第99節 将来に感じるそこはかとない不安
このところ、寒い日々が続きます。
どうしても布団から脱出できない。
そんな悩みを抱えています。
でも、それも、暖かい家にいるからこそのこと。
ちなみに、家ではない暖かくない場所の布団で寝ることもあります。
布団の中で寒さに震えて、眠れないのでなんとかしたいものです。
今回は、そういう感じのお話です。
それでは、どうぞ。
<異世界召喚後39日目夜>
場所:サッシー王国ウシロヤの滝
視点:野中
「ごちそーさまでした!」
「おねーちゃんありがとー。」
「おいしかったー。」
「おかわりー!」
肉のみとはいえ、ご飯を食べさせた事で、見違えるぐらい子ども達の口が滑らかになった。
小さな女の子たちから見れば、かわいいお人形さんにしか見えない精霊のレインが、子ども達と完全に仲良くなっていた。
それとなく、上手いこと情報を聞き出していた。
ロッコも、女の子達から可愛がられていた。
ラストは、なぜか男の子に人気があった。
胸は全くないのになぜ?
鎧の曲線に騙されているんじゃないだろうな?
全く揺れはしないのに。
洞窟内を走り回って遊んでいた。
ああ、男の子の相手をするには、有り余るラストの体力が必要だったようだ。
いくらなんでも、子ども達を相手に一日中走り回れるのは、ラストくらいだろう。
そういう意味で、大人気だった。
いつの間にか、ガキ大将的に崇拝を集めていたのは、ちょっとどうなのだろうか。
ご飯を食べて満足したのか、子ども達はみんな満ち足りた顔をしていた。
結構な量の肉だったが、情報料と考えれば安いもの。
元手はタダだし。
魔王軍が進軍してくるたびに、在庫が増えていくし。
「みーちゃんたちは、どうしてここにいるのです?」
「ピクニックなのー。オルローが、みんなをピクニックにつれてきてくれたのー。」
「オルローはすごいんだよ? おおきなまものも、まほうでやっつけちゃうの!」
「サチーヒもカッコよくて、つよいんだよ?」
「でも、サーバがいつもならたくさんもってくるごはん、わすれちゃったんだって。」
「みんなでサーバがごはんわすれたから、がまんしてたのー。」
「そうなのです?」
レインは、ご飯を忘れたことにされている、サーバと呼ばれた巨漢の男に話を振ってみた。
明らかにそれは選択ミスだろ。
サーバがご飯を忘れたことにして、食料が尽きていることを誤魔化していたんだろ?
どう考えても。
「ぼ、ぼくは、忘れてないのでござるよ。ちょっと量を間違えただけでござるよ? 本当でござるよ?」
自信たっぷりにそう言い切ったサーバ。
サーバはどうやら大盾を持っているので、ディフェンダーなのだろう。
敵からヘイトを稼ぐと言う役目としては最高だった。
敵じゃない人間からもヘイトを稼いでいるのをなんとかして欲しい。
いや、こういう性格の人間だからこそ、ご飯を忘れたことにできるのだ。
年長者4人のうち、他の人間には、その役割は担えない。
例えば、この集団のリーダーらしいオルローがそんな失態をしたとなれば、子供達からの信頼や人気はガタ落ちだろう。
みんな、オルローがいれば大丈夫だと思っている節が見受けられる。
それだけの信頼を、子どもたちから集めているのだ。
一朝一夕でできることじゃない。
だが、信頼や人気を失うのは一瞬だ。
彼女がご飯を忘れたということにはできないし、しないだろう。
ピクニックというのだって、避難してきたことを隠すためのテクニックにすぎない。
子ども達に、魔王軍が攻めてきたから逃げるぞと正直に言っても、パニックになるだけだ。
そういう意味では、この年長者4人組は、優秀なパーティーのように感じる。
それぞれの役どころを、しっかりとこなしているという意味では。
そんなサーバを、精霊のレインがいじっていた。
サーバもいじられて満更でもない様子。
そのいじられっぷりに、子ども達は、大盛況だった。
「本当なのです? 食べちゃったんじゃないのです? 今なら、許すのですよ?」
「ち、違うのでござるよ? 本当でござる。食べていないのでござるよ、ちょっとしか。」
「やっぱり食べていたのです。そのお腹の大きさが証拠なのです。ささ、洗いざらい吐くのですよ! 食べたものは吐かなくて結構なのです。カツ丼が必要なのです?」
おい!
やっぱり、ちょっとは食べたのかい!
突っ込みやすい性格のサーバだった。
あと、異世界の人に向かってカツ丼ネタは伝わらないから。
レイン、恐ろしい子。
「あの、レインって子、すごいですね。でも、なんなんですか、彼女は?」
僕に対して、オルローと呼ばれている魔法使い美少女が、声をかけてきた。
後ろの方で、サチーヒがソワソワしている。
あ、オルローに気があるの、見え見えで面白い。
ついついからかいたくなるが、今はその時じゃない。
「精霊ですが何か? あのちっちゃい子2人もそうです。ああ、僕は普通の人間ですよ?」
「精霊、ね。初めて見ました。羽もないのに空を飛べるなんて便利ですね。」
「羨ましい限りだ。ちっちゃい子に人気だしな。お人形さんみたいで。」
「ちなみに、付き合ってる?」
なぜ、ここで、そういう質問が来るかね?
まあ、女の子はいくつになっても、男女の付き合った、別れた、の話が大好きだしな。
恋バナの一つでもしてやらないと、話が先へと進まないのだろう。
「自称、奥さんらしい。」
嘘は言っていない。
「自称って。奥さんにしてあげないんですか? 男として、ちょっとひどいというか。」
「自称なら、なんとでも言える。ただ、普通に考えて、種族も体の大きさも違いすぎるだろ? 奥さんにするのは無理じゃないか?」
「ま、まぁ。そうですけど。」
「そ、そうですけど。じゃ! ねーのですよ!」
子ども達にもみくちゃにされていたところから、飛び出してきて激しく突っ込んできた。
「れ、レインは、マスターのお、奥さん? になってやってもいいのですよ? でも、ちょっと今は、体のサイズが違いすぎるので、キスをするのも一方通行なのです。そのうち、大きく育ったら、奥さんになるのですよ!」
力説していた。
からだがいずれ成長すれば、奥さんになれると。
いや、もう成体じゃん。
どう見ても。
胸もちゃんと膨らんでいるし。
あと、これが一番大切なことなのだが。
僕の意思は完全に無視されていた。
なぜなのか。
「そういう恋バナは、急いでない時にして欲しい。レインが荒ぶってしまうので。村までの道案内を頼めないだろうか。誰か一人いればいい。」
「そうですね。私ではいかがでしょうか?」
オルローが、まさかの立候補をしてきた。
いや、流石にダメだろ。
オルローがいなくなったら、この大量にいる子ども達が、暴れ回って、いうことをきかなくなる未来しか見えない。
それは避けたいし、認められない。
「別の人でお願いしたい。子ども、収拾つかなくなりそうなので。」
「そうですね。わかります。それでは、ギルコ!」
「はい。おねーちゃん。」
「この人たち? を、村まで案内して差し上げて。自分の身は自分で守るのよ?」
「はい。おねーちゃん。」
「じゃあ、よろしくね?」
「おねーちゃんの妹の、ギルコっていいます。よろしくお願いします。」
「お、おう。よろしく。ギルコは、オルローと同じように、魔法が使えるのか?」
「使えません。使えない方の妹です。」
「いや、聞いて悪かった。」
「大丈夫です。慣れていますから。」
「そうなのか?」
「はい。」
ちょっと、悪いことを聞いてしまった。
できる姉と常に比べられて、ダメな方とか言われ続けてきたのだろう。
歪んだりひねくれたりしていないだけありがたいと思うことにした。
敵襲に備えて、ホーリーエレメントのモンドをオルローに預けると、ギルコの先導で、僕らのパーティーは村へと進んでいった。
説明のあった通り、複雑な経路ではあったものの、それほど時間をかけずに、目的地の手前まで到着した。
山間部の森の中。
「あれが、わたしたちの村、グレイトアローです。魔族にうばわれてしまいました。」
「どれくらい、魔族がいるか、分かるか?」
見たところでは、ギルコがいうほど魔族や魔物はいない。
魔族20人、大きなイノシシ型魔獣40頭、ホワイトタイガー15頭。
見えている範囲では、そんなところだ。
「いいえ。ただ、女魔族がボスだということだけ、わかっています。」
「そうか。やっかいだな。」
女魔族。
魅惑的な言葉の響き。
その名の通り、男を虜にしたり、誘惑したりと正攻法以外で攻め込んでくることが予想される、面倒な相手だった。
そいつがボスなら、正面からの正攻法ではまずいのではないだろうか。
「BAN! BAN! 魔族は残らずBAN! なのです!」
あ。
遅かった。
ギルコが、村の手前の茂みに隠れて、村について話をしてくれていたのだが。
魔族に奪われたと言った途端、レインが飛び出していった。
最初の一瞬で、3人。
声に気づいて4人。
合計7人の魔族が、一瞬で消え去った。
もはやチートどころではない。
一方的な戦いとも呼べないようなものだった。
もちろん、気がついて応戦してくる魔族は、そのボスであるはずの女魔族を含めて、一瞬でBANされていった。
ラストとロッコのお札の出番すらなかった。
残りは魔獣のみ。
ラストとロッコのコンビネーションで、地道に1体ずつ討伐していく。
レインが、集まっている魔獣を、爆弾で一気に殲滅していく。
思いのほか、爆弾に弱い魔獣たち。
すぐに半数になり、逆に、相手の数が減って、爆弾を使いにくくなる。
魔獣はそこそこ大きいのだが、一体一体が極端に大きいわけでもない。
せいぜい、普通のイノシシや虎の2倍くらいの大きさだ。
口の中とかに爆弾を放り投げるとかいう、曲芸は、ちょっと無理だった。
その分、自称精霊騎士ラストと、工兵ロッコが、コンビネーションで活躍していた。
ラストは、その体の大きさに似合わない大剣で、敵を大きく切り裂く。
動きが鈍ったところに、爆弾を仕掛けて爆破するロッコ。
確実にとどめを刺しにいっていた。
ロッコの爆破を見て満足そうに頷くレイン。
説明されなくてもわかってしまった。
そう、レインは爆破技能をロッコに伝授してしまっていた。
そしてその爆弾も、小型で威力のあるものを、ロッコに配布していた。
ロッコが5つ数えているのが、かすかに聞こえてくる。
導火線に火をつけてから、ちょうど5秒。
それが爆発のタイミングだった。
ダークエレメントのクロウが、僕たちを守りつつ、敵を牽制していた。
おかげで、僕たちは無傷で、相手を殲滅することができた。
念のために村を見回ってみると、残党が数体いたものの、村は取り返すことができた。
もちろん、残党はすぐに退治された。
ロッコの爆弾で。
ハイドウルフのユリの背中に、ギルコを乗せて、滝まで村人達を迎えに行かせた。
同時に、マインウルフには、近くに村人の匂いがしないかどうか、探ってもらっている。
いくつか、反応があったので、オルロー達がついたら、探しにいってもらおう。
村は、これでなんとかなりそうだ。
見回せば、グレイトソーンほどではないものの無事な建物があまり残っていなかった。
これは、決してレインやロッコの爆弾のせいじゃない。
カメ鶴が、空爆した結果だろう。
このままでは、生きていけないので、マインウルフ達が岩石魔法で4メートルくらいの高さの城壁を作り、それを2列並べた。
壊された家から、木材を抜き取り、城壁の上にのせると、簡易的な屋根になる。
高さ4メートル、長さ20メートル、横幅4メートルの、簡易的長屋が作られた。
少なくとも、防備としては強力だ。
片方を、城壁で塞いでいるので、入り口は1つ。
つまり、そこさえ守り切れば、魔物の襲撃には耐え切れる作り。
この簡易住居を拠点として、新しく家を作り、村を復興させて欲しい。
家そのものを作ることは難しいし、それは自分たちの手で実施するべきだ。
僕たちができることは、魔物から身を守ることと、死なない程度の施設を提供すること。
助けすぎたり、手を出しすぎたりして、依存されるのは、将来のことを考えると危険だ。
国民が、そうならないように手を尽くすのにも、気を遣わなければならないだろう。
国が全て面倒を見てくれる、なんでもしてくれると思われないように。
いざという時は、国がある程度まで手を貸してくれると信頼されるように。
しばらくすると、オルローを先頭にして、子ども達が村に戻ってきた。
絶句する、子ども達。
泣き出す子もかなりいた。
とりあえず、簡易的な城壁を転用した長屋に詰め込んで、安全を確保した。
「社長。案内、できますぜ?」
可愛い顔のマインエルフ姿になった、元おっさんが、サムズアップしながら、こちらに準備OKの合図を出してきた。
「わかった。オルロー、うちの鼻のいいのが、他にも村人達が近くに隠れているのを嗅ぎつけたのだが、同行して、村まで戻ってきてもらうよう声をかけてきてくれないか?」
「ありがとうございます。でも、ここまでしていただいても、私たち、何もお返しできませんよ? 村は、見ての通りですし。」
それは十分承知の上だった。
村が編入できさえすればそれでいい。
「村長が生きていたら、そちらと交渉する。」
「は、はあ。父ですが。」
「なら、話が早い。もし、見つけたら、交渉させてくれ。」
「何を話されるつもりですか? ん? え? 私ですか? 私のことをもとめられているのでしょうか?」
両手を頬にあてて、真っ赤になって上目遣いで僕のことをちらちら見てくるオルロー。
勘違いもいい加減にして欲しいのだが。
あと、レインが怒って頬をつねってくるので、早く誤解を解きたい。
「なぜそうなる!」
「男は、どうしても我慢できない時があるんだって、よく、サチーヒとウミーヒが言い寄ってきますので。あなたも、私に我慢できなくなっているのではないかと。」
「そ、そうじゃない。確かに男には、そういう時もあるものだが、そんなものを求めているわけじゃない。」
「そ、そんなもの……。」
なぜか、ショックを受けた顔で棒立ちになるオルロー。
「いや、オルローは魅力的な女性だ。顔も整っているし、髪もよくすいてあって、金色にキラキラ輝いていて綺麗だ。スタイルだっていいし、普通の男ならほっておかないだろう?」
「じゃ、じゃあ、やはり、サーバのように、小さい女の子じゃないとダメなんですね。わたし、がんばって赤ちゃん言葉ではなしまちゅよ?」
もう、オルローは何をしたいのか訳がわからない。
「とにかく、君の父親と交渉するから、行ってきてくれ。話はそれからだ。」
「期待、していますよ?」
「せんでいい!」
マインウルフ軍団に引き連れられて、彼女は森の中に消えていった。
待つこと1時間。
オルローは大人達を引き連れて帰ってきた。
大人達、とはいうものの、大半は20歳から30歳。
一人だけ、40代と思われる頭の毛の少ないおじさんがいたが、様子を見るに、彼が村長らしい。
なぜなら、オルローと親しげに話をしていたから。
「で、お父様。その、社長とよばれているリーダーの男が、私の処遇について、話がしたいと言っていました。覚悟はできています。」
「すまないな。しかし、それでこそ、私の娘だ。できた娘に育ってくれてありがとう。これで、村はみな、救われる。本当にすまないな。村人を代表して、礼を言おう。」
「お父様。私は、当然のことをしたまで。それに、サチーヒとかウミーヒよりはいい男ですし。」
「惚れたのか?」
「違います!」
「まあ、頑張って交渉する。娘はできるだけ守るつもりだ。」
そして、オルローは正しくない説明を、父親に対して実行していた。
内容を改めて説明するのが難しそうだった。
どうしてこうなったし。
投稿が13時を回ってしまい、失礼いたしました。
ちょっと、このところ、お昼付近の時間が忙しいので。
明日こそは12時過ぎに投稿したいと思います。
訂正履歴
完全に → 子ども達と完全に
収集つかなく → 収拾つかなく ※ 誤字報告有難うございます。