表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第1.5章 それぞれの立場と面子と行き違い
17/224

第4話 これは脱走ですか? それとも避難ですか?

今回は、親友回。

主人公野中の親友、頭の回転の早いエロのエキスパート、猿渡さるわたりの視点からのお話です。

普段は、ほんのりとエロい要素を混ぜようとするのですが、猿渡の話に関しては、逆です。

うっかり18禁の内容にならないようにするのが大変です。

ラノベでいういい親友枠ではありますが、最低な親友でもあります。

今日はそんな、微妙なお話です。

 古来より敵前逃亡〜脱走兵〜は死刑と定められていることが多い。

 軍法会議の結果ではなく、現場での銃殺が認められていることが多いのが特徴だ。

 1人の脱走が呼水となって戦線が崩壊して、多数の死傷者が発生してしまうからだ。


 もっとも、元の世界の日本では長くても懲役7年。

 死にそうな戦線に駆り出されて死ぬより、懲役7年を選ぶ者が出てもおかしくない。


 僕たちはそんな不思議な国、日本にっぽんで育てられた。


 今、僕たちは、そんな懲役7年が通用しない異世界に来ていた。

 何より無理やりである。

 そして、僕たちは「勇者」という名の「兵隊」になった。

 兵隊として必要なものは高い攻撃力でも防御力でもない。



 「規律」である。



 僕の父親が、常々言っていた言葉だ。

 規律のない軍隊は、マフィアと同じかそれ以下だ。

 そう教わってきた。

 それを、このところ実感している。


 この異世界には、技能スキルというものがある。

 元の世界にはなかったものだ。

 技能スキルにより、人智を超えた能力や技、魔法を使うことができる。

 そして、それが、僕たちの「規律」を崩壊させた。



 僕は、「恩寵:オーガズム」を授かった。



 知っている人には説明の必要はないし、知らない人には説明すべきではない。

 そういうたぐいの恩寵と技能スキルだ。


 そして、今、僕のクラスで「規律」を体現する学級委員長に問い詰められていた。


「あなたの、その、『恩寵:オーガズム』って何なのよ。誰も詳しく教えてくれない。でも、あなた自身は知っているのでしょう? 詳しく教えなさい。」


 これ、なんてプレイなんだろうか。

 いやいや、さすがの僕でも、とても複雑な気持ちだ。

 小さい子に、「赤ちゃんはどこから来るの?」と聞かれているのに近しい。

 もちろん、教えるわけにはいかない。

 当たり前だ。



 知っている人には説明の必要はないし、知らない人には説明すべきではない。

 そういうたぐいの恩寵と技能スキルだからだ。


 

 このところ、顔を合わせるたびに、しつこく聞いてくる。

 年頃の女子に「オーガズム」を連呼されるのは、さすがの僕でも恥ずかしい。

 クラスで一番エロいと評判の僕でもだ。

 早く、それはエロい単語だから、女子が大声で言うべきじゃないと誰か教えてあげてほしい。



 異世界に転移させられて、女神様から恩寵を授かったものの、僕たちのほとんどは、技能スキルを使えるまでに至っていなかった。

 単純にレベルが足りなかったのだ。


 でも、ほとんど、ということは一部、使える人間がいる、ということだ。

 そして、それが権力と直結した。

 なぜなら、技能スキルを使われると反抗できないからだ。

 それほど技能スキルというものは、圧倒的だった。


 特に男子では、金本が酷かった。


 元の世界では目立たないようにしていた。

 でも、僕は知っている。

 それは女子から陰湿かつ性的ないじめを受けていたからで。

 そして、いつか復讐してやると、闘志を燃やしていたことに。


 そもそも金本は、大人しくて無口な男だった。


 だから、金本が虐められていることを知っている者はほぼ、当事者のみ。

 僕が知っていたのは、僕の監視網に引っ掛かったからで……まあ、方法は秘密だ。

 本人から聞き出した訳ではないことははっきりさせておこう。



 そして、今、金本は復讐の鬼と化している。



 このところ、日々、女子を、やられたときのようにいじめ返している。

 授かったばかりの技能スキルを上手に活用して。


 最初のうちは単純に復讐だったのだろう。

 いじめの当事者だけをターゲットにしていた。

 ところが、途中から、関係ない女子までをターゲットにし始めた。

 それは、復讐している現場を見られてしまったから。


 見られたなら仕方がないと、口封じのためにひどいことをしたのだろう。

 それが、いけなかった。

 口封じが完全ではなかったことと、その現場を、さらに他の人にも見られてしまったこと。

 そして、金本の心のたがが、虐められた相手だけというたがが、外れた。


 誰彼構わず、ターゲットとするようになったのだ。

 そして、金本を止める能力のある者は、王城内には存在しなかった。



 おそらく、そんな金本であっても、小狡く狡猾な方法で止めることができたであろう、僕の親友は、一緒にこの世界に転移させられたのだが、あの女神が、さらに死地へと転移させた。

 早く助けてやりたい。

 助けにいかなければいけない。


 でも、不思議なことに、実際に助けに行こうとする者は一人もいなかった。

 先生ですら、口では助けたいと言いつつも、実行には移していない。

 洞察力のないクラスメイトには、「あいつらは死んだ」とまで言われた。


 親友を助けるだけの簡単なお仕事です。

 何をそんなに。



 そして僕は、親友を助けにいくことを決意した。



 どちらかと言えば、助けられるのは僕の方かもしれない。

 そもそも、このまま王城にいることは、精神衛生上好ましくない。


 そして、脱出計画を考えた。


 まず、脱出経路を探した。

 城内を散歩と称してくまなく探した。


 結果として、僕たち勇者は、実質的に監禁されていることが理解できた。

 城の外には出してもらえない。

 城内の訓練場で、訓練をするのは認められているが、それ以外は許されていない。


 そして努力のかいあって、僕は脱出経路を発見した。

 城の北側、位置的には城の後ろ側に流れる幅のある渓谷。

 ゆうに50メートルはある断崖絶壁。


 盲点をつくべきだ。

 誰もがそこを脱出経路と考えない。

 しかし、ここから脱出する手段を用意できるのなら。

 例えば、50メートル分の縄梯子を用意できたなら。

 そこまで長くなくても、途中で中継して、降りることができるなら。


 城の北側には平原と森が広がっており、城下町の範囲外だ。


 しかも、明らかに警備が手薄だ。

 なぜなら、どう頑張っても、侵入することが無理だからだ。

 人間が落ちたら、死ぬ高さだ。


 アニメやゲームなんかでは、この高さから水面に落ちて助かる場面も多い。

 でも、知っておいて欲しい。

 50メートルもの高さから落ちた時の水面は、コンクリートと同等の硬さだ。


 普通に死ぬ。

 即死だ。

 絶対にやめて欲しい。


 もちろん、特別な方法を使えば、死なない場合もあるがそれは本当に特別だ。


 そして、僕は、この世界に来た2日目の昼にそれを確保した。

 20メートルくらいのかぎ付き縄梯子だ。

 王城の倉庫の奥にしまってあった。


 

 そして異世界に転移して一週間が経った。



 闇夜に乗じて、城内をこっそりと移動していた。

 城の北東の塔から、城壁に出ようとして立ち止まった。


 あっさり、見つかってしまったのだ。


 僕はこっそり抜け出そうとしていたのだが。


「猿渡くんは、絶対に野中くんを助けに行くと思っていたよ。」


 女子が3人ほど、立ち塞がっていた。

 なぜ、ばれたし。

 細心の注意を払って、縄梯子と保存食糧、地図、そしてナイフくらいしか用意していないのに。


「わたし、今日のお昼に、技能スキル使えるようになって、それで猿渡くんの動きをずっと見ていた。城から脱出しようとしているって何となくわかった。」


 顔にあざのある阿部さんが、ボソボソと答えを話してきた。

 技能スキルを使われた。

 でも、初日の女神の宝玉でのステータス解析では、技能スキルが使えなかったはずだ。

 なぜ。


「訓練。真面目にやったの。そしたら、レベルが1つだけ上がって。」


 ああ、僕がサボっている間にも、真面目に訓練している生徒がいたなんて。

 そして、その訓練でレベルが上がるなんて。


「あなた達は僕に付いてくるのか? 追われる立場になるよ?」

「わかってる。 でも、このままじゃ、クラスメイトに殺される。」


 僕は、知っていた。

 この3人が夜、金本に襲われていたことを。

 別にこの3人は、金本をいじめていたメンバーじゃない。

 何なら、その現場を見てしまったからターゲットにされたに過ぎない。


 そして、警備の兵士の隙をついて、城の北側の城壁から、縄梯子を使って地面に降りた。

 ここまでは、誰にも見つかっていない。

 そして、ここまで来てしまえは、角度的にほぼ見つかることはない。


 3人は、城内で見つけた服や靴で、この世界の村娘の格好をしていた。

 今まで履いていた靴は、城壁の上に揃えてあった。

 自殺に、見せかけようというのだ。

 でも、それ、元の世界の感覚ではないだろうか。

 この世界でも、自殺したと考えてもらえるだろうか。


 とにかく、僕たち4人は、闇夜に紛れて、断崖絶壁を縄梯子で降りると渓谷に至った。

 そして、城内で確認した地図の通り、この渓谷を上流に向かって登りはじめた。


 ゆっくりとしか進めないが、渓谷なので目隠しも多く、闇夜であることから、追手は来なかった。

 おそらく、翌朝にはバレると思うが、それでも死んだと思われるのが落ちだろう。

 何より渓谷まで降りて、死体を回収しようとは思わないだろうし、実際にそんなことはできっこない。


 流れの早い渓谷だ。

 知っている地元の人間なら、下流へ流されたと判断するだろう。

 探すとしても下流側だ。

 そして、僕たちは上流へと進んでいった。


 親友の転移させられたウーバン鉱山とやらは、王城からかなり離れた北東側の山の中だ。

 このまま、渓谷を上流まで遡って、山を2つほど越えれば到着する。

 地図の上では。


 とにかく、王城を脱出できたのが大きい。

 一人では難しそうだったけど、3人も仲間が増えた。

 3人とも、なんか歩きにくそうにしているのは、さすがの僕も指摘しなかった。


 あれだ、金本にやられたんだ。

 復讐するつもりもないが、野中に教えたら、僕の代わりにしてくれるだろう。


 そんな期待を込めつつ。



 北へ。

毎日、自分の予想以上の読者様がいらしてくださっているようで、大変ありがとうございます。

おかげさまで、やる気ゲージが溜まって、昨日もだいぶ話が先まで進みました。

今回の猿渡氏のお話は、その後メインの話と交錯しています。

ですが、次の出番はしばらく先の第3.5章で、同じように猿渡視点の話になっています。

話も溜まってきましたので、そのうち機会を見てまた、連投しようかなと。

それでは、また、明日の15時に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ