第133.5節 聖女と呼ばれて
聖女様のお話です。
詐欺?
いえいえ。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後70〜80日目くらい>
場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領オールドコソナ町
視点:重光
「聖女様」
そう呼ばれる様になってしまいました。
どういうことなのでしょうか。
わたくし自身としましては、想い人の洞川様に、良く思っていただきたい。
ただ、それだけのために行動しただけですのに。
ことの始まりは、洞川様のお言葉でした。
「今度、この国で子どもの面倒を見る施設を作るんだ。野中と一緒に僕達も頑張ろうと思うんだ。キミもどうだい?」
「わたくし、子どもは、どう相手にしたらいいか、わかりませんの。」
「そうかい。みんな、最初はわからないんだ。僕が教えてあげるよ。」
「そんな、いけません。子ども、好きなんですね。」
「そう。将来は、陸上のコーチになりたいんだ。子どもたちを育てたい。その練習かな。」
「そ、それ、なら。」
そして、野中たちの用意した施設に、国内各地からたくさんの子どもが集まりました。
正直なところ、子どもの相手は苦手です。
わたくし、一人っ子ですし。
小さい頃に、ご近所の子供と遊ぶ時間もなく、習い事をさせられていました。
その結果として、今のわたくしがあるのです。
でも、このまま、苦手なままでは、洞川様にふさわしくありません。
この機会に、苦手を克服するのも、子ども好きをアピールするのも、大切なこと。
頑張ってみようかと、思います。
「重光様、ちょろいです。」
「チョロすぎるだろ、いくらなんでも。」
一緒に手伝ってくれると言う、張本と豊が何か言っていますが気にしません。
とにかく、期待に応えるために、子どもの相手をがんばりました。
小さい子は、暴れ回るパワーに溢れるもの。
その無尽蔵のパワーを使い果たさせることができれば、おとなしくなってくれます。
そうなればもう、とても管理しやすいですわね。
ですから、午前中はたくさん運動をさせて、お昼ご飯を食べさせると、お昼寝タイム。
運動させる前と、お昼寝後に、ちょっとだけ、お勉強。
運動させる前には、数のお勉強。
お昼寝後には、文字のお勉強。
やったことは、それだけですのに。
もちろん、子どもたちの中に入って、一緒に遊びましたよ?
精霊3人衆ほど、子どもと同レベルに動き回れるわけではありませんけれども。
わたくしは、子どもたちに、いろいろな遊びを教えました。
なぜなら、有り余る体力を削る必要があったからです。
なるべく、体力の消耗が大きいものをチョイスしました。
できれば、水泳なんかが理想なのですが、この季節ではちょっと無理ですわね。
ちょっと、この子達匂いますので、どの道、水浴びはさせたいところです。
あとで、プール的なものを作っていただきましょう。
体力を削るといえば、走り回るものがいいですね。
それで、鬼ごっこ的な遊びを教えました。
ただ、それでは面白くないので、逃げられる区域を区切りました。
その区域の中央に、立入禁止区域を作ります。
小さい周回の、陸上トラック的な部分が、行動可能範囲になります。
その結果、子供たちが逃げると、陸上競技が始まった様な感じになりますね。
鬼は、その必死で逃げる子供たちを追いかけます。
一番遅い子がタッチされて、鬼が交代して10秒数えると、また追いかけはじめるのです。
こうして、だいたい30分に5分、休憩を入れると、いい感じにお昼にはお腹が空く様です。
そして、昼食のガーター芋を、思う存分食べるのです。
必ず水を用意します。
なぜなら、みなさん、慌てて食べますので、喉につっかえて、むせるのです。
いつも、お腹いっぱい食べられないので、食べられる時に、いっぱい食べようとしますの。
そうしてきなさいと、親から言われている様です。
なんなら、1日の食事が、これだけ、という子供もいるようです。
お持ち帰りは、禁止しています。
そうしないと、持って帰ろうとする子供が、あとをたたないのです。
昼食が終わって、午後はお昼寝タイム。
ここで寝かしつければ、わたくしたちは少し、ゆっくりできますの。
このタイミングで、精霊3人衆とユリさんが、それぞれ仕事に出かけていきました。
夕方になる前に、子供たちが起き始めて、文字を教えます。
たくさん正解すると、どんぐりクッキーがもらえる仕組みです。
みなさん、必死です。
どんぐりクッキーは、お持ち帰りできるので、もう、かなりの競争率。
勉強も、捗ると言うものです。
夕方になって、精霊軍団が、トロッコで旧山賊団の親分たちを連れて戻って来ました。
そのトロッコで各方面に子供が帰って行きます。
この世界では、このような慈善活動を、普通の街の教会が行っているそうです。
財政的に余裕がなくて、どうしても実施できないところが多いそうですが。
それを毎日、送り迎え、ご飯、お菓子付きで実施しましたの。
結果。
1週間経たずに、国内から、私たち女子3人は、勝手に「聖女」認定されてしまいました。
「聖女様」と言われて悪い気はしないのですが。
芋を作っているのは、大岩井さんですし。
トロッコを動かしているのは、旧山賊団の方々ですし。
精霊3人衆も手伝ってくれています。
精霊さんたちは、そもそも精霊なので、聖女には認定されない様です。
その辺りの感覚が、難しいですね。
日によって、シルバースライムさんや、ガルダ族の方々が来て、面倒をみてくれたりもします。
野中さんが言いますことには、異種族に差別意識を持たせない様にしたいとのこと。
ご立派な考えですが、すぐには難しそうですね。
でも、「聖女」生活。
大した奇跡は起こせませんが、それでいいじゃないですか。
期待されると、頑張ってみたくなるものですね。
なんなら、恩寵も、ありますしね。
ちなみに豊は、恩寵のスキルで、子供を寝かしつけます。
笛を吹くと、子供たちが寝てしまう便利なスキルがあるのです。
不便な点は、聞いてしまうとわたくしたちまで寝てしまうということ。
彼女は、日本の曲をお得意の笛で吹いて、子供たちを喜ばせていましたよ?
以前、聖女成分が足りないと言っていましたが、こうなりました。
斜め上な感じで、ぜんぜん聖女じゃありませんが、自称ではなく、他称聖女です。
本来は、こう言う人たちのことを言うんでしょうね。
中身はどうかとも思いますが。
それでは、がんばれれば、また。