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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第1.5章 それぞれの立場と面子と行き違い
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第5話 村長とギルド職員と冒険者の来ない村

今回のお話は、何なのか伏せておきます。

察しのいい方なら、気がつくかもしれません。

意図的に個人名や村の名前と言った固有名詞は出さないようにしました。

次の章につながるこの章最後のお話です。

それでは、どうぞ。

「村長、何とかならないの?」


 私は、1年前に亡くなった前村長の代わりに村長をしている、前村長の妻に、食ってかかっていた。


「いや、お前さんだって分かるだろう、何でこのババが村長をしているのか。」

「そんなことわかってる。わかってるけど。」

「地道に努力。これしかないよ。村の運営でギャンブルをしちゃあいけないよ、というのがあの人の口癖だったからね。」


 でも、それは問題を先延ばしにしているだけでしかない。

 私は、生まれ故郷であるこの村が、危機に瀕していることを知っていた。

 1年前からずっと危機に瀕しているので、村人のみんなは感覚が麻痺してしまっていた。

 何とかなるだろうという、根拠のない自信も、それを後押ししていた。


「とにかく、今いるみんなで何とかしないといけないんだから。」

「お前さん、以前は冒険者だったんだろう。その若さで引退したのにはそれなりの理由があるんだろうがさ?」

「この村、警備の兵士も満足にいない状態が1年も続いていて、それで何とかしようともしないのはどうかと思うんだけど。」

「だから、あんたんとこのギルドに、村の警備の仕事、発注してるんだろ。」


 この村の冒険者ギルドは、私一人で切り盛りしていた。

 この寒村には冒険者がほとんどいないので、一人で十分だというのが支部長の言い分だ。

 そして、私はいろいろあって冒険者は引退していたのだが。


「こんな辺鄙な村に、冒険者がくる訳ない。結局、わたしが全部やることになるんじゃない。引退したのに。」

「引退って、あんたまだ20代じゃないか。引退するには早いし、この村の状況じゃ、引退者を引きずり出すのはしょうがないよ。他も似たようなもんだろ。」

「そりゃ、よろず屋の女将さんは、前から店を切り盛りしていたし、子供だって手伝ってくれる。農家や、牧場だってそう。でも、冒険者ギルドはそうはいかないのはわかるでしょ?」


 いくら私が元冒険者であったとしても、一人でできることには限りがある。

 村の警備をする兵士すらいないのだから、一人何役やれば許されるんだと問いたい。

 村の周辺に出る魔物を退治する。

 その肉をよろず屋に下ろす。

 これが村民の貴重な、本当に貴重なタンパク源となるのだ。


「知ってるさね。でも、どうにもならんね。」

「ホワイトベアーがでた。」

「何だって?」

「ホワイトベアーがでた。」


 それでも本来なら、この1年何とかなったのだから、この先も何とかなるだろうと思う。

 でも、現実は厳しかった。

 私は、見てしまった。

 そして、ホワイトベアーだと断定してしまったのだ。


「ちょっと、冗談はよしておくれよ。今は冬だよ? 熊は冬眠の時期だろ?」

「ホワイトベアーは冬眠しない。むしろ冬が活動の本番。夏は穴蔵にこもって出てこない。」

「ホワイトベアーが出る地域じゃないだろ、ここら辺はさ。」

「そう。でも実際にいた。しかもおそらく2〜3匹とかじゃない。」


「で、どうしようっていうんだい。」

「村に入られたら全滅。みんな、ホワイトベアーの胃袋に仲良く入ることになる。」

「でも、お前さんでも無理なんだろ?」

「仲間が必要。最低でも3人。3つ星の冒険者が。」

「ここ1年、この村であんたを除いて見たことないよ。」

「じゃあ、この冬で、この村はおしまい。みんな死ぬ。」


 不毛な話し合いは、1年前から平行線。

 1年前、この村の成人男性が消え去った。

 神隠し、とかそういうオカルトじゃない。

 殺されたのだ。


 この村の近くには、鉱山があった。

 鉄、銅、そして石炭を少し産出する、小規模の地味な鉱山だった。

 それに、村の男手のほとんどを取られてしまっていた。

 そんなある日、事件が起こった。


 鉱山から、魔物が湧いたというのだ。

 急いで村の兵士が駆けつけたが、その兵士までやられた。

 鉱山は、村の、そしてこの国の重要な財政源だった。

 簡単に諦める訳にはいかない。


 そして、村民の全成人男性が鉱山を守ろうとして武器を手に駆けつけ、散っていった。


 残されたのは女子供のみ。


 当然に村の運営は行き詰まった。

 ギルドには他の支部の情報も入ってきた。

 ほぼ同時期に、他の鉱山でも魔物が湧いて、犠牲者が多数出たようだ。

 近くに騎士団がいたり、強い冒険者のパーティーがいたりして、無事な鉱山もあった。


 でも、ほとんどの鉱山が、我が村と同じように廃鉱山となってしまった。


 国でも少しずつ動いてはいるが、鉱山復活の目処は経っていない。

 そして、時間が経てばたつほど、魔物は集積するのだ。

 後手に回るほど、不利になる。


 そして、今、鉱山だけではすまない問題が発生していた。


 村の依頼で、わたしが村の出入り口の警備をしていた時だ。

 時間の頃は午前2時くらい。

 わたしは目を疑った。

 目の前に「くま」がいたのだ。


 名誉のために言っておくが、決して立ったまま寝ていた訳ではない。

 夢ではないし、寝ていて起きたら目の前にいました、でもない。

 いきなり何もない空間から、くまが発生したのだ。

 空間転移、というやつだ。


 そして、その「くま」は、私の見立てでは「ホワイトベアー」だった。

 近隣ではいるはずのない、もっとずっと北の方のモンスターだ。

 

 しばらくすると、そのホワイトベアーは、雪の中へ立ち去って行った。

 そしてまた、一時間くらいして、目の前にホワイトベアーが転移してきた。

 気がおかしくなりそうだ。

 そのホワイトベアーも、わたしを相手にすることなく、山の中に消えて行った。


 悪夢だった。

 数えられただけでも10頭はいた。

 それだけの数のホワイトベアーを食べさせるだけの食料は、周辺の山にはないと思う。

 勢い、彼らの餌は、私たちとなる。



 そこで、私は行動を起こした。


 冒険者が来ないのなら、作ればいい。

 何も赤ちゃんを作ると言っているわけではない。

 手の空いている子供に、できることを教えるのだ。

 手の空いていない子供でも、必要な技能スキルを教えて、生存率をあげるのだ。


 子供に限って言えば、男手もある。


 そうして、私の冒険者育成計画が発動した。


 まず、手始めに、隣の家の男の子「スティーブン」に手を出した。

 いや、「手を出した」というのはよくない。

 スティーブンの母親にはそう言われたが、私まで言うことは無い。

 彼に、剣の手ほどきをしたのだ。


 10歳になったばかりのスティーブンは、普段、母親と一緒に農業をしている。

 村の貴重な男手として、活躍中なのである。

 そして、ちょっとしたイケメンでもある。

 この子のように女性に優しくできる男は貴重だ。


 スティーブンは、農業も好きだが、将来は今誰も専任でいない村の兵士を志していた。

 私にとっても、村長にとってもありがたいことだ。

 最も、彼の母親にとってみれば、とんでもないこと。

 何しろ一人息子なのだ。

 もうそろそろ二人目を、と言っていた矢先に、夫が亡くなったからだ。


 そんな彼の心を知っていた私は、以前から機会あるごとに剣の使い方を教えていた。

 なので、父親の亡くなった今でも、時間があれば、剣を教わりに来てくれた。

 冒険者でも村の兵士でもいい。

 何かあったときに、みんなを守れる男に育てたい。



「ギルマスは、どうして冒険者引退しちゃったの? 全然強いのに。」


 スティーブンは、遠慮なく私の言いたく無い過去に切り込んできた。

 空気が読めないわけじゃない。

 もう、その話をしてもいいくらいの人間関係だろ? と言っているのだ。


「パーティーが全滅した。私を除いて。」

「でも、それって、冒険者としては珍しいことでも無いじゃん。」

「そう。ちなみに11回。全滅している。私だけ生還している。」

「う、何でだよ。そんなにやってたなら、別に気にすること。」


 そう、私自身はそこまで気にしていなかった。

 私自身は。

 王都のギルドで、名を馳せていた私だったが、さすがにこれだけ全滅するとダメだった。



 まず、悪い噂が流れた。

 人は、噂好きなのだ。

 そして、噂は悪意がなくとも悪評を広めるのに最も適していた。


 死神だとか言われるのはまだいい。

 あいつ、仲間を殺して回っているらしいぜ?

 そんなささやきも珍しく無くなってきた。


 11回全滅しても飄々としていた私は、12回目のパーティーを編成しようと仲間を募った。


 ギルドからは、引退してギルドの職員になることを強く勧められた。

 後から思えば、これは王都のギルドマスターの優しさだった。

 でも、当時の私にはこの優しさが伝わらなかった。

 表面上、飄々としていたけれども、傷ついていないわけでも悲しく無いわけでも無い。

 当たり前だ。

 一緒に戦ってきた仲間が死んだのだ。

 どうして平気でいられようか。


 でも、現実問題として、12回目のパーティーは結成されなかった。


 いやこれは正しく無い。



 結成できなかったのだ。



 ギルドが邪魔をしたわけじゃ無い。

 誰も、私と組みたがらなかっただけだ。

 あいつと組むと死ぬんだぜ。

 そう言う風評が蔓延し、そしてジンクスを大切にする王都の冒険者たちからは敬遠された。


 そんなバカなことがあるもんかと粘った。

 半年ほど粘った。

 でも、風評は悪くなる一方。

 その時、ギルドマスターが私を酒に誘った。


「冒険者は、レベルとか強さとか、あまり重要じゃ無いんだよ。」

「何を言っているんですか? レベルが低ければ死にます。 強くなければ死にます。」

「でも、じゃあ何で王都の冒険者ギルド随一の強者である、君はハブられているのかな?」

「それは……。」


 ギルドマスターが酒場のマスターに、強い酒を注文した。

 普通は誰も注文しないような、喉の焼けるやつだ。

 私も、飲んだことは無い。


「まあ、君が強くて、仲間を大切にしていることは知っている。だからこそ、ギルドの職員にならないかと、勧誘しているんだ。ちなみにだが、もし受けてくれるのなら、特例として、冒険者のままギルド職員になれるよう手配する。」


 不正防止のため、通常ギルド職員と冒険者は兼任できない。

 当たり前だ。

 一人で両方できたら、不正し放題だ。

 それを20歳になったばかりの私に認めると言っているのだ。

 かなりの信頼による好待遇だ。


「そんなに、そんなに、私の、噂は、ひどいの?」

「そこまでじゃ無い。でも、そこまでじゃなくても、噂は消えなかった。それが現実だ。」

「じゃあ、冒険者続けてもいいなら、職員になります。」

「わかった。そうだな、君のことを誰も知らないような僻地がいいだろう。王都周辺じゃあ、君の名前を知らないなんて、ほとんどいないからね。」

「ありがとうございます。」


 そうして、私は、この村にギルドマスターとして赴任した。

 もちろん、私がギルドマスターであると言うことは、職員は私だけ。

 でも、ちょうど一人になりたかったその時は、ありがたいことだった。

 そして、冒険者の資格を剥奪されていないことを隠して、ギルマスをするつもりだった。



 そして、そこそこ冒険者の集まる鉱山の街でのギルド職員生活が始まった。

 自分の生まれ故郷でもあり、地の利や人脈があった。

 順調だった。

 とても順調だった。



 1年前に、鉱山から魔物が溢れ出してくるまでは。

ブックマーク及び評価ポイントをいただき、ありがとうございます。

目に見える形で読者様がいらしてくださるのがわかるのは、頑張る力に直結します。


さて、この話で幕間である第1.5章は終了です。

明日から、第2章に入ります。

第2章を書くにあたって、いろいろなものを見てきました。

自分では知っていると思っていても、改めて実物を見てみると違っていること、結構あるものですね。

特に鉱山で使われるトロッコ。

自分が考えていたものより種類も多く、結構な数が保存されていました。

鉱山の経営者が、地元の子供達の教育に力を入れていたために残された貴重な遺産です。

そしてそのことが、閉山後の経営を傾けてしまった要因の一つとなってしまったのは、残念でなりません。

鉄道にも色々あるものですね。


それではまた、明日15時頃に。

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