第137節 サーフェイズ金山制圧 探索編
金山に入ったら、金を掘りたいというのが本音なのですが、そうも言ってはいられません。
まずは、魔族たちから取り返さなければならないのです。
今回は、その攻略回。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後71日目朝>
場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村
視点:野中
サーフェイズ金山は、拠点であるウーバン鉱山からちょっと遠い。
まず、トロッコじゃないと行きにくい。
ルートは、ウーバン鉱山駅から、この間新線を引いたウーバン街道駅まで北上する。
そこから、国境線を西へ進み、ド・エッジ東駅まで進む。
トロッコはここまで。
あとはそこから、国境の壁の北側に降りて、街道を北西に進む。
途中で街道から逸れて、西の山の中に入って行くと、金山に到着する。
歴史ある金山なので、たくさんの坑道が、口を開けて待っているということだ。
入口が多いのは、ダンジョン完全攻略を目指す上では、多大な障害だ。
だが、まあ、どうやって行けばいいのか理解できているのは、大きなアドバンテージだ。
知らないところに突っ込むのよりは、断然いい。
今回の攻略メンバーは、ちょっといつもと違う感じだった。
僕と、レインが行くのは、いつも通り。
ハイドエルフになったユリもついてくる。
精霊のロッコとラストは、来ないが、パンドラがついてくる。
レベル上げが必要だからだ。
あと、道案内役として、山神様もいらっしゃる予定だ。
どこで落ち合うのかは知らないが、そのうちきっと湧いて出てくるから心配はいらない。
なんと、今回の攻略メンバーはこれだけ。
たったの5人。
舐めてるんじゃないだろうか。
まあ、冒険者のパーティーとしては、5人は多めだが。
まず、山神様は、案内役で、戦闘の役には立たない。
逆に、いつでもいなくなれるので、やられることもない。
守る必要がないのは、大変助かる。
やられるところを見るのは、精神衛生上、大変よろしくないのだが。
レインとパンドラは、「BAN!」魔法とお札で、魔族を素早く攻略できる。
ユリは、元々ハイドウルフだったので、もし、元帝国兵のマインウルフがいた場合には、ウルフ語的なもので、意思の疎通が可能だ。
あと、戦闘力高め。
敵に回してはいけない。
ああ、忘れがちなので数に入れていなかったが、シルバースライムのカタリナもいたよ。
今回は、かなり暑いダンジョンらしいので、鎖帷子にはなれないらしい。
カタリナが言うことには、体が熱を帯びてしまい、僕の体に根性焼きができてしまうそうだ。
一般的には、火傷って言うけどね。
だから、今回は、鎖帷子という鎧スタイルではなく、独立した同行者となっていた。
レインが定位置の右肩に座っているのだが、カタリナは、左肩に座ってきた。
ちなみに、レインと違って、金属なので、それなりに重かったりする。
だが、女子に体重の話は禁句だ。
銀なんだから、それなりの密度があって、見た目よりもはるかに重いんだよ。
配慮して欲しいところだよ。
もっとも、過保護なカタリナが、僕から離れる様子はなかった。
本来なら、くさりかたびらスタイルで、常に密着していたいらしい。
まあ、鎧として装備していれば、最強の防御力を誇る訳だから。
自分で外すことができない呪い装備なので、納得はできないけれども。
そんなメンバーで、トロッコを走らせ、金山へと突入した。
「マスター。金山には、本当に金があるのです? マグマばかりが見え隠れしているのです。これは、危険な予感しかしないのですよ?」
「こんな状態の坑道で、本当に大丈夫なのか? 正直、生きて出られる気がしないのだが。」
現地で合流した山神様の案内で、最短ルートを進む。
目指すは、マインウルフたちと、それを作った魔族、そしてその親玉だ。
まずは、マインウルフたちを確保して、それから、魔族を討伐していきたい。
人質にされたくないからだ。
最後に、満を辞して親玉討伐といきたいもの。
予定は予定なので、敵がその通りになってくれる保証は、一切ない。
まあ、出たとこ勝負な部分が、大勢を占めているのは仕方のないこと。
がんばるしかない。
金山に入って、初めての斜坑、普通のダンジョンなら、下り階段にあたる部分に辿り着いた。
鉱山は、鉱石を運ぶ都合上、階段が存在しない。
あっても立坑の梯子だ。
だから、移動しやすくもあり、場所が分かりづらくもなる。
斜坑を降りたところが広いホールとなっていた。
そこには、黒毛のウルフがたむろして、寝ていた。
おおよそ、10匹だろうか。
さっそく、ユリが交渉に出ていった。
ちょっと、交渉が長引いている様だ。
なにか、ネックがあるのなら、早目に知らせて欲しいもの。
そして、ユリといっしょに、マインウルフ10匹がついてきた。
「マスター。このマインウルフたちは、予想通り、元帝国兵の男たちです。そして今は、魔族の手によって、マインウルフのメスにされています。なんとか慰み物にはされていないそうですが。」
「まじか。なんで、交渉が長引いた?」
「持ち場を離れると、仲間が殺されると言うのです。」
「なら、離れなければいい。」
「は?」
「ここで、そのまま、寝ていれば殺されずに済むだろう?」
「ですが、」
「まずは、こいつらから、魔族の情報を引き出すんだ。何匹倒せば、こいつらを安全に救助できるのかを。」
「はぁ。わかりました。」
もっとも、マインウルフたちには、僕たちの話している内容が理解できている。
だからすぐに、ユリが回答を伝えてきた。
「わからない。それが答えです。少なくとも10体前後。あと、一番奥にボスがいるそうです。悪魔らしいですよ?」
「まじか。こんなところでサボってんじゃねーよ。ちゃんとサッシー王国に攻め込んどけよ。」
「ま、仕方がありません。あとでまとめて討伐いたします。」
「ほんと、たのむ。逆に、帝国兵は、この金山にどのくらいいるんだ? 生きている数で。」
「待ってくださいね。」
マインウルフたちは、ばふばふ言い争っていた。
回答に、いくらかのブレがある様だ。
「はあ、1個中隊で来たそうです。人数にすると40人。その他に、もともとこの金山で金を掘っていた者たちが、30人ほど。合わせて70人。ただ、その全てがメスのマインウルフというわけではないそうです。」
「なんだと?」
「一部は、別の魔物にされていると言います。はあ、ほんとですか?」
「何と言っているんだ?」
「はい。信じたくはありませんが、マインスパイダーと。」
おいおい。
聞いてないよ。
何だよ、マインスパイダーって。
蜘蛛ってことだよな?
「うっかり踏み潰してないだろうな? そこまでは気をつけていないぞ?」
「ご心配なく。マインスパイダーは、マインウルフたちと同じくらいの大きさですから。」
「まじかよ。普通に戦って勝てそうにないんだが。」
「そこはマスターが囮になってくだされば、私がなんとかしましょう。」
「いや、囮、いらないよね? 別に普通に討伐できるんだよね?」
「蜘蛛の糸で縛られたマスター。そして、わたしに助けを求めるマスター。すごくいいです。」
何か、焦点のあっていない目をして身悶えるマインエルフのユリ。
あれか?
結構Sっ気強いのな?
そこまでは、付き合えないよ?
「マインウルフは、クラスアップするとマインエルフになれるだろ? マインスパイダーはどうなんだ?」
「そうそううまく行くとは思いません。レイン様はご存知ですか?」
「クラスアップの時にしか分からないのです。でも、希望を捨ててはいけないのですよ?」
「いや、絶望的だろ。」
「クラスアップの時には、いくつかの選択肢が提示できるのです。がんばるのですよ?」
「まあ、やるのはレインだしな。」
こうして、2階層の入り口で、10匹のマインウルフたちと別れた。
4階層に降りたところで、また、マインウルフ軍団に出会った。
「魔族の匂いがぷんぷんするのです! 消すのですよ!!!」
「いや、拷問するから。話を聞き出すから。」
「も、問答無用なのです! 魔族を前にすると、我慢できないのですよ!!!」
「ま、魔族のみなさん! 逃げて! 消されますよ! 僕なら拷問だけですみますから!」
「な、何でバレたし?」
マインウルフ軍団に変身して紛れ込んできい魔族が3体。
マインウルフはここでも10匹。
とりあえず、この魔族を確保するか。
「いや、魔族討伐を専門にしているんで。」
「なんて迷惑な人たちなんだ。出口はあちらだ!!!」
「知ってる。30分くらい前に入ったばっかりだから。」
「どうしよう、この非常識な人たち。お、お、おまえら、やっつけろ!!!」
「ほんと、そういうの迷惑なんですよ。人間は、自分の国に帰ってください。」
「いや、帝国兵とか、鉱山労働者とか、返してもらいに来たんだが? いるだろ?」
「生きてるわけねーだろ? みんな、大魔王様の元へ送り飛ばしたわ!!!」
「ばっかじゃねーの? 魔族は人間を殺して、魂まで奪うんだぜ? お前らのもな!」
なんか、残念な魔族と、やんちゃな魔族たちだった。
自ら正体を現してくれたので、個別に判別する手間が省けた。
ちょっと、頭が弱い可能性、大だった。
「お前らの仲間の、マインウルフはいただいた。殺されたくなければ大人しくするんだ。」
そう言って、近くにいたマインウルフの首を抱え込む。
困惑するマインウルフ。
僕の後ろから、ユリがこっそりウルフ語で説得している。
後で、必ず助けますからとか言っているらしい。
「帝国兵の皆さん。助けに来ました。あの魔族は、ウルフに変身させる情報、もっていそうですか?」
「は? お前、なんでウルフ語が? って、ウルフかよ!」
「元に戻す方法を探しに、この金山に来ました。あいつらは知っていそうですか? 拷問して聞き出そうと思っているのですが。」
「あいつらは、下っ端なんだよ。おそらく、やれるのはボスの悪魔だけみたいだぜ? たまに来る人間とかを、魔族がウルフ化させているとこ見たことないからな?」
「ありがとうございます。」
という、会話がウルフ間で成り立っていたらしい。
もちろん、人間である僕たちには認知できない言葉と音なのだが。
「レイン様。そいつら、何の情報も持っていません。やっちゃってください。」
僕を差し置いて、ユリが結論を告げると、勝手に魔族攻撃許可を出していた。
「行くのですよ!」
「BAN! BAN! BAN!!!」
レインが、魔法を使おうとした時には、すでに魔族はいなかった。
一瞬でパンドラが、3枚のお札を魔族に貼り付けて消していたからだ。
レインは、大いに空ぶっていた。
「は、速いのです! パンドラにも意外な特技が!!!」
「いえ。レベル上げに来ているのですから、レイン様にもっていかれるわけには参りません。」
「ま、負けないのですよ?」
「私も、レベル上げのために、負けられません。」
パンドラは、レベルが1から3に上がっていた。
Lv1 きっぷ扱い きっぷ等の扱いがプロとしてできるようになる。
Lv2 案 内 いろいろな案内ができる様になる。
Lv3 保 安 駅や列車で、異常を感知できる。
ステータスを見せてもらうと、車掌のスキルはたいへん微妙だった。
Lv1のきっぷ扱いは、やらせれば素人でもできそうな気がしてならない。
どのあたりが、スキルなのだろうか。
あと、なぜ、「扱い」は漢字なのに、「切符」は漢字ではないのか。
「車掌のスキルは、こう言っては何だが、どうなんだ? いい感じなのか?」
「先ほど、使いました。『BAN!』のお札を貼る時に使いました。『きっぷ扱い』を。」
「いやいや、ぜんぜんきっぷじゃないよね? おかしいよね?」
「きっぷ等をプロ級で扱える様になるのです。お札もぎりぎり入ります。」
「うそだろ?」
「入りました。だから、レイン様より先に、3枚も使用できたのです。」
「マジか。」
「マジです。」
まだ、きっぷも作っていないのに、きっぷ扱いとは、無駄スキルだと思ったが違った様だ。
レインの、「BAN!」の札と合わせ技で、すごく活躍するスキルだった。
なにしろ、本家のレインよりも早く使用できる。
パンドラも、恐ろしい子だった。
しかし、これで帝国兵が20匹。
残り20匹と言ったところか。
マインスパイダーが出てきたらどうしようか。
うっかり戦っても、負けそうなんだが。
そこんとこ、どうなのよ。
マインウルフたちから、情報をもらった。
曰く、マインスパイダーたちとは話が通じないそうだ。
あと、どのマインスパイダーが元人間なのか分からないというのだ。
なんとマインスパイダーには、モンスターの本物も混ざっているらしい。
さらに、魔族が化けたのも、同じ様にいる。
正直なところ、マインスパイダーにはお手上げだった。
もう気にせず、マインウルフだけ回収して、一旦引き上げるのがベターな気がしてきた。
とりあえず、監視が消えたので、2階層にいるマインウルフたちと合流する様に伝えておいた。
すぐさま走り去るマインウルフたち。
あと、半分だ。
6階層にたどり着いた。
かなり暑くなってきたが、また、マインウルフたちが待ち構えている。
20匹ちょっとだ。
おそらくこれで、全部だろう。
ちょっと多い分が、魔族なのだろうが、さて、どうしたものか。
「BAN! BAN! BAN! BAN!!!」
パンドラが、いきなり荒ぶっていた。
どうやって見分けたのかわからないが、正確に魔族だけを消し去っていた。
そして、レベルが4に上がった。
スキルは、「車両扱い」だった。
「何をするスキルなのか分からん。」
「貨物を連結したり、ドアを開けたり閉めたり。いろいろできる様になります。」
「それは、スキルじゃなくても、できるんじゃないのか?」
「スキルなら、一瞬でできます。スキルというよりも、魔法です。もちろん、この魔法を使用しなくても、全部可能ですが。効率の問題です。」
「そういうものか?」
まあ、パンドラがそう言うのなら、そうなのだろう。
こうして、元帝国兵のマインウルフ(メス)40匹の確保に成功した。
一旦40匹を金山の外へと連れ出す。
仲間がやられる心配をしていたのだが、とりあえずそれは解消した。
少なくとも、帝国兵は助けられたのだから。
次は、マインスパイダー対策をしてからじゃないと、助けることができない。
どうしたものだろうか。
とりあえず、金山からそのまま街道を北西に進み、ヴァイスフロストの城へと向かった。
そして無事、皇帝陛下に要求されていた「マインウルフ」を、届けることができた。
「いや、こいつら、皆、低レベルではないか?」
「レベル上げは、そちらでお願いしますね? それよりも、こいつら、元帝国兵ですから。」
「なんだと? どういうことか説明せい!」
こうして、また、面倒な話が始まったのだった。
結局のところ、マインウルフ回収しかしていません。
地味にパンドラのレベルが上がりますが、まだまだですね。
でも、レベルが上がると、何ができるようになるのか、気になって仕方がありません。
それでは、がんばれれば、また。