国だけ。

 それはいささか、他国から見ると、問題を孕んでいた。

 理由は簡単。

 燃料と金属は、全て、軍事利用されるためだ。


 つまり、燃料と金属をどれだけ確保できるかが、戦力に直結する。

 そうなってくると、次第に我が国が、戦力的に圧倒的有利な状況になることが予想できる。

 圧倒的有利になる前に、今までの貯金があるうちに、この状況を打破したい。

 他国が、そう考えていろいろと策を練ってくるのは、ある意味当然。


 本来ならば、我が国同様、鉱山内の悪魔とモンスターを討伐すれば、解決する問題だ。


 しかし、それができない。

 できていたら、そもそも閉山していないのだから。


 色々な動きがあった。

 まず、はじめに、いちゃもんをつけて、鉱山の使用を停止させようとしてきた。

 世界のバランスが崩れると、魔王軍に付け入る隙を与えてしまうとかいう理由だった。

 もちろん、そんな話を聞く必要はないし、こちらには何の利点もない。


 次に、使用を止められないのなら、各国の共用にしようとか言ってきた。

 魔王軍と戦うためにも、武器とか防具が必要だと。

 そのための資源は、絶対に必要。

 独占など許されないと言うのだ。


 許してもらう必要性がなかった。

 だから、つっぱねた。


 そうしたら、今度は討伐依頼が来た。

 鉱山に巣食う、魔族とモンスターを掃討して欲しいと言うのだ。

 依頼料が貰えるのならともかく、そういうわけでもないらしい。

 そんな意味のないボランティアはまっぴらなので相手にしなかった。


 そこへ来て、今回、帝国内の金山を、魔王軍の手から、解放してしまった。


 そんな話を聞きつければ、なぜ、帝国だけ? と言われるのは目に見えている。

 それどころか、解放したことをいいことに、金山の権利を取り上げられそうになっていた。

 帝国の皇帝陛下に。


 面倒だったので、金山の開放は、やめた。


 と言うことにしておいた。


 帝国兵を確保したところで、満足したと。

 元坑夫のマインスパイダーたちが強すぎて、手が出せないと。

 そう言うことにしておいた。


 そこで、マインスパイダーたちと口裏を合わせておいたのだった。


 帝国も、兵を率いて、マインスパイダー狩りに来たのだが、ことごとく返り討ちにあっていた。


 マインスパイダーは、クモなので、糸をはいてくる。

 身動きが取れなくなって、何度も撤退させられていた。

 ちなみに、ステータス上の特技の説明は、こうだ。


マインスパイダー

 種族固有特技

 Lv1 蜘蛛の糸

    蜘蛛の糸を吐き出すことができる。

    ① 蜘蛛の巣を作ることができる。

      通りかかった敵を捕獲できる。

    ② 蜘蛛の糸を敵に向けて吐くことができる。

      敵の士気と素早さを低下させることができる。

    ③ 蜘蛛の糸で敵を拘束できる。

      敵を拘束し、行動不能にできる。

   なお、この「蜘蛛の糸」は、拘束した敵と一緒に美味しく食べることができる。


 レベル1にして、種族固有の強力な特技が手に入る。

 あまりにも強力すぎる。

 その上残念なことに、帝国兵とのぬるい戦闘でも、マインスパイダーたちには経験値が入った。

 帝国が攻め込めば攻め込むほどに、マインスパイダーはいい感じに強化されてしまうのだった。



 マインスパイダーたちは、ある程度のレベルになると、岩石魔法が使える様になる。

 マインウルフたちもそうだったのだが、ちょっと方向性が異なっていた。


 マインウルフたちの得意とする魔法は、岩石の移動と加工だった。

 例えば、岩盤でできている坑道を、チーズを切り取る様に魔法で作ることだできた。

 地上から、地下にある岩石を加工して持ち上げ、城壁とすることもできた。

 何気に、戦力としては、かなりの力になった。


 つまり、彼らは、岩石を回収したり利用したりすることに特化していた。


 岩石を、空間魔法で持ち上げることすらできるのだから。

 重機がいらなくて、大変結構だった。


 マインスパイダーには、そんな便利魔法は使えなかった。


 彼らの得意とするものは、違う意味での岩石の移動と加工だった。

 マインスパイダーは、岩石魔法で岩盤を切り取ることができない。

 できても、効果が小さく、効率はとても悪い。


 できることは、岩盤から、岩石を吸収して、岩石の玉を作ることだった。

 マインウルフのように空間魔法が使えるわけではない。


 なぜなら、そんな魔法がいらないほどに、マインスパイダーは強力だった。

 その巨体と筋力で、簡単に岩石の玉を移動させることができていた。

 作った岩石の玉をどかしていけば、ある意味、鉱山を掘ることができる。

 方向性はことなるものの、違った方法で、鉱山を掘れるのだった。


 ちなみに、ステータス上の特技の説明は、けっこう短かった。


マインスパイダー

 種族固有特技

 Lv3 玉掘り

    周囲の岩石を吸収して、丸い岩石の玉にすることができる。


 ただし、問題は、切り取るわけではなく、「吸収」すると言うこと。


 かなり上手に使いこなさないと、思ったような形の坑道にはならない。

 とにかく、どんどん前に向かって岩石魔法を使っていけば、坑道は前にできる。

 だが、どうしても形が不恰好になるのだ。


 しかし、そんなマインスパイダーにも、より高性能な岩石魔法が備わる予定だ。


 職長だったという、コールマンと呼ばれている坑夫の親玉。

 彼だけは、なぜか無駄にレベルが高かった。

 魔族から、仲間をかばっていたということだ。

 その行動で、経験値が稼げてしまっていたのだ。


 部下たちに慕われる、いい職長だった。

 そんな彼だけが、使える問題の魔法があった。

 彼が言うには「精錬魔法」だそうだ。

 これも、ステータス画面での表示で説明されている。


マインスパイダー

 種族固有特技

 Lv12 玉造り

    玉掘りでできた玉を、岩石玉と不純物の玉に分けることができる。

    ① 岩石玉

      岩石の主成分だけでできている岩石の玉。

      クリティカルがでると、なぜか水晶玉ができる。

      岩石玉は、魔法で岩盤に吸収させて戻すことができる。

      戻した分、岩盤はふくらむ。

    ② 不純物の玉

      金属や硫黄など、不純物だけでできている玉。

      ほとんどの場合は、合金になる。

      クリティカルがでると、もっとも多い成分だけ分離したもう一つの玉ができる。

     

 岩石の中から、金属をより分けてくれる問題の魔法。

 マインスパイダーが作った岩石の玉に、「精錬魔法」をかける。

 すると、岩石と、金属とに分けられるのだ。


 目の前の岩石の玉が、ひとまわり小さな岩石の玉と、金属の小さな玉になる。

 これはすごいと称賛したのだが、職長コールマンは、ダメだと言い切っていた。


 この魔法の原理は簡単だった。

 岩石の主成分である、主に二酸化珪素だけを抜き出していると考えればわかりやすい。

 実際にはいろいろな成分で出来上がっている岩石だ。

 そこから、岩石以外を抜き取る魔法、というのが精錬魔法の正体だった。


 魔法的には、ひとまわり小さな、純粋な岩石の玉を作るのが目的の魔法なのだ。

 隣にある、必要のない不純物を追い出して、いい岩石が作られると言うのだ。


 しかし、実質的には違う。


 溶鉱炉を使わずに、金属を精錬できてしまうお手軽魔法だった。

 すごい魔法が使えるのなと言うと、だから素人はと、ダメ出しされる。


 この鉱山は、金と銀が産出される。

 つまり、不純物の玉は、金と銀の合金なのだ。

 もっと専門的に言えば、不純物なる、微量の鉄とか銅とか、なんなら、レアメタルなんかも含まれてしまっている。


 結局のところ、金属の塊というだけで、金の塊でも、銀の塊でもない、雑多な延棒的なものが出来上がってくる。

 つまりどう言うことなのか。

 金や銀として使用したいのならば、改めて、精錬する必要があるのだ。

 不純物の多い金属塊から、精錬して、金だけを取り出す作業が必要になってくる。


 その後、銀を取り出す作業や、その他の金属を取り出す作業も必要だ。

 つまり、そのままでは、使用できない金属塊ができると。


 しかしそれでも、効果は十分だった。


 とりあえず、太古の昔からある金山ではあるが、出口が帝国側にあるのはまずい。

 森の中に小屋を作って、出入り口はそこだけにした。

 マインウルフたちが、岩石魔法で、出口を塞いでいったのだ。

 

 その一方で、マインスパイダーたちが、岩石魔法で、ヨーコー嬢王国まで、坑道を掘り進む。

 出口は、ド・エッジ砦内にした。


 これで、帝国にバレることなく、金を産出しまくることができる。


 今までの鉱山と違って、金属だけを取り出して運ぶので、運搬効率はかなりいい。


 純粋になった岩石は、マインスパイダーの岩石魔法で再び坑道の壁に戻すことができる。

 どんどん掘り進んで、どんどん金属を産出する。

 だけれども、落盤の心配も、粉塵の心配もない。


 あるのは、マインスパイダーが人を食べてしまう心配だけだ。


 それも、出口を封鎖することで、不用意に人間が入ることもない。


 なお、彼らとの意思の疎通は、山神様やまのかみさまにお願いしている。

 対応は、王国のマインウルフだ。


 人間以外に対しては、食べたくなる衝動が働かないそうだ。

 聞き取り調査と僕の身を呈した実験の結果、弾き出された結論だった。

 これで、安心して、この鉱山を運営できる。


 色々試した結果、マインスパイダーは、動物なら、何でも食べるられることがわかった。

 別に、餌として、人間が必要なわけじゃないのだ。

 そこは、安心した。


 必要な食料は、付近の森の中で調達するようにしている。

 マインウルフたちと、一部のマインスパイダーの共同作戦でだ。

 人間がその周囲に入ると、うっかり食べてしまいかねないので、そこは気を配った。

 マインウルフの鼻で、人間の匂いが近づいているとわかったら、撤退していた。


 食料も調達できて、レベルアップもできる一石二鳥だった。

 このシステムを構築して、将来、どれだけの稼ぎを作れるのか、うっかり皮算用していた。


 ところが。

 鼻がいいと言うか、勘がいいと言うか。


 皇帝陛下に感づかれたようだ。


 なぜなら、マインスパイダー混成団が、食料調達のために帝国領内の魔物狩りをしまくった結果、皇帝陛下のいらっしゃるヴァイスフロスト城周辺が、安全になってしまったのだ。

 なんなら、昼間に歩いても、魔物に会えなくなってしまった。


 バレた原因は、魔物に会えなかったからだった。


 皇帝陛下が、元帝国兵のマインウルフたちを率いて、レベル上げをしようとしたところ失敗した。

 ある意味成功なのだが、皇帝陛下的には失敗だった。

 なにしろ、魔物がほとんど出ないのだ。

 あれほど、苦しんだ魔物が、いくら探しても、弱いのが少ししか出てこない。


 帝国兵のレベル上げ的には、弱い魔物を狩ることができて、安全に全体のレベルを底上げできたので、とても良かったはずなのだが。


 皇帝陛下は納得できなかったようだ。

 たくさんの強敵を討伐してこそ、レベル上げなのだと。


 いや、帝国兵は、そこまでレベル、高くありませんから。

 今くらいの頻度や敵の強さで、ちょうどいいですから。


 王国の斥候であるマインウルフからの報告を聞いていて、思わず突っ込んでしまうのだった。

野中の小狡い活躍でわりをくう皇帝陛下。

復活しない金山に業を煮やす皇帝陛下。

なかなかレベルの上がらない自軍のマインウルフたちにヤキモキする皇帝陛下。

次の話は、そんな皇帝陛下のお話です。

それでは、がんばれれば、また。

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