表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/224

第38話 生死を分ける異変察知能力

偉い人の言うことに振り回されるのは、サラリーマンのつらいところです。

思いつきとか最悪です。

本来なら、そういう独創性のある企画立案は、歓迎されるべきところですが、実際に役に立つのかと言われれば、疑問符しか出てきません。

今回はそう言うお話です。

それでは、どうぞ。

<異世界召喚後31日目午前中>

場所:サッシー王国ナース伯爵領ヤキウチ湖

視点:神佐味かむさび


 砂湯。

 温かい。

 冬なのに、火を焚かなくてもいい。

 結構な汗をかいて、体の中の毒素が抜けていくのを感じる。


 これこそが、この湖が湯治場とされている理由でもあった。

 この近辺は火山地帯なので、どこを掘っても温泉が湧き出すのだ。

 寒い冬なのだが、雪が積もっていないのは地熱のため。


 砂浜に寝転がってもよし。

 掘って温泉にしてもよし。


 なんなら、湖で泳いで体を冷やして、温泉で体を温めてとサウナ的に使ってもよし。

 とにかく湯治場として優れていた。

 しかも、地下から魔法の力的な何かが一緒に漏れてきているため、高い治癒効果まである。


 不寝番をしていたので、私はちょっと寝不足気味だ。

 重光たちが病み上がりで、すぐにの移動は堪えるだろうと、サイモンが配慮した。

 明日の昼まではここにいるとサイモンが言うので、自分も砂風呂に入っていた。


 洞川が砂をかけてくれたのだが、身動きが取れない。

 高野が煩悩退散とか言いながら、砂で巨乳をアートするのはやめてほしい。

 下の方も大きくアートするのは、もっとやめてほしい。


 顔の上に、重光さんが来た。

 パンツ見えるから、その位置はやめて欲しいのだが。

 砂の中で、砂アートと同じことがおこってしまうのから。

 重光さん相手にそうなってしまう男のサガがくやしい。


 でも、そうなっちゃう。


「いま、動けませんの?」


 しかも、声をかけてきやがった。

 待て、何をするつもりだ?


「そ、そんなことはない。その気になれば動ける、はず。」

「そうですの。あの、助けてくださってありがとうございます。命拾いしたと、女子二人から説明を受けました。危なく死ぬところでしたのね。あの二人も、感謝していましたよ?」


 珍しくしおらしい重光さんだった。

 やはり、病気になって、心細かったのだろう。

 これだけ近くにいっぱいの人がいたのにだ。


「いいんだ。私の技能スキルの効果も、実際に確認することができた。おあいこだ。」

「そ、そんなこと、あ、ええ、そうですのね。おあいこ、ですのね。」


 何か、気が変わったらしい。

 女子二人のいる、湖の方に歩き去っていった。

 何だったのだろうか?


 まあ、実害がなければ、それでいい。



「あら坊や。こんなところに埋められて、巨乳にされちゃったの?」


 重光さんから声をかけられて1時間後くらいだろうか。

 いまだ砂風呂中の私に、若い女の人たちが声をかけてきた。


「こんにちは。寝たままですみません。どちらから?」


 明らかに冒険者の装備をしていた。

 荷物も、冒険者向けのものばかり。

 明らかに冒険者だった。


「帝国。ウーオ帝国から国境を抜けてきたの。今、帝国は大変で。」

「今から、その帝国に行く予定なんだが。何が大変なんだ?」


 冒険者の女子5人組は、顔を見合わせて、可哀想な人を見る目で言ってきた。


「絶対に帝国に行ってはダメ。殺されてしまうから。」

「おねーさんたち、強そうだけどダメなの?」

「おねーさんたちはね、強いから、逃げてこられたの。強くない人たちは、みんな殺されちゃったと思う。」

「そうそう。でも、ひどいとか思わないで欲しいの。私たちだって、自分の身を守るのでギリギリだったし。一つ間違えば、私たちも死んでいたし。」


 帝国では、何かが起こっているようだった。

 そして、避難してきたであろう5人組は、私たちからすれば、重要な情報源だった。


「そのあたり、詳しく!」

「じゃあ、その前に、砂風呂掘るの手伝ってくれるかしら。」

「それくらいなら、よろこんで。」


 砂アートの巨乳とアレをどかしてもらうと、5人分の砂風呂製作を手伝った。

 そして、裸になった彼女たちに上から砂をかけていく。

 というか、かける前にある程度自分たちの手足で砂をかけていたのでエロ要素はなかった。

 かなり期待していたのだが。


「それじゃあ、どの辺りから話そうか。」

「どうして、殺されるようになったのかについて詳しく。」

「分からないの。ただ、分かっていることは、去年あたりから、帝国の中に魔族とか魔物が大量発生してきたってこと。」

「じゃあ、殺して回っているのは魔族たち魔王軍なんだね?」

「それが違うの。殺して回っているのは人間。しかも帝国の兵士たち。」


 どうしよう。

 この段階で、すでに帝国行きを辞めたくなってきた。

 国境を越えたらすぐに惨殺されるとか悪夢でしかない。


「国は、何もしてくれないの? 領主様は?」

「まちまち。国が人殺しを止めてくれる時と、国の兵士が率先して殺して回っている時と。領主様のところもそう。何がしたいんだか分からない。」

「そうそう、何がしたいんだか分からないのは、皇帝陛下。なんか、サッシー王国に宣戦布告するつもりみたい。戦争ふっかけるつもりらしいよ?」

「そしたら、ここも戦場になるんじゃ。」

「そそ。だから、その前に堪能しにきたの。終わったら、南下して、さらに隣の国に逃げるから。」


 つまり、魔王軍が侵攻してきて、国が辛い。

 末端の兵士たちがおかしくなっている。

 国を動かすのにもお金がいるので、手近なサッシー王国を潰してお金にしたい。

 と、いったところだろうか。


 砂風呂に入っている場合じゃねー!!!



<異世界召喚後32日目午前中>

場所:サッシー王国ナース伯爵領ヤキウチ湖

視点:神佐味かむさび


 翌日、湯治で回復したパーティー一行は、直路、国境の関所へ向かうのであった。


 国境付近の町や村には立ち寄らず、直接国境の関所を目指した。

 国境の関所には、長蛇の列ができていた。

 商業が盛んな街道なので、いつもこれくらい普通に並ぶらしい。


 しかし、状況確認がしたかったので、並ぶことなく、帝国側の待ち状況の確認をしてみた。


 こちら側の10倍以上、帝国側に人が並んでいる。

 やはり、あのおねーさんたちの言っていたことはほんとうだったのだろう。

 ほとんど難民状態で、こちらの国に入ることを目的とした長蛇の列ができていた。


 しかし、解せない。

 情報の非対称性というべきか、そんなに危険なら、行列を作ってまで帝国入りしたいというこの人たちは何なのだろうと言う疑問があった。

 考えられるのは、僕たち同様、情報がなかったのでいつものノリで、帝国に商売に行こうとしているということ。

 もう一つは、今の帝国でも、ある意味商売が成り立つと言うこと。


 だから、直接聞いてみた。

 なにしろ、帝国側から難民が押し寄せてきているのを直近で見ているはずなのだ。

 なんなら、それ違うときにそれとなくききだしてもいいはず。

 情報がないとかいう説は、信憑性が低いだろう。


 でも、聞き取っていくと、知らなかったと言って列を脱する人たちも一定数いた。

 なんだか、声をかけて、列を外れさせている作業をしているように、他の人たちには写っているみたいだ。

 声をかけると、「譲りませんよ? ちゃんと並んでください!」とか言われるし。

 そうじゃないんですけど。


「埒があかん。兵士を問い詰めてやろう。なに、知り合いの一人や二人いるだろう。」


 ちょ、待って。

 あなた、皇帝ですから。

 自分の国の下っ端役人に、何を直接聞き出すつもりなの。

 逃げて! お役人さん!!!


「でだ、なぜ、こんな長蛇の列ができておるのだ?」

「あ? こっちは忙しいんだ。他を当たってくれよ?」


 かなり手際良く、持ち物の確認をしている、国境警備隊の隊員たち。


「ほうほう。そうかそうか。しかしな、そうもいかんのだよ。」


 鬼のような面相で、詰め寄る皇帝陛下。


「いつも、そういう感じなのか?」

「そうだよ。こっちは仕事してんだから、世間話なら他の旅人とかとしてくれ。頼むよ。」

「ワシは、お主に聞いておるんだが。」


 揉め事を察知して、奥の方から年配の兵士が出てきた。


「おい、どうした?」

「このじいさんが、なんか、話しかけてくるんすよ。仕事の邪魔してくるんすよ。」

「邪魔だったか。ひさしいな、トーマス。」

「え? あ!!! 皇帝陛下!!!」


 うっかり大声で叫んでしまった年配の兵士トーマス。

 そして知ることになる。

 自分が暴言を吐いて蔑ろにしていた相手が、自国の皇帝であることを。


「ふぇ、す、すみません、皇帝陛下!」

「平に、平にご容赦を!!!」

「よいよい。手を動かさんか。手伝おうか?」

「滅相もありません。おい、人数を増やせ!!!」

「はいぃぃっ!」


 ある意味、本当に仕事の邪魔をしている皇帝陛下。

 現場の勤務員は辛いよな。


「トーマス。来い。ちょっと状況を説明しろ。」


 さらに邪魔をする皇帝陛下。

 怒られるぞ、本気で。


「は、はいぃぃぃっ!」

「大丈夫だ。トーマスが相手をしてさえくれれば、全て不問にする。忙しいのが分からんわけでもない。」

「ありがたき、幸せ。」

「とにかく、どういうことなんだ。ちょっとサミットに行っている間に、クーデターでもあったと言うのか?」

「それが、皇帝陛下が帰ってこられてから、国が。」

「何を言っているんだ? おぬしが見ている通り、ワシはまだ、帰国できておらんのだが。」

「しかし、随分前に、帝都に皇帝陛下がお帰りになったと。」


 残念そうな顔をする皇帝陛下。


「我が配下の者たちは、歩いて行動する日数の計算も出来なんだか。あほの子か、まったく。それで、その偽物は、なにをやらかしたんだ?」

「はっ。それがその、まずは粛清を。皇帝陛下に逆らうものは悉く粛清されてしまいました。そして、知らない幹部が大量に登用されております。おそらく、王都の重鎮の半数以上が、皇帝陛下の知らない者達にすり替わっているものと。」

「ちなみに、古参のお主でも知らぬ相手なのか、その新顔たちは。」

「はっ。その通りで。」


 そこで、少し考える皇帝陛下。

 おかしいよな、確かに。

 そもそも、皇帝陛下の偽物が、本物だと言い切れているほど、そっくりなのかどうか。

 それとも、協力者が大量にいたのか。


 いや、それはないか。

 なにしろ、幹部の半数以上が粛清されているんだから。

 なら、結論は一つしかないだろう。


「魔族か? 魔族に乗っ取られたか。」

「おそらくは。しかし、皇帝陛下を名乗っている以上、臣下の者は、異論を挟めないようでして。」

「嘘つけ!!! おまえら下っ端に至るまで、常に異論を挟んでばっかりだったろうが、この国は。どれだけワシが悩まされていたと思っておるんじゃ!!!」


 あ、キレた。

 まあ、そうなりますよね。

 魔族にすり替わった途端、文句ぶーぶー言っていた部下が、そろってイエスマンになるとか。

 いや、そういうことか。


「やりやがったな。おそらく。」

「そうです。漏れ伝わった話では、帝都に戻られた皇帝陛下に、意見を具申した大臣3名が、見せしめに幹部一同の前で惨殺されたとか。もちろん箝口令が出されていますが、こんな話、広めるなと言う方が無理です。」

「誰だ? そのとき殺された大臣の名は、わかるのか?」

「はい。皇帝代行大臣のスーカ爺、外交大臣のアーマ爺、そして、魔法大臣のドロシーばあさんです。」


 沈痛な面持ちの皇帝陛下。

 かなりの痛手だったのだろう。


「ワシも、常々邪魔だとは思っておったが、流石に殺してまで排除しようとは思っておらなんだ。仕事はできる奴らだからな。ただ、あいつらはプロ意識が高すぎて、ワシと意見対立しすぎるのだよ。そうか、あいつら、逝ったか。」

「いかがいたしましょう。本物が帰還しましたと、帝都に報告をあげましょうか?」

「いらんいらん。生き残っている奴らは全員知っておるのだろう? そやつが偽物であることを。情報をくれてやる必要なないだろう。こっちから乗り込んで討伐してくれるわ!!!」


 年甲斐もなく燃え上がる皇帝陛下。


「ならば、私の聖騎士としての力が、必要となりますね。魔族を弾き出しましょう。」

「頼む。我が国には、真聖波を使えるものがおらんからな。」

「さっそく、この砦の中で、苦しんでいる魔族がいないかどうか調べましょう。」

「わかりました。おいお前ら! のたうち回っているのが魔族だ。確保して、尋問だ!!」


 先程、皇帝陛下に酷いことを言っていた、国境警備隊の隊員とその仲間達は、通関作業をしている最中だったのだろうが、サイモンの「真聖波」に耐えきれず、泡を吹いて倒れていた。

 皆一様に首をかきむしっている。


「どうした? 何があった?」


 サイモンが、帝国から脱出しようとしていた者たちに状況を確認した。


「それが、あなたが近づいていたとき、すでにちょっと苦しそうにしていましたが、戻ってきたら、すごく苦しみ出して、そして。」


 倒れていた、国境警備隊員たちは、事切れていた。

 それほど強い魔族ではなかったのだろう。

 まさか、真聖波だけで討伐できるほど弱い魔族たちだったなんて。


 残念なことに、サイモンがパッシブスキルで出していた真聖波を、アクティブスキルで威力アップしたところ、こんなことになってしまった。

 この砦の国境警備隊員の半数が灰となって、空へ溶けていったのだ。

 魔族が弾き出されて安心した反面、隊員たちの仕事は、いきなりキツくなった。

 待っている人間は長蛇の列。


 もう、絶望しそうになっている、その時。


 帝国側から、聞こえちゃいけない足音たちがたくさん。

 聞こえてきてしまった。


「見ろよ。この数は、無理だろ?」

「全然余裕だ。何をビビっておるんだ。おまえらそれでも男か?」


 雪で覆われた地平線から、漆黒のイノシシ軍団が、横一列なのかどうか、地平線を白から黒に染めて、接近してきていた。

 でも、国境警備隊の半分が魔族だったってことの方がびびったわ。

 何でみんな、まじめに仕事してんだよもう。

 偽物だって気づくのだいぶ遅れたじゃないか。


 こうして、僕たちの永遠に続くかと見えた長い長い戦闘が始まったのだった。

本文のお話です。

常識だと思っていたことが崩れ去る時。

当たり前だと思っていた部下に裏切られた時。

その人の真価が問われると言われます。

まさに今、コロナの時代がそれではないでしょうか。

ニューノーマルと横文字を使いたがる節がありますが、それによって生まれる産業と消えゆく産業。

その見極めが大切なんでしょうね。

それでは、筆者がニューノーマルから排除されてしまったりしなければ、明日の12時から13時くらいで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ