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第134節 技術と魔術の使い道

技術的な話は大好きですが、あまり人気はないものです。

好きな人は好きなんですが、そうじゃない人には、お呼びではない。

仕組はいいんだよ、使えれば。

そういうことなんでしょうね。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後70日目朝>

場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村

視点:野中のなか


「ん。マスター。こんな感じでいい?」


 朝、目が覚めると、というかロッコに叩き起こされた。

 なぜ?

 日も出ていない、寒さ厳しきかなりの早朝。

 ちょっとまだ早いんじゃないかな? まだ起床の時間じゃないはず。


「ん。今日から、ウーバン村の子どもを預かる。新しい車両を作った。見て?」


 まだ寝ぼけている状態だったけれども、ロッコに引きずられるようにして、外に出る。

 とりあえず、新車の貨車があった。

 無蓋車だった。

 トロッコ2両分の長さになった、屋根のない本格的な貨車だった。


「ん。とりあえず、作ってみた。運ぶだけなら、問題ない。」

「いろいろと使いまわせそうな貨車だな、ロッコ。」

「ん。試作品。うまくいけば、今までよりたくさんの荷物を運べる。」

「雨が降ったらまずいんじゃ?」

「レベル上げをして、有蓋貨車も作れるようになったら、作る。」

「客車、と言う発想はないの?」

「レベル12になったら作れる。それまでは無理。結構ハイレベル。」

「まじか。」


 子どもたちを乗せるのには、安全性的に不安要素満載。

 スピードさえ出さなければ、問題ないか、と。

 運転は、旧山賊団だしな。

 ちょっと、安全面は期待できないよな。


「とりあえず、今日はこれで行ってみようか。」

「ん。わかった。朝の7時くらいになったら、駅に親が子供を連れてくる。たくさん乗せる。」

「運転は?」

「ロッコがする。先頭と最後尾に、トロッコ用の人力動力車がついてる。」

「いつも通りか。ラストも運転するのか?」


 まだ起きていないラストの名前を出した。


「ん。それでもいい。マスターが運転してくれても構わない。」

「今日は、様子を見に行く。大丈夫かどうか心配だしな。あと、人数な。」

「ん。おまかせ。」


 そうして、予定の7時。

 後ろの運転席には、いつも通りの精霊騎士スタイルのラスト。

 前の運転席には、ちょっと軍人さんっぽい制服にチェンジしているロッコ。

 そして、召喚されたチビラストとチビロッコが1人ずつ。


 そして、パンドラが駅で子供を集めていた。

 人口およそ500人のウーバン村で、想定される子供の数はせいぜい10人から20人。

 さて、どうなるだろうかと思ったが、想定の範囲内だった。


 今いる、始発のウーバン村の西駅では、8人。

 走り始めて、南駅で10人。

 最後に中央駅で6人。

 合計24人の子どもをあずかった。


 貨車の上では、パンドラが子どもの安全に気を配っていた。

 それをチビロッコとチビラストが手伝う形だった。

 子どもは、3歳から6歳くらいまで。

 それ以上になると、この世界では労働力となるので、放出するわけにはいかないのだ。


 逆に、これくらいの子どもは、手がかかって、仕事をするとなると邪魔になりやすい。

 国内の労働による生産性向上と、少ない人数でうまいことやりくりするための方策。


 ラストとロッコの運転は、親分たちとは違って、とても丁寧だった。

 何より、動き始める時に揺れない。

 親分たちだと、始動時には、「ガコン!」と衝撃があるのだ。

 もちろん、停車時にも同様に衝撃がある。


 車両愛護を考えた場合、それはいただけない。


 新しい貨物車は、子どもたちに大好評だった。

 子どもは、新しいものにも物おじしないで関わってくれるのでありがたい。

 ほどなく、旧国境警備隊本部の駅に到着した。

 駅では、洞川どろかわファンクラブの重光以下3名が、待ち受けていた。


 ちゃんと子どもが来るのか、彼女たちは、大変心配していたのだ。

 初日は、無理なんじゃないかとも。

 しかし、村長の広報能力を甘く見ない方がいい。

 女性の噂伝播能力は、時として光の速さを超えるのではないかと疑うほどだ。


 こうして、新しい車両による、あたらしい事業は、走り始めた。


 ちなみに、この建物の名前を徹夜で考えたのだが、いい名前が出てこなかった。

 もう、こども園でいいんじゃないかとも思ったが、名前を考える必要すらなかった。

 知らないうちに付いていましたよ? なぜなのか?

 子どもたちが、もうすでにそう呼び習わしていたので、驚きましたよもう。


「レイン。なぜ、すでに名前がついていたし?」

「名前がないと、宣伝能力が落ちるのです。『恵みの塔』。いい名前なのです。」

「いや、知らんし。だれだよ、そんな名前にしたの。」

洞川どろかわなのです。重光に言われて、こねくり回して考えたのですよ?」


 むぅ。

 まあ、そういうことなら仕方ないか。

 わかりやすいと言えばわかりやすい。

 なにしろ建物が、旧国境警備隊の本部だ。


 見張り用の塔があるんだよ。

 目印になるくらい目立つんだよ。


 でもね、一つ苦言を呈すれば、オールドコソナには、視界内にコソナ灯台があるんだよ。

 そっちと勘違いしやしないかと、内心ビクビクですよ。


 そんな高尚な「恵みの塔」なのだが。

 実は、重光たち、住み込みで働くことにしたようだ。

 洞川のハーレム、というか、愛の巣、となるのではないだろうか。

 教育上、極めてよろしくない。


 まあ、自制してくれるよな?


 何しろ、もとが隊本部なので、大きな調理場もあって、料理をするのにも都合がいい。

 なんなら、食料の備蓄だってしやすい。

 思ったよりも良さそうだった。

 僕が手を下すこともなく、むしろ手を離れて、当事者の手で物事が動き始めていた。


 いい傾向だと思う。

 全部、自分で管理したくなるのは、よくない考え方だ。

 できることは、できる人に任せるのが、いい。

 せっかく、たくさんのクラスメイトがいるのだから。


 なんなら、トロッコの運転まで任せてもいいかもしれない。

 人手が足りなければ、親分たちでもいいし。


 今日のメインは、これじゃない。


「レイン。次、行こうか。」

「じゃあ、ユリも漕ぐのですよ。」

「わかりました。でしたら、そうですね。ミニがよろしいかと。」


 ハイドウルフの変身を解いて、ハイドエルフになったユリは、メイド服だった。

 だが、スカートが秋葉原のあれくらい短かった。

 もちろん、パンツが見えない例の仕様だった。

 そこまで再現されているのがすごい。


 ロングスカートでは、トロッコを漕ぎにくい。

 そういうことだろう。

 あと、あのスカートの中の無駄にたくさんある生地で、椅子に座ってもお尻が痛くない。

 一石二鳥だった。


 決して、決して残念だったりなんかしないんだからね。


「マスター。心の声が、漏れているのです。見たいのなら、見たいと言えばいいのです。」

「マスター。見たいと言う心の声、少しは自粛なさったらいかがかと。元々は、ウルフですよ? 私をオオカミにしたいのですか?」


 そう言って、両手をわきわきさせながら、「ばふぅ! ばふぅ!」と吠えてきた。

 エルフのままやると、訳がわからないよ。

 あと、その吠え声、何とかならないのか。

 絶対、普通の吠え声じゃない。


「じゃあ、行きますか。」

「出発! なのです!」

「進行は言わないのですか?」

「よいのですよ!」


 僕達は、村から乗ってきたトロッコと貨車で、職人の町ガーターに向かった。

 町長ランジェリオンに用事があったのだ。

 決して、女性用下着の発注ではない。



「来たな。待っていたぞ?」


 ガーターの駅にトロッコを滑り込ませると、すでに相手は仁王立ちで待っていた。


「お待たせしました。それで、そちらは?」

「おう、ノームエルフのフォンギヌスっていうんだ。よろしくな?」

「フォンギヌスは、からくり職人でな? 最初は金属加工の職人に声をかけたんだが、金属系の職人みんなが言うには、フォンギヌスが最適だと言うんでな? 呼んだんだよ。」

「おそらく、それで正しいと思いますよ?」

「早速見せて欲しいんだが。」

「いえいえ、見せてどころか、ずっとここにありましたよ?」


 そう言って、駅の裏庭にある、井戸に誘導した。

 その井戸の上に鎮座する、「手押しポンプ」を紹介する。


「このポンプの上から、水を注ぎます。そして、ハンドルを上下に動かすと、」


 井戸の手動式のポンプから水が出る。

 当たり前のことのようだが、結構な科学が詰まっている。

 なお、今の日本なら、最初に水を入れなくてもいいポンプもあるらしい。

 ただ、スキルの関係上、低レベルで制作したので、このポンプになっていたようだ。


 レベルアップが急務かもしれない。

 あとで、ステータス確認しておこう。

 最近ぜんぜん確認していないからな。

 レベルアップしても、新しいスキルとか使っていないし。


「ふむ。これなら、滑車に桶、という井戸のスタイルが変わるな。」

「なんだよこれ? こんなのズルイだろ。いままでの俺たちの苦労は何だったんだよ?」


 2人は、ちょっと非難がましい目で僕達を見てきた。


「いやいや、これでも、旧式ですし。最初に水を入れないといけませんから。」

「どう言う仕組みでぃ? 訳がわからん。バラしてもいいか?」

「どうぞ。今回の依頼は、同じものを作って欲しいと言うことですから。僕ならスキルのおまけで作ることはできるのですが、あくまでおまけ。ポンプだけを作ることはできません。」

「なるほどな。便利なようで不便なスキルなんだな? いいぜ、まかせな? 町長、金属系の職人たち、使わせてもらうぜ? これは、ちと、やばい技術だ。」


 やる気のようだが、なにがやばいのだろうか。

 確かに、技術革新ではあると思うのだが。


「町長。どういうことでしょう。何か問題でも。」

「ノナカ殿。フォンギヌスは、この技術が、軍事転用できると言っているんだ。」

「え? うそ? 無理でしょ?」

「そうなんだろう? フォンギヌス?」

「行けるぜ? ただ、そうだな。わかりやすく言うなら、人力で、結構強力な水魔法を使ったのと同じ打撃を与えることができそうだ。」


 技術者の考えることは、常に斜め上だ。

 つまり、どう言うことなのか。


 おそらくは、消火栓的な使い方を考えたのだろう。

 消防の放水のように、敵に放水する。

 その圧力を調整すれば、もちろん殲滅用としての威力にもなるだろう。

 末恐ろしい。


「今回は、井戸用でお願いします。」

「技術は、国内の秘匿でいいか? 輸出はしないんだろ?」

「そうして欲しい。というよりも、まず、国内に流通させるのも大変だろ? 井戸、国内だけでも結構な数だからな?」

「そりゃそうだ。早速、試作品を作ってみるぜ?」

「あー、あと。」

「なんでぃ?」

「カラクリ職人なら、同じ数の『錠前』も。井戸に封印をしたい。毒を入れられないように。」


 2人の顔色が、いきなり変わった。


「社長も、それを疑ったのか?」

「もちろん。いくら何でもおかしい。仲間にも指摘を受けた。」

「なら、急ぐべきだな。」

「でも、水を入れないと動かない以上、完璧な対策じゃない。もっとも、使い方さえ知らなければ、上から毒を入れることもないだろうけれども。」

「できれば、水を入れなくていい方の仕組みも教えちゃくれないかい? 作るかどうかはともかく、技術論として興味がある。」


 職人だった。

 食いつかれた。


「その、ポンプの中のピストン。そう、それ。上下に動く部品があるだろ? その支柱をずっと伸ばして、水面までつければ、『呼び水』はいらなくなる。でも、製作難度は格段に上がるし、何より使うときに、ハンドルが重くなる。とても。」


 おー、そうかそうか。

 そうだな。

 ここをこうしてだな。

 いやいや、こっちをこうすれば。

 魔法鉱石を入れれば、もっと簡単に。

 じゃあ、魔法陣を加えて。

 浄水魔法も仕込んでおけば。


 町長ランジェリオンとからくり職人フォンギヌスが、技術論で2人の世界に入ってしまった。

 まあ、職人って、こうだよね。

 ただ、そのセリフから、完成品は絶対に同じものにならないと断言できる。

 斜め上に期待を裏切ってくれるに違いない。


 完成までにはしばらくかかるとのことなので、日を改めることにして、ウーバン村に帰った。



「社長! 皇帝陛下がお呼びですぜ!!!」


 村の中央駅に到着するなり、旧山賊団の親分に呼び止められた。


「どういうこと?」

「なんでも、マインウルフ軍団を貸せと言ってきて埒があかねぇんですわ。社長、お願いします!」

「で、どこ?」

「もちろん、城ですぜ? ヴァイスフロストの。」

「来いってか。」

「そうでさぁ。今朝、物資の搬送で行ったら、伝言を頼まれまして。」


 ちょっと納得いかないが、仕方がないので城まで行くことにした。

 この新車トロッコで。


「待って下せぇ。そのトロッコ、子どもの送り迎えに使うんでさぁ。あっしが、例の塔まで、運転していきますぜ? 社長たちは、こっちを使ってくだせぇ。」


 見ると、親分たちがいつも使っている、物資運搬用のトロッコだった。

 当たり前のように、物資が積み込まれている。


「これは?」

「ヴァイスフロストの砦用の物資でさぁ。ついでに運んでくだせぇ。砦のやつら、待ってますぜ。」


 そりゃそうだろうが。

 まあいい。

 こちらには、強力な戦力である、ユリがいる。

 ちなみに、トロッコを動かすことに関して、レインは戦力外だった。


 だって、ペダルこげないんだもん。

 小さすぎて。

こんな技術がありますよ。

大学とかで、よく、最先端の技術を扱っている人が言います。

日本は、それを産業に直結させることが下手だと言われ続けています。

さらに、軍事に直結させることは、忌避されています。

でもね、日本の研究成果、日本国外で軍事利用されているのに。

何も対策できていないんですよね。

例えば、ゲーム機を多数並列接続して超安価なスパコンにしてみたりしていましたしね。

今回は、この世界における、そんなお話のさわりでした。

それでは、がんばれれば、また。


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