第136節 サーフェイズ金山制圧 準備編
金山を制圧するのに、ちょっと時間がかかります。
今回は、その準備段階です。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後70日目夜>
場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村
視点:野中
山神様の提案による、サーフェイズ金山制圧作戦は明日だ。
その準備のために、拠点であるウーバン鉱山駅に帰る僕達。
途中、一旦ウーバン村に立ち寄って、よろず屋で必要物資を買い揃える。
よろず屋の食堂は、今日も盛況だった。
「おや、社長じゃないか。よく来たね。芋、食べていくかい?」
この世界では、芋食べて行くかい? というのが挨拶なのだろうか。
そんな挨拶は嫌だ。
芋すぎる。
「明日、サーフェイズ金山の制圧に向かう予定なんです。」
「マインウルフにされちまわない様に気をつけるんだよ?」
「もちろんです。それで、その作戦に必要な物資を調達に来ました。」
「そうかい。じゃあ、それは、食堂じゃなくて、店の方に言っとくれよ。こっちは、オーイワイが、大量のガーター芋を納品してくれたんで、大変なんだよ、捌くのが。」
「いつもどおりじゃ、だめなんですか?」
「新ガーター芋は、ここいらじゃ、縁起物ってのもあるし、味もましだから、人気があるんだよ。噂を聞きつけて、村人がたくさん来て、この有様だよ。」
「はぁ。」
そういうことで、食堂は予定外に大盛況らしい。
新じゃが、というよりは、初鰹的なありがたさなんだろうな。
とりあえず、匂いに引きずられて入った食堂を後にして、店の方に入った。
「いらっしゃいませ。社長さん。今日は、何がご入用で?」
「鉱山に入るから、必要な道具を揃えに来た。」
「え? ウーバン鉱山は、落盤で崩れたんですよね? また、復活させるんですか?」
看板娘のカーネリアンが、応対してくれた。
サイドポニーがふりふり揺れて、かわいい。
が、騙されてはいけない。
彼女は、計算高く、少しでも高く多く売りつけようとする天才だ。
しかも、実は冒険者ギルド的には格闘家。
このよろず屋の用心棒も兼ねているのだ。
冒険者ギルドの職員であるグリーンよりは弱いけれど、迫るほどには強いらしい。
気をつけんと。
「金山に行って、マインウルフ狩りをしてくる。魔族もやっつけてくる。」
「コソナ金山なら、この間、全部やっつけたんじゃ?」
「こんどは、サーフェイズ金山だ。」
「帝国領ですよ?」
「話はつけてある。」
「金が、もっと取れる様になるのですね。素敵です。」
目は、ハートマーク、ではなく、お金のマークになっていた。
計算高く、なによりお金を愛する心は誰にも負けない。
「灯りとか、いろいろな道具が必要だろ? どんなのがある? いいのを見繕って欲しいんだ。」
「わかりました。えーっとですね、こちらなどはどうでしょうか。」
「どれどれ?」
こうして、よろず屋で、必要物資を買い漁ることができた。
改めて、ウーバン鉱山駅に帰った。
村で、大岩井さんに捕まったので、一緒にトロッコで帰った。
子どもたちと遊ぶ一仕事を終えて、すでに帰宅していた精霊のラストとロッコ。
そして、車掌の精霊パンドラ。
一同が駅務室に会したので、今日の成果をお互い伝え合うことにした。
ちょうど、大岩井さんの作ったガーター芋を蒸したものが出来上がったようだ。
テーブルの上に、山盛りで置かれる。
甘くて美味しいのだが、西国芋の方がウーバン村民には人気がある。
どちらでも、美味しく作るのが大岩井さんだ。
そんな大岩井さんが、今日のウーバン村の話をしてくれた。
村で何があったのか、芋の増え具合はどうか、そんなお話だった。
村は特段トラブルもなく、平穏な生活が続いているようだった。
なにより、食料の安定供給がそれを支えている。
何か、他に軸になる産業が欲しいところだ。
ロッコたち精霊から、今日の成果を聞いた。
子どもたちが、いい感じに集まったことや、重光がハマり役だったことがわかった。
あと、明日からは、重光以外の3人が、トロッコを動かすことも。
明日の朝だけは、ロッコたちが使い方のレクチャーをしなけらばならないようだ。
あと、重光たちが、村から、他に、塔のメンバーを募集したらしい。
冒険者ギルドとか、村長さんに話を通すように言われたので、お使いしてきたらしい。
条件が条件だけに、なかなか色良い返事はない様子だった。
そうだよな、あまりお金は出せないしな。
求人の条件は、微妙だった。
住み込み、低賃金、3食付。
子供の相手は、重労働だから大変だ。
ラストは純粋に楽しんだようだが、他のメンバーは、疲労困憊だった。
なるほど、ロッコたちが専従者にならないように気を使うわけだ。
ちょくちょく、顔を出すという役割らしい。
休日はあまりないので、ロッコたちが代打で入る日が、休みになるようだ。
もっとも、住み込みで3食付なのだから、出かけない限り休まらないだろうけれども。
そして僕達は、皇帝陛下との交渉と、金山攻略について、話をした。
その結果、精霊3人娘は、即座にレベルアップをしに同行したいと言い出した。
もちろん、そうしたいのは山々なのだが。
だが、今は、「塔」のお仕事もある。
「明日は、子どもの送り迎えがあるだろう? ロッコとラスト。」
「他の人たちに任せていこうとしている。明日、朝、実車で教えたら、任せられるところだ。」
「だろう?」
「ん。明日の朝だけは、重光以外の3人に、トロッコの動かし方を教える予定。」
「親分が教える、という訳じゃないんだよな?」
「当然だ! あんな暴走機関車に教えさせたら、ヒャッハー! 運転士が増殖してしまう!」
講師の先生は、やはり親分ではなく、ロッコとラストだった。
「なら、今回は、そちらに専念してくれ。パンドラは借りて行くぞ? パンドラこそ、レベル上げが必要だからな。レベル20を越えれば、独立できることもわかったしな。」
「マスター。夜、ご一緒するのは、お嫌でしたか?」
「そういう訳じゃない。むしろ、嫌じゃないから、問題なんだろう。精神衛生上も、風紀上も。童貞が、いつまでもがまんできると思ったら、大間違いだからな?」
「いいんですよ? ちゃんとお相手しますから。」
「だから、だめなんだよ。」
パンドラが夜の講師の先生になってしまいそうだった。
生まれたての精霊に、手解きを受けるって、どんだけだよ。
かなりマニアックな感じしかしないんだが。
「送り迎え。私は結構、好きでしたのに。」
「いや、それはいいんだ。今は、レベルを上げて、チビパンドラを増やしたい。そうすれば、あれだ。子どもの相手をする人材が増えるだろ?」
「マスターが、精霊を召喚してくだされば、すぐに解決しますが。」
「いや、それは。」
「私も、精霊仲間が増えれば、とても嬉しいのですが。」
「だが、なぁ。」
「パンドラ。マスターは、まだ、精霊召喚、あまり納得できていないのです。無理強いはしないのですよ?」
「はぁ。そうですか。でも、召喚しまくってくだされば、全ては解決しそうですのに。」
「そういうこと、言わないのですよ。」
まあ、気持ちはわかる。
だが、こちらの気持ちもわかって欲しいところだ。
とにかく、明日は、洞川たちにトロッコの練習をさせないといけない。
だから明日の朝は、ロッコとラストは外せない。
パンドラだけ、レベルアップすることにした。
予定通り、各方面から文句が出る。
だが、パンドラが、チビパンドラをたくさん使えるようになれば、だいぶ楽になるだろう。
なにしろ、チビたちと本体との間には、テレパシー的に、意思の疎通が可能だ。
そもそも、チビも本体の一部。
五感が拡張されたような感じになるらしい。
ならば、各列車に乗せておけば、信号の代わりにもなる。
運転手が、彼女の話を聞けば、の話だが。
金山制圧戦で問題になるのは、魔族の存在だった。
戦力や戦闘面での心配はしていない。
出会うマインウルフ全てに、レインが「BAN!」魔法を放つ用意があるからだ。
それで、おそらく全ての魔族が化けたマインウルフは駆逐できる。
しかし、今回は、そうしない。
できれば生捕りにしたいのだ。
どのような魔術を使えば、人間をマインウルフにしてしまえるのか。
そして、男だった兵士たちが、女になったのか。
マインウルフたちへの聞き取り調査では、判明しなかった。
魔族にやられて、気がついたらもう、マインウルフだった。
そういう話だったのだから。
歯切れの悪い、奥歯に物の挟まったようなものの言い方だったので、嘘かもしれない。
その変異魔法? は、魔族が普通に使える魔法なのか。
それとも、魔術道具を使ったものなのか。
それ以外の方法か。
そして、最終目的である、「元に戻す方法」はないのか。
生け捕りにして尋問すれば、いろいろな情報を聞き出すことができるだろう。
そうすれば、今後の鉱山戦に向けて、大きく一歩前進できる。
もしかすると、人間に、男に戻すことができる可能性もある。
なら、やるべき。
しかし、この方法には大きなリスクが存在する。
こちらがその特殊な魔法で女にされたり、最悪マインウルフにされてしまいかねないのだ。
やはり、安全をとって瞬殺すべきか。
少なくともウーバン鉱山では、魔族の使っていた怪しい魔道具等の証拠は出て来なかった。
ならばその魔法について、魔族そのものから聞き出すしかない。
難しい選択を迫られていた。
それに以前、魔王軍界隈から、きな臭い話も聞いていたしな。
人間の魂を、生きたまま、女神の管理下から簒奪する方法とか。
この、人間をウルフ化させるのも、その一つじゃないんだろうか。
今のマインウルフ化の魔法はまだ、中身が人間のまま、魂もそのままだからいい。
だがもし、もっと研究が進んでしまったら。
人間を、簡単に心身とも魔物や魔族にしてしまえるようになるのではないか。
そうなったらこの世界は、終わりを迎えることになってしまうだろう。
それだけは、何としても阻止しなければならない。
ならどうしようか。
どうすべきか。
何ができるのか。
何をすればいいのか。
自分のステータスを開いと、じっと見る。
攻撃力にしても、守備力にしても戦闘する上では、大変心許ない。
異世界ものではありえないくらい、僕は、自分が戦えるようなタイプじゃない。
仲間をたくさん募って、数で、質で勝負するタイプだ。
なんなら、小狡い策を張り巡らせて、智略で力の暴力に対抗するタイプだ。
それに町には、僕と同じように戦闘に不向きな人間の方が圧倒的に多くいる。
そんな環境の中で、何とか魔王軍と渡り合おうとするのだから、やはり工夫が必要だ。
僕にできる工夫は、小狡い策を練ることと、人と人とを繋ぐこと。
頭を使ってみんなで頑張れば、何とかなる。
その精神だった。
みんなで頑張ろうと思って、頼もしい仲間達を見回した。
すると、その中心、テーブルの上には、シルバースライムのカタリナが「立って」いた。
そして、ロッコやラストから、やたらと注文をされている。
今、カタリナは、美少女フィギュアの形になって、モデル立ちしていた。
ロッコやラストからの微妙なアドバイスを受けつつ、魅惑のスタイルを追い求めている。
「ん。カタリナ。マスターはおっぱいが大きいのがお気に入り。」
「そ、そうか。じゃあ、これくらいでどうだ?」
「カタリナ! う、うらやましいぞ! 勝手に胸のサイズを変更できるなんて!!!」
「ラストも、そのうちデカくなる。俺が保証するぞ?」
「まず、カタリナさんは、そのお口。もう少しお淑やかになられた方が。マスターは、清楚が好みですよ?」
「それは、ムリ! スタイルで勝負だ。これなら、誰にも負けない。」
精霊3人衆が、カタリナのスタイルに三者三様、ツッコミを入れていた。
それぞれの理想とするタイプが違うのだから、話はまとまらない。
船頭多くしてなんとやらだ。
ちょっといい感じのスタイルになってきた。
アドバイスは的確になされている様には見えないのだが、徐々に自分の好みに近づいている。
なぜなのか。
そして、対抗心を燃やすレインが、その隣に立って、セクシーポーズで悩殺にかかる。
ただし、こちらも人形サイズだが。
「マスターの、カタリナに向けたいやらしい視線を感じるのです。めっ! なのですよ!」
「いいんだよレイン。あの視線を元に、ちょこっとずつスタイルを変化させているんだぜ? お前のマスターのエロい視線で、好みなのかハズレなのかすぐにわかる。チョロいな。」
「ま、マスターは、ちょろくないのですよ! ちょろいなら、苦労していないのです!!!」
「それは、お前が、ちっちゃいからだろ。大きくなって、色仕掛けをすれば、童貞なんて秒で攻略できるぞ?」
「それはいけないのですよ。マスターに嫌われてしまうのです。」
「いや、めろめろになるの間違いだろ?」
価値観の相違というやつだろう。
どちらも、正しいが、どちらも間違っている。
人間的にも、と言いたいところだが、人間族じゃなかったな。
なぜ、こうなってしまうのか。
「それに、こんなスタイルをいじるのなんて、気休めだぜ?」
「そんなことないのですよ? うらやましすぎるのです!』
「あのな? 俺なんか、一日中社長に抱きついているのに、まったく効果なしだぜ?」
「それは、それは凹むのです。」
「そうだろう、そうだろう?」
いや、カタリナ。
あれは、抱きついているんじゃなくて、装備していると言うのでは?
くさりかたびらとして、装備しているだけだからな?
決して、衆目監視の下、一日中抱きしめられている訳じゃないからな。
そう言われると、ちょっと意識しちゃうだろうが。
まあ、それでも、カタリナについては心配ない。
あのな?
まずは、色、シルバーだから。
そこが、一番のネックだからな?
あ、でも。
シルバーか。
シルバースライムなら、あるいは。
あのマインウルフメス化魔法対策、できそうだな。
「シルバースライムには、魔法効きませんから。」
そうか。
その手があったか!!!
今回の金山攻略。
何とかなりそうな気がしてきた。
評価ポイントありがとうございます。
今回は、攻略戦の準備として、色々な人と関わっているという姿を書いてみました。
はしょれば、書かなくてもみなさんいろいろと想像してくださるのかなとも思いますが。
きちんと、みんなでいろいろと考えて動いていますよと。
ちょいちょい、いろいろぶっ込んでいますよと。
そんなお話でした。
それでは、がんばれれば、また。
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3色 → 3食 ※誤字訂正ありがとうございます。