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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第10章 人類が滅んでも世界は終わらない
171/224

第126節 魔王軍からの苦情案件

苦情には色々なものがあります。

そしてクレーム対応は、とてもデリケートで難しいものでもあります。

疎かにできないものでもありますが、日本語のおかしいわけのわからないものだったりすることも多いものです。

今回はそう言うお話。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後58日目夕方>

場所:ヨーコー嬢王国レーベン領ヴァスト砦

視点:野中のなか


「ノナカ殿。どうする、これ?」


 皇帝陛下が、困惑した様子で僕に話を振ってこられた。

 いや、僕だって認めたくはない。

 認めたくはないが現実を受け止めなければならない。


 目の前に広がるのは、総勢5000体規模の魔王軍。

 そして、その先頭で軍を先導している魔族が3人。

 そのうちの一人が、北側の城壁を警戒していた旧帝国軍の兵士と皇帝陛下に懇願していた。


「ですから、あなた方には何もしませんから。もう、敵対しませんから。あんなに一方的にやられて、さらに戦おうとかしませんから。だから、ちょっとだけでいいんです。30分ぐらいで急いで通過しますから通してください。」


 彼らの言い分なぞ聞く必要は全くないのだが、皇帝陛下は実直な方だ。

 たとえそれが魔王軍の魔族であろうとも、きちんと話をお聞きになっている。


「南で、同胞が窮地に立たされていると言うのです。急いで救援に行かなければなりません。せめて、食料や回復薬だけでも届けさせてください。お願いします。」


 もう、魔族の誇りとかそう言うのは全くなかった。

 というか、もう、皇帝陛下に縋り付くようにして、頼み込んでいた。


「しかしな、若いの。わしには今、決定権がないのだよ。お主らが我が帝国を滅ぼしてしまったからな。この国の決定権を持つ者で、今一番偉いのは、こっちの男だ。」


 そして、よせばいいのに僕の方を指差してしまう皇帝陛下。

 やだもう、魔族3人して、「はぁ?」って顔しているよ。

 そりゃそうだよね。

 僕だって君たちの非常識な要求に「はぁ?」ってなってるもん。


「は、はぁ。それは、事情をお察しできず、申し訳ございません。それでは、あちらの少年が、この砦の将軍なのですね?」

「いや、社長だ。社長の称号を持っておる。」

「社長? 会社のですか? いや、意味がわかりませんが。」

「しかし、それでも実際、此奴が決定権を持っていることに変わりはない。」

「えーっ。でもなんか、ぱっとしない男ですよ? 本当に皇帝殿よりも偉いのですか?」

「わしは、認めたくないが、此奴に一度、破れておる。」

「なっ。ひっ、ひえぇぇぇぇっ!!! こっ、これは失礼いたしましたっ!!!」


 そう怯えると、僕に縋り寄ってくる魔族の男。


「何とぞ、何とぞお許しください!!!」

「いや、勝手に空を飛んでいけばいいと思うよ?」

「それはもうやりました!!! そして、カメ鶴100羽が全滅。魔族500人が殲滅されました!!!」


 いや、そんな話聞いていないんだが。


「皇帝陛下。そんな話は聞いていないんだが。いつの間にやったんだ?」

「わしじゃないぞ? はて、誰がやったのかのう? お主のところのレイン殿ではないのか?」

「違うのですよ? ずっとマスターと一緒にいたのです。レインを何処かのマッドドックと一緒にしないで欲しいのです!!!」


 レインは、ちょっとオコだった。

 確かに、カメ鶴はともかく、魔族を500人も殲滅してしまったとなると、疑いは、レインに向けられる。

 いや、討伐して多いに結構なのですけれどもね。


「ロッコとかラストは?」

「飛べないので、カメ鶴を攻撃できないのです。すんごい高い空なのです。地上からの武器や魔法では届かないのですよ?」

「じゃあ、あいつらしかいないじゃないか!」

「最近、出番が少ないと燻っていたのです。タマネー山の頂上に山小屋を勝手に作って、高所警戒をしていたのです。きっと、あいつらなのです!」


 もう、狙撃手が誰なのかはわかったので、解散だった。


「あー、申し訳ない。上空は、地上を抜けるのよりももっと危険だと今わかった。諦めてくれ。魔王軍にはもとより、協力できない。人類が協力できる要素がない。」

「そうですか。残念です。」

「ちなみに、一つ質問だが、協力してくれるやつらもいるのか? まともに頼み込んで来るなんてことは。」

「当然です。誠意を見せて下手に出れば、大抵の人間は助けてくれるものです。人間の格好に変身しておけば、ほぼ確実に成功します。」

「いや、まあ、それはそうだろうけれども。魔王軍としてそれでいいのかよ? 誇りとかプライドとか、そう言うのがあるんじゃないのか?」

「ありません。プライドではお腹を満たせませんし。でも、仕方がありません、一度帰って上司に相談してきます。とりあえず、苦情案件として上げておきます。砦の上空を通過したら狙撃された件について。」


 まあ、帰ると言うのなら、リリースだ。

 レイン先生は、全部消すのです!!! とか言って聞かないけれども。

 今は、戦いの直後。

 兵は疲弊しているし、砦をきちんと構築しなおしておかなければならない。


 そんな大事な時期だった。


「社長、南側にも魔王軍が来ています!!!」


 マインエルフに変身したマインウルフ(元ウーバン村民)が、僕にそう、伝令してきた。

 隣にはユリもいた。

 伏せた姿勢で目くばせしてくるのは、ジェスチャーで乗れと言うことらしい。

 いや、どうだろうか。


 躊躇していたら、首根っこを甘噛みされて、そのままお持ち帰りされそうになったので、おとなしく背中に乗って、首にしがみついた。

 そして僕は、レインとユリと一緒に、風になった。

 すんごく速かった。

 そして怖かった。


 南側では、マインエルフが魔王軍の悪魔に詰め寄られていた。


「だから、困るんだよ、こういうことされると! 北の大街道を何だと思っているんだい? 万人に開かれた、全種族のためのものなんだよ? それをこんな砦勝手に作って。これじゃ、魔王軍が通行できないじゃないか。こっちは、みんな負傷していて、すぐにでも治療が必要なんだよ? あれか? 代わりに治療してくれるのかい?」


 いやぁ、聞いていてどこが正論でどこが暴論なのか、何だかゲシュタルト崩壊を起こしているような感じで、分からなくなりそうだよ。


「しゃ、しゃちょう〜!!! 何か、この悪魔の人、訳のわからないことを言って、無理矢理通ろうとするんですよ〜! 助けてください〜!!!」

「よし、よく頑張ったな。ここからは、僕らが相手しよう。」

「そうなのです。よく頑張ったのです。」

「げっ!!!」

「いや、そんな嫌な顔しなくても。」

「会うなり『げっ!』とか、酷いのです。傷つくのですよ?」


 この悪魔は、見たことのある悪魔ではないものの、あちら側は、僕とレインの組み合わせの情報をすでに持っているご様子だった。

 ならば、話は早い。


「こんにちは、魔王軍の方。ここは、通行止めにさせていただきました。いやーっ。この辺りの人間、根こそぎ殺されちゃって、困っていたんですよ。だから、もう、殺されないように、防御用の壁を作ってみました。」

「だから、そんなもの作られたら、私たちが困るんだよ。なんて事してくれるんだ君たちは。これはね、責任問題だよ? 国際問題にもなるよ?」

「いや、それを魔王軍の方に言われても。ちなみに、国際問題にはなりません。話はついていますので。」

「いやいや、我々の国との国際問題だよ。まさか知らないとは言わないだろう? 我らの祖国、『サッカリン魔王国』を!」


 ん?

 どこかで聞いたことがあるな。

 かなり前だぞ?

 そうか、あれだ。


 コソナ砦にいた国境警備隊の副長だ。

 魔族だとバレているのにこき使われていた哀れな魔族の故郷がサッカリン魔王国だった。

 寒い北の果てと聞いていたが、さて。


「あの、とんでも無く寒い、雪と氷の王国のことか? どうやって生活しているんだ? あんなところで?」

「だからだよ!!! あんなところで生活できないから、南下してきたんだよ!!! こっちは暖かくて快適じゃねーかよ!!! ズルいんだよ!!! 何で俺たちばかりが!!!」

「でも、人間よりも魔族の方が圧倒的に寒さに強いと聞いたのだが。」

「そうだよ! 悪いかよ! あんだけ寒いところで生きていけるのは、悪魔とか魔族とかだけだよ。だから、誰も住んでいない細長い島に、国を作ることができたんだよ!」


 ですよねー。

 でも、そんなとこと国際問題になってもねー。


「っていうか、国際問題どころか、国を2つも潰して、3つ目に取り掛かっていますよね? 国際問題ってレベルじゃないですよね?」

「ひ、広い意味で国際問題だ。戦争は、外交の延長線上にあるんだぞ?」

「それで、我が国にも戦争を吹っかけまくってきたと。戦おうと言うのでしょうか? ここでこそ、これまでのリベンジをするべきなのではないかと、勘付いてしまいましたが。」

「ひ、卑怯だろ! こっちは全員負傷兵なんだぞ! 通してくれても害はないはずだろ!」

「いや、魔王軍なら、全てが偽装と言うこともあり得る。」

「偽装してまで撤退しないだろ!」

「まあ、それはそうなんですけどね。」


 とりあえず、この面倒な悪魔にも、お帰りいただくしかない。


「戦いたくない、敵地を無理矢理通させろと、無茶なことばかり言う方々には、交渉の余地はありません。お帰りください。王都はあちら、はるか南ですよ?」

「そっから来たから知っておるわ!!!」

「なら、素直にお帰りいただいて。」

「だから、なぜそうなる? お前常識ないんじゃないの? 普通、怪我人が大量にいたら、助けようって思うよね? なんで追い返そうとしているの? 頭おかしいよお前!」


 常識なし、頭おかしいよ、いただきました。

 それは、相手が魔王軍でなければね。

 なぜ、敵を助けなければならないのか理解できない件について。


「で、帰るの? 帰らないの?」

「かえらん!」

「じゃあ、女神様の元へ、無理やり帰ってもらうことになるけれども。」

「いいのです? やっちまうのです?」

「ふぁ? な、なんだよ? やるのか? 俺は悪魔だぞ? 人間如きにやられることはないんだぞ?」

「ちなみにこの間、お前らの仲間の悪魔『フリドラ』を殺したのは、僕だが。」

「なっ、フリドラ様をだとっ。」


 その名乗らぬ悪魔の後ろにいた、魔族たちがざわめく。


「まずいですよ、ディマサ様。話が本当なら、我らは全滅させられます。ここは撤退すべきかと。」

「わかった、お前はどうだ?」

「私めも、撤退の一択かと。そうでなくともこのところ、魔族を大量に失って、問題になっておりますゆえ。大魔王様のご不興をかいたいのであれば、別ですが。」

「そうか。ちっ。どいつもこいつも腰抜けどもが!」


 その悪魔の後ろにいた魔族の一人にレインが触れる。


「BAN!」


 そして、魔族は消え去った。


「こちらとしては、全員消したいところ、見逃すと言っているのだが。レインは、見逃したくないようだけれどもな?」

「いや、しかしだな?」

「BAN! BAN! BAN! マスター、撤退すると言ってきたら止めるのです。合図して欲しいのですよ、BAN!」


 そのディマサと呼ばれた悪魔が迷っている間に、どんどん魔族の魂は女神様の元へと旅立って行った。

 比喩ではなく、文面通りの意味で。

 そして、ディマサもついに折れた。


「わ、分かった。この砦を通過するのは諦めよう。帰るぞお前ら。」


 そこに、お前らはいなかった。

 残っていたのは、イノシシ型の魔物と、虎型の魔物たちだけだった。


「あれ、おい、魔族はどこへ行った?」

「だから、お前さんが迷っている間に、全部女神様の元へと旅立っていったが? 魂的な意味で。」

「なっ。」


 ディマサの驚愕に歪んだ顔は、なかなかの顔芸だが、こんなむさいおっさんの顔芸は、いらない。


「おかえりは、あちら。」

「ゆるさん! ゆるさんぞ!!! よくも我が配下を!!!」

「じゃあ、戦いますか? 相手が悪魔でも、全然普通に戦いますよ?」

「人間だと思ったら大間違いなのですよ?」

「ま、お前ら精霊だしな。」

「マスター、そこは、『オレの女だからな』くらいイケメン顔で言えないのです?」

「いや、無理。そもそもそこまでイケメンじゃないから。無理。」

「うがーっ!!!」


 ディマサが発狂して、襲いかかってきた。

 ちょっと自業自得だと気がついているので、少しは反省している。

 でも、僕がカタリナと、その悪魔ディマサを切り刻もうとした時には、空間魔法で逃げられていた。

 あ、フェイクだった。


 襲いかかってくるふりをして、逃げやがった。

 なんて、高等テクニック。

 思わず、攻撃が空ぶったよ。


「レイン、あのな? あそこに大量にいる、負傷した魔王軍の魔物たち、どうしようか? ほっとくわけにも行かないだろ? でも、そのままってわけにもいかないだろ?」

「何を言っているのです? レインには、食料にしか見えないのです。空間魔法で収納するのです。カタリナ、ゴー! なのです!」

「了解!」


 そう言うと、カタリナは、魔王軍の四つ足動物たちの四つ足を全て、すごい速さで切断した。

 そして、その状態になった魔物たちにマインウルフや旧王国兵達が、トドメを刺して回った。


 これで、結構な経験値が入るのだから、馬鹿にできない。

 今回のトドメ刺しによって、マインウルフも結構な数が、レベル20の壁を突破するだろう。

 我が国に亡命してきた旧王国兵も、我が国の国境警備隊員として、レベルが上昇するし。

 最後に、レインが空間魔法で収納して、当分の食料が確保された。


 市場が大暴落するくらいの肉と毛皮を手に入れた。

 もっとも、負傷した相手だったので、利用価値は低い。


 それに、全部を討伐できた訳じゃない。

 魔族にしても、魔物にしても、一部は南に逃げられている。

 ならば、今回のことは、魔王軍に伝えられたことだろう。

 この砦は、もう、魔王軍が通行できなくなったことを。



 夜になって、レベルが20を超えたマインウルフ達が集まってきた。


「社長。こいつらも、マインエルフになれるようにクラスアップさせてやってくれ。」

「いや、本来は、職業安定署の仕事だからね?」

「魔物相手に、クラスアップをしてくれる神官などいない!」

「ですよねー。レイン先生。お願いします。」


 この日、砦を守っていた、マインウルフ60匹の内、元々10匹だけだった、マインエルフ組が40匹までに増加した。

 残りのマインウルフに、今後は優先的に経験値が行くようにしてくれと、彼らにはお願いしておいた。

 そして、久しぶりの人語に、感動する元ウーバン村民男子たち。

 残念なことに、魔族の呪いで女子にされてしまった点は、どうしようもないのだが。


 興味本位に自分の女体を確認しまくっている状況は、ちょっと直視に耐えない。

 あと、今の今までマインウルフだったので、基本全裸だ。

 はやく、服を調達しないと。

 あ、この毛皮達、すぐにいい仕事をしそうだ。


 結局のところ、そういう訳もあって、マインウルフ軍団は、基本、マインウルフのままで生活することになった。

 なぜなら、服が調達できなかったから。

 はやく、ガーターの町長に、発注しないと。

 あ、できるのは下着だけみたいだけどね。


 そうして、夜になったので、砦に作った駅で、寝ることにした。

 布団には、精霊達が無理矢理押し入ってくる。

 いや、ちょっとこの人数一緒に寝るのは無理なのではないだろうか。

 そして、ロッコがしがみ付きながら言ってくる。


「マスター。ロッコは、レベルが20になった。ロッコもクラスアップできる。」

「なんですと?」

「な、なんだと!」


 僕とラストが同時に驚いた。

 寝ようとして頭を枕に乗せたところだったが、慌てて上体を起こした。


「そうか、じゃあ、レインに……」

「聞いてない! 裏切り者! 何で騎士のラストより先にレベル20になれるんだ?」

「いや、ロッコは結構コツコツと経験値貯めていたからな。さっきもたくさん魔物にトドメ刺していたし。」

「なん……だと!!! くっ。ロッコに先をこされるとは!」

「いや、ロッコの方が、先に精霊として召喚したしな? 普通だろ?」

「くっ。マスター、こうなったらラストもレベル20を超えるぞ!」

「経験値稼ぎ、頑張ってくれ。」

「今から、マスターと経験値を稼ぐ。ほら、早くするんだ。」

「いや、もう眠いから、今更討伐とか無理。」

「違うと言っているんだ、マスター。その、マスターとだな、夜の、そう、夜の経験値稼ぎをすれば、早くラストも、レベル、20、に……。」


 そして、かくりと寝落ちするラスト。


「危ないところだった。」

「ん。ラストは本気。そのうちベッドの上での経験値稼ぎメインでレベル上げをしかねない。注意が必要。あと、あまりやりすぎると、次の日に必要なエネルギーが足りなくなる。危険。」

「そうだよな。僕が寝ている間に、勝手に経験値稼ぎとかしていないよな?」

「ん? レイン様にクラスアップしてもらいたい。早くする。」


 はぐらかされた。

 そこはきちんと否定して欲しかった。

 いや、もしかすると、否定できないのかもしれない。

 ま、本人が気がついていないから、いいけどね。


「マスター、ロッコをクラスアップできるのですよ? ロッコはこれから、貨車の精霊か客車の精霊のどちらかにクラスアップできるのです。」

「え? 2択なの? 選べるの?」

「そうなのです。ロッコは、将来有望なのですよ?」

「どうなんだろう。説明が欲しい。」


 ロッコが顔を目の前15センチまで近づけて、説明を始めた。

 ちょっと怖いよ。


「貨車の精霊になると、そのまま、貨車が作れるようになる。動物を運ぶのとか、石炭を運ぶのとか作れる。あと、スイッチャーも作れる。」

「スイッチャー? ああ、入れ替え機のこと。」

「そう。でも、動力が何になるのかわからない。結構微妙。でも、資材運搬の役には立つ。」

「なるほど。で、客車の方は?」

「客車を作れる。普通の客車から、食堂車とか寝台車まで作れる。」

「ちなみに、ラストが使いたがるような保線用の車両は?」

「専門外。もしかすると、ラストが作れるようになるかもしれない。もしくは、マスターが保線基地をレベルアップさせたら付属してくるかもしれない。もうすでに一編成ある。」

「確かに。」


 兵員を輸送することを考えれば、客車の方がいいし、物資を輸送することを考えれば、貨車の方がいい。

 客車だと、いろいろな客車を作ることができて、便利だ。

 寝台車があれば、どこでも寝られるし、食堂車があれば、食事もできる。

 なにより、シャワーとか浴びられそう。


 逆に、貨物には、そういう人間に優しい車両は少ない。

 でも、決してないわけじゃない。

 あれだ。

 車掌車だ。


 あれには、トイレがついている。

 あと、暖房も、ついているかもしれない。

 それに、過去の戦争を振り返ると、人員輸送は貨車で行われている事例が多かったりもする。

 兵士は荷物扱いかよ!


「ロッコが決めて欲しい。どの道、どちらを選んでも一長一短だ。」

「ロッコは、トロッコの精霊。だから、順当にクラスアップしたら、貨車フレイトカーの精霊。客車の精霊になるのは邪道。貨車フレイトカーの精霊になる。」

「ロッコの気持ちは良くわかったのです。それでは行くのですよ。貨車かしゃの精霊になることを強くイメージするのです。精霊になれるよう、エネルギーを送るのです!」

「ん。レイン様。」


 ん?

 今、何か変なことを言わなかったか?

 「精霊になれるよう」にとか。

 ロッコって、精霊じゃなかったのか?


「ロッコ、イメージが足りないのです。なんだかアメリカンな感じなのですよ! もっと、マスターの知っている日本のイメージでお願いするのです!!!」

「ん。頑張っている。」

「そう、そういう感じ。よいのですよ! とってもよいのです!」

「ん。来てる。」

「もっと!」

「ん。ん?」

「迷わないで!」

「え、でも。」

「いいから!」

「ん。」

「ここに、精霊レインが創造する。汝、ロッコ、あなたを正式な精霊として、登録します。登録命は、ロッコ、担当は、軍用車。」

「ん? レイン様? 違う。軍用車じゃない。貨車。」


 ロッコの体が光の粒子になって一旦消え去りレインに入り込む。

 その後、再びレインの目の前に光が集まると、ロッコがまた、現れた。

 ただし、ちょっと成長していた。

 身長が130センチくらいに伸びていた。


 それ以外は、成長していなかった。

 残念じゃないからね。


「で、レインさんや。」

「ほえ?」

「なんか、ロッコの衣装が、いつもの制服から、軍人さんっぽくなっているんですけど。」

「し、失敗なんてしていないのですよ? 本来なら、貨車か客車しか選択肢が無いはずなのです。でも、ロッコがどうにかして、マスターの役に立ちたい、マスターを守って戦いたいってずっと祈っていたのですよ。そうしたら、こうなったのです。ロッコの思いの強さが、こうしたのです。レアジョブなのですよ?」

「ロッコ、大丈夫なのか?」

「ん。マスター。大丈夫。レベルは0になったけれど、ステータスはかなり上がった。ラストみたいに戦える。」


 なるほどね。

 イメージでクラスアップするなら、その思いの強さで方向性を無理やり捻じ曲げることもできるのね。

 でも、軍用車って、そもそもどんなの?

 不安いっぱいの、ロッコ再出発なのでした。

なんとか砦の整備が間に合って、魔王軍の通行を阻止することができました。

でも、そうなってくると、今度は、本格的に砦を落としにくることでしょう。

だって、このままじゃ、サッシー王国を陥落させようとしている魔王軍がジリ貧ですし。

それでは、がんばれれば、また。


訂正履歴

 ラストさんや → レインさんや

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