第47話 南へ
しっくりいかなかったので、全面的に書き換えました。
誤字訂正ありがとうございました。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後58日目夕方>
場所:サッシー王国内某所
視点:猿渡
仲間を助けると親友である野中に誓った。
言葉で言うことは簡単だ。
けれども、実際に実現させることは、言うほど容易いことじゃない。
助ける相手が自分の嫌な相手ともなると、気持ちの整理もつかない。
今から助けようとする相手は、そういう嫌な人間関係をもつ者をも含んでいる。
救援に向かう状況であるのだから、いろいろと条件は厳しい。
魔王軍の侵攻スピードよりも早く、勇者たちと接触しなければいけない。
勇者たちが何人生きて王宮に残っているのかを、実はこちら側では把握していない。
さらに面倒なことには、僕らと共に一時撤退することを説得する必要もある。
魔王軍と戦うために召喚された立場なのだから、説得は難航するだろう。
普通に考えるなら、どんな状況下であれ、素直に魔王軍と戦うだろう。
それを、ちょっと待てと言いつつ、現場から戦力を引っこ抜こうと言うのだ。
サッシー王国の兵士たちには、激しく恨まれるだろう。
それが、勇者になりたてで、実際にはそれほど役に立っていないとしても。
僕たちは、そういった限られた条件の中でスピード勝負を強いられていた。
すぐにでも王都に乗り込まなければならない。
なぜなら、このままだと勇者たちはおそらく全滅するからだ。
それはすなわち、元の世界へと帰ることもできずに、この異世界で屍をさらすことである。
魔族たちによって、その奪われた魂すら、利用されてしまうのだ。
今の僕には、明確にそんな未来が見えている。
出発した砦から、王都まで歩いて行くなら、概算でおおよそ半月くらいかかる。
着いた頃にはもう、王都は魔王軍のものとなっていることだろう。
無茶を承知で、極限まで急ぐ必要があった。
ところが、急ぎたい時に限って歯車は噛み合わないものだ。
移動し始めてすぐに、大きな川を渡ろうとしていた。
「橋が爆破されておるのう。この深さの川では、渡れぬぞ?」
「どうするのだ? 猿渡殿?」
高野が言う通り、大きな川にかかる僕たちに取って極めて重要な橋が爆破されている。
橋を渡ることができないほどにだ。
それも、上流や下流を見るに、一つや二つではなく、全てだった。
僕の発案で、魔王軍の進軍を邪魔するために、橋を落としたのだった。
その効果は絶大で、狙い通り魔王軍の進軍スピードは遅くなり、まだ、王都は健在だった。
その上、進軍スピードが落ちれば、兵站が余計に必要となる。
食料やエネルギーといった兵站は、長期戦になればそれだけ負担が増える。
自分で取った手段とは言え、自分に跳ね返ってくるとは思っていなかった。
そんな破壊された橋を見て途方に暮れていると、女子近寄ってきてが助言をくれた。
「橋がないなら、船を使えばいいじゃない。」
「そうです。さすが重光様!」
「やはりできる女はちがいますね。」
ホーリーティアラという、一見王族風の装備をされている、重光さんの声だった。
彼女は、洞川のファンクラブ会長だ。
そしてそれを讃えるファンクラブ会員というか、手下の張本と豊。
想い人である洞川が(どろかわ)が、魔王軍と戦いに行くと言うので着いてきてしまった。
「こんな文明の遅れた異世界でも、船の一つくらいあるでしょう? それに乗って川を渡ってしまえばいいのですわ。お分かりになって? 渡し船ですわよ?」
「流石です。重光様。わたし、探してきます。」
「わたしも、近くの村で探してきますわ。」
重光は、安定の高飛車なキャラ。
洞川も、さすがにそのキャラ付けはひくと思うよと助言しておいたのだが。
やめるつもりはないらしい。
「船か。渡し船か。異論のある者は?」
「そのてがあったのか。その意見で。」
「異論ござらん。」
「このメンバーの中に、この世界の船を動かせる者がいるのか?」
「やるしかないだろう。一番効率のいい移動手段だ。」
重光とその取り巻きの態度は鼻につく。
しかし、重光の頭が切れと取り巻きの行動力が優れていることには違いはない。
そうだ、その手があったのか。
張本たちが向かっていた手近な廃墟と化した川岸にある村に入った。
川に面している、船着場にいくつかの木造の小さい船があった。
「重光様。こちらはどうでしょうか。人数と荷物を考えると最適ですが。」
「もっと大きな船はありませんの? これでは、窮屈ではなくって?」
「しかし、冬ですから、多少窮屈な方がよろしいかと。」
「嫌ですわ。それに、男も沢山いますのよ?」
「重光様。だからですが。」
「なんですって。」
「(洞川様に、合法的に密着できますよ?)」
「(すばらしいですわ!!! きっちりアシストするのですわよ?)」
「(もちろんでございます。皆でがっちりガードしましょう。)」
発案者の重光は、どうしても大きな船に乗りたいらしかった。
女子としては、まあ、男どもと密着したくはないよな。
マインウルフたちもいることだし。
あと、大きくなればなるほど操縦するの、そうとう難しくなるから。
思いつきだけは、よかったのに。
もったいない。
重光の厳しい吟味を経て、張本おすすめの手頃な小舟に決定した。
張本と豊に説得されて、あれほど騒いでいたのに、急に納得していた。
どんなマジックを使った?
「これで、川を渡れますのね。」
「川を渡る? 違う。そうじゃない。」
「あら、橋が壊れて困っていたのではなくて?」
「そうです猿渡。重光様が川を渡るためにと、船を探してくださったのですよ?」
船を見つけてきた重光たちには申し訳ないが、渡河には使わない。
そんな用途に使うのはもったいないと気が付いてしまったのだ。
「この船で、川を下るんだ。」
「なんですって?」
「この大きな川は、王宮の背後まで繋がっている。ものすごく早く到着するぞ?」
「猿渡、それは本当なのか?」
「ああ。もちろん。」
「猿渡さんは、エロいこと以外も考えることができるのでして? まあ、船を上手に扱って見せたのなら、許して差し上げてもよくってよ?」
しれっと重光が、僕を船頭に指名してきやがった。
そして、誰もそれに異論を唱えない。
船頭なんて、やりたくないからだろうな。
「ちょっと待ってろ? 必要な道具を調達してくる。」
「トイレですの?」
「ちがわい!!!」
異世界の木造船なのだ。
エンジンがあるわけでもない。
櫂も櫓もない。
どうやって、動かしていたのだろうか。
さっぱりわからないので、異世界基準で考えるのはすぐに諦めた。
とりあえず、長い棒があれば十分だろう。
操船用の竿を探すことにした。
近くの小屋の前にあった、程よい長さの物干し竿を確保した。
川下りだけなら、これで十分だろう。
船から落とすかも知れないから予備を含めて3本調達した。
僕が船に戻ってくると、全員乗船済みだった。
もし、船が流れていったらどうするつもりだったのだろうか。
思うところがないではないが、僕もおとなしくその小舟に乗った。
「ひっくり返したりしたら、わかっていますわよね?」
「それは、芸人さんのノリで言っているのか? 水に落ちたいのか? 洞川の前で、濡れ透けラッキースケベを狙っているのか? やめておけ。急流だからな。」
「狙っていませんの。でも、そうですわね。そういうのも、殿方には、刺激になるのですのね?」
女子3人が集まって、何やら相談している。
いや、真面目にやってくれ。
そんな女子たちの不穏な動きが気になって仕方がない。
船と桟橋を繋いでいるロープをはずすと、桟橋を蹴りつつ竿を川底に挿して、出港した。
その勢いで、船が大きく揺れた。
重光は、あくまで自然な動きで、洞川にしなだれかかる。
「す、すみません。ですわ。」
「あ、ああ。かまわないさ。」
そして、動く気配のない重光。
困惑する洞川。
それ以外は、順調な船出だった。
川の中央付近まで船を動かすと、川の流れに乗って、結構な速さになった。
川の流れに身を任せる。
川面から突き出ている大きな岩が、結構あって、船がぶつかると、重光が喜んでしまう。
洞川のためにも、これ以上ぶつからないように、竿を使って全力で岩を回避しまくった。
大きな川なので、全体としての流れはそれなりにゆるやかだったりする。
この川下りには、作戦上、一つ問題が発生していた。
後から追いつく予定の増援のマインウルフの件だった。
船がいいスピードで川下りをしているので、おそらくは追いつけないということだ。
増援なしで、戦うことを考えなければいけない。
いや、そもそも、戦ってはダメだ。
今回の魔王軍との戦いは、確実に負け戦。
どれだけ綺麗に撤退できるかが、勝負の分かれ目だ。
異世界から来たクラスメイトの勇者を、一人残らず無傷で回収する。
これが、今回の勝利条件だ。
この川を下れば、王宮まで一直線だ。
王宮の真後ろ、崖下50メートルに辿り着く予定だ。
しばらく川を下っていくと、周辺の風景が変化していった。
周囲は森になり、両岸が高くなって、渓谷となってきた。
その渓谷は、ほどなく切り立った崖になり、視界が悪くなってきた。
そして、それと同時に、日が暮れてきた。
これで、敵から発見される心配がぐっと減った。
渓谷の性質上、川幅が狭くなり、徐々に流れが激しくなる。
ならば、この小さな船で、急流下りと行こうじゃないか。
こうして、僕たちは、夜の闇に乗じて、王都に向けての川下りを楽しんだ。
洞川が、うまいこと女子から脱出して、マインウルフの毛繕いをしていた。
それを見て女子たちも、動物好きアピールをしていた。
まだ、マインウルフの毛繕いをするくらいの余裕があったのだ。
「あら、いやですわ。ダニがついていましてよ? 取って差し上げますわ。」
「重光様、こちらにもダニが。」
「すぐにとって差し上げましてよ?」
マインウルフたちは、洞川の計略で、女子たちにダニ取りをされていた。
一緒にいて、ダニまみれになってかなわないからだとか嘯いていた。
でも、もちろんそんな余裕があったのは、渓谷に入り始めた最初のうちだけ。
渓谷な底までは、月の光も差し込んでこない。
視界も悪くなり、ダニ取りも無理になったので、勢い、もふもふするくらいしかできなくなった。
というよりも、マインウルフたちは、暖房がわりに利用されていた。
川の流れが激しくなってきて、状況は徐々に悪化していった。
救命胴衣とかいう文明の利器を装着していないので、もはや船にしがみつくしかない。
なぜなのかはわからないが、たまに魚が船の中に入り込んでくるくらいだ。
必死になって、船の先端部で竿を捌いて転覆しないようにコントロールする。
皆、船にしがみつくことに必死だった。
時折、魔物が襲いかかってくることもあった。
もっとも、あまりの激流に、エンカウントと同時にエスケープできた。
と言うよりも、お互い、まともに戦闘ができる状態でもなかった。
わざわざ川の中まで入ってきて、襲いかかってくる魔物の勤労精神はすごいと思う。
その大半が結果として溺れているとなると、哀れでしかない。
どんな指揮官が、こんな自殺行為を命令しているのか顔を見てやりたい。
そして、その無能な指揮官のおかげで、僕たちはある意味命を救われていた。
そういうわけだから王都に着くまでの数日間、陸の上で寝ている時の他は、ほとんどまともな戦闘をせずに済んだのだ。
川に橋がかかっていた所だけは、爆破されており、橋の残骸で通りにくかった。
逆に、ここが、天然の要塞となり、キャンプを張って休むのに利用できた。
竿でも、その大きな瓦礫に突っ込むのを完全に避けることはできない。
我らがマインウルフたち発破職人が、船から勢いよく瓦礫を発破して、川を切り開いていたりもしたが、恐ろしい反面、いい仕事をしていた。
犬だけになかなかの強肩だった。
<異世界召喚後62日目朝>
場所:サッシー王国王都近傍
視点:猿渡
休み休み川下りをしていると、ようやくのこと王宮の裏側付近まで流れてきた。
ここで一つ、問題が発覚した。
この船の止め方が分からない。
いい感じに砂浜に突っ込めばいいのだが、そんな都合のいい船を止める場所はない。
両岸は切り立った崖となっており、地面は遥か上だった。
もし、運良く船を止めることができたとしても、桟橋のような降りる場所もない。
悩んでいるうちに、さらに下流へと流されてしまった。
王都から南西側へと少し流されると、渓谷が終わり、いい感じの砂岸になってきた。
竿を上手にコントロールすることで、船を砂浜に乗り上げることができた。
正直、助かった。
「王都が正面に見える。すごいな。文明の力は。」
洞川が朝日を浴びながら、そうつぶやいていた。
ちょっとイケメンがやると、絵になる。
同じことを僕がやっても、誰も相手にしないのにだ。
神様は、不公平極まりない。
「お待ちしておりました。」
砂浜にはエルフがいた。
マインエルフ軍団1個小隊30名くらいがいた。
どうしてここに漂着することがわかったし?
「不思議そうな顔をされていますね。」
「ここに辿り着いたのは、本当に偶然のはず。そこに待っている君たちは、魔法使いなのか?」
「いいえ。当然の結論です。私たち、鼻、いいですから。」
「いや、そう言うレベルの問題じゃあないと思うのだが。それよりも、」
「なんでしょうか?」
予想外のことだった。
当然に問いたださなければならない。
「ヨーコー嬢王国から、どうやって追いついたんだ? 絶対に船の方が早いと思う。」
「追いついていません。待っていただけです。」
「は?」
謎発言だった。
「私たちは、斥候小隊。常に、サッシー王国内を犬としてうろついて、多くの情報を嬢王国に持ち帰っています。今回は、伝令から、猿渡さんを助けるようにと。あと、エロいから気をつけるようにとも。」
「なるほどな。そういうことか。」
上陸すると、すぐに王都の南西の森に誘導された。
移動中に、いろいろと情報を彼女たちから確認できた。
かくれて城下町の様子を伺っていたマインウルフの情報は貴重だった。
結局のところ、マインウルフの増援は、実現した。
というよりも、元より斥候に出ていたマインウルフをそのまま編入する形だったようだ。
これならよけいな移動時間もかからず、一石二鳥だった。
そして、彼女たちは、森の中で朝食を用意していた。
朝からヘビーに、魔物の肉での焼肉パーティーだった。
煙に釣られて、魔王軍に近寄られるんじゃないかと心配した。
あと、魔物の肉ばかり食べていたら、魔物化したりしなか心配した。
両方とも、今のところは大丈夫そうだが。
今いる場所は、王都を攻めようとしている魔王軍の真後ろ。
この位置関係では、魔王軍が邪魔で、王宮に辿り着けなさそうだ。
朝食を食べながらマインエルフたちから話を聞くと、その軍勢は5万前後もいるらしい。
こいつらと戦うつもりはない。
どうやって、クラスメイトたちと接触しようかと思案に暮れていると、兵士がたくさん。
森の中から、王国軍が現れた。
「肉の匂いだ。焼き肉の匂いがするぞ?」
「誰だよ、こんなところで朝から焼肉しているのは?」
はらぺこ兵士たちが、涎を垂らしつつ、不平不満を言い募っていた。
焼肉パーティーの中央で、肉をつつきつつ、作戦会議をしている僕らに、声をかけてきた。
「おや、君たちは、どこから来たんだい? 魔王軍が目の前にいるから危ないぞ?」
「でも、王都に用事がありまして。」
「む? エルフか。君たちは、情報に間違いがなければ、勇者の皆さんですね?」
若いイケメンが、甲冑のライナーをあげて顔を晒すと、そう言ってきた。
金髪碧眼の笑顔に光る、白い歯が眩しい。
というか、長身が、190センチはある長身が妬ましい。
「何故バレたし? というかそちらは、王国軍?」
「ええ。そうです。王国軍、ですな。そちらのお嬢さん方は、エルフ、ですか? この小大陸ではもはや見ることはできないと思っておりましたが。貴殿らエルフは、綺麗どころが揃っていて羨ましい限りですな。」
王国軍を率いている隊長らしきイケメンは、マインエルフたちに色目を使っていた。
マインエルフたちは、今でこそかわいい女子だ。
しかし彼女たちは、元々村人の男たちが魔族の呪いによって女子にされてしまったもの。
中身はおっさんたちだ。
それを知ってかしらずか、王国軍の兵士たちは、色目を使ってくる。
エルフたちは、まず、そんな兵士たちに焼肉を振る舞っていた。
そこから、話術とちょっとした仕草で、情報取集にとりかかっていた。
兵士たちは、僕の知りたい情報を、彼女たちに色々と教えてくれた。
マインエルフたちはノリノリだった。
スパイとして、とても役に立っている。
なにしろ、元々が男なのだ。
どうすれば、男が気持ちよく話をしてしまうのかを、実地でよく知っている。
「王国軍のみなさんは、魔王軍と戦わないんですか?」
「ああ。それは、王都を守る王国軍の仕事だよ。私たちはね、王都じゃなくて、西にある公爵領の軍隊なんだよ。王都が陥落したら、王国から離脱して、分離独立しようとしているんだ。そのための偵察をしている。ほかの貴族寮の軍隊も、いくらか隠れているみたいだよ。」
「すごいんですね〜! じゃあじゃあ、すごく強いんですか? 王都の兵隊さんたちよりも、強いんですか?」
「当たり前だよ。僕たちは、いつも魔物たちと戦って、実戦で鍛えられているからね。王都を守っている兵士や騎士は、普段から戦い慣れていないし、指揮官は、使えない貴族様だしね。今、ここには500人くらいしかいないけど、王都の兵士5000人相手でも、圧勝できるよ!」
「へ、へ〜。そんなにお強いんですね〜。魔王軍も〜、敵じゃないですね〜。」
「はっはっはっ。そうだぞ。でも、まあ、偵察任務だからな。戦っちゃだめなんだよ。」
「戦ったら、勝てるんですか?」
「相手は5万もいるんだ。500じゃ、無理だな。でも、公爵領までいけば、1万の兵力があるから、まあ、なんとかなるよ。チーゴ公爵領は、広くて、お金もあるし、強いからな。」
彼ら王国軍は、残念なほどマインエルフたちの手のひらの上で転がされていた。
こいつらは、王都を守る軍隊ではなく、王都の西側のチーゴ公爵領軍だった。
話を聞く限りでは、王都はもうダメらしい。
それがわかっただけでも、大収穫だった。
さらに聞き出せたことには、連絡を取ろうにも、近づくことすらできないと。
王都から離れたこの場所でも時折魔王軍と戦闘になり、戦死者も結構出ている状況のようだ。
兵士たちから、周辺の地図を見せてもらい、王都への抜け道を探す。
厳密には、手段さえ選ばなければ、王宮まで行けない訳じゃない。
というわけで、チーゴ公爵領軍に惜しまれつつ、王宮に侵入するために別れた。
なぜ魔王軍が、侵攻してきた北側から攻め込まないのかと疑問に思うのではないだろうか。
それは、地形上の問題が原因だった。
北側から攻めても、まともに攻撃できないからだ。
僕たちの川下りしてきた、大きな川が渓谷となっているので、そこを渡ることができない。
その渓谷は、王都の北側から東に回り込むように続いている。
王宮のある北側と東側は、自然の要塞になっていた。
したがって、もし攻め込むならば、西か南に回り込む必要がでてくるのだ。
結局のところ渓谷の影響で、実質的には街道のある南側から攻め込むことしかできない。
そのために、魔王軍は南側に陣地を構築していたのだ。
王都側からしても、出入りは南側からしかできない。
王都側の視点では、退路を断たれた状況だ。
逆に考えれば、王国の求めている援軍も、王都へとは到達できない状況にある。
魔王軍を打ち破らなければ、王都へとは至れず、打ち破れるならそもそも援軍はいらない。
なんというジレンマだろうか。
王都は今の所、魔王軍5万の軍勢を相手に、この地形を活かして十分に戦えていた。
それゆえ、膠着状態が続く魔王軍と王国軍。
しかし、補給のない王国軍と、十分に兵站のある魔王軍では、その継戦能力が違う。
じきに、王国軍は餓死するなり何なりで、疲弊し敗北必須だ。
その前に、クラスメイトである勇者たちを保護しないといけない。
何度も言うが、この戦いは時間との勝負だった。
どうすればいいだろうか。
どうすれば、クラスメイトたちのいる王都へ、王宮へと侵入できるのだろうか。
今が考えどき。
この頭を働かせる時。
そして、思いついた。
いや、初めからそのつもりだった。
そして、僕は言い放った。
「王宮へ直接乗り込む。勇者を確保するぞ!」
みんなは、僕のことを、頭がおかしくなった人を見る目で見てくる。
いや、大丈夫だから。
おかしくなったりしていないから。
味方の説得には、しばらく時間がかかりそうだった。
評価ポイントありがとうございます。
年度末は、思いのほか忙しいのです。
がんばれれば、また。
訂正履歴
マインウフフ → マインウルフ ※ 誤字報告ありがとうございました。