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第42話 悩ましい現実と狂おしい理想の狭間で

委員長パーティーのお話の続きです。

委員長は尼僧なので、殺生はできません。

ファンタジー世界を不殺生で乗り切ろうと言うのは、いくら何でも力技が過ぎるのではないでしょうか。

信教は、それぞれの自由ですが、現実と、どう折り合いをつけるのか。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後15日目昼>

場所:サッシー王国王都

視点:かつら


「で、これなんだ。」

「そう。どうだ、すごいだろ。」

「クエスト開始。」


 私たちは、お城から出て、南にちょっと行ったところの草原に生えている、「毒草」とか「薬草」とかの採取クエストに手を出していた。

 ちなみに、戦闘で経験値を稼ぎたいと言う柳さんに、残念なお知らせがあった。

 私たち、武器も防具も持っていない。

 戦うための道具を、何一つとして所持していなかった。


 だから、もし、魔物がいたら、ダッシュで逃げる手筈になっている。


 それで、今、大きな木の周りに生えている、薬草やら毒草やらを、分別して回収しているところだった。

 そうしたら、木の上から、何かが降ってきた。

 橘さんが、慌ててキャッチする。

 なんだろう。


 ちょっと見た感じで、動物だとわかった。


「子犬? どうして?」


 そして、落ちてきた原因を探して上を見ると、大きな鳥がいた。

 成犬くらいの大きさの鳥だった。

 こちらを威嚇している。

 なお、その鳥の脇には、巣があったので、餌を落としてしまったところだと理解できた。


「テイムしていい?」


 訳のわからないことを橘さんが言い出した。

 テイム?

 英語?


「テイムって何?」

「飼い慣らすこと。言うこと聞くようになるの。」

「いいけど、餌、ちゃんとあげてね。」

「うん。」


 そして、上からその犬くらいの大きさの鳥が襲いかかってきた。

 あらかじめ用意してあったのか、柳さんが、石を投げつける。

 余裕で交わす鳥。

 そして鳥の巣にクリーンヒットする石。


 ひなが、3羽落ちてきた。

 1羽は、その石で死んでいた。

 もう1羽は、すぐに、そのテイムしようという犬が食べた。

 最後の1羽は、びっくりして尻餅をついた橘さんのお尻で圧死した。


 そして鳥は激怒した。

 当然である。


 餌を落としてしまったために、横取りされた。

 取り返そうとして、襲い掛かろうとしたら反撃された。

 攻撃を避けたら、子ども3羽が巣から落ちてやられた。

 激おこ待ったなしの状況だった。


「どうしよう、逃げ切れるような相手じゃない。」

「大丈夫。なんとかなる。」

「まかせろ!!!」


 柳さんは、石を投げまくる。

 鳥は、私たちに近づけない。

 橘さんは、犬を可愛がる。

 犬は、橘さんに懐いた。


「だから、無理よ。逃げないと。」

「それこそ無理だ。でも、そろそろ当たる!」


 避けるのに疲れてきた地面に降りた鳥に、石が当たり始める。

 ダメージを受けて、投石の勢いで、ほんの少し後ろに飛ばされる。

 そこに、木の棒を持った橘さんが襲いかかる。

 首の下あたりを突いたら、血が吹き出て、しばらくすると動かなくなった。


「今日のお昼ご飯は、焼き鳥。」

「そうか。じゃあ、準備をしてお昼ご飯にしよう。」


 そう言うと、柳さんは、周りから大きめの石を集めて、30センチくらいの囲いを作ると、その中に、枯れ草とか木の切れはしとかを集めてきて入れた。


「お、あったあった。」


 スタータスをパネルで確認する柳さん。

 何かを見つけて喜んでいた。

 パネルを少しだけ操作すると、集めた枯れ草に手のひらを向けた。


「着火!」


 すると、枯れ草に火が灯り、木の切れ端にも燃え移っていった。


「え? 何? 何をしたの?」

「魔法。魔法を使ったんだよ。異世界だし、魔法使えるようになったし。」

「どういうこと?」

「さっき、鳥の子どもやっつけたら、経験値が入って、レベルが上がったんだ。今は、親鳥も倒したから、レベル2だな。職業『調理師』のLv1習得魔法『着火』を使ったんだ。」

「へ、へー。」


 なにそれなにそれ。

 この世界では、魔法が使えるの?

 恩寵以外でも?

 私の小僧も使えるのかな?


「パネルオープン!」


 私が、ステータスパネルを開こうとしたら、隣で橘さんが声を出して開いていた。

 柳さんの動きを見て、気がついたみたいだ。


「レベル2になった。恩寵:シトラスのLv1習得魔法『自然回復』と、職業:犬使いのLv1習得技能『愛される者』が使えるようになった。」


 そして、Vサインを見せつけてくる橘さん。


「やったな橘! これで、一応、回復魔法が使えるから、戦闘が楽になるぞ?」

「回復魔法じゃない。自然回復。怪我を治す条件が厳しい。」

「どんなだ? キワモノなのか?」

「怪我をしていないと、効果がない。」

「まあ、回復魔法ってそう言うもんだろ?」

「あと、回復に時間がかかる。全回復すると、効果が切れる。」

「それ、普通なんじゃ。」

「普通、かな?」

「そうだろ?」

「うん。」


 とりあえず、怪我を治す魔法をおぼえたらしい。

 これで、戦闘中の怪我も、ある程度までは治せる見通しができた。

 戦力的に、安定したらしい。


「で、何ぼーっとしているんだ? 委員長も確認してくれよ。なんか面白い技、使えるようになっているかもしれないから。」

「その間に、肉を焼いておく。仏教徒でも、鶏肉は食べられるはず。」

「え? 何、その不思議理論。鶏肉でもダメだから。」

「なぜ? あれだろ、うさぎは鳥だから、食べてもいいんだろ? だから1羽2羽って数えるって教わったぞ?」

「今は、そうじゃありません! 鳥も肉食ですから! 殺生ですから。」

「そうか。残念だ。衣利寿いりすたちは、焼き鳥食べるからな?」


 そう言って、いつの間にか、親鳥と雛3羽を木に刺して、火で炙っている2人。

 お昼ご飯だった。

 職業:調理師Lv2は伊達じゃ無かった。


 それはそれとして、私もステータスを開いた。

 最初の画面は基本画面。

 名前、年齢、職業、レベル、経験値なんかが表示される。

 今のレベル、私は何もしていないのに2になっていた。


 さっきまで、0だったのに。


 レベルが上がったので、魔法とか、技能スキルとか、おぼえたかも。

 確認してみた。


 私の恩寵は、レストアとかいう。

 そのLv1習得魔法に「隠蔽」と言うのがあった。


「修復されたように見せかける隠蔽魔法。修復は一切されない。レベルによって効果時間が伸びる。」


 という説明文がついていた。

 なぜか、戦闘の役に立たなさそうな、微妙な魔法だった。


 そして、職業「小僧」は、2つの技能スキルを習得していた。

 Lv1で「読経どきょう」、Lv2で「鎮魂ちんこん」だった。

 説明文を読むまでもなく、読経は、お経を唱えることができるようになるスキル。

 鎮魂は、読経により、魂を鎮めることができるスキルだった。


 アンデットにならなくするという説明文の意味がわからない。


「これ、どう言う意味ですか?」


 私は、橘さんに、アンデットのくだりの説明を求めた。


「異世界なので、ゾンビとか、お化けとかがいると考えてください。一度死んだ肉体を動かしているモンスターを『アンデット』と言うのです。この、殺した鳥も、放置しておくと、腐った上に、アンデット化して、町や村をおそったりします。すでに死んでいるので、切り刻んでも、あまり効果がないのが恐ろしいところです。」

「どうやって、討伐するの? それじゃ、無敵なんじゃないですか?」

「神聖なオーラのある武器で攻撃するか、聖水とかをかけるかすると、討伐できます。」


 意味がわからない。

 なぜ、神聖なオーラとか、聖水なのか。

 あれか、西洋の宗教が基本なのか?

 どうしよう。


 わたし、せめて技能スキルだけでも活躍したかったのに。

 役立たずかもしれない。



 1時間くらいして、2人の昼食(鳥)が終わった。

 鳥の討伐部位(嘴)を持って、冒険者ギルドに戻った。


「えっと、これは、銅貨6枚。あと、毒草と薬草のクエスト報酬が、それぞれ大銅貨10枚。はい、どうぞ。」

「ちなみに、銅貨とかの価値を教えてもらってもいいかな?」

「ええ。大銅貨1枚は、銅貨10枚分。大銅貨13枚で銀貨1枚分。銀貨も同じで10枚で大銀貨1枚。あと、銅貨の下に、賎貨っていうのがあって、100枚で銅貨1枚です。ギルドの上にある宿屋に泊まるなら、1泊1名銀貨1枚。食事は1食大銅貨1枚から。」


 ちょっと計算する。

 今ある大銅貨が20枚。

 13枚で銀貨1枚だから、もう一回薬草と毒草を集めてくれば、今日はここに泊まれる。

 うら若き女子が、野宿とか危険極まりない。


 あと一回、頑張る必要がありそうだった。



<異世界召喚後16日目朝>

場所:サッシー王国王都

視点:かつら


 結局昨日は、合計3回、2種類の採取クエストをクリアした。

 そして、ギルド付属の宿屋にとまって、質素な夕食と朝食を食べた。

 朝食はパンとミルクだけだったけど、これが大銅貨1枚だった。

 夕食は、大銅貨2枚からだった。


 この生活、結構ダイエットができそう。

 あと、食事は現地調達するといいぞと、ギルドの冒険者のお姉さんが言っていた。

 そして、食堂のおばちゃんに怒られていた。

 あ、営業妨害しちゃったのね。


 もしかして、私たち、いいかもだったのかも。

 食堂の。


「あんたたち、武器は?」


 食堂のおばちゃんに、聞かれた。


「持っていません。」

「ちょ、死にに行くようなもんだよ! 悪いこと言わないから、果物ナイフでも何でも、刃物を用意してから出かけるんだよ? ここいらの魔物は弱いのが多いけど、それでも死人が出るからね。」

「はーい。」


 柳さんが、眠そうに返事をしていた。

 橘さんは、ステータスパネルと睨めっこしていた。


「おおきくなってない。」


 いや、そんなに頻繁に確認しなくても。


 実は、このパネルには、体重とか、いろいろなデータを表示する隠し機能がついている。

 普通は、表示されないのだけれども。

 職業安定署のエロい神官が、橘さんにだけ教えてくれたらしい。


 とある情報と引き換えに。

 その情報は、単純に数字3つだけ。

 安い取引なのか、高い取引なのかは、微妙だった。



<異世界召喚後23日目朝>

場所:サッシー王国王都

視点:かつら


 こんな生活を1週間ほど続けた。

 小金が溜まった。

 そして、ちょくちょくモンスターと戦闘したので、レベルも上がって、強くなった。

 勇者らしく。


 みんなで一緒に経験値を得ているので、レベル差は出ないと思っていた。

 職業ごとにレベルアップに必要な経験値が違うようで、3人のレベルはばらばらだった。


 桂  Lv5

 橘  Lv6

 柳  Lv7


 主に戦闘で活躍しているのは、柳さん。

 最初は果物ナイフで戦っていた。

 調理師だから、調理道具を装備すると、普通の人よりも、ちょっと強くなるらしい。

 今は、なぜか「牛刀」になっていた。

 正直怖い。


 橘さんも、攻撃したり回復したりしている。

 そういう役回りだった。

 橘さんは、なんかよくわからない杖を、闇市で買った。

 犬に強請られて、買った。

 結構、強い杖だった。


 昨日、橘さんのレベルが6になったので、新しく「ソロテイム」という魔法を習得した。

 さっそく、あの時拾った犬「ダイブ」に使った。

 これで、ダイブも、もしかすると戦闘で使えるようになるかもしれない。


 昨日は、そのダイブのステータスが、橘さんのステータスパネルで確認できるようになって、一悶着あった。


「え? 意味がわからないんだけど。」

「だから、この子、ダイブ。犬じゃ無かった。」

「でも、犬使いは、犬しかテイムできないって書いてあったじゃない。」

「うん。『ホーリーウルフ』って書いてある。」

「狼? 犬判定されたの?」

「あと、Lv8もある。」

「なぜなのか?」

「魔法も、結構使える。3つ。『ホーリーライト』と『ホーリーヒール』と『ホーリーウォーター』」

「なにそれ? このパーティーで一番強いんじゃ。」

「ライトは、照明魔法みたい。ヒールは回復魔法、ウォーターは、攻撃魔法だって。」

「万能!」

「でも、まだ小さいから、MPが少なくて。あまりたくさん使えない。」

「そういうもんだと思ったよ。」


 という、やりとりがあった。

 1週間で、ダイブは、結構大きくなった。

 大きな猫と同じくらいの大きさにはなった。

 物理攻撃で戦うのは、まだ、やめたほうがいいくらいの大きさだ。


 あと、忘れないうちに。

 立派なオスだった。


 今日は旅立ちの日。

 昨日、溜まったお金で、地図を買った。

 そしたら、乗船券を使える港がどこにあるのか判明した。

 王都から、南へ1日か2日歩いたところにある、港町ヨスカコスカ。


 その町にも冒険者ギルドがあるとのことなので、今日1日で、そこまでたどり着くようにしつつ、クエストもこなすという、ハードワークを自らに課した。


 街道を歩いてなんかするだけの簡単なお仕事なのだけれども、街道には人がいる。

 そして、女3人の歩き旅だと、男が寄ってくる。

 声をかけたり、拉致しようとしたり、無理やり関係を迫ろうとしてきたり。

 その度に、柳さんの牛刀が火を吹いていた。


 イメージ的に。


 

 夕方を少し過ぎたあたりで、港町ヨスカコスカに無事到着した。

 いろいろな男に声をかけられたが、貞操をなんとか守り切ることができた。

 たくさんのモンスターと戦ったけど、一番怖いのは人間だってよくわかった。

 今後は、もっと強くなって、そんなのに惑わされないようになりたい。


 冒険者ギルドに顔を出すと、王都のギルドよりも大きくて立派だった。

 でも、宿代とか食事代は一緒。

 共通なのかどうかはわからない。

 クエスト報酬をもらって、宿代を払うと、食堂で夕食を食べ、寝た。


 塩の香りのする、素敵な町だった。 


 

<異世界召喚後23日目朝>

場所:サッシー王国港町ヨスカコスカ

視点:かつら


 単純に、船に乗ってもダメだと気がついた。


 朝早くに、港で船についての話を聞いていた。

 話はこうだ。


「この乗船券は、使えるんでしょうか?」

「ん? あ、ああ。国王の紹介状か。これなら、西国行きのサッシー王国船籍の船なら、どの船でも乗り放題だ。それ以外はダメだな。」

「西国までは、どのくらいの日数がかかるのですか?」

「おう、今の季節なら、北風をうまく捕まえれば、最速で10日ってとこだな。船によっちゃ、20日以上かかるのもいるがな。」

「その間の食事とかは?」

「もちろん、自分で用意するんだ。あ、ああ。割高になるが、注文しておけば、質素な食事を船で出してもらうこともできるぜ? パンいっぱい買って、持ち込んだ方が圧倒的にお得だがな。」

「生活費は、船上で、どのくらいかかるのでしょうか?」

「何もしなきゃ、食事代だけだな。お酒とか炭酸水だけは、飲水としてしっかり持って行けよ? ただの水なら、必ず沸かしてから飲めよ。死ぬからな。」


 つまり、お金をある程度稼がないと、船に乗っても生きて辿り着けない。

 だからまた、この港町でも、お金を稼ぐことになった。



<異世界召喚後30日目朝>

場所:サッシー王国港町ヨスカコスカ

視点:かつら


 一週間、港町ヨスカコスカでクエストをこなし続けた。

 討伐クエストも受けられるようになって、結構楽勝だった。

 ダイブが、思いのほか活躍したからだ。

 一週間で、成犬と同じくらいの大きさになった。


 あと、暇を見つけては、魔物を狩りとってきて、橘さんに見せに来る。

 褒めてあげると、また狩りとってくる。

 クエスト中の食事は、大体その魔物肉だった。


 私だけ、パンだけどね。


 討伐クエストが順調だったので、いい感じにレベルアップした。

 あと、柳さんの牛刀がダメになったので、新しい、きちんとした牛刀を購入した。

 橘さんの、よくわからない怪しい杖は、1週間で、ちょっと禍々しく成長した。

 訳がわからない。


 私だけ、役に立てていないような気がする。

 不殺生の戒律を守りながら、はたして、この世界を救うことは叶うのか。

 現実を受け止めるときは、そう遠くないと感じていた。

ブックマークありがとうございました。

今回は、委員長パーティーが、異世界デビューするにあたっての、初期レベル上げのお話でした。

小さなマスコットキャラクター「ダイブ」も仲間に加わり、ちょうど、乗ってきたところですね。

さて、これに続くお話は、もう少し辛めのお話。

乗船券、ほんとに有効活用できるのかどうか。

それでは、がんばれれば、明日も。

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