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女神様! 御自分で御与えになられた恩寵なのですから、嘲笑するのをやめては頂けませんか?  作者: 日雇い魔法事務局
第1.5章 それぞれの立場と面子と行き違い
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第1話 されないはずの異世界召喚はこうして実施された

主人公からすると敵側のような存在のサッシー王国の国王視点のお話です。

普通のラノベなら、ここで国王がひどい目にあってザマァするところですが、この話はちょっと違います。

推理小説ほど伏線もありませんが、国王はなぜ、勇者を召喚しなければならなかったのか。

今回は、そういうちょっと大人向けなお話です。(エロい訳ではないですので期待しないように。)

「伝令! 伝令!」


 本来ならばきらびやかな騎士の装備を装着していたであろう、ズタボロになった屈強な男が一名、大声を上げながら城門の前に駆け込んできた。


「開門っ! 開門!」


 年配の守門の兵士はその騎士の姿を見て、即座に城門の開扉を指示した。

 城の正門を守護する兵士は、城内へ入る騎士や兵士、貴族だけでなく商人や周辺住人の顔まで覚えているプロパーである。

 本来ならば通行証や割符と言った証明用の書類や騎士の証を見せないと城門は開扉されないが、長年勤めているこの古参の兵士が確認せずに入門させても、それを諫めるような者は城内にはいなかった。


 今回は、これが功を奏した。


 騎士は通常、伝令などしない。

 下級の兵士の仕事だ。

 もし、するとしても、騎馬に乗ってのスピードを重視した仕事の場合だ。


 ならばなぜ、この騎士は装備もボロボロのまま、馬にも乗らず、自らの足で走ってきたのだろうか。

 しかもこの騎士、実のところ王国第三騎士団の第一中隊長である。

 実質、第三騎士団では団長に次ぐ、ナンバーツーである。


 第三騎士団は、主に国境警備を任務とし、場合によっては越境しての偵察任務もこなす。


 そんな任務付与をされている第三騎士団の中隊長がボロボロで「伝令!」と叫んで走って来たのだ。

 ただ事でないことは、ここまでの情報があれば、ご理解いただけるだろう。


 正門を騎士が通り抜けた後には、点々と血の跡が残っていった。

 通常なら、顔をしかめるところであるが、おそらく今はそんなことを言っている状況ではない。

 守門の兵士は、若手の同僚に指示して、門内の馬でその騎士を運ばせた。


 馬の振動は、傷を負った者にとってはきつい。

 塞がった傷が開くだけでなく、場合によっては傷が広がる。


 それを知っていても、古参の兵士は若手の兵士に馬で送らせた。

 もう、長くもつまい。

 そういう判断があった。


 おそらく中隊長は、この国にとって重大な情報を命がけで持って来た。

 中隊長の任地は、北の国境であったはずだ。

 このところ、きな臭い話や大魔王の復活、そして、海を越えてさらに北のノルトシー王国陥落の知らせが入って来ていた。


 ならば、それらに関連した報告と考えるべきだろう。


 古参の兵士の指示により、門内の中堅の兵士は、可及の鐘を鳴らしていた。

 心を不安にさせるようなリズムで鳴らすそれを、朕は謁見の間から見て聞いていた。



 中隊長を馬の後ろに乗せた兵士は、馬に乗ったまま、謁見の間まで入り込んで来た。

 本来なら打ち首ものである。

 若い兵士は、馬を器用に操って、低くなっている出入り口や扉を掻い潜ってここまでやって来たのだろう。

 中隊長を引き摺り下ろすように、器用に馬から下ろした。


「国王陛下、可及的速やかに戦争の準備を! 北から攻めて来ます。」


 理由を言う前に、中隊長は緊急事態であることを伝えて来た。


 今、手元にある情報では、我がサッシー王国の北にあるウーオ帝国は、海を挟んで隣接しているノルトシー王国を占領した魔王軍へ対処するために忙しく、こちらにかまっている余裕はないはずであった。

 何なら、今が攻め時ですらある。


 最も、海を隔てているとはいえ魔王軍と隣接して、消耗することは避けたい。

 それを考えれば、攻め入る価値はほとんどない。

 むしろ、支援してでも魔王軍の防波堤として機能して欲しいと言うのが本音だ。


 さらに手元には、中隊長の言を否定するカードがまだ何枚かあった。

 朕の兄である宰相のワオンが、北西の隣国「ノルトランド王国」において、大魔王対策会議を開いているところだ。

 この会議には、北の隣国ウーオ帝国の皇帝が自ら出席している。


 つまり、皇帝抜きでの出兵があったと言うことになる。


 考えられる危機は2つ。


 1つは、ウーオ帝国が魔王軍によって陥落させられたこと。

 もう1つは、ウーオ帝国内の内乱。


 どちらにしても良い知らせではない。


「宮廷魔術師団長を呼べ。サイモン中隊長を何とか回復させよ。」


 朕の目から見ても、中隊長は瀕死であった。

 失血が激しいのはもちろんだが、背中に何本かの矢のようなものが刺さっている。


 しかし、それは、ウーオ帝国や我がサッシー王国内で流通している矢とは明らかに異なる。


 おそらく、悪い予感として、魔王軍に陥落した、と言う読みが正しいのではないだろうか。



「国王陛下! ウーオ帝国の皇帝が魔王軍の手の者にすり替わっておりました!」



 予想の斜め上の報告であった。


「何だと! 貴様、なぜそれが分かった?」


「ウーオ帝国の皇帝とは戦場で何度か直接やり合った旧知の仲であり、国境警備中に、帝国側からの要請で、帝国内へ赴き、謁見して参りました。」

「しかし、皇帝は今、ノルトランド王国で会議中のはず。わが兄も宰相として、出席している。貴様が会えるはずがない。」

「はい。存じ上げております! そこで、私めを誘き出す罠と判断しましたが、決死の覚悟で謁見すると、『会議は思いの外早く終わった』と申し立てており、会議から早めに帰って来たことをアピールしていました。」


「して、貴様はなぜ、其奴を偽物と看破した?」


「我が『真聖波』により、皇帝陛下がダメージを受けたからです。」


 この中隊長は、我が国でも貴重な「聖騎士」であった。

 中隊長の言う「真聖波」と言うのは、大雑把に言えば聖騎士として、神聖なオーラを周囲に展開して、自分の能力にバフをかけるとともに、自分を害する相手にデバフをかけるスキルだ。

 説明の通り、通常ならダメージを受けることはない。

 攻撃しようとしたときに、デバフがかかるだけだ。


 しかし、これには例外がある。



 魔族だ。



 神聖なオーラは、魔族にとって、我々で言う「瘴気」に近いものだ。

 触れるだけでダメージを受けてしまう。

 能力の低い魔族や魔物であれば、消滅することもあり得る。


 つまり、通常なら問題ないはずの防護スキルで、あろうことが皇帝がダメージを受けた。


 これには中隊長もびっくりしたことだろう。


 もちろん、中隊長の「真聖波」について知っている者なら、その場にいたウーオ帝国の重鎮たちにおいても、皇帝が偽物であると看破できただろう。


「そこで偽物に、『セイクリッドジャベリン』を放って、ここまで逃げて来ましたっ。ゴフッ」


 そこまで言うと、倒れ込んだ。

 一緒にきた門の若い兵士が、倒れないように何とか支えたが、気を失ったようだ。

 宮廷魔導師団長が駆け込んで来て、回復魔法をかけるが、頭を振った。


「国王陛下。サイモン殿の傷は、呪いによって作られております。私めの回復魔法では、呪いに跳ね返されて、効果がありません。」

「呪いを解けるような者はおらんのか!」

「ここにおりますが」


 と、宮廷魔導師団長は、サイモン中隊長を指差した。


 なんてことだ。

 自分の傷が呪いの傷であると気がつかなかったのか。

 もしくは、わかっていたが、魔法が効かなかったか。

 おそらく後者であろう。


「何とか、誰でも良い、中隊長を助けられる者はおらんのか!」


 周りを見回したが、配下のものどもは、朕の視線を全員が逸らした。

 朕とて理解している。

 おそらく上位魔族による呪い。

 簡単に解けるものでもない。


「この一大事に、死ぬなど不敬にもほどがあるぞ! サイモン!」


 悔しかった。

 短い距離ではない。

 おそらく、無理をしながら追手をかわし続けて来たのだろう。

 何と言う忠誠心。

 命を賭しても偽物の皇帝について知らせなければと、敵地の中を突っ切って来たのだ。


 朕は上を向いた。

 皆のものには、天を仰いだように見えて欲しい。


 頬を涙が伝った。


 しかし、感情に流されてはいけない。

 朕はこの国と国民を守る王なのだ。


 サイモンが、ここまでくる間に、おそらく何度も魔族からの襲撃があったのだろう。

 たまたまサイモンが聖騎士であったため、相性の問題で何とかなったのだろう。


 しかし、だ。

 追手は、諦めただろうか。

 殺せたのだろうか。

 もし、サイモンが相手を殺し切れていなかったら、おそらくそう遠くないうちに、ここへもくるだろう。その追手となった魔族たちが。


「お困りのようね。」


 玉座の背後から声がした。

 女の声だ。

 しかも、憎々しいことに、極めて聞き覚えのある声であった。

 そして今、一番聞きたくない声でもあった。

 悪いことに、サイモンを救う手段を持っている唯一と言っていい者でもあった。


 女神だ。


 性悪女神だ。


 本来なら、サイモンが駆け込んで来たことも、何ならウーオ帝国の皇帝がすり替わっていたことも手に取るように知っていたはずの女神だ。


 奇跡の力で、サイモンを救うことができる女神だ。


 困っている。

 本当に困っている。

 でもそれは、サイモンのことじゃない。

 このタイミングで、女神が顕現したことだ。


「ねぇ、レオン。私に縋り付いてお願いすれば、サイモンは助かるわよ。今ならね。」


「何が望みだ? 女神様が単純に人助けがしたいと考えるほど、朕も若くはないのだぞ?」


「えー? 心外なんですけど。 女神様ですもの、慈悲の心を持って信徒を助ける。当たり前のことではないでしょうか。女神の御心を疑うのですか?」


 心にもないことを言う。

 もし、そう思うのなら、こちらに断ることなく助けているだろう。

 今、サイモンが死にかけているのがその証拠だ。


「要求を言え! 朕も少しは賢くなったのだ。女神様の考えが少しはわかるようになって来たのだ。要求があるのだろう? 何か必要なものを用意させたいのだろう?」


「ちっ! 賢しい王だ。 少しは国民のことも考えられるようになったと言うことね。 私のおかげで成長できたのです。これは僥倖ですよ。」


 女神は明らかに焦っている。

 サイモンを人質にすれば、すんなり言うことを聞くと思っていたようだ。

 しかも、おそらく国王クラスでなければ叶えられない望みがあるのだろう。

 最悪だ。


「要求は何だ?」


「勇者を。」


「何だと? 女神様とてご存知だろう? 今、そのための会合を開いているところだ。」


「勇者を全て、この国で召喚しなさい。 これは女神の神託。 あなたたちは遅かったのよ。 何もかもが。」


 兄のワオンが宰相として、大魔王対策のための会合に出席している。

 帝国の皇帝もだ。

 もちろん、近隣の首脳も参加している。

 勇者を召喚することについての調整をしているのだ。


 それを知りながら、その会合を蔑ろにして、独断で勇者を全て召喚する。

 明るみに出れば、近隣諸国からの反発は免れない。

 そうしないための会合であり調整である。


 女神はそれを無視しろと言うのだ。


 兄が帰って来たら、どやされるだろう。

 こき下ろされるだろう。

 覚悟を決めた。


 しかし、問題はそれだけではない。


 勇者を召喚するためには、当然、それ相応の儀式が必要だ。

 勇者の召喚は、女神の力を借りて行う。

 人の身には過ぎたる力だ。

 つまり、犠牲者が出る。


 しかも、その犠牲者は、死刑囚のような罪人を当てればいいと言うわけではない。

 なぜなら、犠牲者そのものが、自ら召喚の儀式を実施しなければならないのだ。

 そんな自殺行為をする者など、普通に考えればいないだろう。


 ところが、我が国には、その儀式要員が存在するのだ。


 女神様の言によると、その要員の必須条件は2つ。


 1つは、高位の神聖魔法が使えること。

 召喚の儀式は、そもそも高位の神聖魔法を複数人で実施するものだ。


 もう1つは、女神様の敬虔な信徒であること。

 犠牲を伴う儀式なのでこれは当たり前のことでもある。

 狂信とまで言わないが、それに近い信仰がないと命まで捧げられない。

 女神がいうには、信仰心の高さが、儀式の成否に関わってくるそうだ。


「わかった。 すぐには準備できない。 3日くれ。」


「えー? 2日。 できれば1日で準備して。 ワオンが帰ってくる前にして。」


 こいつ!


 宰相ワオンが帰って来たら、実施できなくなることを理解していやがる。

 なんて嫌なやつだ。

 朕なら丸め込めると踏んでの要求だ。


「2日だ。 宮廷魔術師団の団員にも、家族との別れの時間を与えてくれ。 補助要員の準備も必要になる。 拙速に実施すれば、おそらく失敗に終わる。 それでは意味がないのだろう?」


 女神は、朕をキッと睨むと、フッと目の前から消え去ったのだった。

単純にザマァできる話は、大好物です。

読んでいてスカッとします。

でも、現実で、いろいろな立場の人の話を聞くと、そんなスカッとするような話はなかなかないものです。

じゃあ、現実ではどうなの? というところが、今回の話のコンセプトであり、ネタ元でもあります。

会社勤めの人や国の仕事をしている人、あと、学生さんでもそれぞれ、苦労があるのです。

一面だけの情報で、判断したり思い込んだりしての断罪は危ういと、考えさせられるのです。

流行からはちょっとずれていますが、少しでも、皆様の心に刺されば幸いです。

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