第14節 トンネルを抜けるとそこは
第2章に入りました。
章のタイトル通り、拠点作りに入ります。
あ、この話の時点では、この章タイトル自体が、うっかりしたネタバレになっているような?
それでは、どうぞ。
<前回の3行あらすじ>
5階層で道を塞ぐスケルトンオークを小狡い手段でやっつけたよ。
そして、4階層を通過して3階層に出たら、出口が見えたよ。
出口から飛び出した伊藤さんが、待ち構えていたホワイトベアーに殴り飛ばされたよ。
ホワイトベアーの攻撃による伊藤さんのダメージは、単純に計算できない。
思ったよりも血は出ていないが、止血したけれど出血していたことに変わりはない。
それよりも、意識を失っていることの方が心配だ。
頭を打っていて、脳に影響があったら、もう僕にはどうしようもない。
「レイン、伊藤さんをなんとかしないと。」
「あのホワイトベアーがうっかり坑道に入ってきた時のために、この採掘坑に伊藤さんの体を入れておくのはどうです?」
レインはそう言って、近くにある採掘跡の横穴を指さした。
というか、これ、採掘跡にしてはちょっときちんとした通路だ。
そして、レインのいうとおり、ホワイトベアーは入れそうにない。
何しろこの横穴、高さ幅共に1メートルくらいしかない。
「よし、じゃあ、運ぶから、奥に何もないか確認してくれ。入れたら魔物がいたとか、洒落にならないからな。」
「はいです。」
レインはそう言って、横穴の奥に進んでいった。
僕は、伊藤さんの脇の下を掴んで引きずる。
穴が狭すぎて、抱き抱えて進むとか無理だった。
そして、横穴に入って5メートルくらいで伊藤さんを寝かせようとして周りを見た。
「マスター、ここ、採掘坑じゃないです。」
「なんだここは?」
天井が高くなり、ちょっとした小部屋になっていた。
入り口には開いたままであったが、引き戸がついている。
なんなら閉じこもることができるようになっていた。
そして、棚やテーブルがあり、いろいろな道具が置いてあった。
「とりあえず、この部屋に伊藤さんを寝かせておこう。」
「はいです。」
本当なら、頭を打っている可能性を考えて、動かさないのが鉄則だ。
でも、ここは異世界。
救急車を呼べる訳でもなければ医者に診てもらえる予定もない。
ならば、生存できる可能性を少しでも上げる方が重要だ。
「マスター? ここ、いろいろあります。ホワイトベアーをやっつける道具もあるかもしれませんよ。」
「お、剣がある。錆びてボロボロだけど。」
廃鉱山になってから、しばらく経っているのだろう。
いろいろな道具があったけれど、金属の類は概ね錆びていた。
剣が数本と、ここにもツルハシ。そして、薬剤と木箱が数箱積み重ねられていた。
薬剤のラベルの文字はこの世界の言葉なので読めない。
「木箱、開けてもらっていいですか? 鉱山なので、危険なものが入っているかもです。」
「危険なら、開けない方がいいと思うのだが。」
木箱の上から、薬剤のビンが入った木のケースをどかして横に置く。
ついで、蓋で閉じられている木箱を、錆びた剣でこじ開けた。
中には危険そうなものが入っていた。
ソフトボールくらいの大きさや形で,紙や布で覆われており、共通して上から紐が出ている。
「……マスター。これ、発破用の爆弾に見えるのですが。」
「僕もそう思う。思うのだが、」
これは本当に、鉱山で硬い岩盤を発破してぶち破るための爆弾なのだろうか?
もし、そうなら、ホワイトベアーも1発だ。
でも、今いるのは坑道内。
火気はなるべく使用したくないし、何より、こちらからでは落盤の危険がある。
ホワイトベアーをやっつけても、坑道が落盤で塞がっては本末転倒だ。
「やるしかありません。マスター。ホワイトベアーを倒すことができるのはこれしかありません。」
「そうだが、そうなのだが。」
レインもお腹が空いていて、気が立っているようだ。
こちらとてそうだ。
あともう少しというところで、たちはだかる大きな白いくま。
自爆覚悟で戦わないと、結局のところ脱出できないのだから。
「火はあるのか?」
「イトーから、ライターを強奪してあります。」
あー、あの時。
伊藤さんと再会した時、ボコした上にライター取り上げたのか。
レインってもしかして、結構戦闘力あるのかもしれない。
体はだいぶ小さいけれど。
「やっちまいましょうぜ、マスター。」
「どうしてお前はそう、山賊風味を出したがる?」
レインは、悪役顔を作って、僕に爆弾を使えと促した。
でも、そもそもそれ、本当に爆弾なのか?
火をつけたら、本当に爆発するのか?
敵に投げる前に、一度確認する必要があるのではないだろうか。
「たくさんあるんだ、1発、試し打ちする必要があるだろ?」
「誤射ですね、わかります。」
全く分かっていない顔のレインは、部屋にあった大量の爆弾的なものを空間魔法で例のカバンにせっせと収納していた。
おい、それ、全部持っていくのかよ!
何に使う気だ、全く。
正直なところ、爆弾ではオーバーキルなのではないかと思う。
そして、再び出口付近へ移動した。
レインは、躊躇することなく爆弾を抱えてホワイトベアーに突っ込んでいった。
ちょうど相手は、頭を突っ込んでも入れないことに気がついて、休憩中だったようだ。
その隙を上手に使って、レインは坑道から脱出していた。
空、飛べるからな。
「1発目、いっきまーす!」
「ガゥ?」
ホワイトベアーの真上10メートルくらいにレインは位置どった。
爆弾の導火線にライターで着火すると、そのまま投下した。
そして、爆弾はホワイトベアーの頭に当たる。
地面に落ちた。
「ちぃっ!」
「ガゥ?」
不発。
湿気っていたのか、吹雪が強いのか、投下中に導火線から火が消えたのか。
ホワイトベアーは、不発の爆弾を不思議そうに前足で転がしている。
あ、口に咥えやがった。
「ガゥ?」
「なら、2発目!」
空間魔法で、鉄道鞄から爆弾を取り出すと、爆弾投下を再度実施した。
ちょうど、爆弾が食べられないことに気付いて僕の方に吐き出したホワイトベアー。
そして、ホワイトベアーが上を向いた瞬間、その命が尽きた。
一瞬だった。
「ふー、いい仕事しました。」
ホワイトベアーは首から下だけになると、雪の中に大の字になって倒れ伏した。
頭がないので、大の字というのも微妙だが。
そして、レインが戻ってきた。
「やってやりましたぜ、マスター」
「だから、イメージ崩れるから、それはもういいから。」
「寒かったです。温めて欲しいです。」
「いや、温めるも何も、火がないだろ?」
レインはその返答に、やれやれですねという顔を作ると死んだホワイトベアーを眺めた。
結果から言えば、大成功なのだが、いくつか問題もあった。
まず、爆弾の効果が思ったよりも大きくなかったこと。
おそらく、爆発の威力は黒色火薬の仲間くらいではないだろうか。
ホワイトベアーの爆発耐性的なものがとても高かった可能性がある。
そして、もう一つは、レインがホワイトベアーを鉄道鞄に収納できなかったこと。
大きすぎて入らないということらしい。
つまり、縦横高さ2メートルくらいまでが限界のようだ。
逆に言えば、解体してしまえばおそらく収納できるだろう。
レインと2人で鉱山から外に出た。
とにかく寒かった。
しかも夜。
手元の時計では、午後10時を過ぎていた。
それでも、自分が生きて廃鉱山から脱出できたことを素直に喜んだ。
喜びが胸の内から溢れてきた。
本当に死ぬかと何度思ったことか。
レインが普通の人間サイズなら、抱き合って喜びを分かち合いたいくらいだった。
そのレインは、僕の頭の上で、マインウルフ幼生体のユリと抱き合って喜んでいた。
あ、呪いの兜、今、外れている。
頭皮保護のために、急いで作業用の帽子を被ろうとした。
ユリに蹴られて、装備できなかった。
やっぱり呪われているよ、この兜。
「マスター、あそこに、小屋があります。おそらく、鉱山関係の小屋ですよ。」
「じゃあ、あそこまで伊藤さんを運ぶか。」
「はいです。」
そうして、伊藤さんのところに戻った。
まだ、意識は戻っていないものの、呼吸も脈もある。
脈は首でとったよ。
心臓じゃないよ。
伊藤さんを再び抱えて運び出そうとした時、それを轟音が遮った。
グゥオォーン!
坑道から一瞬だけ眩しい光が差し込み、お腹に響く轟音に続いて岩の崩れる音。
咄嗟に頭を守って机の下に逃げ込む。
この部屋は、多少天井から小石程度のものが落ちてきた程度で無事だった。
急いで坑道に出ると、予想通り、坑道は落盤によって塞がっていた。
なんでこうなった。
鉱山が寿命だったのか?
「ごめんなさいです。」
レインがシュンとして、こちらに謝ってきた。
「ふぇ? レイン、どうしたの?」
「1発目です。」
「1発目?」
「そうです。おそらく不発だった1発目が、今頃爆発したんです。」
あー、そう言えば。
不発になって、くまに食べられて、やっぱり無理と吐き出されて。
坑道の入り口に転がっていて。
放置されていて。
「レイン」
「なんでしょうか、マスター。」
レインはビクッと反応した。
ちょっと怯えているようだ。
怒られると思ったのだろう。
でも、僕が思ったのはそうじゃない。
「小屋、爆破しなくてよかったな。」
「ふぇ?」
「だって、あの小屋、おそらくしばらく拠点にするだろ?」
「そうです。そうしたいですが、そもそも、お外に出られません。」
部屋の中にあったツルハシを手に持った。
「いや、あの岩、掘ればいい。小さく砕いて、収納すればいい。すぐだよ。」
「あ、そ、そうです。空間魔法で、全部収納してやるのです!」
ちょっと涙目だったが、明るい表情に戻った。
レインには泣いて欲しくない。
明るい笑顔がいい。
見ているだけで、ちょっと幸せになれる。
落盤で塞がった入り口がきれいになったのは、その1時間後だった。
昨日は普段よりもたくさんの人に読んでいただけました。
ありがとうございます。
さすがは日曜日、と言ったところでしょうか?
今朝、確認して、びっくりしました。
何があったのかと。
そんなことに関係なく、たくさんの人に読んでいただけるよう、精進します。
面白い話、作ることができていれば幸いです。
それではまた、(山の中から電波がちゃんと届けば)明日の15時頃に。