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第135節 臣民のための「わがまま」

納得いかないことや理不尽なことは、生きているうちに何度も降りかかってくるもの。

しかし、よくよく話し合いをすれば、それが理不尽では無く、妥当な話だとわかることもあるものです。

話を聞いても、理不尽なことも多いですが。

今回はそう言うお話です。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後70日目午後>

場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村

視点:野中のなか


「マインウルフ軍団を貸せ!」


 ウーオ帝国の皇帝陛下は、そんなことをのたまわられたらしい。

 気が知れない。

 皇帝陛下のおわす、ヴァイスフロイス城には、1000人くらいの帝国兵がいるはず。

 いなかったとしても、帝国は、臣民国家である。


 臣民を、兵士として招集することなど、造作もない。

 ただ、あの皇帝陛下の性格からして、臣民にそんな負担をかけさせたくはないのだろう。

 だからと言って、こちらに負担を要求するのは、どうかとも思う。

 あと、なぜ、今なのか。


「レイン、ユリ。もしかすると、面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。」

「マスター。すでに巻き込まれているのです。諦めるのですよ?」

「ユリも同意します。マスターが面倒ごとです。」

「俺もいるから大丈夫だぜ?」


 同行する仲間は2人、と思っていたが、3人だった。

 頼れる相棒、トレインの精霊レイン。

 ウルフなのかエルフなのかはっきりしない、ハイドエルフのユリ。

 そして、ほぼ、鎖帷子状態で常に帯同する、シルバースライムのカタリナ。


 比較的、最強メンバーでもあった。


 レインは、魔族を一瞬で消し去る魔法「BAN!」を使いこなせる。

 魔族相手なら、敵はいない。

 そして、それ以外の相手も、得意の発破攻撃で、爆砕する。

 レイン、恐ろしい子。


 ユリは、もともとハイドウルフだ。

 戦いの時は、慣れているハイドウルフスタイルで、猛獣の如く戦う。

 最近、何らかのスキルを得たのか、影の中に潜ることができるようになった。

 ユリは、影なら、どこからでもやってくる。


 最後に、カタリナは、人語を解するスライム族の希少種シルバースライムだ。

 シルバースライムは、銀でできているので、魔法攻撃が効かない。

 スライムなので、物理攻撃耐性も、とても高い、最強の盾。

 その上、刃物の形をとれば、切断できないものはない最強の矛でもある。


 僕自身は、普通の一般人の能力値くらいしか持っていない。

 それを、カタリナが補完してくれて、仲間が戦ってくれる。

 その結果、そこそこ経験値が溜まって、いい感じにレベルアップしている。

 それが、現状だ。


 このパーティーで、皇帝陛下の城に乗り込んだ。


 ヴァスト砦まではトロッコで行き、ついでに物資の搬送もしておいた。

 そこからお城までは、徒歩だった。

 ユリが、僕を乗せて走るとも言ってくれたが、却下した。

 ユリは大きいウルフだけれども、馬じゃない。


 実は、犬と言う動物は、腰が弱い。


 あまり、乗ってやるな、と言うことになる。

 腰が悪くなると、飛んだり跳ねたりできなくなって、ユリの得意な機動戦が不可能になる。

 それは、できれば回避したい。

 多少時間はかかっても、歩いて行くことにした。


 夕方に差し掛かり、やっと城が見えてきた頃、魔物に襲われた。

 大きなシカのような魔物だった。

 奴らは、群れになっており、攻撃魔法まで使ってきやがった。

 火炎系魔法だった。


 正直、シカなのだから、餌となる草を焼き払ってどうするんだとも思ったが。

 そういうことは、気にしないスタイルで行くらしい。

 とにかく、多彩な攻撃? をしてきた。


 魔法攻撃は、火炎系魔法をツノから繰り出してくる。

 ツノが大きいほど、威力のある火炎系魔法が飛んでくる。

 戦闘中にカタリナが、ツノを切断したところ、魔法が飛んで来なくなった。

 ツノがないと、魔法は無理のようだ。


 あれか?

 魔法の杖みたいなものなのか?

 とにかく、ツノを切断するのが魔法封じになることがわかった。

 ただ、そんなことをするくらいなら、直接攻撃して倒した方が圧倒的に効率的。


 物理攻撃は、独特なものが多かった。

 頭から突っ込んできて、ツノで攻撃してくる、ツノ攻撃。

 突っ込んで来て、ぶつかる直前で体の側面での体当たりをかましてくる、ぶちかまし攻撃。

 そして、前足で突き飛ばしてくる、チョキ攻撃。


 でも、一番威力があるのが、後ろ足で蹴り飛ばす、超足蹴り。

 ノックバック効果がある。

 というか、普通に飛ばされる。


 相手は、30匹くらいいる。

 後少しで、城に入れると言うのに。

 なぜなのか。

 なぜ、城の兵士たちは、指を咥えて見ているだけなのか。


「レイン。殺るぞ!」

「がってん承知なのです! あぶないので、下がるのですよ?」

「マスター。いけません。ユリと一緒に、敵から離れましょう。」

「おう、マスター。逃げろ。殺されるぞ?」


 おかしい。

 レインが攻撃すると、危険であるらしい。

 味方を攻撃すると言うのか?

 レインはそんなやつじゃないぞ?


「マスター、離れるのです。爆破するのですよ!」

「そっちかよ! そっちの攻撃方法かよ!」


 巨大なシカのモンスターが、いかに多彩な攻撃をしてこようが、レインには関係ない。

 魔族なら、「BAN!」。

 そうじゃないなら、爆破。

 今までも、常にその2択だった。


 ごく稀に、よくわからない攻撃をすることもあるが、それは例外だ。

 とにかく、爆破されないように、安全な距離を保った方がいい。

 すでに、ユリは、そこまで必要ないだろうと言うくらい退避していた。

 いや、レインの技術を信じてやれよ。



「ふー、いい仕事をしたのです。」


 30分くらいで、討伐が終了した。

 なお、シカ的な魔物は、ジビエ的な食材とするために、空間魔法で保管された。

 イノシシ肉の次は、鹿肉か。

 寄生虫とか気をつけないとな。


 僕達の戦いぶりを、遠くから存分に観戦していた城の門の兵士たちが怯えていた。

 いや、流石に人間は爆破しないから。

 大丈夫だから。


「開門っ! 急げっ!」


 僕達が門の前に到着する直前、城門が開け放たれた。

 流石に顔を知られていたか、とも思ったが、単純に皇帝陛下のお出迎えがあったかららしい。

 内側の理由だった。


「久しいな。待ったぞ。」

「親分から話は聞いている。」

「なら話は早い。マインウルフ軍団が見えないが。」

「それについては、中で話そうか。」

「分かった。」


 城の中へと進み、謁見の間まで通された。

 途中、場内の様子を見ることができたが、この短期間に、随分と賑やかになっていた。

 復興していると言うか、完全に町として機能していた。

 つい先日まで、魔族に占領されていて、人間が住んでいなかったのが嘘のようだ。


「いきなりだが、マインウルフは?」

「連れてきていない。ユリだけだ。」

「はて、どういうことだ? 話を聞こうじゃないか。」

「いや、違うだろ? 僕らが話を聞く方だ!」

「というと?」


 皇帝陛下は、とぼけているのか、わかっていないのか、知らないという態度だった。


「なぜ、マインウルフが必要なのか。それも復興で大変な今。戦力を割くにも、それなりの大義名分がいる。なにより、マインウルフたちは、我が国の国民だ。いくさに駆り出すなら、まずは自国の臣民の方が優先順位が高いはずじゃないか?」


 僕の言葉に、苦い顔をする皇帝陛下。

 言えば簡単に兵力を借りられると思っていた顔だ。

 確かに、ここまでの人間関係的には、そういう甘い顔しかしてこなかったことも確かだろう。

 誤解を与えていたのなら、ここで解いておきたい。


「臣民のためだ。」

「なら、我が国の国民は、臣民のために蔑ろにされると言うことか。」

「違う。そうじゃない。認めているのだよ。我が国の臣民は、残念なことに、戦力としては弱すぎる。兵士たちにしても、おそらく今のお前たち3人に、1000人全勢力を投入しても勝てぬであろう。つまりはそう言うことだ。」


 兵力が足りない。

 単純な戦力として。

 そういうことらしい。


「ならば、急務として、育てるしかないじゃないか。マインウルフたちだって、僕達だった、強くなったのはここ2ヶ月でだ。同じことは、城の兵士たちや、なんなら全ての臣民に関しても、言えることで、そうすることがそもそも臣民のためにもなるんじゃないのか?」

「それはそうなのだが。しかしそれでは遅いのだよ。」

「なにが、だ?」

「例えば、この城の領主夫妻は、地下のシェルターに逃げ込んでいたので、助けることができた。この際、そのシェルターが何故あったのかについては、不問にすることとした。」

「で?」

「我が国土はとんでも無く広い。助けを待つ臣民も、かなりの数だ。ならば、一刻も早く、救い出してやりたいのだよ。そうすれば、回り回って、我が国の戦力も充実し、マインウルフ軍団に頼らずとも戦えるようになる。」


 なるほどな。

 臣民を助け、戦力を整えるためには、そもそも戦力が必要。

 しかし、帝国にはその戦力がない。

 なら、借りればいいじゃないと。


 交渉は、ここからと言うことらしい。


「で? 対価は?」

「は?」

「我が国から、その強力な戦力であるマインウルフを借用するにあたっての対価は?」

「ない袖は触れぬ。」

「じゃあ、今回の話はなかったと言うことで。」

「お前たちは、血も涙もないのか? 今も我が国の臣民が、魔族たちに怯えて苦しんでいると言うのに、見捨てると言うのか?」

「そう言っている。皇帝陛下がな。」

「う、うぐぅ。」


 マインウルフは借りたい。

 でも、復興途中なので、何も供出できない。

 それじゃあ、建前も作れない。

 大義名分だけでも、与えて欲しかったのだが。


 どうやら時間の無駄だったらしい。


「じゃあ、帰ります。今回の話は、聞かなかったと言うことで。」

「ま、待て。話せばわかる。」

「じゃあ、何か対価を支払われる算段が?」

「いや、それは。」


 今はまず、猫の額ほどの領土だが、今目の前にいる臣民を助けるのが責務だろう。

 それができないのであれば、皇帝陛下失格だ。

 僕達は、帰路についた。


「ノナカ。いい話があるの。聞いて?」


 城の門を抜け、ヴァスト砦に向かおうとすると、声をかけられた。

 ウーバン山脈の山の精霊、キーファ様だった。

 通称、山神様やまのかみさま

 子供の容姿をしていらっしゃるが、年齢は聞かない方が身のためだ。


「何でしょうか。」

「金と銀と銅。どれが欲しい?」

「どれと言われれば、金ですかね。しかし、なぜ、このタイミングで?」

「なら、ド・エッジ砦の北側の山の中に、サーフェイズ金山というのがあるの。金鉱なの。」

「ほほう。」


 このタイミングで、金山の話。

 きな臭いな。


「ご一緒に、銀も取れるの。」

「美味しすぎる話だな。迂闊には乗れそうにないくらい。」

「でも、ここも、魔族が占領していて。たくさんのマインウルフもいるの。旧帝国領だから、元帝国兵かしら。」

「そういうことか。」

「どうかしら。皇帝陛下は、長い付き合いなの。気が回らなくて、言葉も足りないけど、臣民を思う気持ちや国を思う気持ちに嘘はないの。助けてあげて?」


 なるほどそういうことか。


 こちらには、ウルフ語を話せる、マインウルフたちが大量に存在する。

 ならば、金山でウルフとして強制労働させられている元帝国兵に、助けに来たぜと伝えることができる。

 ご一緒に、近郊に巣食う魔物たちとも戦うことができる。

 最終的には、金山なので、金も採れる。


 いいことずくめじゃないか。


 そして、助けたマインウルフと化した帝国兵たちは、皇帝陛下に押し付ければいい。

 なるほど、なるほど。

 話がうますぎる。

 そんな調子のいい話はない。


「なぜ、今、このタイミングで? ド・エッジ砦を制圧したタイミングでも、よかったはずですが。」

「皇帝陛下が、帰ってこられたから。彼がいるなら、金鉱にいるマインウルフたちも、使い道があるし、忠誠を誓ってくれるはず。失礼だけど、ノナカたちだけじゃ。」

「帝国兵だもんな。そうなるよな。」


 話は通じるかもしれないが、じゃあ、仲間になってくれるのかと言うと、違うのではないか。

 助けてくれてありがとうとはなっても、一緒に戦おうぜとはならないよということだろう。


「いいだろう。その口車に乗ってみよう。」

「ついていっても、いい?」

「もちろん。道案内が必要だからな。むしろ付いて来ないなら、行きようがない。」

「わかった。じゃあ、ちょっと待っていて。おめかししてくる。」

「え?」

「サーフェイズ金山。とっても中は暑いから。あと、魔物も強いの。」


 おいおい。

 大丈夫なんだろうな。

 あと、暑いって、マインウルフは所詮犬だろ?

 暑さに激弱なはずなんだが、大丈夫なんだろうか。


 そう言う意味でも、早く助け出してやらにゃあ、いけないと言うことか。

 なんだか、納得はいかないが、世の中納得のいくものの方が少ない。

 ここは、流れに身を任せることにした。


「言った通りでしたね。すでに厄介ごとに巻き込まれていたのですね?」

「マスターには、厄介ごとの方から近づいてくる、そういう殺人事件漫画の主人公的なところがあるのですよ? 諦めるのです。」

「いや、そこは諦めたらだめだろ。試合終了だろ?」


 こうして僕らは、サーフェイズ金山へと向かうのであった。

 たくさんの魔物が住み着いているはず。

 もちろん、魔族もね!


 あ、マインウルフを呼んでくるの忘れてた。


「私がいれば、十分ですが。」


 ユリが、そうつぶやいていた。

 ですよね。

結局、皇帝陛下は何がしたかったのでしょうか。

そこは、次のお話で。

それでは、がんばれれば、また。

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