第113節 生きようとする生命にとりかこまれてしまった
みんながみんな、生きることに一生懸命で。
死にたくないという思いで何とかしようとします。
他者から見るとそれが愚かに映ったり、卑怯に映ったりするかもしれません。
でも、最終的には生き残ったものが勝ちです。
生き残ったものが正義です。
今日はそんなお話、だったような気がします。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後48日目夕方>
場所:ヨーコー嬢王国レーベン領ソーン砦
視点:野中
新しくスキルで召喚した車掌の精霊パンドラ(Lv0)。
功を焦ってか、無謀にも王国軍のヘイトを稼いで囮となっていた。
例の宗教施設に一直線だ。
戦いの素人が、戦いの玄人たる王国の兵士たちをいい感じに挑発しつつ、誘い込んでいる。
というよりも、砦の前にいた全員をきっちり惹きつけている。
ああ、これがコンダクターか。
違う意味じゃんかよう。
恩寵が関わると、こういう意地悪な能力になるんだよな。
もうこれ、ハーメルンの笛吹男だよ。
女の子の精霊なのにな。
しかも兵士は大人なのにみんな、ついて行っちゃったよ、もう。
もしかするとパンドラは、びっくりするくらい有能なんじゃ?
それから1時間が経過して、日が暮れた。
まだ太陽の光が微かに残る明るさの中で、王国軍は全て、例の宗教施設を取り囲んでいた。
パンドラとマインウルフたちは、なぜか宗教施設より手前側にいる。
王国軍の兵士たちは、パンドラたちが宗教施設の中に入り込んでいるものと思っているような動きをしているが。
意味がわからない。
どんな小狡い手を使ったらそうなるのか。
そもそも、追いかけている相手を、遮蔽物のない場所で見失うとかない。
黄昏時、逢魔が時とはいわれるが、なぜ、そこで位置が入れ替わるのか。
このタイミングで、南にあるグレイトフィールの町から、一集団近づいてくる。
先頭は、というよりも、ほとんどがマインウルフ。
そして、それに囲まれるように100人程度の人間。
なぜか、救助できたものと想定していた猿渡たち勇者の姿が見えない。
マインウルフ軍団は、予定通りの仕事をしてくれたようだ。
心配することもなく、砦に入れようとして、マインウルフたちが止まる。
「どうした? 砦に入らないのか?」
「社長! 猿渡の旦那が! 爆殺される!」
「は?」
「このままじゃ、猿渡の旦那たちが、爆発する!」
こいつら、何を言っているんだ?
一体、何を言わんとしているのかわからない。
と、言うよりも、この集団には猿渡の仲間もいない。
どういうことなのか。
「とりあえず、王国軍が来る前に、町の人たちに砦の中に入ってもらってくれ。」
「か、かしこまり!」
どこで覚えたのかわからない、適当な敬礼をするマインエルフ。
流れるように、砦の入り口へ、町の住民たちを誘導していた。
公爵領へ避難していたとはいえ、よくぞ生き残っていたものだと、感心する。
正確には生き残っていたわけではなく、森の中とかに逃げ隠れていたのだろうけれども。
「連れてきた人数は、何人だ?」
「全部で97人です、社長。」
「とりあえず、飯、食わしてやってくれ。もうじき、僕たちも夕ご飯だし。」
「わかりました。厨司の大岩井司令官はきておられますか?」
なんだと?
いつのまに、大岩井は司令官になったんだ?
ああ、マインウルフたち的には、司令官なのか。
まあいい。
「来ていないな。ウーバン村だが、何か?」
「マインエルフは、魔族の呪いのせいでみんな女の子ですけど、元々はみんなおっさんなんですよ。料理とかできないんですけど。」
「これだけいるんだ。できるのはいないのか?」
マインウルフ200匹あまりが目の前にいるが、皆一様に目を逸らす。
しかし、お腹が空いているのか、よだれが垂れてしまっている。
わかりやすい。
わかりやすすぎる。
「おい、お前ら。いくら何でもそれはないだろう。独身のやつもいるんだろ?」
「ウーバン村には、飯のうまいよろず屋があるもんで。」
「なあ。毎日かよっているからな。」
「そうだそうだ! よろず屋の飯が一番だ!」
いやいや。
この集団の中には、密かにウーバン村の村民じゃないのも混ざっているから。
あれだ、ゴールドコソナ民もいるから。
そう簡単に騙されないぞ?
「お前ら、美味しいご飯が食べたいだけだろ。ほんとは作れるんだよな?」
「そんなことはないぞ? 我々は、大岩井司令官謹製の夕食を要求する!!!」
「司令官サイコー!!!」
「金は払うから、司令官のご飯を食べさせてくれ!」
おい。
どさくさに紛れて、避難民まで大岩井さんのご飯を要求してきているぞ。
よくわからないけど、ノリで合わせるのはやめていただきたい。
ほら、マインウルフたちが調子に乗るだろ?
「何人かは手伝えよな?」
「……。」
「……。」
絶対に目を合わせないマインウルフたち。
いや、マインウルフには流石にご飯を作れとか言わないから心配するなし。
そして、マインエルフに変身していた者たちは、急いでマインウルフに戻った。
そして、一緒に視線をそらす。
なんでそんなにご飯を作るのいやがるんだよ。
確かに、大岩井さんのご飯はおいしいけれども。
あれか、大岩井さんレベルに達しない飯を作るとディスられるからか?
それなら、僕らはいつもディスられてるだろ?
「じゃあ、パンドラが作りましょうか?」
ここで、思わぬ援軍がきた。
女神様みたいに感じた。
いや、あの女神とは違うからな?
「いいのか? というか、できるのか?」
よくよく考えたら、召喚したばかりで、パンドラが食事を作っているところを見たことがない。
そもそも、精霊は、食事を食べる必要性は薄い。
だから、そんなに味にこだわらないはず。
ゆえに、料理はあまり得意ではないことが多いのだ。
「車掌は、何でもできるのです。」
「マジか。」
「本当ですよ? 信じていませんね?」
「いや、その謎理論にビビっているんだけどな?」
パンドラはそう言うと、砦の「上」で、レインから鍋を借りて肉を出してもらった。
即席のかまどをしつらえると、パンドラの料理が始まった。
料理していることさえ知らなければ、ちょっと遠くから見ると、狼煙に見えなくもない。
というか、城壁の上で、料理とか正気か?
テキパキとレインから、いろいろな食材をもらって、鍋に放り込んでいく。
料理の進行に従って、鍋からは、お腹をすかせるいいにおいが漂い始める。
そしてその匂いは、なぜか、例の宗教施設の瓦礫の山を守っている集団にも届き始める。
これって、あれだ、ハラスメント攻撃だ。
パンドラは、あれだな。
ハラスメント攻撃大好きだな。
きっと今頃、あの王国軍は、お腹を空かせているに違いない。
ヘイトが、さらに稼げていることだけは間違いない。
「あ、あと、マスター。あの瓦礫の山に、自称女神がいました。頭がおかしい人っぽかったので、放置してきました。なんか、王国軍が、平伏していましたけれども、おかしくなったんでしょうか?」
あ。
忘れていた。
あそこ、そうだったよな。
女神がいる可能性があったんだよな。
そういう宗教施設だし。
「ま、まあ、いいんじゃないか? 信仰は人それぞれだしな。」
「ならいいです。」
そこで、忘れないうちに、マインウルフに確認をとっておいた。
「あと、町に行ったマインウルフで、猿渡っていう僕の仲間を見たのはいないか?」
「いました。でも、魔王軍と戦わなくちゃいけないって街に残りました。」
「なぜ?」
いや、洗脳でもされていない限り、そんなことはないだろう。
もっとも、仲間の女子を人質にされているのかもしれないが。
「呪いの装備を付けられていました。あれです。呪詛爆弾です。首に巻かれたチョーカーに、呪詛で発動する爆弾がついていました。ちなみに、呪詛は、町から出ないことでした。」
「つまり、町から一歩でも出ると首が吹っ飛ぶと。」
「そうです。」
髭親父危機一髪かよ!
あいつは、能力はとんでもなく高いくせに、運だけは悪いからな。
これまで、何度も死にそうな目に遭っているんだよ。
けれども、そのとんでもなく高い能力を駆使して乗り切ってきた経緯があるからな。
まあ、王国軍としても、魔王軍とは戦いたくないだろうしな。
けれど、魔王軍を何とかしないと自分たちの命も危ない。
なら、魔王軍は、勇者に戦わせればいいじゃん。と。
でも、勇者だって、そんなわがままに付き合うかといえばそんなことはない。
だったら強制的にそうせざるを得なくさせればいいと。
そんな考えの結果じゃないだろうか。
「ちなみにレイン先生。その、呪詛爆弾とかって、解除可能でしょうか。」
「お任せなのですよ。相手が呪詛なら、呪詛ごと破壊するのです。」
「ちなみに、呪詛を破壊されても爆発する仕様なんだそうです。」
「なんですと!」
まじかよ。
なんてことだ。
「レイン先生。呪詛、破壊しなくてよかったですね。」
「ん。呪詛をかけた術者を消せばいい。呪詛が効果をなくす。」
「ですから、呪詛がなくなったら爆発すると。」
「む。爆弾を抜く?」
「チョーカーを攻撃すると作動するそうです。」
八方塞がりだなおい。
というか、それって、おかしいんじゃないか?
例えば、術者が先に死んだら、魔王軍を足止めできなくなる。
まあ、術者が死なないようにしているか、そもそも全然違う場所にいるか。
あと、呪詛が町から出た判定をしたら、爆発するのなら、戦いは、町の中ということになる。
でも、町が破壊されたら、どうやって判定するのか。
そう考えていくと、この話は眉唾だと思えてきた。
そもそも、その効果は本当なのかどうかも怪しい。
「レイン。あれだ。現地で、呪詛と発動条件と、チョーカーの仕組みを解析だ。おそらく、ブラフが大量に混じっているはずだ。なぜなら、そんなにきつい条件じゃ、魔王軍を止められないからな。」
「そうなのです。確かに何かおかしいのです。マスターも一緒に来るのですよ?」
「もちろん。」
こうして、僕と精霊軍団の合計5人とユリが町へと向かった。
北側から街に入ったところ、猿渡たちをすぐに発見できた。
南側の門で、仁王立ちをしている猿渡。
そして、その周りに取り巻く、仲間の女子3人。
「よう、猿渡。呪われてるか?」
「そんな軽く言うなよ。この呪い、首が物理的に飛ぶんだぜ?」
「そこで、本当にそうなのか、解析してくれる先生をお招きした。レイン先生だ。」
「ノナカの奥さんのレインなのです。末長く、仲良くして欲しいのですよ?」
ちょ。
おま。
言うに事欠いてなにぶっこんでんだよ。
さらっと嘘言うなし。
「そうか。異世界生活も、もう、2ヶ月近いからな。結婚することもあるよな。」
「ねーよ!!!」
遠い目をしている猿渡に、激しく突っ込んだ。
そして、レイン先生が追撃をかけてきた。
「いつも、こう言って照れるのですよ? もうそろそろ慣れて欲しいのです。」
「だから、平気で重大な影響のある嘘をつくなし!」
「もう。恥ずかしがっても現実は変わらないのですよ? それでは、解析するのです。」
そして、レインは、両手の親指と人差し指で長方形のファインダーを作ると、魔法を唱えて、解析を始めた。
「アイテム名『爆殺のチョーカー』。効果『対象を任意の条件により爆殺する』。」
「呪いは?」
「かかっていないのですよ? あと少し待つのです。」
「指定条件『町から出ないこと』。解除条件『術者の解除詠唱』。」
マインエルフの言った通り、というか、猿渡の聞いた通りじゃないか?
八方塞がりだな。
だが、レイン先生は余裕の笑顔だった。
「何とかなるのですよ?」
「なんだと? どういうことだ?」
「このアイテムは、そもそも呪われてはいないのです。だから、呪いを破壊することができないのです。あと、確かにチョーカーを壊そうとすると、爆発するのです。でも、外れると爆発する設定にはなっていないのですよ?」
つまりあれか。
壊さずに外せばいいと。
いや、一休さんじゃないんだぞ?
このはしわたるべからず、じゃ、ないからな?
「伸びたりするのか? ゴムみたいに。」
「シルクっぽいのです。無理くさいのですよ。」
「どうするんだよ。無理じゃん。」
「レインにお任せなのです。」
そうしてレインは、猿渡の首についている赤色の可愛らしいチョーカーを触ると。
「空間魔法で収納するのです!」
そして、猿渡の首からは、チョーカーがあっさりと消えた。
「え?」
「あ?」
「おい!」
それは、かなりチートなんじゃないのか?
「空間魔法が効かないようにしなかったのが悪いのですよ? 王国とかの手錠とかには、アイテムボックス不可とか、そういう付加効果が付いているのです。杜撰なのですよ。仕掛けたのは、きっと、こう言うことに慣れていない素人なのですよ。」
「いや、レインがいなかったら、解決しないし。正攻法じゃ、無理だろ。」
ちょっと泣きそうになっている猿渡が、僕の肩に手を乗せる。
「野中。いいから、それよりもレイン先生、ありがとうございました。」
「よいのです。よいのです。困った時はお互い様なのですよ?」
「すみませんが、もしよろしければ、僕のパーティーの3人も。」
「お任せなのです!」
こうして、爆殺のチョーカーは爆発することなく、収納されてしまった。
もう、詰んだかと思ったよ。
「すまないな、助けに来るのが遅くなって。」
「ああ。あと少しで殺されてしまうところだった。だが、間に合った。」
「魔王軍が、こちらに攻め込んできているらしい。予定では、あと1日くらいしか余裕はないそうだ。」
「ああ。王国軍の、というか、公爵領の兵士たちもそんなことを言っていた。魔王軍を僕たちと、君たちに押し付ける算段だったそうだ。」
やっぱりか。
どこまでも小狡いな。
まあ、魔王軍と戦って勝てないとわかっているのなら、確かに将としての判断に間違いはない。
だが、魔王軍をあてがわれる方が、そうわかっていても納得するかといえばNoだ。
「あいつら、絶対に魔王軍と戦わせてやる!」
「いや、あー、気合い入っているなー。」
こうして、この日の夜は仲間とともに更けて行くのであった。
読者の皆さんに楽しんでもらいたい、おもしろいと思ってもらいたい。
そういう、我欲の出た文章は、ちょっとあざとくて、自分で読み返してもくどい感じがします。
もっとサラッと自然に、気分のアガる文章が書けるようになりたいものです。
まだまだ、修行不足ですね。
時間が足りない時は、文章も単調になりがち。
きちんと時間を確保して、いい文章にしていきたいです。
それでは、しっかりと時間を確保できていれば、明日も12時から13時くらいに。
訂正履歴
愛でを → 相手を
達しない飯 → 達ない飯 ※ 以上2件、誤字報告ありがとうございました。