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第45話 異常護符使ってみました

自分の持っているもの、自分のところにあるものは、使いたくなってしまうものと言われます。

逆に、新しく手に入れたものは、使ってみるのを忘れることも多いものです。

今回はそんなお話です。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後33日目朝>

場所:大トネニーズ諸島連邦ニー王国

視点:たちばな


 昨日から、委員長がおかしい。

 委員長だけじゃない。

 柳さんもおかしい。

 あと、私もおかしい。


 これは、何かある。

 でも、今の私には理解できない。


 やはり、大トネニーズ諸島連邦には何かがある。

 疑ってかかるべき。

 私たち、客観的に見れば、拉致されているし。

 なぜ、委員長たちは油断しているの?


 イケメン?

 イケメンなら全てが許されるの?

 幸い、私にはそういう趣味はない。

 むしろ委員長からは、男の趣味が悪いと言われているくらい。


 逆にそのせいで今回は助かった。

 男の趣味が悪くて助かった?

 それはちがう。

 本当の意味で、男を見る目があったのが私の方だっただけ。


 さて、委員長は、ニー王国とやらの王子様に夢中。

 普通なら、第一王子とか第二王子とかそういう言葉が出て来てもいいはずなのに。

 ただ、王子とだけ。

 それに、王子なら、敬称は「殿下」だ。


 王子様であるなら、そこにこだわるのが普通じゃないのだろうか。

 それとも、気さくなイケメン王子を演出する上で、そういう指摘はしない方針なのか。

 読み合いになりそう。

 とにかく、船上での食事は、小食キャラで誤魔化して、必要最小限にした。


 でも、体に影響が出ている。

 おそらくは、薬物。

 混入したのは食べ物なのか、飲み物なのか、それとも香水やアロマとかの匂いなのか。

 船室内には、甘い匂いが漂っていたし。

 判別はできないけれど。


 正直、体がいうことを聞かない。

 あのイケメンたちが、自分の趣味じゃないにも関わらず、欲しくなっている。

 いや、正確じゃない。

 もう誰でもいいから、男が欲しくなってしまっていた。


 これ、媚薬だ。

 早くなんとかしないと、委員長たちの仲間入りをしてしまう。

 もう、そうなったら、後戻りできないと思う。

 媚薬系の薬物は、一度ハマったら二度と抜けられない危ない薬物だ。


 ちなみに、恩寵の技能スキルで、状態異常回避スキルを身につけている。

 Lv11になった時に手に入れた「異常護符」がそれだ。

 あらかじめ、スキルを使用しておくと、一定時間以内は、状態異常を一つだけ回避できる。

 でも、今回は、これをあらかじめ使っていなかった。


 媚薬だと気がついてから使っても手遅れだったけれども、今は使っている。

 だから、もうこれ以上、媚薬の追加効果は発揮されないはず。

 薬が抜けるのを待っていればいい。

 どのくらいかかるのかはわからないけれども。


 そういうこともあって私は、船を降りる前から、もう決めていた。

 この島から、たとえ一人ででも脱出することを。

 まあ、ホーリーウルフの「ダイブ」と一緒に逃げるつもりだけれども。


 さて、そうと決まれば、脱出手段を考えなければいけない。

 島からの脱出手段は、常識的に考えるならば「船」一択。

 ファンタジーな世界だからと言って、空を飛ぶ飛龍とかに乗りたいとか思わない。

 うっかり落ちたら死ぬ。


 船がゆっくりと港に入っていく。

 港には、大きな船が数隻停泊していて、荷物の積みおろしをしている。

 貿易拠点として、機能していると感じた。

 色々なところから、ここに運んで来て、倉庫に一旦収納して、また、配送する。


 元の世界で言う流通業を、国家規模で実施している可能性がある。

 なら、島を脱出する時には、その大きな積み荷に紛れ込めばいい。

 その方法の、具体案を考えなければ。


 私の恩寵は、回復系。

 職業技能は、テイマー系。

 ダイブの魔法は、神聖系統の攻撃・回復系。


 どう考えても、隠蔽に使える要素がない。

 強いて言えばダイブの魔法を目眩しにできるくらいか。

 そういった小手先のテクニックで乗り切るしかない。


 この、火照りがおさまらない体で、なんとかするしかない。

 潮風が頬に当たって、体の火照りを少しだけ冷ましてくれている。

 船から降りたところから、王国との化かし合いの開始だ。



 結論から言えば、私たち二人は、王宮には連れて行かれなかった。


 王宮へは、委員長が代表という形で王子と一緒に、白馬の馬車で登っていった。

 私と柳さんは、案内に従って、港近くの役所的なところに連れられて来た。

 何が始まるのか。

 隙をついて逃げるにしても、ちゃんと経路を覚えておかないといけない。


 港がある方が、東だと、確認した。

 ただ、ここは異世界なので、自信はない。

 根拠が、朝日の登って来た方向を東で考えているからだ。

 もしかしたら、異世界なので、太陽の動きも違うかもしれない。


 南半球ってことも考えられるし。

 あ、それは関係しないか。


 船から見た感じでは、島自体はそんなに大きくない。

 住んでいる人も多くはなさそうだった。

 港周辺から、山の頂上の王城にかけて、家が立ち並んでいる。

 でも、それ以外は、森とか草原だった。

 なんか、遠くに牛か馬的な動物も見える。


 解せない。

 この規模の町、この規模の城、そして多数の船舶。

 これらの維持費用を賄うことを考えたら、少なくとも島の中の経済規模では無理だ。

 何か隠し球があるはず。


 例えば、金山とか、ダイヤモンドとかお金になるものが採掘されるとか。

 とりあえず、全方位に情報収集をすることにした。

 ダイブにも後で手伝ってもらおう。



「じゃあ、今から、島の西側に行って、ダンジョンに潜ってもらいます。」


 役所でオリエンテーションを担当している20代後半の女性が、いきなりそんなことを言い始めた。


「え?」

「聞いていませんでしたか。先ほどから説明していました通り、ダンジョンですよダンジョン。勇者様方を拉致してまでお越しいただいているのには、深い訳、というか、深いダンジョンがあるのです。」


 誰がうまいことを言えと言った。

 でも、ダンジョンか。

 これは都合がいい。

 しかも、ダイブも一緒に潜れる。


 なら、その途上ではぐれたり、死んだりしても不思議じゃない。

 そして、ダンジョンなら、色々なアイテムを確保できるかもしれない。

 そうしたら、より安全にサッシー王国に帰ることができる。


「えっと、最後に一つだけ。ダンジョンの最下層である、地下100階には、用途不明の転移魔法陣があるそうです。一説には、異世界へと転移するとも言われていますが、真偽の程は定かではありません。何しろ、王国公認で攻略できているのが、地下9階層までですから。」


 重要な話だった。

 もしかすると、もしかする。

 でも、これはあからさまに異世界の勇者を釣るための餌である可能性の方が圧倒的に高い。

 話半分といったところか。


 そして、そもそもほとんど攻略されていないダンジョン。

 それを、私と柳さんだけで攻略できるとも思えない。

 逆に、あれほどの腕前を持つ王子がいるのに、それだけしか攻略されていないことも解せない。


 役場の一室で、丁寧に説明してくれている女性には申し訳ない。

 でも、彼女の言っていることが真実である確証もない。

 現地に行くのなら、そこで確認すればいい。

 なんなら、勇者を殺すために、マグマに落とすとか、そういう流れの前段の可能性すらある。


「ダンジョンについて幾つか質問が。」

「橘さん。どうぞ。」

「ダンジョンには、自由に出入りできるのでしょうか。誰でも。」

「いいえ。浅い層でも、それなりに危険な魔物が出ますし、そんな魔物が地上にも溢れ出て来ます。ですので、諸島連邦の軍隊が、入り口を封鎖しています。認められた人間しか入ることは許されていません。」


 なるほど。

 軍隊があるのか。

 王国単位以外にも、この連邦規模で。


「軍隊の人たちは、ダンジョン攻略に参加するのでしょうか。」

「しません。入口を確実に塞ぐのが彼らの役目。ダンジョン攻略中に、魔物を外に出したとあっては本末転倒です。」

「では、主にダンジョン攻略をしているのは、どんな方なのでしょうか。」

「それは……。」


 彼女は言い淀んだ。

 すぐに答えが出せないのか、言いにくいのか、言えないのか。


「まず、王国軍の方々がまれに。王子様もたまに。あとは、冒険者ギルドの冒険者の方が。」

「冒険者ギルドに入っていれば、自動的に許可が降りるのでしょうか?」

「いえ、冒険者ギルドを通して、許可をとっていただいています。」

「魔物素材以外に、何かめぼしいものがとれたりはしますか?」

「ほとんど期待薄です。昔、ダンジョン内で亡くなった方の装備品が錆びて転がっているくらいでしょうか。宝箱とかがあるわけではありませんので。それに、なんらかの鉱石とかが採掘できるわけでもないですし。」


 使えないダンジョンだった。

 つまり、魔物が湧き出すの専門のダンジョン。

 それで、レベル上げ以外に活用方法がないわけだ。

 王国の兵士たちも、レベル上げで使っているに過ぎないのだろう。


 だから、レベル上げに最適な浅い層しか攻略されていない。

 これは、チャンスかもしれない。


「装備品とかを整えたい場合は、城下町に冒険者向けのお店はありますか?」

「一応、冒険者ギルドの周辺に、鍛冶屋さんとか、武器防具の専門店とかはあります。品揃えは期待しないでくださいね。」

「いいえ、そういうのではなく。薬草とか、ライトとか、そういう細々とした道具類の方です。」

「それも、冒険者ギルドのあたりにあります。冒険者ギルドに行かれれば、そのあたりは親切に教えてくれるはずです。斡旋もしているとのことですよ?」


 いろいろ、役所の人が教えてくれたので、とりあえず、冒険者ギルドへと向かうことにした。

 その道中で、柳さんと打ち合わせをした。


「媚薬、抜けた?」

「え? ああ、やっぱり薬だったんだ。なんか変だと思っていたんだよ。ぜんぜん抜けない。効果長いね。」

「ちょっと待って。一応、スキル『異常護符』をかけておく。これで、他の状態異常が先に入り込まない限り、追加での媚薬の効果はなくなる。」

「んー。ちょっと、戦闘は無理そう。船の上で、伯爵家の息子さんが、うちに泊まるといいよって言ってくれていたから、ありがとうって言って、泊まる予定でいたんだけど……。」

「泊まったら、明日には大人の仲間入り。おめでとう。」

「どういたしまして。って泊まらないよ!!!」


 柳さんも、薬こそ抜けていないものの、これが罠だと言うことくらいはわかるらしい。

 

「でも、委員長、どうしよっか。」

「手遅れ。委員長は夢の中。もう、王子とよろしくしてるはず。」

「だよねー。」

「とりあえず、今日は、ギルドでいろいろ聞いて、ギルドに宿を取る。」

「それが一番安全かな。でも、ギルドまで迎えが来ちゃったらどうしよう。」

「今から、道具を買い揃えて、すぐ寝る。夕方から、ダンジョン攻略をする。いたさせない。」

「あ、さかしい。さすが橘。策略に関しては、ピカイチだね。」

「褒めてない。」

「褒めてるよー。」


 と言うわけで、冒険者ギルドに顔を出すと、その上にある宿を斡旋してもらった。

 道具類や武器防具の類のお店も確認した。

 品揃えは、港町や王都と比べるとよくない。

 しかも、品揃えの種類そのものがだいぶ違う。


 いっぱい勉強しないといけなさそう。


「じゃあ、おやすみ。」


 2人部屋に鍵をかけて、昼間っから寝ることにした。

 ダンジョン攻略用の地図や道具を調達した。

 許可証は、役所で一番初めにもらっている。

 この寝ている間に、何かされなければいいけれど。


 そこは、私のベッドの下にいる、ダイブに期待したい。

 私たちより先に、寝ていたけど。



 そして、夕方まで、何事もなく。

 ギルド付属の食堂で夕食を軽く食べた後、ダンジョンに向かった。

 ギルドから、ちょうど一本道になっている。

 港から王城につながる曲がりくねったメインストリートの登り道沿いにある冒険者ギルド。


 その脇には、よく使われているらしい、メインストリートから分岐する道があった。

 ご丁寧に看板まである。

「ダンジョンまで5キロ」

 そう、書いてあるらしい。


 歩いて行くと、1時間もかからず、ダンジョンの入り口に到着した。


「待て。何者だ?」


 入り口の兵士にいきなり止められた。

 まだ、入ろうとすらしていないのに。


「冒険者。これからレベル上げに行きたい。許可書はこれ。」

「む、あ、ああ。気をつけてな。夜は、ダンジョン内の魔物が活性化するから、特に危険だからな。死なないように気をつけるんだぞ、嬢ちゃんたち。」


 老人一歩手前の兵士が、孫を見るような目で、そう言って来た。

 いや、実際孫ぐらいの年齢なのかもしれない。


「はい。特に手続きはいらない?」

「ああ。入った時間と出る時間は、確認して帳簿につけてはいるが。死んでも自己責任だからな。」

「じゃ、行ってくる。」


 そうして、私たちのダンジョン攻略が始まった。


 というよりも、思った以上に島の中ならなんの縛りもなく自由行動だった。

 たしかに、船の出入りさえ押さえておけば、島から脱出する手段などないのだから。


 地下第1階層は、ほぼ何もなかった。

 と言うよりも、ここに、連邦軍が陣取っているといっても過言ではない。

 モンスターなど存在するはずもなかった。

 なんなら、2階への下り階段の位置を教えてくれる親切仕様だった。


 地下2階層にも、結構な数の連邦軍の兵士がいた。

 流石にここは、1階への階段付近のみ。

 3階への階段の位置を教わった。

 モンスターとエンカウントすることなく地下3階層へ進めた。


 3階層からは、きちんとモンスターが出て来た。


 はじめに遭遇したのは、鳥。

 カラスっぽい何か。  

 ゲームじゃないから、名前は分からない。

 でも、ダイブが一撃で殺した。


 経験値が少し入った。

 鶏肉が手に入った。

 後で、ご飯の足しにする。

 基本現地調達。

 現地調達することで、食料とか、道具を減らす。


 今日は、小手調べなので、明日の朝か昼くらいまでには、一旦出る予定。

 だから、日付が変わるころには、戻り始めようと思っている。


 モンスターが出てくる。

 今度は、黒い猫、と言うかヒョウだ。

 ダイブ的には、動きで翻弄されて、相性は良くなさそう。

 柳さんが、牛刀を振り回して、少しずつダメージを与えている。


 私は、ダイブに支援魔法をかける。

 ダメージを受けているので、自然回復魔法もかける。


 その黒いヒョウは、攻撃してこない私に狙いを定めて来た。

 さすが、野生の動物は勘がいい。

 私には、攻撃スキルがない。

 でも、それなら、何か道具で補えばいい。


 それは、ナイフだった。

 小型の取り回しのしやすいナイフ。

 噛み付いてくる口を、ナイフで引き裂いた。

 噛みつかれる場所は、なぜか見当がつくので、そこにナイフを準備しておけば簡単だった。


 切られてのたうち回っているところに、柳さんが牛刀で、トドメを刺す。

 胴体と首が、離れてしまった。


 肉としてはおいしそうだし、毛皮も需要がありそうだけれども、運搬手段がないので、脇に寄せておいて、放置した。

 ダンジョンとしては流行っていなさそうなので、帰りにでも拾って帰ればいいくらいに考えていた。


 そこそこモンスターが出たものの、0時になった頃には、地下8階まで進んでいた。

 前人未到の10階まで、後少しだった。

 え? こんなのでいいの?


 よくない。

 地下第9階層には、ボスがいるらしい。

 そして、ボスしかいないらしい。

 だから、そこから先に進めていないと。


 このダンジョン、ボス攻略がとても難しいらしい。

 いろいろな制限事項があって、ボスの部屋に入ったものが、地上に帰ってこない。

 望み薄だが、もっと下層で生きているかもしれない。

 本当に望み薄だけど。


 今日はここまでと言うことで、ダンジョンを登り始めた。

 8階層で討伐した、鉱石系モンスターは、換金できそうだったので、持って上がった。



 ダンジョンを脱出したのは、午前5時ころ。

 冒険者ギルドには、朝の6時には到着してしまった。

 きちんと早朝から開いている唯一の「夜」カウンター。

 そこで、カラスとヒョウと鉱石を買い取ってもらった。


 ちなみに、カラスは、ビッグクロウ、ヒョウは、ビッグキャット、鉱石は、ブロンズロックという正式名称があるらしい。

 大ガラスに、大猫、そして、銅の岩といったところか。

 なんとも単純かつわかりやすい名前だ。

 扱う方としてはありがたい限りだけど。


 もっと色々倒したのだけれど、持って帰ってこられない。

 ギルドの受付嬢に聞いたところ、空間魔法を使ったカバンなら、持って帰ってこられるという。

 お金が貯まったら、ぜひ買いたいところだ。


 あと、8階層まで行ったと言ったら、びっくりされていた。

 連邦軍の人たちも驚いていた。

 そんなに難しい迷路でもなかったし、そこそこ強敵だってけど、なんとかなった。

 まあ、ホーリーウルフのダイブが、かなり活躍したのは言うまでもない。


 このパーティーは、アタッカーが1人に回復役が1人、そして両方兼任がダイブだった。

 バランス的にはどうなのかとも思うけれど、なかなかいい組み合わせだった。

 そして、柳さんは、調理師のスキルが使えるので、道中での食事もおいしかった。

 なんとかなりそう。


 そう思って、武器や防具を手入れしつつ、朝から寝ることにした。

 爆睡だった。


 そして、この日は叩き起こされることになる。

 時間は、昼過ぎの午後1時ころ。

 ドアを連打する音で、目が覚めた。

 柳さんは、私が起こすまで目を覚さなかった。


「どちらさまでしょうか。」

「伯爵家の使いの者だ。柳殿に用がある。薬を届けに来た。」


 おい!

 あからさますぎて、どこから突っ込んでいいのかわからなかった。

 柳さんが、薬と聞いて反応していたのは、ちょっとびっくりしたけど。


「大丈夫なの? 薬、抜けているの?」

「だめ。抜けていない。今も、お薬って聞いて欲しくなっている。」

「私の異常護符、効かなかったの?」

「効いているから、ドアを開けずにいられる。ありがとう。」

「罠、かな?」

「私を、薬漬けにしようとしているんじゃないかな。本来なら、もう、薬漬けになっていたはずなんだし。」

「どうしよう。薬が効いていないってバレたら、面倒なことになるかも。」

「大丈夫でしょ。」


 ふたりで小声でそういうやりとりをした。

 そして、柳さんがドアに向かって言い放った。


「薬って、なんの話ですか? 別に、風邪とか引いていませんけど。」

「薬、欲しくなっていないのか?」

「いえ、そもそも、何で欲しくなるんです?」

「あ、いや、そうか。薬物耐性でもあったのか。まずいぞ。どうする?」

「伯爵に急いで連絡して来ます。」

「頼んだ。」


 ドアの外では、ドタバタと、忙しそうだ。

 とりあえず、もう、面倒ごとになることは明確だった。

 ここにいても、そのうち追い詰められるだろう。

 打って出るべきか? 逃げるべきか?


 どこに?


 迷っているうちに、冒険者ギルドは、伯爵の雇った傭兵か何かに、取り囲まれていた。

 万事休す。


 ドアからは、激しいノックとは異なる音がして来た。

 そして、その音が何発かして、ドアは吹っ飛んだ。

 吹っ飛んだドアは、開け放たれた窓から外へと飛んでいった。


「あいつら、どこへ消えた?」

「必ず、この部屋にいるはずだ。探し出せ!」

「なんで、いねぇんだよ! 出てこい!!! アマァ!!!」


 冒険者ギルドから教わっておいた非常口が、役に立つ時が来るとは思っていなかった。

 私たちは、ベッドの下の非常口から、隠し通路を経て、外へと逃げ出すのだった。

スキルの有効活用というのは、思った以上に難しいようです。

自分に都合のいいスキルが、都合よく現れるとは限らないからです。

そのあたり、小説なんだから、ご都合主義でいいんじゃないかと言う方もたくさんいますが。

尺の関係で、どうしてもそうならざるを得ないならともかく……。

それでは、がんばれれば、また近いうちに。


訂正履歴

 日付が変わることには、 → 日付がかわるころには、

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