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第131節 季節の変わり目には

新章に入りました。

ちょっと投稿手法を変えてみようと思います。

毎日投稿するためには、自分のペースをきちんと把握することが大切なのですね。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後65日目朝>

場所:ヨーコー嬢王国ウーバン領ウーバン村

視点:野中のなか


 いろいろと小狡い手段でヴァイスフロスト城を掠め取った数日後。


 僕たちは、久しぶりにウーバン村へと帰っていた。

 ある程度のマインウルフ軍団と、帝国軍兵士。

 何より皇帝陛下がいらっしゃるので、国土の西側は、安定したのだ。

 今は、皇帝陛下が、帝国復活を祝して、みんなで祝杯をあげている頃だろう。


 たまには、王都というには田舎なのだが、ウーバン村にも帰らなければと来てみたのだ。


 なんか、あれだ。

 しばらく来ないうちに、さらに村の施設の配置が変わっている様な気がする。

 村長宅である、領主の館より北側を、区画整理で村外とした後の変化だろう。

 その広大な空き地には、高い岩壁に遮られた、芋農園が広がっていた。


 周辺の雪も溶け始め、草原には春の花が咲き始めている。


 そう、ウーバン村にも春が来たのだ。

 とするのならば、この仕事は、大岩井女史によるものだろう。

 そうか、もう、芋を作ることができる季節がやって来たのか。

 なにしろ、主食が芋という地域性。


 芋を作らないと、兵站が持たない。

 ならば、大量に栽培すれば良いじゃない。

 そう言う発想かどうかは、本人に聞かなければわからないが、そう外れてはいないはず。

 とにかく、大岩井のグッジョブだった。


 あの岩壁を見て、思い出したのだが、国境の防備をどうしようかという悩みがあった。

 マインウルフやエレメント族といった、主に国境警備隊に所属する異種族のみなさんに任せておけば、万事上手くいきそうなのだけれども。

 一度、状況を整理して、人員の配置を考え直す必要がありそうだった。

 普通に考えたら、今、どこか弱い部分から攻め込まれたら、詰む。


 単純な発想でしかないが、城壁工事がもっとも効果的だった。

 これさえあれば、少ない人員でも国境を守れるし、時間を稼いで援軍も呼べる。

 援軍は、マインウルフの俊足や、異世界鉄道で送り込めば良い。

 なら、人員を配置すべき場所は? 今、脆弱な防御力の国境はどこだ?


 そのためには、よくわかるそこそこ精密な地図が必要になる。

 人員配置とか、いろいろな指示をするためにも。

 なんとなく、どんぶり勘定だった、お金の計算にも。


 僕らの目の前には、いつだって問題が山積みだった。


 そんな中でもただ一つ、幸いだったのが、とうとう来たのだ。

 この地にも「春」がやって来たのだ。

 雪も溶け始め、新緑が芽吹いている。

 芋がジャングルの様に生い茂っているのは、おそらくスキルであろうから除外だ。



 ウーバン村の西門にあたる砦が、今のこの国の王宮(仮)だった。

 砦を作りつつ、僕のスキルで駅を作って発展させたら、こうなった。

 ステータスとしては、貨物駅Lv3なのだが。

 納得は、全然できない。


 駅を作るスキルは、今までほとんど単体でしか使ってこなかったのであまり気が付かなかったが、元からある建物に使用すると、リフォーム的な効果があったり、その建物を増強増築する形であったりと、スキル使用者の予想の斜め上を行く仕上がりとなっていた。


 マインウルフたちの岩石魔法によって、外見だけは砦というか城砦の様に取り繕ってはいるものの、実は中身まで岩でできている砂の城ならぬ、岩石の城。

 それと、僕の駅を作るスキルの合体技で、なぜかこの様な良い感じの城砦ができあがった。

 この異世界に来て、一番立派な「駅」だった。

 いや、そもそも、貨物駅ってこんなに本屋ほんおく大きくても仕方ないんじゃ?


 いや、考えたら負けな様な気がして来たので、それは、気にしないことにした。

 その3階くらい、城壁と同じ高さの部分にある城砦のバルコニーから、こちらを見る人。

 あれは、嬢王陛下だった。

 クラスメイトの幼馴染で、真面目っ子むっつり風紀委員の伊藤さんだった。


 正直なところ、キャラクターが濃すぎる。

 彼女が暴走した時は、どう言うわけなのか止める役割を押し付けられる。

 だから、あらかじめ、暴走されない様に何とかしているのだが。

 今はただ、その嬢王陛下も、物憂げに東の空を眺めていた。


「クッキー焼いたの。食べる?」


 手紙だけではなく、久しぶりに話でもしようと寄ったのだ。

 そうしたら、これである。

 予想の範囲外から、クッキーをぶち込んできた。


「クッキー? どこから小麦とか手に入れて来たんだ? 聞いていないのだが。」

「小麦? ないわよそんなもの。木の実。春になったので備蓄用の木の実を大量放出中なの。それで、やや大きめのどんぐり的な木の実を使って、クッキーを焼いたわけ。」

「え? どんくりってクッキーになるの?」


 正直不安だった。

 そもそもどんぐりって食べられるのかよ?


「え? 当たり前でしょ? 知らないの? クリだって食べられるんだから大丈夫。毒とかないから。(灰汁抜きはしないとだけど)。」


 そういって、クッキーを無理やり口に突っ込まれた。

 色気もどきどきもない。

 女子に直接クッキーを食べさせられているのに。

 なんて残念なイベント。


「おいしい?」

「ぼそぼそで、あんまり味がしない。」

「おいしい???」

「ちょっと苦い。」

「お・い・し・い・か・し・ら?」


 鬼の様な形相で、食べ終わっていない口に、もう一枚突っ込まれた。

 おこだ! 激おこだ!!!


「たいへんおいしゅうございました。」

「わかればいいの。おそまつさまです。」


 ほんとにお粗末だよ。

 まあ、美味しく作るための材料も道具もないのは知っていたけどね。


「あと、おひたしも作ったの。」

「いや、野菜とかつくってないだろ?」

「春になったから、木から新芽が出るの。柔らかくて食べられるから。」

「まじかよ。」


 そして、箸で無理やり口の中に突っ込まれる。

 またしてもほのかに苦い。

 春は苦い季節だった。

 たらの芽のような味だった。


「おいしい?」

「にがい。」

「おいしい???」

「ほんのりと苦い。」

「お・い・し・い・か・し・ら?」


 学習した。

 学習したので、すぐに取り繕った。


「たらの芽みたいで、おいしいよ。料理の腕が1あがった。」

「何よ1って。もっと上がっているから!」

「どこからとって来たし、これ。」

「山に生えていたの。村長さんたちと採ってきた。美味しいって言うから。」

「天ぷらにして食べたかった。」

「無理言わないの!」


 春になって、木の芽やら薬草やら、大量の黄緑色山草が山から供給されることになった。

 健康的には、大変ありがたかった。


 ところが、そんな食事をしているにもかかわらず、新しい季節を迎え、問題が発生していた。

 流行り病だった。

 風邪の様なのだが、残念なことに、現状、薬の類の在庫がほとんどない。

 魔法で何とかと言っても、そんな魔法はない。


 回復魔法的なものを使える、猿渡とか神佐味かむさびは、サッシー王国へ行ったきりだ。

 結構な人数が、その風邪的な何かに罹患して、苦しんでいた。

 二、三日で治るのかと思っていたが、そうでもないらしい。

 対処療法をしているうちに、年配者から死人が出た。


 もう、待っていられない。

 こう言う時は、薬が必要だろう。

 薬といえば、薬局なのだが、ここは異世界。

 よろず屋に行けば、手に入るかもしれない。


「ごめんください。」

「だから、薬ならもうないよ!!!」


 挨拶に被せてくる様に、返事が返って来た。


「店長、苦労されているんですね。」

「私もちょっとかかりかけちまっててね。でも、薬ならないよ。」

「逆に、ここでならもともと売っていた、ということですね?」

「そうだけど、どうしたんだい?」

「仕入れ先を教えてください。」


 そういうと、店長さんは北の山を指さした。


「山の中にね、雪解け度同時に薬草が生えているはずなのさ。でも、このご時世だろ? 魔物が出るから、なかなか採りに行けなくてね。」

「村人なら、誰でも、見ればすぐに採取できますか、その薬草。」

「そうだよ。小さい頃から、教えられるからね。」

「持ってくれば、薬にしてくれますか?」

「薬師なら、村にいるからね。そこから仕入れて、うちで捌いているよ。」


 挨拶もそこそこに、大岩井さんを探した。

 村人たちに話を聞いて、すぐに居場所が発覚する。

 結果的に大岩井さんは、嬢王陛下のお城で寝込んでいた。

 なんてことだ!!! 肝心の大岩井さんが病気で倒れてしまっていたのだ。


「大岩井さん。薬草を採りに行きたい。マインウルフをまた借りるよ?」

「だめ。貸せません。というよりも、野中が考えるより前に、彼らも同じことを考えて、山に走っていった。薬草を取りに行くと言って。マインウルフは鼻がいいから。今ならエルフに変身して、採集もお手の物。」

「じゃあ、採集したのを、よろず屋に持っていって、薬にしてもらうよ?」

「そう。そうして。村のみんなを救って。」


 言い終わる頃には、背中のカゴいっぱいに薬草を入れたマインエルフたちが、窓の外、城の前に集団で戻って来ていた。


「社長、社長は風邪ひかなかった? ここのところ寒かったり暖かったりしたから。あ、でも、やっぱりバカは……。」

「そう言うの良いから。よろず屋に持っていって。」

「話は通してあるんですか?」


 意外なことを聞いて来た。

 まあ、こういうとき、その手の確認は怠りがちになる。

 大切なことだ。


「もちろんだ。よろず屋が薬師に薬草を売って、薬師が薬を作る。できた薬をよろず屋が買い取る話になっている。」

「よく、話がついたね? けっこう、気難しいはずなのにね。何した?」

「あのばぁさん。流行病にかかりかけていた。そして、薬の在庫は0だ。」

「なるほど、なるほど。それじゃそうなる。ふっかけて儲けようか?」

「こっちは、国だからな。こう言う時は、財政出動してでも、流行を止めるんだよ。国の経済が回らなくなったら、元も子もない。」


 マインエルフは、ちょっと驚いた顔をしていた。


「それ、普通の国じゃ、やらない考え方。」

「僕らの国では、それが普通だったんだよ! これからは、この国でも、これが普通になるから。みんなを助けるから。」

「本気か?」

「だからその足で、薬師を手伝ってあげて。」

「え、でも、それって、違法になるんじゃ?」

「国のピンチの時には、軍隊は何だってやるんだよ。」

「社長が言うなら。実は、妻が寝込んでしまったんだ。早く治してやりたい。」

「なら、なおさらだ。急ぐぞ!」

「はい!!!」


 こうして、マインエルフ軍団のおかげで大量の薬が作られ、村での流行り病は収束に向かった。

 そうして、この国の課題がまた一つ、浮き彫りになた。


 薬師一人では、流行に耐えられるほど、大量に薬を作ることができない。

 薬そのものも、長期間保存が効くものではないので、作り置きするわけにもいかない。

 薬草自体も、採取してから時間が経ってはダメらしい。

 乾燥させた薬草では、効果が変化したり、減少したりするそうだ。


 技術開発が、急務だった。

 丸薬系にして、保存が効き取り回しのいい薬の開発が必要だろう。

 いつまでも、ポーションよろしく、飲み薬というわけにもいかない。

 飲む量も、見たところ結構多いしね。


 他の町では、どの様にしているのか、ガーターの町に行って町長に聞いてみた。


 結局、どこの町も似た様なもの。

 効果的な対策は取れていなかった。


 それどころか、実は、ウーバン村以外でも、結構、流行していたのだ。

 その、流行り病が。

 国として、何らかの対策が必要だな。

 どうしたものだろうか。


 そのころ、我らが元気な嬢王陛下は、異世界なのにも関わらず、花粉症に悩まされていた。

 何でやねん。

戦いがひと段落ついて、ちょっと内政のターンです。

病気で弱気になっているところを優しくするのは王道のパターンですが。

でも、簡単にはそうならないのが現実で。

それでは、がんばれれば、また。

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