第44話 夢と魔法の王国で
いいんちょのお話の続きです。
あまり得意ではない話のもって行き方、内容を書いてみました。
苦手意識は明確にありますが、書くとなるとやはり難しいものですね。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後32日目朝>
場所:大トネニーズ諸島連邦海上
視点:桂
私たち勇者である女子3人組は、西国と呼ばれる、シーハイランド皇国へと向かうように、サッシー王国の国王から言われていた。
乗船券をもらっていたので、港町ヨスカコスカから船に乗って行こうと準備をしていた。
西国から来たという船員が親切にしてくれたので、言われた通りの船に乗っでしまった。
ところがその船は、西国の船ではなかった。
大トネニーズ諸島連邦とかいう、聞いたこともない国? というか連邦の船だったのだ。
洋上に出てしまえば、私たちに出来ることない。
そのまま、おとなしく船に乗っているしかなかったのです。
もう、これは仕方のないこと。
私たちは騙された被害者。
悲劇のヒロイン。
私と、いつも助けてくれている友達2人で、この状況からなんとか脱出しないと。
船室に案内される。
そこには、ひとりの男子が、椅子にどっかりと腰掛けて待っていました。
金髪長身の、煌びやかな服装と、宝石類を上品につけた自称王子様。
「ああ、キミたちが勇者なのかい? ボクは、ニー島王国の王子、サクソン・ニー・トネニーズだ。よろしく。」
ニヤリを渡った時に見えた白い歯が眩しい。
筋肉質の細マッチョの体は、いい感じに日焼けしている。
私の好みじゃないけど、王子様としては十分にイケメン? なんじゃないだろうか。
私の趣味じゃないけど。
その船室は、比較的広い部屋だった。
テーブルの上には、整然と朝食が用意されていた。
焼き立てのトーストにバター。
そして、卵のからの上の部分だけが空いている、ゆで卵。
王子様に、向かい側の椅子に座るよう勧められたので、3人は、逆らうことなく座った。
焼いたパンのいい匂い。
温められたバターのいい匂い。
そして、なにか、甘い花の香り?
朝食をいただきつつ、私たちも自己紹介をした。
もう、なるようになれと、運命の流れに、身を委ねることにした。
飲み物は、果物のジュースだと言われた。
飲んだことのない味。
橘さんは、一口飲んで、それ以上は飲まなかった。
「お口に合わないのかい?」
「おいしい。でも、慣れない味。あとでゆっくりいただく。」
「そうかい。遠慮なく食べてほしい。これから、こんな感じの食事が続くからね。慣れてほしいんだ。こんな質素な食事ですまないな。」
質素?
この異世界に来てから、朝食としては、一番豪華なんですけど。
なんなら、パン。
こっちにきてから、初めて見た。
そう、パンは、徹底して出てこなかった。
もちろん、ご飯も見なかった。
毎日どこでも芋が主食で。
だから、パンが食べられて幸せ。
それも、元の世界で食べていた、おいしいパンとも全然味が違う。
パン生地自体が、ほのかに甘くて、でも、砂糖とかチョコとかを練り込んでいるのとは、ちょっと違う感じで。
パン自体の味が、十分の美味しくできていた。
柳さんなんて、遠慮なく何枚も食べていた。
王子様、それを見て若干引いていた。
さすがに、その食べるペースは、ちょっと下品なんじゃないのかな?
そういう意味では、私が一番ちゃんとした食べ方をしているの?
「ごちそうさまでした。」
「お口に合ったようでなにより。食後はどうだい? いい茶葉があるんだが。」
「いただきます。」
嗅いだことのない香りの、紅茶が出て来た。
砂糖もレモンなんかの柑橘類も、ミルクも出てこない。
でも、一口飲んで、その紅茶の茶葉自体の仄かな甘さと大人な苦味が、舌の上をあっさり通過していった。
嫌な感じのしない、そういう味だった。
橘さんは、いつも通り少食で、あんまり食べ物に手をつけない感じ。
柳さんは、普段通り、とにかくしっかり食べる感じ。
それぞれの個性が、よく現れた食事風景となっていた。
食後のヨーグルトには、なにか甘いシロップと、小さなブルーベリーに似たフルーツが乗せられていた。
フルーツは、青や赤、黄色、緑と、色々な色で同じ形。
それぞれ、色によって味が違うのにびっくりした。
2種類以上一緒に食べると、それはそれでまた違った新しい味になる。
すごい。
こんなの、今まで食べたことない。
「ああ、それ、気に入ってくれたんだ。我が王国の特産品でね。レインボーベリーっていうんだ。色々な味を楽しめる、面白い食材だろ?」
「そうですね。初めてです、こんな珍しいものを頂いたのは。」
「異世界の勇者様に、そう言ってもらえると、自信がつくよ。何しろ、異世界の勇者様は、みんな舌が肥えていて、なかなか満足していただけないんでね。」
そう言って、橘さんを見ていた。
橘さんは、少食だけれど、この食事にほとんど手をつけていない。
「そんなに警戒しなくても、毒は入っていないから。」
「そう。でも、いい。十分。私には贅沢。」
「そうかい。そうだよね。慣れない食事は、不安になるよね。こめん、配慮が足りなかった。」
「そんなこと、ありません。」
ちょっと悲しそうにする王子様に、私はすかさずフォローを入れていた。
なんで、橘さんは、こうなんだろう。
せっかくもてなしてくれているのに失礼じゃない。
いくら小食でも、もう少しは食べる努力をすべき。
柳さんは、遠慮しなさすぎだけどね。
こうして、王子様と歓談しつつ、朝食はつつがなく終わった。
昼食前。
海が大きく波打っている。
船の周りだけ。
船から遠くの海全般は、ほとんど波もないのに。
不思議。
そう思って海面を、デッキから見ていたら、何か大きなものがすごいスピードで通り過ぎた。
魚なんでしょうけど、ちょっと大きすぎる。
カジキマグロとか、そんなレベル。
しばらくは、その魚の動きを見ていると、他にも、数匹、船の周りを泳いでいることに気がついた。
そして、魚は飛び跳ねて、船に体当たりをかまして来た。
大きく軋む木造の船。
揺れるデッキ。
振り落とされないように、手すりに捕まるので精一杯だった。
デッキにいた男の人たちは、何事もなかったかのように、仕事を続けていた。
これって、海のモンスターとかじゃないの?
襲撃を受けているんじゃないの?
そうして再び大きな衝撃が、船を襲った。
手すりを掴んでいた手が、そのショックで外れる。
わたしの体は、大きく飛び跳ねて、海へと吸い込まれていく、浮遊感を感じていた。
「大丈夫かい?」
いきなり、後ろからしっかりと抱き止められた。
そして、その声から王子様だと気がついた。
でも、海に落ちる放物線を描いている私を後ろから抱きしめたら、いっしょに海に落ちるよね?
死んじゃうよね?
ヒュルルルルルッ!!!
王子様は、私を左手でしっかりと抱き抱えながら、右手で鉤付きロープを手すりに投げて、海に落ちるのを阻止してくれていた。
そして、海に落ちる寸前で、体が落下から引き止められる。
「いよっ!」
王子様が船のお腹を蹴ると、ロープがピンと張ったまま、王子様と一緒に、体が落ちて来た時の逆の動きでデッキまでふわっと戻ってきた。
「あれは、ちょっとしたモンスターだね。怪我はないかい?」
「え? ええ。大丈夫です。」
「大事な君に、怪我なんてあったら大変だからね。君をびっくりさせたあのモンスターは、僕たちがすぐになんとかするよ。」
王子様は、船員さんから2メートルちょっとある、金属製の銛を受け取った。
「危ないから、ちょっと下がっていてもらえるかな。」
私たちを後ろに下がらせると、船の前方先端部に行き、海面から飛び跳ねてくる、巨大魚と戦っていた。
巨大魚は、何度も船を揺らすように、体当たりを敢行してくる。
その度に船は揺れ、船体は木の軋む音をさせ、皆を不安にさせてくる。
そして、その巨大魚が、再び大きく海面から飛び出したところで、王子様が銛を突き刺し、巨大魚はデッキ中央に磔にされた。
「イケジメにするから、血が出る。ちょっと離れていて。」
そう言いつつ周りを確認して、大きなナイフを、魚に突き立てた。
たくさんの血が、そこから流れ落ちる。
出血が落ち着いて来たところで、船員たちが鱗を剥がし、魚を解体し始めた。
「今日の昼ごはんは、新鮮なお刺身が食べられそうだね。」
「これ、お刺身で?」
「そうさ。この魚は、近海で獲れる『シーファント』って言うんだ。生で食べてもよし、焼いてもよし、煮ても蒸してもおいしい、素晴らしい食材でね。とれたても、とってもおいしいんだ。みんなにもご馳走するよ。」
そうして、昼食は、刺身一色となった。
シーファント以外の魚も獲れていたようで、何種類かのお刺身が並んでいた。
脂の乗ったお刺身が、舌の上で甘くとろける感じが堪らない。
シーファントのお頭を炙ったものの頬肉も絶品。
王子様が、わたしに、それを刮げとって、直接口元まで持ってくる。
いや。
ちょっと、恥ずかしい。
橘さんと柳さんも見ているのに。
なんだか、ふわふわした感じのまま、気がついたら昼食は終わっていた。
なんだかとっても幸せな感じ。
ずっと、このままでいたい。
お昼寝をしていて、気がつくと夕方になっていた。
夕食に間に合うように、好きなドレスを着ておくように、言われた。
ワードローブを開くと、いろいろなドレスが置いてある。
どれも、ぱっと見ただけで一級品。
惜しげもなく、シルクや真珠を使った、こちらの世界ではなかなか見ることのできない高級品だった。
そして、その中でもちょっと気に入った、ワインレッドのドレスを着てみた。
全身鏡に自分を映して見ると、どこかのお姫様になったみたい。
そして、ちょっとだけ、背中が空きすぎているとか、ノースリーブだとか。
気にはなっていたけど、王子様がこれがいいって用意してくれたのだし。
いいよね。
これくらいなら。
そして、3人が合流すると、船員の案内で、船内の大きな食堂に通された。
夕食は、マナーを問われるコース料理かとも思ったけれども違かった。
もうすでに、料理がテーブルの上に所狭しと並んでいる、そういう感じだった。
「好きなのから食べられるように、この形式にしたけれど、嫌だったかい?」
「そんな。マナーとか難しくて、こちらの方が助かります。」
「気にすることないよ。僕だって、マナーとか面倒だから。夕食で、もっと親密になりたいんだ。さあ、こっちにおいで。ここ、隣の椅子に座ってほしい。」
そう言うと、王子様は、ご自分の椅子の隣の椅子を引いて、私を座らせてくれた。
「王子様に、こんなことまでさせるなんて。」
「いいんだ。僕がしたいんだから。嫌かい?」
「だって。みんな見てる。」
「じゃあ、そうだね。食事が終わったら、みんなが見ていないところに行こうか。」
「え? え?」
食事が始まると、飲み物が注がれた。
ガラスのコップだった。
コップというか、グラスだ。
お酒とか入れるやつだ。
「すまないね。船の上だと、水は保存が効かないから、どうしてもこういうのばかりになってしまうんだ。気をつけて飲んでほしい。」
「え、ええ。」
この世界に冷蔵庫はないみたいだし、水とか、腐っちゃうよね。
なら、どうしても飲み物は、保存が効くアルコールばかりになっちゃう。
仕方がないよね。
それに、出されたのに飲まないのは失礼だし。
「じゃあ、君との出逢いに。」
「王子様との出逢いに。」
そう言って、グラスを合わせた。
お酒はあまり飲まないように気をつけないと。
最初のうちはそう思っていたのだけれど。
ちょっと飲むと、給仕の方が、すぐに継ぎ足してくる。
「おや、結構いける口なのかい?」
「そんなこと、初めてなんですから、わかりません。」
「そうなんだ。無理させてごめんね。」
「いいんです。これ、とってもおいしいですし。」
「気に入ってくれて、うれしいよ。」
「は、はい。」
気がつけば、食堂には、私たち二人しかいなくなっていた。
「じゃあ、僕の部屋においでよ。もう少しだけ、君のことを知りたいんだ。」
「ふぇ、えぇ。わたぁしも、おーじさぁまのこと、しりたいれす。」
「ふふふ。かわいいよ。」
「えへへへへ。」
そして、王子様の部屋に着くと、わたしは体を一回転させられて、方向感覚を狂わさせられると、次の瞬間には、ベッドの上に寝かされていた。
「もう、ボクは、美しい君の虜なんだ。もっとお近づきになりたい。いいかい?」
濃厚な甘い匂いのする部屋で私は、もっともっと王子様にくっつきたくなっていた。
しがみつくように、王子様をだきしめる。
「そうかい。わかったよ、子猫ちゃん。じゃあ、力を抜いて。」
そういうと、優しく甘い口付け。
最初はちょっと触るだけの感じを何回か。
そして、啄むように連続で。
わたしも、もっともっとしてほしくなって。
私からも、王子様の首をかき抱いて、夢中で王子様にしていた。
「かわいいね。すごくいいよ。もっとよくしてほしいんだ。」
もう、激しいキスに、自分が何をしているのかわからなくなってきていた。
でも、もっともっと激しくしないといけない。
そう感じて、焦るように、王子様を貪った。
貪っていた。
目が覚めた時には、知らない部屋のベッドの上にいた。
窓から、白い寝具に朝日が差し込んできて眩しい。
隣には、王子様の胸。
私の胸も、朝の冷たい空気にさらされていた。
ちょっと、頭がはっきりしてくる。
わたし、なんで王子様の隣で寝ていたんだろう。
え?
ちょっと待って?
昨日のことが、頭をかすめた。
なんだかうまく思い出せないけれど、王子様ともっとくっついていたい気持ちが押し寄せて来た。
王子様にしがみついていたい。
王子様に、キスしてもらいたい。
どうして?
わたし、おかしくなっちゃったの?
でも、王子様が欲しくて仕方がなかった。
だから、まだ寝ている王子様を抱きしめて、キスをしていった。
たくさん。
そして、王子様も目を覚ますと、わたしにたくさんしてくれた。
そう、たくさんいたされてしまった。
朝から。
朝なのに。
朝食を終えると、王子様のお城が見える島に到着した。
島の真ん中にある、ちょっと高い山の頂上が、そのまま西洋風のお城になっていた。
なんだか、メルヘンな世界に迷い込んだような気分。
港には、赤いカーペットが敷かれていて、その先に、馬車が待っていた。
王子様に手を引かれて、船から降りると、そのカーペットの上を歩いて、馬車に乗る。
カーペットの両脇には、国の貴族みたいな人たちが並んで拍手してくれていた。
その周りにもたくさんの人たちがいて、私たちを見守っていた。
「じゃあ、このまま、王宮へいくけど。お前、もう、俺のものになっちゃえよ。」
「え? え? えーっ???」
「こんなにいい女、初めてだ。もう、絶対キミを離さない。」
二人きりの白い馬車は、そんな私の気持ちを弄ぶかのように優しく椅子を揺らしつつ、どんどん山をぐるぐると回るように登っていき、気がつけば王宮の中に入っていた。
「どうだろう、これが俺のお城だ。気に入ってくれたらうれしいんだけれど。」
「わーっ、素敵です。」
「ありがとう。うれしいよ。」
そう言って、額に優しくキスしてくれた。
もう、体から力が抜ける感じがする。
立っていられないかんじがしたので、あわてて抱きついた。
「そんなに慌てなくても、ちゃんとしてあげるから。」
こんなによくしてくれるんだもん。
いいよね、少しくらい。
気がつけば、もう、王子に夢中だった。
このあと、王子様とむちゃくちゃ……した。
その影で、いつのまにか橘さんが失踪しているという話を、翌日になってから聞かさせられた。
この話は、次の話とセットですね。
次はこの章最後のお話。
橘さん視点でのお話です。
がんばれれば、また。