表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第10章 人類が滅んでも世界は終わらない
168/224

第123節 魔王軍の退路を断ってみた

さて、対魔王軍戦です。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後53日目夕方>

場所:ヨーコー嬢王国レーベン領ドエッジ砦

視点:野中のなか


「さて、それでは、作戦実行の前に、山神様やまのかみさまから、現地の魔王軍についての情報のブリーフィングがあります。山神様やまのかみさま、お願いします。」


 僕は、そう丁寧に言うと、山神様やまのかみさまに発言を促した。


「今日は、ウーバン山脈から、魔王軍を排除する作戦に参加してくれてありがとう。」


 山神様やまのかみさまは、手を振って、集まっているみんなに愛想を振りまいた。

 実際に、可愛い。

 だが、その可愛さに騙されてはいけない。


「ヴァイスフロストの砦にいる、魔王軍の内訳を発表します。まず、ボスとして、悪魔が2体。魔族が2000。猪型の魔物が2000。虎型の魔物が500。そして、ブリザードホークが200。あと、ゴブリンが1000。合計で5702体で魔王軍が構成されているの。」


 まあ、魔王軍に発見されることなく、相手の戦力をカウントできるのだから、チートもチートだ。

 ただし、山神様やまのかみさま自体には、ほとんど戦闘能力がないので、そっちのほうは期待できないのが残念でならない。


「ありがとうございます。それでは、次に、こちらの戦力の概要です。」


 こちらの戦力については、ラストに発表を任せてある。

 ちょっとは、騎士らしい仕事がしたいとごねていたのだ。

 ついさっきまで、レールを引くのを楽しんでいたくせに。


「戦闘への参加ありがとう。(自称)精霊騎士のラストだ。」


 ラストも、山神様やまのかみさまの真似をして、愛想を振りまいてみた。

 劣化コピーの行動だが、それでもマインウルフたちの受けは良かった。

 こいつら、小さい女の子なら何でも良さそうなところがあるしな。


「まず、マスターとその仲間からだな。マスターとレイン様、そしてラストとロッコ、パンドラは、とにかく魔族を1体でも多く魔法で消していく。」


 いつも通り、レイン先生が「BAN!」魔法を使って、魔族を消しまくり、手下の精霊3人は、レイン先生直筆の「BAN!」と書いてあるお札を貼り付けることで、魔族を消すのだ。

 ちなみに、これは、僕にはできない。

 僕は、シルバースライムのカタリナと共に、その他の魔王軍を切り裂くだけの簡単なお仕事。

 できれば、悪魔を切り刻んでほしいというのが、みんなの本心なのだが。


「よく聞くんだ。次に、お前らマインウルフ軍団だな。今回は60人の参加だ。2個小隊だ。きちんと分隊規模で活動して、確実に地上戦力を消していってほしい。暗がりの中の緒戦で、どれだけゴブリンを消せるかが、勝敗にかかって来る。混戦になったら、砦を上手に使って、遅滞戦闘で駅まで帰って来るんだ。」


 ここで、ラストが一息ついた。

 参加する戦力は、こちらの方が二桁少ない。

 普通に考えたら、この時点で負けが確定する。

 でも、そうじゃない。


「最後に、皇帝陛下には、遊撃戦力として、自由に戦ってほしい。指示をするとかえって邪魔になるだろうからな。ただし、今回の戦闘では、最終的にはとんでもなく圧勝というわけでなければ、今日作った新しい駅まで敵を惹きつけて下がって来るのが基本戦術だ。駅では、マグマエレメントとアイスエレメントが、喧嘩をしていなければ応戦してくれるはずだ。ここで、敵を一網打尽にする。質問は?」


 誰も質問しようとしない。

 質問するほどの難しい作戦でもなく、シンプルが故に、間違いようもない。

 ただ、ラストらしい部分に不安があった。

 BプランやCプランはないのか? ということだ。


 当たり前だが、当然にある。

 ここで言わないなら、その意味はないのではないだろうか。


「それでは、もし作戦が途中で失敗して、続行できなくなった場合のBプラン、そして、駅で敵勢力に押し切られた場合のCプランについて説明する。」


 ラストが説明したがらないようなので、こちらから説明することにした。

 ちょっと、ラストは不満げだ。


「まず、ヴァイスフロスト砦での作戦行動中に敵の増援や、不確定要素により、遅滞戦闘すら難しい状況になった場合だ。この場合にはとにかく、分隊単位で逃げることを優先すること。駅まで下がれば、エレメント族が支援攻撃を確実に実施してくれる。」


 我が国の、エレメント族に対する信頼は、ちょっとおかしいくらいだ。

 もっとも、ちょっとおかしくなるくらい、重要な戦闘で何度も命を助けてもらっている。

 こうなったのも仕方のないことではあった。


「また、この駅での戦闘で、敵勢力の優勢がくずれず、押し切られた場合は、ドエッジ砦西の塔に、最終防衛ラインを引いている。こちらには、さらにエレメント族と、国境を守るマインウルフ部隊が1個小隊、そして、勇者が3人待機している。ここで負けたら、こちらの敗北だ。ただ、地形の関係上、そういうことは発生しないと考えられるのだが。」


 勝利条件と敗北条件は、きちんと設定して、ダメならちゃんと逃げて仕切り直す。

 これを事前に通知しておくことは大切なことだ。

 なぜなら、そうしないと、現場死守という状況が発生してしまうからだ。


 事前に指示されていないので、指示があるまでは、現場を何としてでも離れられないと。

 通常、そういう状況になった場合は、全滅しかない。

 もしくは命令違反をして離脱するかだ。

 どちらにしても不名誉なことに違いはない。


「それでは、作戦開始だ。」


 時刻は午後5時。

 日が暮れて、ちょうど暗くなり始めた頃。

 新しくできた線路の上をみんなで歩いて、新しい拠点となる駅へと全員が移動した。



 こうして、今回の戦いは極めて静かに始まった。


 今回の戦いのきもは、いかに相手に気づかれないかだ。

 これは、山神様やまのかみさまの功績が大きい。

 というのも、相手の編成状況を見るに、魔物が大半を占めている。

 つまり、1匹2匹いなくなったところで、確認手段が存在しない。


 だから、極限まで相手の数を減らしてから戦端を開くべきだという考え方。

 だって、5000対50の戦いだ。

 実質ゲリラ戦ですらある。

 もし、事前に9割方減らすことができたとしても、500対50。


 数の上での不利は、どうにもならない。

 相手を全滅させるくらいの意気込みで、戦いに臨むしかない。

 レインの言う、魔族たちの簒奪された魂を女神様の元に取り返すためにもだ。

 今回の魔王軍の侵攻で、かなりの数を持っていかれたに違いない。


 その分、大魔王の力が強まり、大魔王討伐がどうしても難しくなるからだ。



 新しい駅、「ヴァイスフロスト砦東駅」から、レインとマインウルフたちがこっそりと出撃した。

 とにかく、彼らの作戦行動がバレるまで、ひたすら相手の数を減らす作戦。

 できるだけ、手前側から、孤立している敵を標的として撃ち取っていく。

 そして死体は、空間魔法でレインがすぐに収納して、できる限り証拠を消す。


 相手に魔物がいる以上、匂いでバレる部分もあるが、幸いにして向かい風だった。

 こちらから、魔王軍の位置が、マインウルフたちにとって、手にとるように分かる好条件。

 午後6時に砦東駅を出発してから1時間が経過して、すでに200体程度討伐している。

 内容は雑多だ。


 あと、伝令のマインウルフの話では、どうやら魔王軍の大半は、砦の中にこもっているらしい。

 ある意味、こちらにとって、好都合でしかない。

 外を哨戒している個体を、討伐しやすくなり、かつ、討伐自体がバレにくいからだ。

 作戦開始から、日付が変わるまでは、順調にことが進み、僕らの出番がやってこないまま、一旦休憩の時間になった。


 日付が変わる午前0時に、全員が無事砦東駅に帰ってきたのを確認すると、3時間の休憩とした。

 補給したり、夜中なので寝たりだ。

 その間、駅の外を見張って、何か変わりがないか確認していたが、特に変化はなかった。


 今回の作戦で、バレる要素があるとすれば、それは、敵方の航空戦力。

 ブリザードホークが200羽もいることだ。

 1羽でも、作戦行動を確認してしまえば、それで、最初の作戦は終了となる。


 もっとも、彼らとて所詮は鳥であり、夜間は鳥眼なのでそう言う意味での脅威は少ない。

 しかし、見つからないという訳ではないので、十分に注意が必要だった。

 万が一接敵した場合には、レイン先生が殺る手筈になっている。

 手段は秘密だが、爆殺だけはしないように言い含めてある。


 絶対にバレるからな。


 最初の6時間で、おおよそ、1500体の敵を討伐したとレインが空間魔法のログを確認していた。

 まあ、空間魔法を使った履歴を確認できるのなら、それで、討伐数のカウントができる。

 便利なものだ。

 表計算ソフト形式か何かで、出力されるのか?


 敵が5000くらいにまで減ったにもかかわらず、今のところ偵察されている山神様やまのかみさまからは、砦の中に大きな変化はないと報告があった。

 むしろ、大半がよく寝ていると。

 油断しすぎと言う部分もあるが、こちらの知らない情報として、魔王軍側の、運用上の問題があったためだ。


 まず、僕らの一番警戒していたブリザードホークたちは、いまだに接敵していないのだが、これには深い訳があった。

 彼らは、鳥眼で夜にはまったくと言っていいほど役に立たないので、統括する悪魔が、夜間の運用から外していたのだ。

 合理的といえばそれまでだが、おかげで、かなり長い間、相手を削る作業に没頭することができた。


 次に、新手が少なくなってきている原因だ。

 これも相手の指揮官である悪魔が、3体一組で運用する体制を構築した合理化が原因だ。

 合理化したなら、むしろ危険な感じがするのだが、その運用方法は、こうだった。


 おおよそ、6時間働いて12時間休憩するというローテーションを組んでいた。

 そして、だいたい6時間働いたら、3人組の次の相手を起こして働かせる運用だった。

 つまり、完全に平時の運用で、3人組の一人でもやられると、残りの二人は、いつまで経っても戦場に出てこないという、残念な運用をされていた。

 この方法をとる以上、こちら側は3割程度までしか、事前に相手を削ることができないという、微妙な影響も出ていた。


 幸か不幸か、とりあえず、初めの休憩までに、2割5分程度の敵方を削った。

 運用に変化がなければ、今夜はこれ以上魔王軍を削ることはできない。

 実際に、午前3時から、2時間ほど戦ったが、成果は芳しくなかった。

 2時間で200体程度しか討伐できなかったので、日が明ける前に、一旦作戦を停止した。


 そして、日が明けて、駅に引きこもる中で、相手の動きを確認することにした。


 流石に朝日が登って、明るくなると、なんとなく味方の数が減っていることに気がついたようだった。

 なぜなら、自分たちを起こすはずだった3人組のうち、1体が、帰ってこないのだ。

 これが1体か2体なら、事故か何かだろうということになるのだが。

 ほぼ、全部となると、問題は大きくなる。


 しかし、砦を攻められたわけでもなければ、周囲に人影があるわけでもない。

 だからといって、北の大街道上を、ブリザードホークが確認するも、帝国側は、ヴァイスフロスト城に至るまで、魔王軍の者たちしかいないし、王国側についても同様だった。


 こちらからは、山神様やまのかみさまの能力で相手の動きが逐一分かるのだが、何が起こっているのか理解に苦しんでいる様子が手にとるようにわかった。

 そして、どうやら、ガガ多種族連合王国が、こっそり攻め込み始めているのではないかという結論に達したらしい。

 実の所、この評価は正しかったのだが、今の僕たちには、それを知る手段はなかった。


 ちなみに、新しく作った山の中の線路は、全て地下に存在する。

 雪をどかしたりとかそういうことはしていないし、夜間にさらに積雪があったので、外部から見る分には、変化は見て取れない状況にあった。

 そのため、僕たちは、最小限の見張りを立てて、日が暮れるのをじっくりと待つことにした。

 そして、夕方、日が暮れた後の午後6時。


 再び、レイン先生以下の、静かな討伐作戦が開始された。


 しかし、今日は流石に、昨日大量に行方不明になったことを踏まえて、夜間は、あまり単独行動をしないようにしていたようだ。

 簡単に刈り取ることのできる相手を見つけるのに苦労した。

 それになにより、ブリザードホークが、夜になっても運用されていた。

 鳥眼でほとんど意味がないとはいえ、何かわかるかもしれないと投入されたのだ。


 偵察している上で、真っ先にこれに気がついたレインは、マインウルフたちを下がらせた。


 白い雪の上に、黒いマインウルフは、夜間帯とはいえ目立ってしまう。

 ブリザードホーク討伐を優先することにしたらしい。


 でも、レイン先生はどうやって、自分より大きな鳥を討伐するつもりなのか。

 なにより、200羽とはいえ、おそらく全羽出撃しているのだろう、かなりの数が高空を舞っていた。

 ある意味、これでこちらとしては手の出しようがなくなっていた。

 ところが、レイン先生は力技を使ってきたのだ。


 事前の情報で、魔王軍がガガの侵攻を疑っているという山神様やまのかみさまの報告があった。

 これがどれくらいの信憑性があるのか分かりはしないが、これを悪用したのだ。

 レイン先生は、体が小さくて、見つかりにくいことをいいことに、ヴァイスフロスト砦の西側を中心に、爆弾を仕掛けて、一遍に爆破した。


 これには、流石に僕も頭が痛くなった。

 いや、どう考えてもそれはない。

 だって、攻め込んでいることを知られないようにしているのに、なぜ、そうするのか。


 ところが、問題は、僕たちの斜め上を行っていた。


 ガガに攻め込まれたと勘違いした魔王軍は、西側に戦力を投入して、いもしないガガ軍と戦闘を開始したのだ。

 もっと斜め上だったのは、ガガ軍が、かなり西ではあるが、実際に存在したことだ。

 攻め込んできたのならやり返すとばかりに、激しい攻防が発生していた。

 戦闘の中心は、ヴァイスフロスト砦から、西へおおよそ3キロくらいの山中の盆地だった。


 そこに、ガガ軍が陣地を構成していたためだ。

 ガガ軍の名誉のために捕捉しておくが、その陣地は、紛れもなくガガ多種族連合王国の領土内である。


 魔王軍による越境攻撃。

 むしろガガ軍は、これ幸いにと、魔王軍を圧倒した。


 もう、無茶苦茶だったが、逆にこのことで、砦は手薄になっていたし、魔王軍の航空戦力も、ガガ軍にかかりっきりになっていた。

 初めこそ優勢ではあったが、すぐに魔王軍は劣勢になったからだ。


 優勢だったのは、攻め込んだ当時、ガガ軍とて、攻め込まれるとは考えていなかったからだ。

 いきなり攻め込んできた魔王軍への対応が遅れたことも、これに拍車をかけた。

 とはいえ、戦力で勝るガガ軍が、一方的に蹂躙されるということはありえない。

 しかも自国領土内だ。


 兵站の心配もなければ、増援の要請すら、簡単にできてしまう。


 そして、もっとも魔王軍の劣勢を決定づけたのが、レイン先生の「BAN!」魔法だった。


 魔物の地上戦力がガガ軍の陣地に襲撃をかけ、その後衛として魔族が後ろから遠距離魔法で攻撃をしていた。

 レイン先生は、さらにその後ろから、魔族を「BAN!」しまくっていたのだ。

 もう、状況が状況なので、残存戦力も投入して、精霊3人衆が、魔族を、マインウルフたちが魔物を討伐することで、砦の中はほぼ空となり、僕らの占領下になった。


 ほぼ、というのは、ここに悪魔が1体残っていたからだ。


 最初は、いつものフリドラとか、カリマサといった、知った顔の悪魔かとも思ったが、そうではなかった。

 兵士の運用方法が、大きく異なっていたので、ある程度予想はついていたが。


 そうして、僕らと悪魔の戦いが始まった。


「お初にお目にかかる。人の子たちよ。我は、風の悪魔『シルドラ』。お相手しよう。」


 そう言うと、3メートル程度の巨体に似合う、2メートルくらいの大剣を異空間から取り出し、僕らに対峙した。


 初物相手なので、どんな攻撃をして来るのかわかったものではない。

 風の悪魔と自称しているので、おそらく、かまいたちとか、空気で切り裂いて来る系の攻撃が来るという予想は、はずれないだろう。


「カタリナ。あいつの空気切り裂き系攻撃、なんとか防御できるのか?」

「むり。ただ、物理攻撃じゃないくて、魔法攻撃なら、カタリナを装備している限り無効だからな。あと、風の悪魔シルドラとか言っているけど、暗黒属性持ちだから、気をつけるんだぞ?」


 フリドラも、氷雪の悪魔とかいいつつ、暗黒属性持ちだった。

 弱点は神聖属性。

 あ、じゃあ、ホーリーナイフとか、効果があるんじゃないかな。

 むしろ、先日調達した装備品で、攻撃が防げるのではないだろうか。


 まあ、物理の衝撃を緩和はできないだろうけれど。


「ノナカ殿。此処はワシに任せてはくれんか? 此奴は、ワシの旧知の敵だ!」

「ダメ。これは、僕の獲物。僕の経験値になってもらう。先に手を出した以上、譲れない。」

「そこをなんとか! 結構な数の部下をやられたのだ。弔い合戦でもある。」

「だからダメ。どのみち、すぐに決着がつく。」

「ならなおさら。」


 ちょっと内輪揉めをしていた。

 シルドラは、可哀想なものを見る目でこちらを見ている。


「おい、さすがに無視するなよ。」

「今忙しいんだよ。後にしてくれ。」

「そうだ。どちらがお前を討伐するのか、揉めているんだ。ちょっと待っとけ。」

「い、いやさ? 揉めている間に、俺が攻撃しないとでも?」

「今、攻撃してきたら、怒りに任せて、酷いことをしそうなんだ。できれはやめてくれ。」

「揉めている最中に攻撃してきたら、1対2になるがいいのか?」

「あ、あー、めんどくせぇ奴らだな。ちょっと待ってやればいいんだろ?」


 僕らは、どこまでも面倒くさい奴らだった。

 結局5分ほど揉めた後、ジャンケンで負けたため、討伐権は皇帝陛下に持っていかれた。


「5分。5分で討伐してくれ。ダメだったら交代だからな?」

「いや、そう言う話ではなかったはずだ。交代しないからな?」

「ケチ。」

「こ、皇帝に向かってなんて口の利き方だ!」

「もういいよ。ちょっとお外行って、魔物狩りまくって来るよ。」

「早く往ね!」


 僕は、そう言って、砦から外に出ると、マインウルフの護衛がついたのを確認して、カタリナを放った。

 その1分後、シルドラの断末魔の叫びと、皇帝陛下の怨嗟の声が同時に聞こえてきた。

 ああ、最後の一撃をシルバースライムのカタリナに持っていかれたのな。

 これは、これは悔しいだろう。


 シルバースライムのカタリナには、物理攻撃も魔法攻撃もほぼ効かない。

 しかし、恐ろしいほどの物理攻撃力がある。

 鋭い刃物になれるからだ。

 一方的な殺戮となる。


 これはひどい。

 そして、「これはひどい!」と皇帝陛下が砦の中からダッシュで出てきて抗議してきた。


「経験値、ゲットだぜ! レベルが1、あがりました。」


 僕がそう言うと、皇帝陛下は、逆上して暴れ出していた。

 ので、少し体を引いて、お集まりになっていた、魔王軍の魔物軍団をあてがっておいた。

 200体くらいはいたはずなのだが、5分で全部が息たえていた。

 ちょっと、まずいんじゃないだろうか。


 皇帝陛下は止まりそうにない。


 僕は、あわてて西に向けて逃げ出していた。

 人間がいたぞ!!!

 そう、魔物たちが大量に寄って来る。

 うまくかわして、皇帝陛下への盾としたが、1分も持たなかった。


 バーサーカーかよ!!!

 まずいまずいまずい!!!


 まさか、味方と思っていた相手に、これほどまで追い詰められるとは思ってもいなかった。

 

 僕が、さらに西へとダッシュで逃げていくと、ちょうど魔族を討伐し終えたレインが、笑顔で迎えてくれた。

 そして、目を合わそうとして、すぐに目を逸らすと、急いで上空高くへと逃げていった。


「レイン! 助けて!」

「な、何なのです? 魔王軍に操られているのですか?」

「悪魔を1体、討伐したら、逆恨みされた。じゃんけんで討伐権譲ったのに、カタリナで止めをさしてしまったら、こうなった!」

「自業自得なのです!!! 落ち着くまで、逃げ惑うがいいのです!!!」


 こうして、皇帝陛下の怒りのパワーが切れるまでの1時間ほど、砦の周りをずっと逃げ惑うこととなった。

 本当にこれが原因で、砦の魔王軍は、空間転移魔法で撤退して行った悪魔1体以外は、すべてを討伐してしまった。

 最後の方は、ほとんど皇帝陛下無双だった。

 すみません、僕が原因です。


 この後、皇帝陛下に3時間ほど正座させられて、コッテリとしぼられた。

 地に頭を擦り付けて、許しをこうたら、3時間で許してもらえた。

 カタリナも一緒に謝ってくれた。

 なお、カタリナの分析では、皇帝陛下の武器では、そもそもシルドラにはダメージを与えることができなかったとのこと。


 僕もカタリナも、それをこの状況下で、皇帝陛下に伝えることはできなかった。


 こうして、魔王軍の大切な、本当に大切な退路は、僕たちによって寸断されてしまった。

鉄道の建設の話は、はしょりました。

ちゃんとレールまで引いていますのでご安心ください。

時間があったら、詳しい駅構内の状況について表示すると思います。

ええ、手元の資料集には図面でありますので。

それでは、がんばれれば、また。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ