第3話 高校生から勇者へのクラスチェンジは勘違いと悲劇を生む
あらかじめざまぁしない話であることをお伝えします。
見方によって、立場によって、ざまぁ的な話かもしれませんが。
今回は、強力な技能を獲得したことが心に変化をもたらすという話です。
自分の大きな変化に対して冷静に受け止められる人は、実際なかなかいないものです。
どうしてこうなった?
私は、戸惑っていた。
学級委員長だから、クラスのみんなをまとめなければいけない。
問題を起こしそうなクラスメイトがいたら、声をかけて事前に止めるべきだ。
何より、クラスメイトは全員、お互いのために協力すべきだ。
そう思っている。
でも、現実は違った。
まず、クラスのみんなは思った以上にバラバラだった。
元の世界にいた頃は、これほど酷くはなかった。
緩くはあっても、お互いにクラスメイトとしてのつながりがあった。
いじめがない訳ではなかったが、それを非難する空気があった。
でも、今は違う。
クラスメイトの男子の1人が、技能を手に入れた。
私が見るに、おそらく、魔物との戦闘ではあまり活躍できる類のものではない。
でも、味方に刃を向けた時に効果が大きくなるタイプの迷惑な技能だった。
その技能を使って、脅したり、暴力を振るう。
正義感から、私はそれを止めようとした。
当たり前のこと。
元の世界では、当たり前に行ってきたこと。
悪い事をする人は、みんなでダメだと言い、物理的に止める。
良いコミュニティーを作るためには、必要な事。
私は、吹っ飛ばされた。
最初、何が起こったのか理解するのに時間がかかった。
味方と思っていたクラスメイトに刃を向けられた。
何なら、直接攻撃された。
ショックだった。
金本という男が、私のクラスにいた。
目立たない、どこにでもいるような、普通の男子だ。
今、私を吹っ飛ばした男子だ。
元の世界にいた時には、女子に話しかけてくることもなく、話題の中心になることもなく。
上手にクラスメイトの意識から外れることのできた男子だ。
その金本が「恩寵:リリース」を手に入れた。
女神様の評価はあまり良くなかった。
攻撃力も防御力も期待できない。
普通に使うなら、戦闘から逃げ出したいときに活躍する恩寵だと言っていた。
勇者がピンチの時に、生還する助けとなるスキルが手に入ると言っていた。
能力の高くない恩寵ほど、早めにスキルが手に入る。
女神様は、そう言い切った。
城にある、ステータス読み取り用の宝珠に触れさせられた時にそう説明された。
ほとんどの人のレベルは0〜2。
ただ、先生と金田さんだけ6だった。
同時に、そこで技能が使えるのかどうか判明してしまった。
恩寵の時と同じように、クラス全員の前で。
ほとんどのクラスメイトは、技能を得ていなかった。
ところが、4人だけ、スキルを得ている人がいた。
それに、件の男子、金本が入っていた。
金本のレベルは1。
その他のステータスも、他の人より低いくらいの平均近くだ。
しかし、金本は技能「離脱」を習得していた。
普通に考えれば、これで攻撃されるとは思わないだろう。
そもそもこれは、攻撃用ではなく逃げるための技能なのだから。
しかし、現実問題として、抜け穴が存在した。
金本の「離脱」はスキルポイントの関係で、レベル1だ。
レベル1になると、当該スキルが使用可能になる。
そして、「離脱:レベル1」では、「ブローアウエー」という魔法を使うことができる。
これが、私を攻撃した、そもそもの問題になった魔法だ。
「ブローアウエー」は、おそらく、相手を吹き飛ばしている間に、逃げるための魔法。
しかし、「ブローアウエー」単体を、風系統の攻撃魔法と捉えれば。
実際に攻撃を受けた身としては、魔法そのものによるダメージはほとんどない。
それはそうだろう。
そもそも攻撃魔法ではないのだから。
でも、私は今、頭から血を流してふらついていた。
金本は狡猾だった。
そして、「魔法:ブローアウエー」をよく理解していた。
別に、魔法そのものでダメージを与える必要はない。
相手が吹っ飛んでいった先に、ダメージソースがあればいい。
彼が、猛威を振るうことができるのも最初のうちだけ。
おそらく、すぐにでも皆、同じような強力な技能を手に入れる。
その時、奔放な言動をしていた金本は、どうなるだろうか。
いじめっこは、時が経つと、虐められる側となる。
よくある学校の一コマが、予見できた。
でも、それはまだ来ていない将来の話。
現実問題として今、金本を止める手段がない。
ここまでひどいやつだとは思っていなかったが、誰も金本に逆らえない。
王宮の騎士も、クラスメイトも、街の人々も。
「勇者」の悪評が、流れるのに時間はかからなかった。
「桂さん。」
男子が声をかけてきた。
学年一番の秀才、猿渡君だ。
150センチくらいの低身長を気にする、メガネ男子だ。
可愛い童顔の女顔が女子受けしている人気者で、かつ嫌われ者のエロ男子だ。
「助けてくれるの?」
私は、彼が、正義の心を持って、金本に立ち向かうのかとちょっと期待した。
「パンツ、丸見えだよ。足、閉じたほうがいいよ?」
ああ、こういうデリカシーの欠如した男子だった。
私は慌てて立ち上がると、グーで一発殴ってやった。
「桂さん。状況判断が甘いよ。せっかく頭、いいんだから、上手に使おうよ。」
猿渡がそう言っている後ろで、金本が去っていった。
金本は、猿渡を攻撃しない。
何があったのか知らないが、金本は猿渡だけは攻撃しない。
猿渡は、まだ、スキルを獲得していないはずなのにだ。
納得いかない。
「……助けてくれてありがとう。正直困っていたの。」
「あ、違うよ。パンツが見えそうだから、正面に回っただけだよ。桂さんの貴重なパンチラ、金本なんかに見せたくなかったから。」
「あなたはそういうサイテーな男子だったわね。」
「それよりも、桂さんは、飛ばされただけで、何もされていない? もっとひどいことされている子、結構いるけど。」
衝撃の事実だった。
いや、ある程度予想はできていた。
でも、認めたくなかった。
「桂さんには、金本と直接対決するんじゃなくて、ひどいことされて自殺しそうになっている女子をケアしてほしいな。せっかくの可愛い女子が減ったら残念だから。」
「!」
言っていることは軽々しいが、そういう重要な情報はもっと早く提示して欲しかった。
「誰? 誰なの? 自殺しそうなのは?」
「えっとね、夜に寝室で襲われた桜井さんでしょ、あと、同じく阿部さん、そして江藤さんかな。」
「ちょ、何で知っているのに止めなかったの!」
「後から知ったこと、時間を遡って止められるならやったかもだけど、できても無理かな。」
飄々(ひょうひょう)と、軽く言ってのけた。
信じられない。
そして、許せない。
それから一週間、猿渡の情報をもとに、3人の女子のフォローをしたつもりだった。
でも、間に合わなかった。
3人とも、王城の後ろにある断崖から渓谷に投身自殺した。
最初に女神様の魔法で3人。
そして、王城で自殺者が3人。
合計6人がいなくなった。
残りは25人。
私は生きて帰ることができるのか。
他人のことを考えている場合ではないのではないのか。
そんなことを考えてしまっていた。
そして、今、私の寝室に、金本が押し入ってきた。
PVが1000を超えました。
読者の皆様、ありがとうございます。
第1.5章は第5話まであります。
第2章はその後になります。
ちなみに第2章は「僕の考えた最強の拠点作り」です。
ちょっとだけ鉄道っぽい話が出てきます。
後、しばらく女神様の話は出てきません。
次に女神様の話があるのは第2.5章になります。
女神様視点のお話です。
では、また明日、15時頃に。